332: 名無しさん :2020/08/20(木) 19:30:07 HOST:p420159-ipbf308imazuka.yamagata.ocn.ne.jp
連合におけるファースト・コンタクト
「まったく……上も無理を言ってくれる。生け捕りだなんて」
青と白に塗られたシナンジュスタイン・バイオコンピュータ試験型のコクピットに座る本田菊大尉は、村雨研究所所属艦の格納庫にある整備ベッドの所で機体を停止させるとため息交じりに愚痴をこぼした。
木星圏に現れた数万の所属不明艦隊の情報を得た
夢幻会は、それがマクロス世界の女性型巨人であるメルトランディのもの断定。木星周辺にいる軍に対して、可能であるならばメルトランディを捕縛せよとの命令を下した。
その中には抗重力化での試作機の運用試験を行っていた、村雨研究所に所属しているパイロットの本田菊大尉もいた。
菊からすれば自分の技量を信用してくれているのはありがたいが、援軍として村雨研究所のパイロットを何人か送ってほしいところであった。
「強かったな……」
同じ格納庫の片隅で四機のジンクスに取り囲まれている四つのバトルスーツ、クァドラン・ローの中の薔薇色に塗られたものへ視線を向けてから少し前にあった戦闘を思い出していた。
パーソナルカラーを許されているだけあって、他の一般機とはその強さは別格だった。
性能面では、自身の機体のほうが上だったと菊は思う。
それなのに一般機と違い、あの薔薇色のクァドランには苦戦を強いられた。
バイオコンピューターが機体のリミッターの解除が必要と判断し、機体性能を限界まで引き出させた。それでもなお、ライフルとシールドを持っていかれたのだ。
一つ間違えれば、菊が命を落としていただろう。
「この機体じゃなかったら負けていた……」
そう言った瞬間、モニターに映る薔薇色のクァドランのハッチが開いた。中からパイロットスーツを着た巨人の女がゆっくりと姿を現す。
驚く菊の目の前で中から出てきたメルトランディは、シナンジュのほうへ顔を向ける。
小柄だと菊は感じた。地球人サイズになるマイクローン化技術を使えば、おそらく150センチあるかないかだろう。
であるにもかかわらず、体の前にあるふたつのふくらみは信じられないほど大きい。それでもスタイルはアンバランスさを感じさせなかった。
女性には淡白な菊であったが、思わず視線がくぎ付けになってしまった。
菊に見つめられているのを知ってか知らずか、メルトランディはゆっくりとヘルメットを外した。
「あっ――」
菊が驚きの声を上げる。
現れたのは首を垂れる稲穂を思わせる金色の髪と降り積もった粉雪のような肌、そして翡翠の様な緑の瞳の可憐な少女の顔であった。
そしてそんな彼女に招くように右手を差し出された菊は、無意識のうちにコックピットのハッチをあけて外に出ていた。
『大尉、お戻りください!』
ジンクスのパイロットの誰かが菊を制止しする。
そして武器を彼女へと向けたのを見た菊は叫んだ。
「やめろ!! 武器を下ろせ!!」
そしてそのままハッチを蹴って彼女の方へと向かう。
格納庫は無重力状態であったので、そのまま菊の身体は彼女の右手まで進んだ。
「よっ……と」
大きな親指につかまって止まってから手のひらの上に立った菊は、改めて彼女の顔を見つめた。
すると彼女は菊を落とさないようにゆっくりと腰を下ろすとヘルメットを床に置いて、左手を胸元に当てて菊に何かを言った。
ゼントラーディ語はさっぱりわからない菊だったが、ニュータイプの素養のおかげか彼女が何を言っているのかだけは分かった。
分かったので、こう返した。
「ネロか、いい名前だ。僕の名前は菊。本田菊」
すると小首をかしげてしばらく考えこむと、ネロは「キク?」と問うた。
「そう、菊だ」
菊の肯定の言葉を聞いたネロが再び何かを言った。
