938: 弥次郎 :2020/07/31(金) 23:01:28 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

大陸SRW IF GATE 自衛隊(ry編SS リンクスたちの日常とお仕事6「アマツミカボシの場合」





 企業間におけるリンクスの立ち位置は、不思議なことに日企連世界のそれと同じような役割を持つ。
 即ち、実働戦力同士であり、同時にある種の企業間の窓口ともなる交渉役である。事実、各企業の抱えるトップランカー、若しくはその企業が抱える看板のリンクスは、「お茶会」と呼ばれる独自の会合で情報共有や交換を行っている。
例えば、オーメル・サイエンスはオッツダルヴァ、日企連ならば大空流星、インテリオル・ユニオンはウィン・D・ファンション、GAならばローディーといったように、実力や戦歴の優れたリンクスが選ばれている。
 そのほかのリンクスたちも養成課程の段階から交流を重ね、技術研鑽や将来的なつながりを形成するために顔を合わせることが多い。
それの方が、連合や企業連からの仕事の依頼を合同で受けた際にスムーズに行くし、作戦レベルでもうまく行きやすくなるのだ。
だから、リンクスたちの交友関係は意外と密接だったりするのだ。

「げ」

 そして、現在、特地の企業連の管轄基地。その中で、アマツミカボシは思わず声を上げていた。
 ヴォルクルス出現の報を受けて招集されたのは自分だけではないとは知っていた。だが、まさか、ここで「彼女ら」と顔を突き合わせるとは。

「あらあらあら、どこかで見た顔と思えば」
「見覚えがあるかと思えば、ホシではないの」

 瓜二つのソプラノボイス。万人を魅了するかのような美声は、これまた瓜二つの形の唇から発せられた。
 いや、唇だけではない。唇を含む顔立ち、身長、身体の体形までもが鏡合わせのようにそっくりだ。辛うじて髪型が多少違い、服装が一部異なっていることなどで見分けがつけられるが、逆に言えばそれが無ければ入れ替わっても分からないだろう。
しかもそれは、一級品といっても過言ではない美しさと優雅さを兼ね備えていて、且つ磨き抜かれていた。そこに振る舞いが合わされば、それは一つの芸術品だ。生きた美しさという概念。あるいは、誰もが夢見る美しさの偶像(アイドル)。
傍から見ることさえおこがましく感じるような、そんな隔絶した美しさをたたえている。
 アマツミカボシは割と分け隔ての無い性格と自負している。極端な性格ではない、面白みがないが逆に言えば非常に安定した精神性を持つ。
だから、出合頭に「げ」などということはほとんどない。あるとすれば相手が極端な性格か、あるいは例外的に苦手な人間とあった時である。
そして、今目の前にいるリンクス二人は後者に該当した。そのリンクス二人、いや二人組のリンクスの名前を、アマツミカボシはよく知っていた。

「オデット、オディール姉妹……」
「覚えていただいているようで何よりですわ」
「ええ、まったく。散々私たちを弄んで挙句に捨てて、忘れてしまったかと思いましたわ」

 悲しそうに目を伏せて大仰に振る舞う双子の姉妹に、アマツミカボシはこみ上げた悪態を咄嗟に飲み込む。

「言い方に語弊がありますね。交流会でお二人と戦って勝利して、その後は会う機会が減っていただけの事でしょう?」

 務めて丁寧に応対する。正直なところ、この双子姉妹は苦手だ。
 確かに美しく、気高く、さらにはリンクスとしての実力もある彼女らだが、それはあくまでも表面の姿。
その中身は、かなりねじ曲がった性格がある。人づきあいが出来ないとか、協調性が無いとかそういうのではないのだが、愉快犯的であるし、小悪魔的なところがある。そのくせ、気に入った相手には、アマツミカボシに対してそうであるように、揶揄ったりあるいは普段は人を寄せ付けない態度をしておきながら突然無防備な姿をさらしたりして翻弄して来る。
それが彼女たちなりの愛情表現というのは分かるが、どうにも慣れなかった。彼女らとの付き合いは養成課程の段階から始まっていて、すでにその時から彼女らは今の様な態度を一貫して貫いていたが、その時から翻弄されていたような気がする。

(体よく押し付けられたとも言うんだけどな…!)

939: 弥次郎 :2020/07/31(金) 23:02:04 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 周囲はそんな彼女らを知ってか知らずか、アマツミカボシをおもちゃ代わりに差し出したのだ。いい迷惑である。
だが、結果的には彼女らを知ることにもつながった。彼女らも環境で育ってしまったが故の性格であり、社交界などでは必要なものだったというのだ。
欧州の上流階級とは相変わらずらしい、とその時は思ったものだ。
 ともあれ、だ。アマツミカボシは回想をそこそこにして意識を現実に戻す。

「あら釣れないことをおっしゃいますね?」
「全くですわ。あなた様と私たちの仲だと言いますのに…」
「あくまで事実を述べたまでですよ、双子のフロイライン…」

 クスクスと笑う彼女らに隙を見せないように注意を払う。
 決して悪人ではないが、彼女らと付き合うのは最低限にしたい。それがアマツミカボシの偽らざる本音だ。
 しかし、彼女らはそれを読んでいたのか、逃げられる前に一気に距離を詰めた。纏う香水の香りがほのかに鼻腔を刺激し、美しい碧眼の視線が自分を囲い込み、まるで檻に閉じ込められたかのような錯覚を抱かせる。

