934: 弥次郎 :2021/05/16(日) 16:03:05 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「鉄の華が咲いた日」3(改訂版)
それからの話をするとしよう。
かっきり1時間余り後に、「セントエルモス」の母艦であるエウクレイデスがCGS拠点に到着した。
あらかじめ準備をしておいたエウクレイデスは速やかに陸戦隊や医療班などを艦から降ろした。
彼らの仕事は捕虜となったギャラルホルンの兵士たちを預かることであり、拠点の実質的な制圧およびCGS首脳部の確保にあった。
前者は比較的スムーズに進んだ。CGSに預けるという手もなくはなかったが、今の彼らでは私刑にしかねない状況だった。
一方で、企業ならばこの手の捕虜の扱いにも慣れたものであるし、少年兵たちと違い感情を律することが出来たためだ。
ギャラルホルンの兵士たちに対しCGSの少年兵たちは思うところがあったのであろうが、結局従ってくれた。
一方で、後者はいきなり躓いた。
三番組リーダーのオルガの証言と案内の元で会社社長であるマルバ・アーケイを捜索したのだが、CGS拠点内の部屋は蛻の殻だったのだ。
どうやらマルバは貴重品などを持ち出せるだけ持ち出し、一人逃亡したのではないかと推測された。
部屋は慌てて私物を持ち出した形跡があったことから確実視された。これをオルガは知らなかったことから、独断であったことが推測された。
どうやらCGSは想像以上の会社だ、とブラフマンや「セントエルモス」の総指揮官であるジョージ・クロードは呆れるしかなかった。
彼らがカラール自治区の企業連拠点に問い合わせて確認したところによれば、このCGSの実態についてはある程度把握していたようだった。
なるほど、だからこそ少年兵たちの教育という仕事が入っていたわけだ。いきなり廃止しろなどとは言わずに、業務提携を行う中で提案する手筈だったという。
だが、それは些かに遅かったとしか言うしかないし、想定が甘かったというしかない。少年兵を使うという時点で察するべきだった。
ここまで会社として、PMCとして腐りきっているとは思ってもいなかった。
内実の問題は他にも存在した。社長であるマルバが逃亡したことで責任者がいなくなったのは確かに一大事だ。
だが、それ以上に組織内部において指揮権などの継承というものができておらず、誰が会社を率いる人間として決定を下すのかが決まっていない状況に陥っているのだ。
端的に言えば、組織立った動きが取れなくなってしまったのだ。
残っていた大人たち、トド・ミネルコンらはあくまで一社員に過ぎないので、その権限も持ち合わせていないし判断も下せない。
一応指揮系統が出来ており組織的の行動できるのが少年兵たちが主体の三番組だったというのがなんとも言えない状況であった。
仕方なく、クロードは最上位の人間、つまりトドに対して臨時代表として振る舞うように要請。社長のマルバについてはMIA認定を下すことになった。
そして、CGSの立て直しをアルゼブラとセントエルモスに委ねる、という取り決めを行うことになった。半ば介入だ。
業務提携の域を超えている決定と行動であるが、そうでもしなければならなかった。
そのトドも、ギャラルホルンを一蹴した実力に恐れをなし、素直に首を縦に振るしかなかった。逆らえばどうなるか分からない。
文字通り降ってわいた地位であるが、彼とて本意ではない。
自分が好きではない面倒ごとであるし、本来の社長であるマルバが逃げ出さねば、あるいは一番組の面々が自分を置いて逃げなければこうはならなかったはずなのだ。
良くも悪くも、自らの安寧を第一目標として行動する。それこそ彼の根本のところであった。
935: 弥次郎 :2021/05/16(日) 16:04:14 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
CGSでも内装や調度品が揃う社長室には、多くの人間が詰めかけていた。
