231: 弥次郎 :2022/01/05(水) 00:23:01 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「愛憎螺旋のフェッテ」【リメイク】
仮想空間。
すべてが架空であり、同時に現実に忠実な空間が広がる、果てしなく広いフィールド。
モニターに表示されるそこには、3機のネクストが相対し、激しい戦闘が繰り広げている。
正確には、1対2の変則の模擬戦だ。
片方は、日企連に属するリンクス「アマツミカボシ」の「ノース・セブンス」。
対するはローゼンタール所属の「オディール」と「オデット」姉妹の「シルフィード」および「コッペリア」の二機。
観戦者達の多くを占める平成世界日米の兵士達は、飛び交う3機の姿をまともに補足することさえ不可能だった。
それは、圧倒的なまでに速いためだった。
軽量二脚型のネクスト同士の戦闘は、必然的に高機動戦闘がメインとなる。
それこそ、音速を軽く超えた位置の取り合い、あるいはポジションの奪い合いである。
さらに言えば、如何に相手の思考を読み、先の先の先まで直感的に判断して、相手の動きにどこまで反応できるかという戦いの連続なのであった。
よって、開始から5分と経たず多くの兵士たちが追従するのを諦め、ここに配られているタブレットでスローモーションの映像を呼び出し、動きを追っていた。
彼らもまた機動兵器を操る訓練をしているからこそ、目の前のモニターで繰り広げられている戦闘が如何に規格外であるかよく理解できた。
むしろ、嫌でも無理やりに理解させられてしまうという表現の方が正しいだろうか。
まともに目でも補足さえできない自由自在な機動。これをどうやって倒せというのか。
しかも、バリアによって身を守り、さらには呆れるほどに堅牢な装甲で構成されているときたものだ。
戦車?航空機?ミサイル?それが何の役に立つというのか。置いてけぼりにされること請け合いだ。
アウトレンジ攻撃?もっとナンセンスだ。目の前の機動兵器はそのアウトレンジ攻撃をやすやすと振り切り、間合いを一瞬で詰めて来る。
地平線を超えた彼方から攻撃したとしても、ネクストという兵器は距離の防壁も数秒もあれば飛び越えてしまい、目の前に迫ることができる。
そして、有視界戦闘においてもその能力は極めて高い。むしろ有視界戦闘こそが本分であり、極めて高い適応力を見せる。
そして、一兵卒達を率いる立場にいる人間、すなわち指揮官たちもその脅威をよく理解できた。
「勝てるわけがない。
戦術どころか戦略核兵器をまとめて叩き込んで、飛び出してこないことをお祈りするしかないな……」
リーの漏らした感想に、間宮二佐は同意だった。
その核兵器さえも補足されて迎撃される可能性が高い。
そもそも瞬間速度も持続して発揮できる速度も音速越えのネクストをどうやって核兵器の有効範囲に納めろというのか。
更には、耐久性に関しても旧世紀---C.E.以前の西暦年間の核兵器などにも素のまま耐久出来るとの話もある。
つまり、まともに浴びせたところでまともに被害を与えられるかどうかも怪しいということになる。
加えて、もう一つ明かされた事実を間宮はつぶやく。
「これが企業が有する戦力に過ぎない。
さらに上もあるとのことですから、どれほど恐ろしい戦力があることやら…」
「我々とは、もはや住む世界が違うのだな……」
「恐らく。戦国時代の武士に我々のやっていた現代戦を見せたら、今の我々と同じ心情かもしれませんな」
「サムライにか。実際それほど年代が離れているというから、実に的確かもしれない」
指揮官二人は、そろってため息をつく。
連合と付き合えばつき合うほど、彼我の差を認識してしまう。
そして、厄介なことに、これを他人に話したところで信じてもらえないという確信があるのだ。
自分達さえそうだったのだから、実際に証拠を見せられ、体験していない人々が同じような考えに至ってくれるかといえばNoだ、絶対に。
これまでの常識を軽々と飛びぬけた現実、はるか先を行く連合の戦い。それを見せつけられる軍人たちは、人知れずため息をついた。
