249: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:18:14 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「首輪の山猫たちのアンシェヌマン」(改訂版)



 アマツミカボシは生贄を求めていた。これは比喩でもなんでもない。
 誰か、代わりになる生贄が必要だった。自分ではない何者かが、誰かが背負わなくてはならない。
 それはまるで、ババ抜きのジョーカーのようなものだ。正確には、異なるジョーカーが2枚もあるというべきか。
 セットになっていないので捨てられない、そんな極めて厄介なカードといってもいいかもしれない。

「うふふふ……屋外でのお茶会、悪くはなかったですわね」
「ええ、ええ。この世界、まるで環境が違いますからね」
「それは良かった」

 一体誰の事か、言うまでもない。
 オディールとオデット姉妹この二人がべったりなので、誰かに擦り付けたいのである。
 二人が自分を気に入っているのは分かるが、かと言って自分が彼女らに同じくらいべったりかと言われるとNOである。
悪い双子ではないと知っているし、為人を知り、親しくしている間柄であることは事実である。
ただし、それにしてもある程度の節度や状況に合わせて振舞ってほしいというか。もっと言えば、こちらの心情を云々。
 元々はシミュレーションでの戦闘訓練を行って、その後のデブリーフィングで互いの動きを採点し合いながらお茶会としゃれこんでいたのだ。
 だが、その後は分かれるつもりだったのが、彼女たちは自分から離れることを選ばず、ずっとついて来ている。

 そんなわけでエスコートしながらも擦り付ける相手を探しているのだが、周囲も自分の状況を察しているのか、目をそらして関わろうとしてこない。
 良くも悪くもリンクスという存在は有名人だ。
 例え新人だとしても、企業では立派な重役であるし、高級戦力であり、企業の看板とブランドを背負う存在なことに変わりはない。
 まして彼女らは新鋭のリンクスの中でも一目置かれている、期待されているリンクスなのだ。それゆえに噂なども多く出回る。
そんな彼女らと一緒にいる自分と関わればろくなことにならないと理解しているのだろう。
おまけに、端末などで誰かを呼び出そうにも、しっかりと両手をそれぞれ捕まえる双子が許してくれないという状況だ。
 両手に花?両手に棘だらけの薔薇である。それがすり寄って来ると精神的にくるものがある。
 先程までのお茶会も、終始翻弄されていた気がする。彼女達は嫌いではないが苦手だ。

(恨むぞぉ……)

 結果、ズルズルと彼女らと過ごす羽目になっているのであった。
 あとは彼女達の気まぐれに期待するしかないが、望み薄といったところ。

(かくなる上は……!)

 そして、アマツミカボシが導き出した選択肢は一つだった。
 この状況下において誰もよってこないならば、誰かがこちらに構わざるを得ない場所に行けばよいのだ。
自分の状態を変えられない、もしくは労力が大きすぎるならば、自分以外の要素の改変を試みることで状況を打破すればよいのである。
 外道?こちらはリンクスだぞ、傭兵だぞ、ダーティーワーカーぞ。多少犠牲者が増えてもこちらの被害が減ればよいのだ。
 言い訳の様な、あるいは呪詛のようなものを胸中呟きながらも、アマツミカボシはその方向へと何とか足を踏み出した。

250: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:19:12 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

  • 特地(ファルマート大陸) アルヌスの丘 地球連合拠点 シミュレーションルーム



 その二人と一人が入って来た時、その場にいた人間はパッと空気が華やいだような錯覚を覚えた。
 いや、ひょっとすると錯覚ではないかもしれない。ここは軍事施設の内部、連合が特地に設置した拠点の中の一角。
軍事の色の強い空気が漂う、そんな空間だ。まして、現在はヴォルクルスが出現しており、事実上の戦時体制下。
緊張感が満ちているところばかりであって、油断が許される場所は食堂や宿舎などの限られた場所のみのはず。
 だからそんな華やかさなどとは縁がないはずであり、排除されてしかるべきだ。
 だが、そんなのは舞い降りた二羽の鳥によってあっけなく崩された。

