91: 弥次郎 :2021/05/17(月) 22:40:43 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「鉄の華が咲いた日」5(改訂版)
- P.D.世界 火星 クリュセ自治区 CGS拠点 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」 応接室
退出していくCGS三番組改めPMC「鉄華団」の団長となったオルガ、参謀のビスケットらを見送る。彼らの姿は、どこか頼もしい。
その姿を見送り、セントエルモス首脳部を構成するクロード、ブラフマン、主任渉外官のエリック・ローらは安堵を息を吐きだした。
彼らが何ら負い目なく、大人を頼る選択をとり、同時に自分達を子供だと下卑し過ぎない行動を選べたことに安堵をしたのだ。
彼らはCGS三番組を、鉄華団を追い詰めるために来たわけではない。彼らは本来ならば庇護を受ける立場にある筈で、しかしそれが出来なかった環境の子供たちだ。
互いが不幸な行き違いを起こすことなく今後の関係を作る第一歩は無事に完了した。
無論、まだ一歩踏み出したに過ぎない。ここから先は歩みを重ねていくしかない。
だが、その一歩は途轍もなく尊いものだった。
「とりあえずは一歩だな、クロード総指揮官?」
「まだ一歩……彼らの境遇は同情されるべきだが、過度な同情は彼らをより警戒させる。追加人員にはカウンセラーを頼むべきだな」
自分に言い聞かせるようにクロードは呟く。
彼らを社会に送り出せるだけの人間にしてやるのは、今後10年はかかる話になる。自分達はそのとっかかりを作る必要があるのだ。
彼らを人間として認めつつ、しかし、同時に大人と子供という立場の違いや重さ、責任というものを学んでもらわねば。
そして、彼らに大人に頼るということを理解してもらわねばならない。彼らがこれ以上無理を重ねなくてもいいように取り計らうことも仕事になる。
それ故に、今後のことは大きく当初の予定からの修正が必要だった。
「いきなり出発とはいかないな…まさかここまで状況が複雑化しているとは思わなかったのだし…」
「彼らに施されている阿頼耶識の施術を切り替えることも必要ですしな……どれほどかかるやら」
「戦闘指揮官としては、彼らを前線に送るのは反対だ」
「わかっているさ、ブラフマン…ひとまず彼らの教育と乗機の準備もある。一カ月はカラールの支社に缶詰になってもらう」
既にクロードは手にしたタブレットで予定表の作成を始めていた。当初の予定表を改定するよりも、もはや新規作成に近い有様だ。
鉄華団がPMCとなったことによる、彼らへの専門教育と機動兵器の運用と操縦、さらに一般教養なども教える必要がある。
それを、クーデリアを地球へと送り届けるのとあわせて行う必要があるときたものだ。
「ブラフマンたちや機動兵器のパイロット達には教育係も担当してもらおう。支社でも人材が余っているわけではないしな」
「了解した」
「さて次は…」
「ああ、バーンスタイン嬢。我らが雇い主様との交渉だな」
ある意味本命との交渉になる。そのようにクロードは直感している。
92: 弥次郎 :2021/05/17(月) 22:41:44 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
次に、クーデリアが応接室に通された。
アルゼブラ、そしてその派遣部隊であるセントエルモスの雇用主となる彼女には、今回の護衛についての話をしっかりとしておかねばならなかった。
元々クーデリアがCGSに対して出していた依頼は事実上、鉄華団へと引き継がれることになった。
しかし、鉄華団は少年兵ばかりで構成されていて、とてもではないが道中の足手まといになりかねない可能性が極めて高かった。
よって、戦力化のために教育や教導なども行いながらの仕事になることになった。
また、護衛の戦力が大きく増えたことでクーデリアに求める報酬なども増え、契約関係もより複雑化を強いられることになった。
そのため、当初の計画から大きく方向転換することになった旨を伝え、了承を得る必要があったのだ。
クーデリアはアルゼブラへ、セントエルモスが護衛を務めることに異論はなかった。
だが、問題視したのは鉄華団の方であった。もっと具体的に言えば、鉄華団の少年兵たちのことだ。
「彼らを戦場から遠ざけてやることはできないのでしょうか?」
「とてもではありませんが、勧められませんね彼らの意思も尊重しなくてはなりません。彼らを一人の人間として、尊厳ある生命として。
彼らをいきなり一般社会に戻したところで、適応できず、逆にストレスとなり、最悪道を踏み外すことになります」
「……そんな」
「善意が必ずしも救いとなるとは限らないのです。地獄への道は善意で舗装されている、とも言いますから」
クーデリアの言いたいこともわかる。だが、彼らをただ善意で救おうなどと考えるのは必ずしも最適解ではないのだ。
事実として、善意さえも拒否するのが孤児やストリートチルドレンなのだ。愛情を注がれない生活故に、他者を信じるということさえできなくなっているのだ。
傷つけられたがゆえに、アプローチさえも攻撃と受け取ってしまうという、悲しい負のループ。
「彼らのことは、我々に任せていただけませんか?
