860: 弥次郎 :2020/07/20(月) 00:25:58 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」外伝「紳士、そしてヤンキー」
欧州で唯一BETAの支配に抗い続けているブリテン島は、近年まれにみる明るさを取り戻しつつあった。
戦時が長らく続いていて、現在も続いていることに変わりはない。だが、確実に状況は変化しつつあったのだ。
例えば、合成ではない天然食品や養殖食品とそれを使った出来合い食品の流通に伴う食事事情の改善、イギリス各地の各所に、それこそ川の中から住宅街、海の中に至るまで設置されたミニスケールのタワーによる環境の改善---具体的には、飲み水をはじめ雨水・河川の水・海水など生活の周辺にある自らの汚染物質の除去、空気中に漂う塵・煤塵・重金属・工業排煙の除去が行われた。
常態化していた劣悪な環境が改善され、「なんとなくだが体の調子が良くなった」という住民が増えたのである。
BETA戦の影響もあり、β世界において環境対策技術というのはあまり発達していないし、工業発展に伴う健康への害というのはあまり顧みられてこなかった。
そんなことで体調を崩す人間よりもBETAとの戦いで死ぬ人間の方が圧倒的に多いわけであるし、リソースもそちらに優先的にさかねばならなかったためだ。
さらには、これまでの医療では改善していなかった重病もしくは大怪我をしていた患者が難なく治癒して元の生活に戻ることが出来るようになったのだ。
それこそ、四肢の欠損や不随といった日常にすら影響を及ぼすレベルの怪我でさえも治ってしまったのだから。
無論、希望者に限定され、そうでないものは義肢やアシストスーツといったものの供与で済まされていたが。
つまり、連合の介入と援助はこれまで手が届かなかった分野に手が届くようになる後押しをしたのであった。
英国首相であるアンソニー・ブレアはこれを大きく国内外に向けて公表し、自身の成果をアピールした。
米国の影響力をそぎ落とすという目論見があったにせよ、連合との協調により大きな成果を上げることが出来たのだ。
国威発揚のプロパガンダと言わば言え。だが、実際に救われた人間は数知れずおり、連合の支援は有形無形の形で英国を確実に救っていたのだ。
そして、ブレアが掲げたのは現状の回復だけではない。来るべき欧州大陸の奪還、それに向けた戦力の調達を連合とともに行うという計画であった。
まだ具体案は少ない。戦術機の開発、新兵器の導入、兵站の構築と兵力の準備、そして連合との協力という点は明かされているが、それ以上の情報は少ない。
だが、確実な改善がみられている現状においては、それだけでも十分な希望となりえた。
衣食住があれば人間は最低限の環境でも耐えられるものだ。だが、いつまでも耐えられるわけではないし、希望や展望が無ければ疲れ果ててしまう。
そんな中でブレアの打ち出した将来的なビジョンは、これまでの功績を鑑みれば間違いなく信じるに値するものだったのだ。
しかし、それを快く思わない層がいたことも、また確かなことであった。
英国首相官邸から駐英国
アメリカ大使が足取りも荒く出て行く。苛立ちを隠そうともせず、ぶつぶつと文句を呟きながらだった
のんびりと歩いて「業務」を行う首相官邸ネズミ捕獲長たるハンフリーとはまるで逆だ。そんな駐英国アメリカ大使を見送り、ブレアは肩をすくめて客人の茶器を下げるように命じた。
「まったく……マナーがなっていないな」
落ち着いて注がれた紅茶のおかわりを傾けるブレアは、駐英国アメリカ大使が述べた言葉を反芻する。
「人類が協調し団結して初めてBETAは撃退できる、か……彼の国が言うとは皮肉だな」
半ば恫喝するようにして述べられた言葉の意味は論じるまでもない。連合と関係を深めることを米国が嫌っているのだ。
大使までここ(ダウニング街)に派遣して直接文句をつけてくるとは、どうやらアメリカも相当に切羽詰まっているようだった。
その大使の態度からもそれはうかがえる。いきなりアポイントメントをとって、とても外交するとは思えない態度で恫喝してきたのだから。