232: 弥次郎 :2022/01/05(水) 00:23:47 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そんなやり取りが繰り広げられている現実世界のことなど知らず、3機のネクストは戦闘を続行していた。
そもそも、そんな余裕など全くない。その分のリソースさえも惜しい。それほどまでに、全力で彼らは激突していた。
格闘戦の間合いに入ろうとQBによる瞬間的な加速を重ね、流れを作る「ノース・セブンス」に対し、距離を常に一定に保ち、射撃を続けるのが「シルフィード」。
同じく射撃を放ちながらも位置の取り合いをして近接戦闘に持ち込もうと動き回る「コッペリア」。
互いの事をよく研究しているからこそ、パーペチュアル・チェック(千日手)にもつれ込んでしまうもの。
自然の流れとして、三者はその状況の打破を目論んだ。
(前より速い!それに正確だ……)
QBを連続で叩きこみ、レーザーの弾幕をくぐり抜けていくアマツミカボシは、こちらを振り切ろうと同じくQBを連発する「シルフィード」の動きを看破していた。
二段QBは既に転生者だけの専有技能ではなくなって久しいが、彼女らも以前戦った時よりも二段QBの精度が向上し、速くなっているのだ。
ネクストを操るリンクスにとって基本技能であるQBはただ連発すればいいというわけではない。
QBの方向、加速度、機体の姿勢制御、照準の補正、消費するエネルギーの管理など、多岐にわたる要素を勘案し、相手の動きを予測しながら行わなくてはならない。
少しでも単調な動きをすれば、高機動戦闘においては絶大な隙を生んでしまうことにつながるわけであり、迂闊なQBなど自分の首を絞めることになる。
(張り付かれている以上、そちらを優先したくなるが、それは相手の思うつぼだな)
牽制射撃を放ちつつ、回避パターンを複雑に織り込みながら敵の背後へと、「シルフィード」の後ろへと回り込もうと動く。
相手もそれを分かっているから、二人組というアドバンテージを活かし対処して来る。
「コッペリア」が先んじて動き、「シルフィード」がその後衛に回る。そして、その前後は頻繁に入れ替わる。
うまく二人がスイッチしながら動くことで、戦場での動きの中でがら空きとならないように補い合っているのだ。
対して、こちらは単独で二機の動きに対処して隙をつぶして動かなくてはならない。だから、必然的に「ノース・セブンス」の動きはさらに激しい。
右に、左に、上に、斜めに、あるいは連続の切り返しのQB。
そして、放たれる射撃の速度は相対速度もあって反射の域で対応しなければ追いつけない。
考えるよりも早く、身体が危険を感じ取り、適切に回避運動をとっていく。時に後退も選んでいく回避と立ち回り。
一度距離を離し、大きく迂回をしようとするが「コッペリア」がすかさず牽制射撃を放ち、それの回避をしている間に「シルフィード」はポジショニングを変更。
こちらを逃がすまいと距離を詰めてきた。同時に「コッペリア」はQBの連発で上昇、こちらに対して高度の優位をとってきた。
『あらあら、あらあら、素気無く断られてしまったわ』
『もっと躍らせてくださいな』
余裕そうな彼女らの声。
だが、実際は違う。
行動パターンだ。
高度の優位に逃げる時、彼女らはコンビネーションの状況をリセットしたがる時が多い。
大概、彼女達にとってリズムが崩されている時だ。即興で合わせるというより、ある程度の規則性を以て彼女達は連携する。
瞬間瞬間の動きだけを追いかけていると分からないが、全体を俯瞰して見通せば、実がパターンが見えてくるというものだ。
『なら、お手を拝借……!』
だから、それに対する動きとして、バトルメイスを抜いて「ノース・セブンス」は一気に加速。接近を選んだ。
対するオディールもシルフィードの近接武器をそれぞれ構えた。逃げではなく、受けに回るか。
加速の先、そこにはマルチオクスタン・ランサーを引き抜いた「シルフィード」がいる。
そして、両者の距離は一瞬という言葉さえ長くなるほどのわずかの間に縮まり---
ガッ!
