866: 弥次郎 :2021/05/15(土) 23:56:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「鉄の華が咲いた日」1(改訂版)


  • P.D.世界 火星 カラール自治区企業連合拠点内陸港 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」



「戦闘の光だと!?」

 その叫び声が出たのは、ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」の通路内だった。
 CGSへの派遣戦力である「セントエルモス」の母艦である「エウクレイデス」の艦橋へ疾走するのは初老の域に差し掛かった人物だ。
その人物-セントエルモスにおける戦術指揮官のサイ・ブラフマンは、インカム越しにオペレーターからの報告を受けていた。

『はい、CGS拠点周辺にてMW及び歩兵による戦闘が衛星のカメラで確認されました。
 画像解析の結果、CGSに攻撃をかけているのはギャラルホルンだと推定されます。
 確認できただけでもMWが1個中隊、さらにグレイズで構成されたMS小隊が1つ』
「CGSの戦力は?」
『確認できているのはMWだけです。しかも旧型。MSが出てきたら手も足も出ないかと』

 舌打ちしかけるが、これはしょうがない。
 クーデリア・藍那・バーンスタインの到着に合わせ、企業連からの戦力として「セントエルモス」が向かうことになっていた。
 だが、まさかその情報が洩れて襲撃を受けてしまうことになるとは。
 しかし、クーデリア・藍那・バーンスタインの依頼があったのは昨日の今日だ。どこからか、彼女の動向が漏れてしまい、それが今回の襲撃につながったのだろうとあたりをつける。
この規模での襲撃は、決して偶然ではない。恐らくは事前に準備がされていたのであろう。やはり既存体制の改革を試みる乙女は邪魔ということか。
 とまれ、すぐにでも戦力を送り出さなければCGSの戦力が全滅しかねない。そう判断するが、まだエウクレイデス自体が準備の最中だったはず。

「エウクレイデスが現地に到着までの見込みは?」
『物資などの積み込みは完了しておりますが、発進プロセスと各部のチェックなどを行う必要があります。
 そのため、最短でも30分から1時間ほどかかります。発進さえできれば跳躍航行ですぐさま到着できるのですが……』

 ブラフマンは暫し考えたが、すぐに決断した。

「しょうがないな。ネクストチームを先行して派遣しろ。
 ジャンプ・ブースターを装着して送りだせば、セントエルモス全戦力が到着するより速い」
『了解しました。ネクストチームは既に待機していたため、これより換装作業を開始。10分以内に終わらせます』
「頼む。それと現地に到着したら即応できるように陸戦隊の準備も進めておけ。CGSの方にも連絡を入れておいてくれ」
『了解』

 オペレーターの返答を聞きつつも、ブラフマンの考えるのはこの後の戦闘の流れだ。彼我の戦力差が大きすぎる相手との戦闘。
少なくともCGSでは時間稼ぎが限界だろう。こうなる前に早くに派遣すればよかったと思うのだが、今更の話だ。
あとおよそ10分、それさえ耐えれば、ネクストチーム3機がCGS拠点に到着する。
 この世界の技術水準などの理由からネクストでも十分この世界のMSに勝てることは判明しているので、あとはCGSがどれほど粘ってくれるかにかかっている。
最悪、護衛対象のクーデリア・藍那・バーンスタインさえ逃がしてくれればいい。そのように考えていた。
最低でもそのくらいは出来なくては困るとの判断もあっての考えだった。だが、まさかそれ以上にひどいことになっていたとは夢にも思わなかった。

867: 弥次郎 :2021/05/15(土) 23:57:04 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

  • P.D.世界 火星 クリュセ自治区郊外 CGS拠点



 宇宙ネズミと揶揄される阿頼耶識施術者の強みは、圧倒的な反応速度や空間認識能力にある。
 端的に言えば、世代差のあるMWを相手にしたとしても、それがギャラルホルンのものであっても埋めることがたやすいということだ。
 まして、オルガ・イツカが送り出したのは少年兵を中心とした三番組でもエース格である三日月・オーガスを筆頭とした精鋭たちだ。
ギャラルホルンのMWが確かに性能がいいとしても、懐に飛び込まれての近接戦闘において早々に追いつけるものではない。
MW達の合間を走り回り、翻弄し、砲撃を加えて次々と擱座させ、戦闘能力を失わせていく。