861: 弥次郎 :2020/07/20(月) 00:26:29 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「ですが、首相。アレは言い過ぎだったのでは?」
同席していた外務省のウィリアム次官が懸念を述べた。だが、それをブレアは笑って受け流す。
「『最前線国家である我が国としては、インペリアルの件は次は我が身ととらえております』のことかな?」
「は。G弾のことを直接的に出すとは…」
「実際のところ、米国はG弾の使用でハイヴが陥落したことに自信を深めている。AL5派の勢いはとどまるところを知らない。
だが、同時に敵を作った。最前線国家を少なくとも敵に回したし、連合という勢力までも敵に回した」
一息吐く。それは、連合との折衝の中で知ったことだ。G弾。五次元効果爆弾という名の次元にまで作用する兵器。
その使用と保有、さらに配備は連合の懸念するところであり、その危険性を知らされた学者たちは発狂しかねないほどに驚き、その危険性を警告してきた。
それは、英国上層部が、少なくとも事実と認識した人間がAL5が如何に狂っているのかを理解するのに十分すぎる警告だった。
AL4の香月博士からも同様の警告が帝国を通じて寄せられている。無論、AL4の工作ととれる情報。しかして、無碍にするには看過できないことも確か。
兎に角、事実として連合はアメリカの現状の振る舞いを看過してはいないし、その振る舞いから脱却しようとする国に援助は惜しまないということだ。
「それを認識していないようだから、改めて突き付けただけだ」
それに、と先程のアメリカ大使の言葉を流用してブレアは言い放つ。
「人類が協調して、などとお題目を言っているが、結局アメリカは食料や戦術機関連のライセンスや実際の生産などで手綱を握れなくなるのが困るだけだ。
終わりはまだ見えないのに政治ゲームに精を出している。しかも、最新の情報や状況ではなく古いものに固執して。
古いカードにいつまでも固執して、賭けの状況が変わっていることを認めようともせず、ただひたすらにチップを積み上げているだけだ」
まったく、間抜けだ。ブレアはアメリカへの嘲笑を隠さなかった。
そこまで既得権益が大事か。そこまで自国の利益が大事か。そこまで自国に優位な状況が長く続くと思い込んでいるのか。
常に流動的に、そして、突然の変化が起こりうるのが外交であり、世界の潮流だ。これまでうまく言っていたからと言って、それがいつまでも通用するわけがない。まして、状況はとっくの昔に変化しているのだから。それを読み解けなければ、国家という船は瞬く間に沈んでいくことになる。
「まあ、私はうまく連合からの支援を受け入れつつ、自立体制を構築するまでの道筋を作るのが仕事になるだろう。
いつまでも甘えていてはアメリカに従わざるを得なかった時の二の舞にしかならんわけだしな」
「それについては同意します」
結構、と言うと飲み干したカップをソーサーに戻し、ブレアは立ち上がった。
先程までのアメリカ大使に対する慇懃な態度は消え去り、きびきびとしたものに切り替わった。
「さて、無粋な客人も帰ったことだ。元の仕事に戻るとしよう」
「かしこまりました。私は外務省の方へ戻ります」
「報告は連合にも流しておいてくれ」
「はい」
したたかな英国紳士は、静かに動きを重ねていた。それがやがて大きな理を呼び込むと信じ、一歩ずつ。
862: 弥次郎 :2020/07/20(月) 00:27:11 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
しばらく書いていなかったので欧州方面の動きを。
ユーコン基地だけでなく、欧州方面でも連合はいろいろと活動していますが、その活動は少しずつ実を結んでおります。
945: 弥次郎 :2020/07/20(月) 22:06:52 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
今さらですが修正
860
×無論、希望者に限定され、そうでないものは義肢やアシストスーツといったものの供与で
↓
〇無論、希望者に限定され、そうでないものは義肢やアシストスーツといったものの供与で済まされていたが。
最終更新:2024年06月01日 18:50