『っち!』
『くっ……!』
交錯は一瞬。互いの一撃は激突し、相殺された。だが、若干タケミカヅチが有利か。
急なベクトル変化を無理に行わず、そのまま回避に移行することでオディールは対応する。
それを見逃すわけがないアマツミカボシの動きは、しかし、オデットに十分予測がついていた。
狙いすましたハンドレールガンの一撃が、格闘兵器のぶつかり合いの際にPAがはがれた「ノース・セブンス」を狙う。
233: 弥次郎 :2022/01/05(水) 00:24:23 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
『来ると思った!』
それに十分な余裕を以て---ほんのコンマ1秒にも満たないような時間ではあったが---反応したアマツミカボシは、空中を転がるようにQB。
レールガンの射撃の瞬間とピタリと合わされた回避運動で、レールガンの弾丸は虚空を通り過ぎた。
だが、アマツミカボシはそれだけでは決して満足しなかった。何しろ、もう次が来ている。
次の瞬間に再び襲い掛かってきた「シルフィード」のマルチオクスタン・ランサーによる重たい一撃を、こちらも重心移動も重ねた一撃で弾く。
まともにぶつけ合うのではなく、メイスを傾けて、相手の一撃を受け流すようにしてうまく捌くのがポイント。
同時に、背部のレーザーキャノンは次弾を狙い澄ませていた「コッペリア」目がけて、牽制射撃を放つ。
そしてその結果を見る前に、一気にQBの連発で「ノース・セブンス」は双子のキリングゾーンを離脱し、仕切り直す。
距離をとりながら牽制射撃を放ってくる「ノース・セブンス」を追従しながらも、オディールとオデットは感じ取り続けていた。
「ノース・セブンス」の、そしてその機体の中のリンクスであるアマツミカボシの動きを。
『成長していますね』
『変わっていますね』
『間違いなく』
『あの時以上に…』
自分達もあれから経験を経た。彼を倒すためにシミュレーションやトレーニングを重ねた。
しかし、それらの積み重ねを彼は超えてきている。
双子の姉妹は養成課程を経て、幾多の実戦をくぐり抜け、ローゼンタールの上位戦力として若くしてのし上がった。
しかし、それでもなお越せない目標となるモノがいた。
言うまでもなく、アマツミカボシだ。
面倒な血筋に生まれ、面倒な育て方をされ、そして面倒な戦争や争いに巻き込まれた。
その中でも生き抜いてきた彼女らにとっては、レオハルト、ジェラルドなどと並び、自分達の世界の殻を打ち破った稀有な逸材なのだった。
幼少から双子の麒麟児と持ち上げられ、愛情という名の毒を注がれ、茨の檻の中で買われ続けていた二人にとって、世界とは常に自分達を縛るものだった。
だから、リンクスという自由な地位を求めた。世界に縛られない、超越者になろうとした。
そのきっかけを作ったレオハルト、先達となったジェラルドは恩人といってよい。
(でも、恩師たち以上の人にはあわなかった……)
もとより高い才覚を持っていたオディール、オデットは次なる壁、世界の限界にぶつかった。
勝てない相手、上手の相手にも何人にもあった。それでも、彼女達を満足させえるモノにあたることはなかった。
世界に、飽いてしまっていたのだ。それが破られたのが、養成課程で他企業のリンクスと交流を行った時であった。
その時に、日企連期待の新人との触れ込みで参加していたアマツミカボシと出会ったのだ。
そして、彼に自分たちは負けた。高々それだけの話。だが、それで世界の天蓋が破られたのは確かだった。
悔しいと、リベンジを誓ったのはあの時が初めてだった。
納得が無い、満足もない、それに加えて理解もできない。如何に相手が秀才だったからとはいえ、負けたことがあれほどまでに響いたのは初めてだった。
いや、もっと言えばこれほどまでの執着を覚えたのは初めてだった。
(だから!)
超えてみせると誓い合った。
自らを磨き上げ、鍛錬を重ね、なりふり構わず研究し、彼に追いついて、追い抜くと誓った。
だが、どうだ?相手はそれ以上に成長している。自分達の更に先を行くように、追いかけても追いかけても、いくら手を伸ばしても届かない天上の星々のように。
だが、届かないわけではない。最後には屈服した神の名を冠するのだ。
ならば、神話に倣い、自分達がこの手で下してみせる。
『行きますわよ、お姉さま』
『ええ、参りましょう』
そして、二機のネクストは加速した。
二機のネクストの中のリンクスが持つこの感情は、なんであろうか。愛か、憎しみか。それとも嫉妬であろうか?
それとも---いつの間にか、環境に翻弄されるうちに、幼い頃にその時間を止めてしまった少女たちの、年相応の我儘だろうか?