「よし……いけるぞ!負傷者はなるたけ下げろ!交代で補給もやれ!」

 うまく乱戦に持ち込んだことで、ギャラルホルンの侵攻は一時的に止まった。
 その間に前線で消耗した戦力を下がらせ、補給に移らせることが出来るわけである。

「オルガ!」

 指示を飛ばしているオルガに声をかけてきたのは、三番組の参謀であるビスケット・グリフォンだった。
 彼はオルガの命を帯びて、あることを確認していた。それは、この事態において対応すべき一軍がなにをしているかということだったが。

「やっぱり想定通りだったよ」
「くそ、やっぱりかよ……!」

 見捨てられた。想像できなかったわけではない。ギャラルホルンと事を構えるなど自殺も良いところだ。
自分達が無理矢理送り出された時点で嫌な予感はしていたが、こうにまでとは。自分達を囮にして時間を稼いでいる間に逃げ出したということか。

「それと……回線で通信があったんだ。LCSで」
「LCSで…?一体どこのだれからだよ?」
「ほら、昼間マルバが言っていた提携先からだよ。バーンスタインさんの護衛の仕事を一緒に受けることになった」

 提携先、クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛、仕事。その3つがつながると、オルガにも覚えがあった。

「アルゼブラって会社のか?」
「うん。こっちの状況を把握して、増援を送ってくれるって。ただ……」

 爆発音。どうやらMWの流れ弾がこちらに着弾したようだ。その衝撃と飛んできた土塊に耐え、何とか続きをビスケットはつむぐ。

「最低でもあと10分は耐えろって」
「10分か……上等だぜ」

 確かに数の上ではまけているが、かと言って全面的に押されて潰される寸前というわけではない。
それに加えて、交代しながらの戦いにはなるだろうが、10分という時間を稼げないほど自分達は弱いわけではない。
どこまで信用できるか正直なところわからない。顔も知らない相手だ。マルバのような大人なのかもしれないが、それに賭けるしかないのも事実。
 希望はある、可能性もある。だからはいつくばってでも生き延びて掴んでやる。そう決意したが、絶望はすぐにやってきた。

「……嘘だろ」

 地響きと共に地面に着地したのは、MWなどではない。
 二つの足、二本の腕、そして頭と胴体の人間を模した造形。手にしたMWとは比較にならない大口径のライフルと、格闘戦用のトマホーク。
MWを歯牙にもかけないパワーと機動力。そして何よりもエイハブリアクターとナノラミネートアーマーによる鉄壁の防御を有する機動兵器。

「MS……!」

 EB-06 グレイズ。ギャラルホルンの主力を担うMSだ。
 それは、MSを持たず、MWしかないCGS三番組にとって絶望が形となったような存在。
 アルゼブラの増援が到着まであと10分間。果てしなく長い10分間が幕を開けようとしていた。

868: 弥次郎 :2021/05/15(土) 23:57:44 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

  • ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」格納庫


 格納庫内は忙しない動きと音で満ちていた。
 急遽発艦が決まったネクスト3機の装備換装---縮退炉を持たない機体でも次元跳躍による移動を可能とするジャンプ・ブースターの装着作業が行われている。
ネクストの最終調整と各部の確認作業と並行して行われてるので、極めて騒々しく、格納庫内に大きな音を響かせていた。
幸い、ジャンプ・ブースター自体は組み立てられて用意されており、後は微調整と接続を済ませるだけで完了する段階だった。
 だが、ジャンプ・ブースターが決して手放しで使えるものかといえばそうではない。
 次元作用技術の応用によって長距離ワープを可能とするがジャンプ・ブースターはかなり便利なモノ。
しかし、一歩間違えば到着する座標がとんでもないところにずれてしまい、地面の中に埋まるとか、果てしない宇宙の彼方に放り出されるとか、そういった危険があり得るのだ。
まして、提携先への救援で急いでいるが確実さが求められる状況だから急ぐと同時に慎重さも求められているのだった。