これも内容だけは感じ取れたので、菊はその質問に答えた。
「君たちを傷つけるつもりはないから、安心してほしい」
ネロはしばらく考えると、後ろのクァドランへ向けて何かを命じる。
すると薄紫のクァドランのハッチが開いて、中からメルトランディたちが姿を現す。
そして彼女たちは少しおびえた様子を見せながら、ネロのように床に腰を下ろした。
『信じられねえ……』
そんな言葉を漏らしたのは壁側に退避した若い整備兵であった。その場にいた菊以外の大洋の兵士たちは皆同じ気持ちだったであろう。
一般機のメルトランディたちもそうだったかもしれない。
だが菊とネロは周囲にお構いなしで、大洋が拠点としている木星コロニーに着くまで語り合ったのだった。
333: 名無しさん :2020/08/20(木) 19:30:37 HOST:p420159-ipbf308imazuka.yamagata.ocn.ne.jp
○ ○ ○
「いやいやお手柄だねぇ、本田君。一人も殺さずに捕縛するなんて」
到着したコロニーで寂しがるネロを何とかなだめすかして担当者に任せた菊にそう語りかけたのは、バイオコンピューター関係の担当の藤田中佐だった。
「いえ、あの機体だったから出来た事です」
菊は心からそう言ったが、藤田はそうは取らなかったようである。
「そうか……じゃあ、そういう事にしておこう。しかしこれからが大変だね」
菊はうなずいた。
「ええ、今の地球圏はあの艦隊と戦う余裕はありません」
「いやいや、そうじゃない」
菊の返事に藤田は首を横に振った。
戸惑う菊に藤田が言う。
「お父さんのことだよ、君の」
藤田の言葉を聞いた菊の顔が強張った。
菊や藤田と同じく転生者で、自分とは違って大柄で、ガンダム世界よりマクロス世界に転生したかったと事あるごとに愚痴る父のことを思い出す。
メルトランディを捕縛したと知った父が、どういう行動に出るかを予測した菊にできることは、「そうですね」と力なく返事をして憂鬱な気分になることだけだった。
終わり。
おまけ
シナンジュスタイン・バイオコンピュータ試験型
全高
22.6m
本体重量
25.5t
武装
シナンジュ、シナンジュスタインと同じ。
転移事件で得られたデータをもとに作られたバイオコンピュータを搭載したテスト機。
頭部はクロスボーンガンダムに似ているが、エンブレムのある部分にセンサーがある。
テストパイロットの本田大尉の要望でバーチャロンの1P側テムジンに似たカラーに塗られている
ネロ1215
クロス時空に飛ばされてきたメルトランディ艦隊のエース。
明るく闊達で、あまり細かいところは気にしない性格。
顔立ちはF○TEのネロ似。
光の加減で金色にも薄緑色にもなる変わった髪をもつ。
マイクローン化すると身長150cm、体重○○kg。
出ているところがものすごく出ているが、全体的にアンバランスな感じがしない体形。
後に本田菊と結婚し、数多くの子どもを儲けることになる。
本田 正樹
本田菊の父親で転生者。
本田家当主。
195cm、130kgと菊と違って大柄。
普段は育ちの良さを感じさせる紳士だが、怒るとキレたハルク級と言われるほど怖い。
柔道家で現役選手時代はオリンピック柔道100キロ超級金メダリストであり、前世では体育以外で柔道をやったことがなかった菊に柔道を仕込んだ張本人。
前世から重度のマクロスファンであったため、菊とネロの結婚に反対する親族に対してパワハラじみた説得を行った。
334: 名無しさん :2020/08/20(木) 19:31:26 HOST:p420159-ipbf308imazuka.yamagata.ocn.ne.jp
以上です。
転載はご自由に。
ようやく書けた。
融合惑星に出向する少し前の話です。
戦闘シーンが書けないんですっ飛ばしました。
最終更新:2020年08月22日 09:56