CGSからは、臨時代表のトドに加えて三番組のオルガとビスケット。
そしてもともとの依頼主であったクーデリアもメイドであるフミタンを引き連れている。
セントエルモスからは、総指揮官のクロードと補佐官のエリーゼ・スワンと戦闘指揮官のブラフマン、更には実働班からセントールが代表として参加していた。
一応企業連(アルゼブラ)-CGSとの間での今後の業務提携についての話し合いの場が設けられたという形ではあるのだが、圧迫面接の如き様相を示していた。
まあ、無理もない。ギャラルホルンのMSを歯牙にもかけず圧倒した戦力を多数有している上に、大型の航空戦艦まで持ち込んできたセントエルモスが相手なのだ。
どう言葉を尽くしたところでも委縮するなという方が無理な話だ。トドは冷や汗が止まらず、オルガもまた虚勢こそ張っているが嫌な汗が背中を伝う。
とはいえ、である。積み重なっていた悪い状況については概ね解決しつつある。
医療班の協力のもと負傷者や戦死者の収容、大破したMSの回収などが完了し、無人MTによる警戒網がCGS拠点周辺には敷かれている。
さらにP.D.世界ではとっくに廃れている航空機や、あるいは宇宙に浮かぶ人工衛星による上空からの監視も行われている。
再びギャラルホルンが仕掛けてくれば接近してきた時点で把握できるし、なんならば先制攻撃も可能だ。
また、大気圏外、火星周辺宙域に展開するソレスタルビーイング級外宇宙航行要塞やその僚艦からは直掩が展開。
テレポートアンカーによる即時増援の展開も可能なようにしており、たとえ火星のギャラルホルンの総力が攻めてこようと守り切れる体制だった。
閑話休題。
彼らの打ち合わせは今後の業務について、特にクーデリアの護衛について議題が移っていた。
咳ばらいを一つして口火を切ったのは、セントエルモスの総指揮官であるクロードだった。
「単刀直入に言おう。セントエルモスは、そしてアルゼブラ、企業連はギャラルホルンと事を構えることを前提にしている」
それは、口火にしては大きすぎた。軽めのジャブかと思いきや、体重の乗った良いストレートがいきなり飛んできたようなものだ。
「アルゼブラや企業連はすでに経済圏やギャラルホルンにはにらまれている状態にあり、間接的ではあるが交戦もした。
今さら避けて通るなど考えてはいない。襲い掛かって来るならば、全力で振り払うのみ。
CGSがこの仕事から降りるならば、セントエルモスが---正確には企業連とアルゼブラが護衛任務を引き継いでもいい」
それが企業連の決定だった。
元より、クーデリアの掲げる火星の独立というのは企業連や連合にとっては渡りに船と言えた。
この星系、P.D.星系の、外敵に対する防衛体制の構築を急ぐためには、現地勢力の協力が必須となる。
自衛力を持ってくれるならばそれでよし、最低でも協力体制くらいは構築して手助けをすることは決定している。
そして、火星が経済的にも経済圏などから独立していくというならば、それに乗らない手はない。
もとより、このP.D.世界の国家群はエドモントン条約を批准しながらも碌に実行に移さず、ギャラルホルンも治安維持組織として仕事をしていなかったのだ。
そこで、この火星圏が独立をして自主自律を選んでくれるというならば、条約の実効性が増しになるかもと期待が持てるのだ。
「無論、クーデリア嬢には報酬は払ってもらうことになるが、我々の実力は既に見せたとおり。ギャラルホルンに後れは取らない。
それに、必要とならば動員できる戦力もより大規模にできる。無論それだけ報酬も高くなるが……安全は保障できる」
「……分かりました。詳しい内容については後々に話を詰めましょう。ひとまずは、地球までよろしくお願いします」
クーデリアは了承を選んだ。
彼らの実力や戦力については改めて教えられていたが、ギャラルホルンが敵に回るとなれば、彼らの力が必要だった。
ギャラルホルンの、既存の権力を跳ねのけられる力。それこそが、クーデリアにとっていま必要なものであった。