これでも専門スタッフもおりますので、悪いようには致しませんので」
「……わかりました。今の私に、彼らにしてやれることは少ないのでしょうし」
それで、とクロードは確認をとる。
「聞いたところによれば、アーブラウの蒔苗東護ノ介氏を頼る手筈となっているそうですね?」
「はい。ハーフメタル資源の規制解放に賛同していただけるとのことですので、それを足掛かりにしていこうと考えています」
「左様ですか……一つご忠告申し上げておきます。
彼らのような少年兵、クーデリア嬢が変えたいとおっしゃられた現状は、少なからずアーブラウを含む経済圏がその元凶として形成されています」
「え……?」
思わず言葉を失うクーデリアに、クロードは事実を突きつける。
「経済圏の搾取が原因というのはご存じの通りでしょう。
今は火星独立に前向きなアーブラウの蒔苗代表がおりますが……果たしてほかの経済圏が同じように考えるかは疑問視しています」
「それは……」
「無論、最初の一歩としては順当なモノでしょう。ですが、我々としては経済圏の善意をあまり期待はしていないのです」
「……それはどういった経緯からでしょう?」
聞きたいことは山ほどあった。だが、クロードがそういうからには何らかの理由があるはず。
信用や期待をしないとは、それ相応のことがあってのことに違いない。ただ火星を搾取しているから、という単純な理由ではないと考えていた。
はたして、クーデリアの推測は正しかった。クロードはその背景を語りだしたのだ。
「我々アルゼブラをはじめとした企業連が傘下に納まる国家による連合組織、通称を地球連合。
正式名を『地球圏を中心とする近隣星域及び多次元連邦を盟主とする多種族銀河統一連合』は、この宇宙に転移してきたこの惑星系との接触を果たしました。
そして、コンタクトをとり、コミュニケーションをとり、互いの関係を定めるための条約を四大経済圏との間に結びました」
内容はこちらです、とタブレットにその条約の条文が並んで表示されていく。
「内容としてはヒューマンデブリ廃止や火星の自治権問題の解決、経済的搾取の体制の漸進的な対処、あるいは非合法の宇宙海賊の取り締まりなどを求めるもの。
このエドモントン条約というのは、バーンスタイン嬢が行っている火星の自主独立運動と密接にかかわるものです」
「私に企業連や連合が支援を名乗り出たのは、そういう背景が…」
93: 弥次郎 :2021/05/17(月) 22:42:57 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
なるほど、企業連が、アルゼブラが動いたのは連合の意図も絡んでいた、ということか。
当初はハーフメタル資源について食い込むため、と捉えていたのであるが、それ以上の背景があったのだ。
考えてみれば、星間国家となっている連合がたかだか一惑星の資源にここまでこだわる理由はない。
少なくとも資料を見る限り、連合が固執する理由とはなりえないだろう。企業としては関わるかもしれないが、理由としてはエドモントン条約の方が大きいのだろう。
「条約についてはご存知でしたか?」
「はい、一応は……ただ、具体的な情報についてはあまり」
「……意図的に伏せられていた可能性もありますな。
とまれ、その条約が結ばれ、我々はこの世界の自助努力に期待し、互いに内政干渉を行わないという取り決めを交わしました。
が、その条約締結からすでに10年近くが経過しましたが、現実はあまりにも変化しておりません。
そういった理由から連合や企業連ではあまり経済圏を信用しているとはいいがたいのです。
無論、バーンスタイン嬢の翻意を促すためではありませんが、全面的に信用し過ぎるのは、連合としては如何なものかととらえております」
「なるほど…」
仮に火星の独立の一歩となるハーフメタル資源の規制解放という目的が果たされても、それで終わりではない。
そう言いたいのだとクーデリアは察した。無論クーデリアとて、それはまだ一歩に過ぎないのだと理解はしている。
だが、火星の現状を変えていくという目的を果たすためには、クロードの言う通り経済圏だけを頼りにしていくのはあまりにも危険すぎる可能性が出てきた。