「私たちの鼻っ柱を圧し折っていただけたのは、あなた様が最初でしたのよ?」
「ええ、オディールの言う通り。ジェラルド様やレオハルト様の様な先達には負けておりましたが、同期ではほぼ負けなしでしたから。
「全くですわ。殊更、私たち二人同時に相手取って圧倒して勝利したのは…」

 逃げる前に距離を詰められた。

「「あなた様が最初」」
「……」

 それは事実だ。当時の養成課程のリンクスたちの中でも飛びぬけたリンクスの中に彼女達はいた。
 勝てたリンクスがいなかったわけではない。彼女達も先達に揉まれ、鍛えられて、抜群のコンビネーションを獲得したのだ。
それに対して、真っ向から自分は激突して、撃破した。その時のことは今でも覚えている。正直、苦戦した。
身体が過去の経験に対して成長しきっておらず追従できていないことなどもあって、苦労した。だが、そんなことは彼女らにとってもどうでもよいらしい。
それ以来だ、彼女らに執着されるようになったのは。
 気が付けば、手がそれぞれオディール、オデットの手に握られている。白磁の様な肌の手が、自分の手をからめとっている。

「責任を、取っていただけますよね?」
「私たちの、ジークフリート様?」

 美女二人の顔が、間近に迫る。五感のほぼすべてが、彼女達で占められてしまう。理性が静かに溶け出すような感覚が苛む。
 だが、早々に飲まれはしない。呼吸を一つして、腕に力を籠める。

「……冗談はよしていただきたい、白鳥と黒鳥のフロイライン」

 すると、案外あっけなく手はほどかれた。
 彼女らも、本気で迫ってきたわけではないようだ。どこまで本気なのかは分からないが。
 ふっとため息を一つついて意識を切り替えると、彼女らに問いかけた。

「それで、お二人もやはりヴォルクルスへの対処のために?」
「その通りですわ」
「既に企業も、日企連領内のゲートの存在と、その先に出現した邪神ヴォルクルスの存在を重く見ております。
 ただでさえ戦力が割かれている以上、日企連としても他企業に協力を仰ぐのも当然と言えますわ」

 なるほど、危機感を抱いているのは日企連だけではなく、その日企連に恩を売っておこうと考えるのも当然か。
いそぎで派遣できるとすれば、ローゼンタールの抱えるリンクス戦力でもトップのレオハルトやジェラルドではなく、しかし下位ではないリンクスを派遣してくる。必然的に、彼女らだ。単独でも強く、尚且つ二人組ならばなおのこと強い。

940: 弥次郎 :2020/07/31(金) 23:03:07 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

「力を貸していただけるのはありがたいことです」
「あら、そう固くなる必要はなくてよ?」
「全くですわ。お恥ずかしながら、欧州の企業は借りばかりで、返済しないとなんとももやもやするものですから」

 揃って嫣然と微笑む彼女らは、しかし、欧州企業がその他の地域の企業に借りを作りっぱなしであることを憂慮していた。
嘗ての話、自分達がまだ幼い頃、欧州はWLFの脅威にさらされた。コジマが蔓延し、あらゆる兵器が投じられたこの世の地獄。
その欧州が急速に立て直しが出来たのも、比較的無事であった地域の企業や国が協力したところが大きい。
だが、それ故に欧州企業は高い借りを抱えている状態だ。それこそ、未だに尾を引くほどに。
だから今回のような事態は、ある意味で欧州企業にとっては渡りに船的なところもあるのだろう。
不謹慎などと言われるかもしれないが、彼女らも彼女らの事情があり、考えがある。
まだ彼女らは自分と同じ20歳を超えて少し経ったばかりの筈。そんな若い身に追わせるにはあまりにも重くはないかと思う。

(まあ、客観的に見ればそれは僕自身と同じだろうけども…)

 主観年齢と客観年齢が違うのであるが、客観的に見てアマツミカボシもまた彼女らと同じく企業の看板を若くして背負っている。
とやかく言うことはできないし、そんなことを言っているほど余裕があるわけではないのだ。

「ともあれ、お二人の助力に期待します」
「ええ、期待していただきますわ」
「報酬は弾んでいただきますわ」

 綺麗に、そして華麗にカーテシーをしておどける彼女らに、ようやくアマツミカボシは苦笑を浮かべた。
 が、その油断はある種命取り。直後、双子には悪魔の尻尾が生えた、ように見えた。
 浮かぶ笑みは小悪魔のそれで、先程までの淑女然とした態度は霧散する。しまったと思うが、もう遅い。

「ではホシ?」
「エスコートをお願いしてもよろしくて?」
「私たち、少し休憩がしたいの。楽しませて下さるかしら?」
「私たちの間ですもの、喜んで受けていただけるわね?」

 アマツミカボシは頷く以外の選択肢を持たなかった。
 これは、特地であった僅かな幕間の一幕。二羽の白鳥に魅入られてしまった、北極星の神の名を持つリンクスの話。

941: 弥次郎 :2020/07/31(金) 23:04:10 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
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最終更新:2023年10月11日 20:03