『各員、状況報告せよ』

 ブラフマンの声をPMS越しに聞くのは3人のリンクスたち。
 TYPE-NEIT「カノプス」を操るセントール、ALBINYA「バクティ」のリグ、JPNN-183 HUTUNUSHI「ジュピターソン」の明星らだった。
既にPMS接続の準備は完了し、ステータス確認と微調整を行っていた彼らは、手を休めることなく返答を返す。

「こちらセントール、機体チェック作業中」
「リグ、問題なし」
「明星。いつでもいけます」

 三者三様の返事が返ってきたが、いずれのリンクスも換装さえ済めばいつでも発艦できる状態だった。

『よし。改めて状況を確認する。データリンクを』

 ブラフマンの声と共に、状況をまとめたデータが送信されてきて、PMSを通じて脳内にフィードバックされる。
 現在の状況-CGSが置かれている苦境、現在のセントエルモスの状況、必要となる行動、その為の行動プラン。
ブラフマンやオペレーターたちがまとめ上げたそれらが、一気に伝達される。

『CGS側には耐久するように指示をだしてはある。諸君らは先行してCGSの救援に向かい、現地の敵対勢力の排除を行ってくれ』
「了解しました」
「把握した」
「わかったわ。しかし、現地勢力にとってはまさに絶望そのものね、ギャラルホルンは…」
『付近にはMSも確認されている。諸君らの相手ではないだろう。だが、CGSが殲滅される可能性は十分にある。
 提携先の危機を救えないとなれば企業連の評判にも響く、何とか救ってやってくれ』

 ブラフマンも、MWだろうがMSだろうが、ギャラルホルンの戦力がこちらの戦力にとっては相手にならないほど弱いことは知っている。
だが、それはあくまでも連合や企業連基準での話だ。依然としてその他のCGSら現地の勢力にとって脅威であることに変わりはない。
 しかし、とセントールは確認されている戦力のリストを眺めながらも呟く。

「たかだか一つの民間軍事企業を潰すのに、だいぶ戦力を投じたものだな」
『恐らく見せしめも兼ねての事だろう。だからこそ過剰なまでの戦力を使ったわけだ。
 まあ、CGSでも勝てないとわかれば時間稼ぎをして護衛対象を逃がすくらいは……ん?少し待て……なんだと!?』

 オペレーターからの報告にブラフマンは思わず叫び声をあげてしまう。
 暫し冷静さを取り戻すのに時間を要したが、それでも何とか指揮官として状況説明を続けた。

『……状況は最悪だ。どうやらCGSは想定以上に終わってる』
「どういうことです?」
『現地の映像で、護衛対象のクーデリア・藍那・バーンスタインがまだCGS拠点内に残っていることが確認された。
 一方で、ギャラルホルンと対峙している部隊とは別の部隊がCGS拠点から離れていっている。どういうことかわかるか?』
「……逃亡?」
「しかも敵前逃亡、挙句に依頼主も見捨てていますね」

 冷静にリグとセントールが分析する。
 それは、ブラフマンらセントエルモスの首脳部が想定していた以上の悪い状況だった。
少なくとも民間軍事企業としては敵前逃亡と依頼の放棄、そして依頼主を一方的に見捨てたことによって、袋叩きにされかねない行為だ。
評判は地に落ちるし、半ば捨て駒にされた部隊からは恨まれるし、何より、業務提携を行うことになるアルゼブラ社を裏切る行為に他ならない。
この段階ですでにCGSの汚点はアルゼブラの、ひいては企業連の、さらにめぐって連合の汚点になりかねない状況なのだ。

『ああ。普通ならば粛清騎士が送られるレベルのことだな……まあ、それはまだ先の話だ。
 とにかく換装作業を急いでくれ。準備が出来た機体から順次発進させる』

 半ば祈るような言葉を受け、メカニック班は作業を急ぎ始めた。

869: 弥次郎 :2021/05/15(土) 23:58:42 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
 以上、wiki転載はご自由に。
 以前投下した未来編鉄血世界SSを手直ししました。
 割と粗があったなぁと反省する次第であります…
 明日にも修正を加えたやつを投下できればと思いますので、よろしくお願いします。
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最終更新:2023年06月07日 19:02