実際、条約を結んでおきながら改善などをせず安穏としてきたのは経済圏だ。自分の活動が同じような扱いを受ける可能性もある。
無論のこと、これまでは経済圏に頼らざるを得ない状況だったので、これまでの選択と行動が間違いだったわけでもない。
だが、今後は状況が変化したことと合わせ、スタンスを変える必要があるかもしれないとクーデリアは考える。
問題は実効性。それを改めて認識する。甘えではなく自ら勝ち取るのだと、クーデリアは改めて思う。
「ともあれ、連合では内政干渉を嫌われておりますので、改善するならば火星の自助努力を重ねた上で、となるのが最適でしょう」
「はい。そこはどうしても避け得ないものと思われます。ただ、連合の御助力がいただけるならば、心強いです」
少なくとも選択肢の幅は必要で、経済圏へのカードがあるならばそれに越したことはない。クーデリアはそう割り切ることにした。
確かに理想を叶えるのは一筋縄ではいかない。ならば、そんな現実と対峙する手段はいくらあっても足りないのだ。
「全ては最初の一歩から。こちらでもヒューマンデブリの社会復帰や海賊狩りなどは進めていますが、我々とて全能でもなければ万能でもない。
時代の流れを大きく変えるのは、この太陽系の人々が自らやっていただかなければ」
「ええ。おかげで、まだまだやるべきことが多くあり、私はまだ無知なのだと、それを知ることができました」
「それは良かったです。まずは初心を貫徹なされることをお祈りしますよ」
その後は処々の予定について話を詰めていき、また、連合が出せる支援などの確認を行った。
鉄華団の教導や準備のために若干の期間を置き、その上でエウクレイデスを中心とした船団を組み、地球への航路を進む。
その気になれば一瞬で到達できるらしいが、鉄華団の教育という問題があることから時間をかけて進むことなどが説明され、クーデリアはそれを了承した。
次なる課題が速くも見えてきた、とクーデリアは感じていた。ただ独立するだけでは意味がないのだ。
今のうちに課題が見えてきたのはありがたいことであるし、企業の助力や先行した取り組みがあるならば、それを模倣することもできる。
だが。まずは地盤を作らなくてはならない。この自分の独立運動が単なる一過性のものではなく、未来の火星圏を大きく変えるものとしていかなくては。
「ああ、そうでした。近いうちに支社にお連れし、連合との会談の場をご用意いたしますので、そこで連合ともお話しいただければと。
火星独立の、さらにその先の先についてお話があるかと思われます」
「独立の、その先の先?」
「恐らくはまだピンと来ないかと思われます。ですが、支社で丁寧にご説明させていただきますので」
「……わかりました」
火星が独立を果たした先の、さらに先。かなり未来のことになるとわかったが、今一イメージがわかない。
どこまで連合は先を考えているというのか。いや、自分が及ばない大きな尺度で物を考え、行動に移しているのだろう。
94: 弥次郎 :2021/05/17(月) 22:44:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
(まだ、私は小さい……)
当初考えていた以上に、情勢を大きく俯瞰することになっている。
そして、自分にどれだけの人々や組織が関わり、思惑を抱えているのかというのを知ることが出来た。
それが昨日の今日で起きているのだから、クーデリアの内側に発生した衝撃は計り知れない。
「では、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますよ」
クーデリアは辞去を伝え、退出する。世界が広がった。自分もそれに合わせて大きくならなくてはならない。
自分という存在が、大きな流れである世界に飲み込まれないうちに。そんな思いを強く抱いていた。
出発までの居室をエウクレイデス艦内に用意する、と提案されたのだが、それを断ってクーデリアはCGSの拠点へと戻った。
