130: 時風@PC :2020/08/14(金) 00:07:01 HOST:KD106173219113.ppp-bb.dion.ne.jp


スパロボクロス未来編 鉄血のオルフェンズIFルート 七星奮闘記

第一話「怒れラスタル」   ――――PD315年

 ――――ラスタル・エリオンは激怒した。必ずや、あの無知蒙昧かつ、無責任な経済圏の者共に制裁を加えねばと固く決意した。
 ラスタルは有能である。有能だからこそ、より効果の高い治安維持のために一般として外道となる汚れ仕事もした。
 それが必要であり、、平穏に生きる人々を守るためと泥をかぶり続けてきた。

 いつか報いを受ける時が来るとしても、誰かがやらねばならないと思っていたから。
 だが――――。

「――――経済圏の阿呆どもがァァァァ!!!!!」

 だからこそ、これはないだろうと。報いにしてはあまりに粗末であると。経済圏のクソッたれた法律が自分たちの終わりとなるのは、あまりに看過できない!!!
 そう己の怒りを拳に込めて、七星会議に使われるだけの価値ある高級な円卓に叩きつけた。
 音が響き、非公式……誰にも知られることなくこうして行われている七星会議に充満していた暗い空気が一部だけ霧散した。

「はぁ……すまん、恥を晒した」
「気にするなラスタル。あんな法律が通ってしまう時点で気持ちはみな同じだ」
「あれはない、いくら何でもふざけてるとしか言いようがない……!!」
「落ち着けクジャン公。怒り過ぎは身体に毒じゃぞ……」

 頭を下げ謝罪するラスタルに対し、同じセブンスターズの重鎮たちは慰めをかけ、その気持ちに同調していた。
 特にクジャン家の当主は胃のあたりを抑えながら怒りを必死にこらえている有様で既に老体の身であるファルク公に気遣われており、イズナリオは手を顔の前で組みながらラスタルの怒りを静かに受け止めていた。

「……ヒューマンデブリ禁止法、いや俗称の人身売買禁止法だが――――」
「平たい話、傭兵の略奪公認および抜け道だらけのクソ法律だな」

 つい先ほど四大経済圏で制定された人身売買禁止法こそセブンスターズたちの怒りと胃の痛みの源泉だった。
 ……5年前、経済圏とギャラルホルンの前に姿を現した地球連合。
 正式名称『地球圏を中心とする近隣星域及び多次元連邦を盟主とする多種族銀河統一連合』との接触は、ギャラルホルンに対し自分たちを「この世界の地球とその他数多くの星々を統治する政府である」と称し、原因不明の空間異常で混乱を起こしている自分たちに対しとても丁寧に、かつ友好的に事態を説明し、この危険な宇宙で生きるためにと友好条約の締結を打診した。

 が、経済圏は混乱を理由にそれを拒否。5年後再交渉を行うという形でその場は平穏に終わり……
 その5年間の間にギャラルホルン内部では、自分たちの手で事実確認を兼ねて集め、また連合にそれとなく聞くなどをしたことで集めた膨大なデータを精査して……危機感からその全てを全士官が読み込むことを義務とした結果、あまりにも悲痛な叫びと、若い士官たちの吐瀉物が溢れかえってしまった。
 ちなみに一番ひどい吐瀉物の被害発生地はMS格納庫や資料室の床で、酷い時はまだ据えた匂いがするとかなんとか。
 閑話休題。


「……地球圏外から発生している難民やヒューマンデブリ、および火星独立運動の解決を我々と各経済圏に連合は依頼したな」
「はい、しましたな」
「我々としても憂慮していた問題でしたからな、それを解決することに全力を尽くすのは、ギャラルホルンとして、彼らを導く義務のあるセブンスターズとして当然のこと」
「そうだ。我々としても二つ返事で同意をした……勝てず、戦ったとしても無慈悲に全て焼かれるという結末が見えていたからだ」

重く、鎮痛にラスタルは言葉を吐いていく。

「あれは要求であったが、同時に命令でもあった。不干渉をしてほしいならそれだけはやれと、そういうことだ」
「失敗すれば、我々は治安維持組織失格と見做されるものですな」

そうだと、セブンスターズ全員が頷いて。
……これに失敗した場合、経済圏はどのような扱いを受けるのか、ということを全員が理解している証だった。
すなわち――――為政者失格。