234: 弥次郎 :2022/01/05(水) 00:25:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
激しさを増す戦いだが、生憎とこの模擬戦は時間制限付きだ。
研究がされつくしたためにパターン化し、それを学んでいるリンクス同士であるために千日手に陥りやすく、勝敗が明確につかないことが多い。
だから時間制限でAPがどれほど残っているかの割合で決着をつけるのだ。それ故に残り時間を鑑みて、双子はより攻撃的な動きへと転じた。
二人組で交互にヘイトを担当し、柔軟に切り替えながら、じわじわと削っていくスタイルがとる戦術の一つだ。
あるいは、両方が交互に攻撃に出ることで敵を翻弄し、狙いを絞らせず、徹底的に相手のペースを乱す。それが双子の戦闘スタイルだった。
だが、彼女らはそれしかできないわけではない。あらゆる状況での戦闘を想定してこそのリンクスだ。
まず前に出たのは「コッペリア」。タケミカヅチと同じ腕部武装のハンドレーザーキャノンを放ちつつ、接近。
脚部に内蔵されたヒールレーザーキャノンも動員して接近戦を仕掛ける。L5戦役の戦訓から格闘兵装、特に実体を持った兵装は一つは採用される傾向にある。
オデットの「コッペリア」もその例にもれず、ハンドレーザーキャノンとヒールレーザーキャノンという実体ブレードを持つ複合兵装を採用している。
接近する「コッペリア」に、「ノース・セブンス」も脚部のレーザーブレードと二振りのバトルブレードを以て迎撃する。
オディール、オデット姉妹の格闘技術は変則的だ。まさに踊るような動きでこちらの命を刈り取りに来る。
『アン、ドゥ!』
だから、回避運動も変則にならざるを得ない。定石を踏まえつつも、通常とは違うところに合わせ、修正する必要がある。
バトルブレードを傾け、あるいはレーザーブレードを割り込ませ、受け止める。
『こちらのお相手もなさいませ…!』
『応とも…!』
一瞬の交差の後、パワーと重量の差でコッペリアを吹っ飛ばしたところに、下方から抉り上げるような機動で「シルフィード」が飛び込んできた。
マルチオクスタン・ランサーによる鋭い刺突は、先撃ちした射撃と共に、機体全体を一本の槍のようにして繰り出されてきた。
その牽制射撃をPAで受け止めつつ、その一撃をパリングで何とかはじき返す選択をとる。
『トロワ!』
『なんの…!』
が、バトルブレードが激突した瞬間、こちらの一撃をぬかるみを叩いたかのような感触を得た。
(しまった……!)
姿勢が予想以上に崩れた。ここで急に受けに回られるとは。焦りが出たか。
即座に姿勢を引き戻そうとするが、それを見越して動いていた『コッペリア』が迫る。
だが、それにアマツミカボシは反応した。
強引なクイックターンと姿勢制御で上下反転しつつも、死角から迫っていたレーザーブレードの一撃を、脚部のレーザーブレードで真っ向から受け止めた。
レーザー同士の干渉で強力なスパークが発生し、両者が光に照らされる。
『良い反応ですわ!』
『そりゃどうも!』
だが、何時までも鍔迫り合いなどに固執はしない。
ここまで接近されたのは相手の動きゆえだ。何時までも押されっぱなしはアマツミカボシの性に合わないし、いつか押し切られる。
だから、というように即座に振り払う。一瞬回避が遅れることも受け入れて、強い力で吹き飛ばしたのだ。
そして瞬時の動きで「コッペリア」の胴体を射出したワイヤーアンカーにより拘束した。PAが剥げていたからこそできたことだった。
『しまった…!?』
『もう遅い!』
刹那の動きで、切り払おうとする「コッペリア」。
しかし、不意を突かれて動揺したアマツミカボシの動きの方が速い。
ネクストの膂力で一瞬で振り回された「コッペリア」はそのまま「シルフィード」の方へと吹っ飛ばされてしまう。
『姉さま!』
『ええ!』
その言葉だけで双子は通じる。
即座にカバーするように「シルフィード」が射撃を放ち、その間に「コッペリア」が姿勢を整えて反転攻勢に---
『その前に決着だ…!』
『なんですって…!?』
双子が動きに出る前に、「ノース・セブンス」は加速した。
使わぬバトルブレードをパージ。軽量化した機体による、QBの連発で刹那の時間で間合いを詰めた。
そして、「ノース・セブンス」に残っていたPAが急速に収束を始め、やがて一点で集まり、一気に解放される。
『『アサルトアーマー!?』』
双子の言葉通りの現象が、至近距離において発生した。
そして、まともにアサルトアーマーの直撃を受けた「シルフィード」と「コッペリア」のAP値は、一気に削れていき、0となった。
壮絶な戦いの、決着であった。
235: 弥次郎 :2022/01/05(水) 00:26:18 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
以前書いたSSの改訂版となります。
感想返信は後々やります。
お休みなさいませ
最終更新:2023年10月11日 20:03