もう知ってしまった以上、目を瞑っているわけにはいかない。彼らと、少年兵たちと同じ場所で、同じ視点に立って世界を見つめてみる必要があった。
現在、CGS拠点内には新生したCGSと鉄華団が同居している状態にある。
将来的には鉄華団が新居に構えるために出ていくことになるのだがそれはまだ先の話だ。
とはいえ、その為の準備や地球行きのために動きがあることは確かで、鉄華団のメンバーたちは忙しげに働いていた。
そんな中に、クーデリアは鉄華団の団長となったオルガの姿を認める。タブレットを片手に何か考え事をしている彼に声を変えた。
「団長さん、よろしいですか?」
「おう、バーンスタインさん」
「クーデリアで構いませんよ。もう、私たちは一蓮托生ですから」
「そうだったな……」
クーデリアはもとより、ギャラルホルンと事を構えたCGSや鉄華団はもはや札付きの悪ということだ。味方は増えにくいのに敵は増えるという厄介な状態にある。
クーデリアの護衛を引き受け続けるということは、そういったデメリットと付き合うことに他ならない。
オルガはそれも織り込み済みだったが、クーデリアとしては少々思うところが無いわけではない。
だが、オルガの表情は決して悲観していなかった。
「私は、皆さんを巻き込んでしまいましたね…」
「いいさ。おかげで俺達の状況は変わったんだしな」
もしCGSに仕事が舞い込んでいなければ、一番組にこき使われる生活が続いていただろう。
いつ不条理に使い潰されるかもわからない、そんな日常がずっと続いていたのかもしれない。それが変わったのが、
クーデリアの依頼であり、何の因果かCGSがアルゼブラと業務提携を行ったことだ。あのマルバがやった、唯一まともなことかもしれない。
「そんな、状況が変わっただなんて…」
自分は何もできていない。それは紛れもない事実だった。先ほどクロードから指摘されたように、企業連のように財力や人材をクーデリアは持っていない。
もし彼らのように少年兵や孤児などを救おうとしても、クーデリアの手では到底救いきれないだろう。取りこぼす方が圧倒的に多い。
故に、言葉に詰まってしまう。だが、そんなクーデリアを励ますようにオルガはつづけた。
「謙遜することはねぇ。俺達はおかげで助かった。だから、胸を張ってくれ」
「……はい」
クーデリアは、同情をしそうになった自分を恥じた。同時に、善意だけが必要なのではないとはこのことかとも、納得を感じた。
自分の落ち度だと思っていたが、少なくとも今は彼らはチャンスが巡ってきたと前向きにとらえている。
それに加え、アルゼブラもそんな彼らを悲観のうちに支援しているのではなく、むしろ積極的に支える方向で動いている。
自分という視点にまだ捕らわれていたのが、正直場違いも良いところだ。
「そういえば団長さん」
「ん?」
「鉄華団という名前で再編したそうですが、どういった意味なのですか?」
「鉄の華だ。決して散らない鉄の華。俺達の流した血が固まってできた、命そのもの」
それはどういうことか。それを簡潔にオルガは言った。
「俺達は、生きていくんだ。こんな苦しい場所じゃない、俺達の居場所を目指してな」
「居場所を……」
おう、と照れ臭げにオルガは笑う。自分でつけた名前だが、他人に言われるとこそばゆい。慣れていかないとな、と社長でもあるオルガは思う。
その言葉は、いつか三日月にも言った言葉だ。ここではないどこか、自分たちの本当の居場所へ。それが、オルガのオリジン。
だが、それは少し変わったかもしれない。大人たちが手を引いてくれる、そんな予感がしていたのだから。
「ともあれ、だ。これからよろしく頼むぜ」
「ええ、よろしくお願いします」
まだ未熟な子供たちと、自分の小ささを自覚した乙女。そんな彼らの旅路はいよいよ始まろうとしていた。
95: 弥次郎 :2021/05/17(月) 22:45:10 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
修正をあちこちに。
いい感じに書き直せてすっきりしましたねー…
割と粗があったりなんだりでしたし。
最終更新:2023年06月07日 19:31