「皆さま、ごきげんよう」
「他の世界の日本とアメリカの兵士の皆様、訓練ご苦労様ですわ」

 自衛官たちや米軍兵士の目を引いたのは、オディールとオデットの姉妹だった。
 彼女らの性格はともかくとしても、外見は超が付くレベルの美人だ。黙っていれば美人、というわけである。
丁度彼女らの年齢ともなれば、成長期を終えて幼さから脱却し、大人の女性へと変化していく中にある。
 その時期だからこそみられる刹那の美しさ、あるいは変化していく最中故の固有の美しさ。
 服装はリンクスの制服であるが、それはローゼンタールらしくデザインや象徴性に優れた美しいもの。
そんなところに彼女らの美しい所作が加われば、もはや絵として完成し過ぎているとさえいえるだろう。
事実、彼女らの姿に目を奪われるパイロットは数多くいた。それこそ、男性だけでなく女性までも虜にしそうなほどに。
 一方で教官として彼らを指導するリンクスたちは様々な反応を見せた。
 即ち、虎鶫や永、インテリオル・ユニオン所属のモンテ・クリスト、あるいはアクアビットのラヴィエベルなどだ。
彼女らの為人を知っているので、面倒なことになったと顔をしかめたり、アマツミカボシに憐れみを浮かべたり、自らの不運を嘆いたりと。
とはいえ、そんなのを露骨にはあらわさない。今は教導中であり、給料分の仕事をきちんとしなくてはならないのだから。

「あら、皆様ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 優雅にリンクス組にも挨拶する姉妹に対し、虎鶫らは何か言いたげだったが諦め顔というか生贄を求める顔のアマツミカボシに言葉を飲み込む。
彼女らとアマツミカボシの関係はある意味有名だ。将来の有望株同士であるし、交流会での激戦は語り草だ。
候補者も含めれば多くいるリンクスだが、正規登録されているリンクスのコミュニティというのは案外狭いのである。
人のうわさもアッと今に広まってしまうのも道理というもの。だから、虎鶫は諦めて彼女らを受け入れることにした。
 ここは訓練場。現在進行形で、リンクスやレイヴンたちがパイロット候補生たちを鍛えている場であり、若いながらも彼女らもまた先達なのだ。

「ようこそ、オディールそしてオデット」
「歓待を感謝いたしますわ、虎鶫様」
「余暇というわけではありませんが、後進の教育も私たちの務めと存じます」
「私たちのシミュレーションの様子も皆様にご覧いただいていますし、機種こそ違えども、アドバイスはできるかかと思いまして参りました」
「参加して、よろしいでしょうか?」
「それはもちろん。ではよろしく頼みます……誰か、資料を」

 クスリ、と笑う二人。ここにいる自衛官や米軍兵はアマツミカボシとこの姉妹の模擬戦を観戦していたのだ。
その当人からどういった駆け引きや操縦をしていたかを聞くことが出来るのは、大きな収穫となるだろう。
 勿論、ネクストという高級戦力を動かす彼らのアドバイスを鵜呑みにできるわけではない。何しろ使うものが違いすぎる。

251: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:19:53 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 だが、彼女らとて最初からあれだけの動きができたわけではない。よちよち歩きから始めて、順々に訓練を重ね、大きく飛び立ったのだから。
 そして彼女らは差し出されたタブレットを受け取り、中身に目を通しながらもエスコートしてきたタケミカヅチを引っ張る。

「ではホシ、まいりましょうか」
「あら、姉さま。そのようにくっついては教導に不向きではなくて?」
「オデット…男はみーんな狼なの。首輪をつけておかないと、誰彼構わず発情して襲い掛かるかもしれくてよ?」
「まあ、怖い。私達の身も危ないですし、訓練生の皆様も危ないですわね」
「では交互に見張りましょう、そうすれば教導もしやすいでしょう」
「そうしましょう。よろしくて、ホシ?」
「わかった…」

 勝手に決められてしまったが、アマツミカボシとしては頷くしか無かった。
 増援を呼ぶ前にさっさと決着をつけられてしまった。
 まあ、彼女らとずっと一緒というわけではないし、さすがに教導の時くらいはまじめにやるだろう。候補生たちの目もあることであるし。

(既成事実化を図っているな、この姉妹……)

 これが彼女らなりの独占欲、あるいは庇護を求める形というのは分かることだ。
 根っこでは、彼女らはまだ子供なのだ。WLFの蜂起とその大惨事の後に彼女らの時計は一時的にしろ止まっていた。
時間は経って回復しているとはいえ、こればかりは時計の針を進めることが難しい問題であり、成り行きにある程度任せるしかない。
 根っこがすでに現在の連合の年齢感覚でも高齢者の部類に入るほど熟している自分としては、これくらいの我儘には目をつむるべきか。
結局、アマツミカボシは双子に交互に引っ張られることになったのであった。