CGSの少年兵たちを雇用したというのは自身の政治的なスタンスもあってのことであったが、直接的に狙われたことを考えると、それでは心もとない。
クーデリアとしても、自分の命がかかっているならば慎重にならざるを得なかった。
936: 弥次郎 :2021/05/16(日) 16:05:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
よろしい、と頷いたクロードは、次に視線をCGS組へと向けた。
「CGSはどうします?この後も護衛を引き受けるか、ここで安全を選んで降りるか、選択肢がありますが」
「それは……」
「一度引き受けた以上、やるのが筋ってもんだ。俺達はやるぜ」
少し迷ったトドに対し、オルガは断言した。
「ギャラルホルンに目を付けられているのは俺達だって同じだ。どうせ、乗り掛かった舟だしな」
「臨時代表、そちらの判断は?」
「……ええと、まあ、あんたらは協力してくれるんだろう?だったら…やるさぁ」
このトドという男、長い物には巻かれるタイプだ。力あるものになびく輩であるが、逆に言えば情勢を読み取る目を持っていることでもある。
既に明かされている連合の派遣戦力がどれだけやばいのかというのは既にトドも知るところになっていたし、理解させられていた。
ここにきて翻意すれば、自分達は後ろ盾もなくギャラルホルンと対峙しなくてはなくなる。そんなのは絶対に御免だ。
それでも裏切ろうものなら、今度は自分が処断される。それくらいの勘定は出来ていた。十割が自分の為ではあるが、それは果たして正解であった。
「ならば、細かい予定を詰めていくとしよう。まずはCGSの残りの問題の解決をしなくてはならない。
それに地球までは時間もかかることだし、その間にできることもたくさんあるから予定も組まなくては」
「できること?」
「まあ、それについては追々話すとしよう。君たちにも関わることであるからね」
ビスケットが疑問を呈するが、セントールはそれよりも、と続きを促す。
「それよりも問題は、敵前逃亡をした一番組のことだ。バーンスタイン嬢を逃がしたならばともかく、見捨てて逃げ出すなど言語道断だ。
連合ならば傭兵やPMCの管轄組織から粛正部隊が送り込まれてもおかしくない行為。提携先として看過できない」
「しゅ、粛正部隊……?」
「そう。連合では傭兵たちやPMCの管轄組織があってね、今回の様な不祥事があると、ペナルティーが科されるんだ。
そして、最悪の場合は統括組織がその抱えている戦力を投じて潰しにかかって来る」
粛正騎士ともいうんだが、とセントールはさらりと流す。
「ともかく、そんな行いをした一番組には今後の業務を任せられない。いざとなった時に後ろ玉を喰らう可能性もある。
よって、彼らに対して何らかの処罰が必要だと判断する」
「で、でしょうなぁ」
トドが肯定した。トド自身も所属としては一応一番組ではあるが、ここで反対したら自分も同じ目にあうのは必定だ。
それに、置いてけぼりにされてギャラルホルンと対峙させられた時点で一番組に含まれているとはいえない状態なのは明らか。
そんなトドの内心を見抜いているのかオルガは冷たい視線を送るが、自分もまた同意見だと発言する。
「彼らの言い分は一応聞きはしますが、まあ処罰は行う必要があるでしょう。ここら辺は対処を任せてもらっても?」
「構いませんぜ、俺達を捨て駒にした連中ですし」
「了解しました」
斯くして、CGS一番組の命運は決した。
そして、今後のPMCとしてのCGSの処遇を含め、話し合いは遅くまで続くことになった。
そんなことも知らず、逃げ出した一番組はのこのこと帰還する。忘れるなかれ、天網恢恢疎にして漏らさず。
自らの行いは、必ず自らのところに帰ってくるものなのだと。それは遅いか早いかの違いはあれども、確実に起こるのだから。
937: 弥次郎 :2021/05/16(日) 16:05:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年06月07日 19:22