131: 時風@PC :2020/08/14(金) 00:08:32 HOST:KD106173219113.ppp-bb.dion.ne.jp

「……理解しているのでしょうか、経済圏は」
「理解してたら連合との約束もありますので治安維持のため~とか言ってあんなクソ法律作ると思うか!?!アァ!!?
 どう考えても俺たちに失敗させて責任押し付ける気だろあいつら!!!!」
「落ち着けクジャン公!!頭の血管が切れるぞ!!」
「俺一人の命で経済圏が法改正してくれるならいくらでも死んでやらぁ!!!!」

余りにも、余りにも地球圏の外に無頓着に過ぎる経済圏に対して怒りを爆発させているクジャン公を見ながら、ラスタルは息を吐き。

「……ダインスレイブをあいつらの真上から叩き込みたい」
「「「「「「それな」」」」」」

 思わず言ってしまった失言に全員が同意してしまったことで、力なく笑ってしまう。
 いや、全員が笑っていた。
 ――――政敵であったりしようが思いは同じだったのだ。経済圏許さねぇ、末法状態の治安維持難易度舐めんなと。
 そして全員が自分の失言に同意しているのを見て、ラスタルの腹は決まった。
 ここがすべてを賭ける時だと決めたのだ。

「……さて、禁止兵器を守るべき人間に叩き込みたいという私の失言に同意した、セブンスターズの同志たちに聞こう」
「何を聞きたいのだラスタル。経済圏を正気に戻す魔法の使い方か?」
「それも欲しいが、そうだな――――」

 一度言葉を切り、全員を見て。

「先祖から詰られ、地獄のさらに地獄に落ちようと、彼らの要求を達成する覚悟はあるか?」


 答えはなかった。いや、全員の頷きが答えであった。
 地獄の業火で焼かれようとも、達成しなければ、道は開けないのだから。

「……感謝する。――――イズナリオ」

 ラスタルは机にぶつけんほど深く頭を下げ、己の政敵に相応しい、優秀なイズナリオに自分の要求を伝えた。

「お前の癒着ルートを貸してほしい。連合との本格的な繋ぎと、経済圏に法改正の機運を作りたい。癒着証拠の隠蔽は全て私がする」
「……そこまで知っていたのか」
「確たる証拠はなく、お前に突き付け追い落とすには不十分なものだがな。良い目と耳があるのさ」

 笑いながらラスタルは自分の部下を誇る。自分の強みは経験と、人材重用だと。それがない自分など自分ではないのだから。

「分かった。好きに使え。私はその間に癒着の拡大と諸々を行う」
「全く、セブンスターズが非公式とはいえ七星会議の場で堂々と癒着宣言か。先祖が聞いたら怒り狂うなぁ」
「それをしなければならないほど狂っている世界に怒ってくれることを願おう」

 心の中で先祖に謝罪をしながら、各々が動き始める。その指示役はラスタルとイズナリオ、そしてボードウィンだった。議論し、動きが決まっていく。

「ファルク公は他の貴族たちに動きが気取られないように気を配りつつ我々が動いていないように経済圏へ見せかけろ」
「あい分かった」
「ボードウィン、クジャンは士官たち向けにこの非公式会議の動きを喧伝しろ。ただし、癒着などは話すなよ?」
「勿論だとも。話せば全員海に沈められるからな」
「まぁた吐瀉物が建物を彩りそうだ……」
「一回の告発でセブンスターズ全滅とか笑えんな……」

 息を吐き、己の役割を噛みしめ、声を張り上げる。

「さぁ同志たち!!――――すべてが上手くいった日には、全員で焼肉を食いに行くぞ!!!」
「「「「「「応ッッ!!!!」」」」」」

 それは果たされるかもわからない、しかし果たさなければいけない、七星全員の誓いとなった。
 すべては自分たちの生存のため。そして、若き者たちが誇りをもってギャラルホルンの軍服を脱ぐときのため。
 そしてラスタルは、意識改革と個人的な情で引き取った、少女のために、政治と法という、巨大な怪物と戦う決意を改めて固める。

 開戦の角笛(ギャラルホルン)は、確かに鳴り響いた。

132: 時風@PC :2020/08/14(金) 00:11:17 HOST:KD106173219113.ppp-bb.dion.ne.jp
ということで短いですが、第一話の投下を終了とさせていただきます。
慢心?偏見?そんなのは吐瀉物と一緒に消えたよ……(死んだ目)って感じで本気出したセブンスターズの皆様が、
生存ルート通って破滅を回避するために頑張るお話です。
これからも皆様とともに議論し、より良い話を作れるように頑張るので、どうかよろしくお願いします

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最終更新:2020年08月17日 09:12