 だが、実際のところ、アマツミカボシらの心配は杞憂に終わることになった。
 さすがに他人の目が多すぎるところであり、ことさらヴォルクルスの脅威が迫り、日米のパイロット候補生たちの教育が急がれる中では手を抜かなかったのだ。
勿論、彼ら自衛隊や米軍がヴォルクルスとの戦いにおいていきなり最前線に放り込まれるわけではない。
 だが、最低限自衛くらいはしてもらわなくてはヴォルクルス相手に集中できない。
 故にこそのスパルタ教育だ。すでに一連の動きは叩き込んだので、あとはその応用と既存兵科との連携が主となっている。
そんなわけでシミュレーションの内容も個々の戦闘だけの次元から、戦場全体に及ぶ次元に切り替わっていた。

「左様でしたが……案外、進んでおりますのね」
「そうしなければならない事情も、把握いたしました」

 彼女らは伊達に麒麟児と評されたわけではないし、才能や実績ある戦士の卵たちが集まるリンクス候補生の中で頭一つ飛びぬけていたわけではない。
簡単に説明を受け、カリキュラムに目を通し終えた姉妹はさっそくパイロットたちのもとへと赴くことにした。

「オデット…」
「わかっていますわ、ホシ。おふざけの余裕はないことくらい」
「なら、僕としては構わない。彼らを死なせたくないのだし」
「……ですから、スパルタでもよろしいのでしょう?」

 得意でしてよ、と笑う彼女はいつも通り。
 まあ、目は真剣なのでいいだろう。彼女はドがつくSなのだが、ただ暴力的ではなく、きちんと制御しているのだから。
 早速シミュレーターで開いているシートを見つけると、オデットは颯爽と乗り込む。ついでにアマツミカボシも隣に入らせた。

252: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:20:42 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


「というわけなので、さっそくかき回しましょう」
「待った」
「同じ機体で出ますわ。フェアにやる方が気づきも多いでしょうから」

 選択される機体はアレイオンL型。
 そして、今シミュレーターで対戦しているチームの片方に増援として加わるという形が選択される。

「日本の英雄様もいるチームが相手ですからね。直接相まみえる方が良く実力もわかるかと思いまして」
「……伊丹陸尉のことか?」
「ご明察。どうやら訓練や模擬戦ではとても良い成績を収められています。
 それに聞いた限りでは、生身でもあの炎龍と対峙して戦うなど活躍なさっているようですし、注目せざるを得ませんわ」

 自衛官や米軍兵から適性検査を経て選抜されたということもあって、特地の兵力の全体から見ればパイロット候補生たちは決して多くはない。
 だが、それほど少数でもない。実際、結構な人数を割かねばならないほど多いのだし。
 それだけの人員のプロフィールやデータに目を通して把握しきったということか。

(ナチュラルな生まれでこれだから怖いんだよなぁ…)

 言ってみれば、アマツミカボシは物語開始の時点で高いステと多数のスキルをデフォで獲得している周回プレイヤーだ。
普通ならば、周回プレイをしている方が強いはずだ。何しろ、積み重ねているのだから、それを喪失しない限りはスキルは高まる一方のはず。
 だが、伊丹やオディール、オデット姉妹はそうではない。純粋にレベリングと素質を磨き上げて今の高みに至っているのだ。
自分のような凡俗な人間が何度も人生を繰り返したうえで力や技術を習得したどり着くところに、ほんの一回でリセットも抜きにたどり着く。

(セロのことを笑えないな)

 アマツミカボシはぼやくしかない。
 だが、願ったりかなったりだ。黒い鳥候補筆頭の伊丹の実力を磨くには、とにかく強い相手をぶつけて学ばせることだ。
そうすれば自然に強くなっていくはずである。目の前に避けられない壁が迫った時、それを乗り越えられるはずなのだから。
彼女らと共に、イレギュラーの候補者であるアマツミカボシ自身がぶつかれば、より実力を底上げすることもできるだろう。

(さて、お手並み拝見)

 原作主人公の力がどれほどのものか、確かめさせてもらおう。
 そう思い、アマツミカボシもシミュレーター筐体を操作する。
 そして、仮想のフィールドの中の戦場へと没入していった。

253: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:22:09 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
コツコツと改訂していきますよー

255: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:36:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
252修正を
×だが、それほど少数でもない。実際、
〇だが、それほど少数でもない。実際、結構な人数を割かねばならないほど多いのだし。

256: 弥次郎 :2022/01/05(水) 20:52:19 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
252
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×
(これだから天然物は怖いんだ)

 アマツミカボシはぼやくしかない。


(セロのことを笑えないな)

 アマツミカボシはぼやくしかない。

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最終更新:2023年10月11日 20:04