231: 弥次郎 :2021/05/20(木) 19:27:26 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「笛吹のオルフェン」(改訂版)
- P.D.世界 火星 衛星軌道上 ギャラルホルン基地「アーレス」
「いいのか、マクギリス?」
「構わんさ、おかげでこちらは自由が効く」
アーレス内部を歩くマクギリス・ファリドとガエリオ・ボードウィンは、自分達を出迎えた後に慌ただしく姿を消したコーラル三佐のことを話していた。
連合からの連絡を受けた後に、あからさまに顔色を悪くして飛び出していったのは記憶に新しい。
地球連合、地球圏を中心とする近隣星域及び多次元連邦を盟主とする多種族銀河統一連合というのは、ここ最近現れた勢力だ。
とは言え、その実態はあまり知られていない。木星以遠、外宇宙から現れた勢力であり、現在は火星圏で活動がみられるといった程度だ。
ギャラルホルンはあくまで治安維持組織であり、外交などは四大経済圏などに任されていたこともあって、情報は乏しい。
それでも、明らかにコーラルが何かその連合に対して治安維持以上の行動を起こしたことは火を見るより明らかであった。
そしてそれは、監査に訪れている自分達に知られたくはないことなのだろう。
確かにそれは気になるところではある。しかし、マクギリス達の仕事はあくまでも火星支部の監査にある。
「コーラルが余計なことをする暇がないなら、こちらは悠々とアーレス内での調査を進められるだろう。
トップに時間稼ぎされることもないだろうし、こちらは権限を盾にできるからな」
「治安維持以上の行為、ね。何をやらかしたんだか…」
「そこを含めて調査するのが、我々の仕事になるだろうな」
到着早々に忙しくなる、とマクギリスは呟いた。
また、コーラルの件とは別に気になることも存在していた。火星の地表を見下ろす窓に近寄り、船から見ていたそれを改めて見つめる。
全く驚愕すべきことだった。少なくともマクギリスの知識とはかけ離れたものが、目の前に広がっている。
「それに、私は火星に近づいた時点で気になっていた……あれをな」
「あれ?ん……?んな!」
窓越しに指さした先、火星の一部を見れば、それは明らかだ。
火星といえばどちらかといえば自然が乏しい惑星だ。かつて、テラフォーミングが行われ人間が生活できるようになったのが火星という惑星。
同時にそれは「地球レベルの生活ができる」というレベルでしかなかった。
だから、砂漠や荒涼とした大地が広く広がり、生活圏というのは案外限定されているというのが常識であった。
だが、目の前の光景は果たしてなんだろうか。ガエリオは信じられない、と目を見開くしかない。
「まるで、地球を切り取って張り付けたようになっているだろう?
だが、テラフォーミング技術は厄祭戦のころに失われてしまったロストテクノロジーの一つだ。
だというのに、あの一角だけが、まるで違う惑星だ。緑があり、水があり、大気が明らかに違う」
「それをやった組織がいる……その、地球連合とかいう組織のやったことか?」
「かもしれない。正直なところ、火星は僻地であり圏外圏で情報が地球にはあまり来ていないので確証はない。
だが、良い機会だ、このことについても調査する必要がありそうだ」
これだけの事態が動いていながら、経済圏や火星支部からは何の連絡も報告もなかった。
口止めされていたのか、それとも実情をろくに把握していなかったのか、連合の情報統制のせいなのか。
マクギリスとしては、明らかに現地の怠慢だろうと踏んでいる。コーラルの態度や動きを見れば火を見るよりも明らかだ。
確証こそないが、絡んでいるのは間違いない。
「泳がせるにしても、コーラルがなにをやらかすか分からんぞ?」
「監視の目もあればコーラルも動けはしないだろう。ここから抜け出させはしない」
さあ、取り掛かるぞ、と早速動き出す。
今回の監査、普通に終わらないという確かな予感があった。
232: 弥次郎 :2021/05/20(木) 19:28:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
結果だけを言うならば、コーラルは黒だった。
黒というよりも真っ黒。自治区の議員や有力者、海賊、富豪らとの癒着が発見されたのだ。
あるだろうという確信があったからこそ、書類上はうまくごまかされていた部分を見抜くことが出来ていた。
発見されただけでも、違法な献金、贈賄、犯罪行為の黙認、対立者をいわれのない罪で逮捕するに始まり、恫喝や強迫にまで絡んでいた。
更には火星支部の維持や管理に関わる事業においてはかなりの談合があり、特定の会社や団体にのみ受注が行われるように取引が行われていた。
まかり間違っても治安維持組織であるギャラルホルンが行ってよい行為ではない。
また、連合の監察軍や企業連が言っていたアルゼブラの提携先であるCGSへの攻撃についても証拠がしっかりと残っていて、二人の前に表示されていた。
「コーラルめ……これ以上のことをやっているな」
確信を込めたマクギリスの独り言に、ガエリオは呆れたため息をつくしかない。
「MS一個小隊にMW一個中隊、さらに陸戦隊……これらが丸ごと未帰還とは。よくもまあごまかせると思ったものだな」
「監査に来た我々にまともに知られたら、一巻の終わりだからな。ごまかしきれないとわかった時点で逃げ出すしかないのだろう。
まして、我々の目の前で問い合わせを受けて、我々に聞かれてしまったのだからな」
想定が甘かった。そうマクギリスは反省するしかない。よもやそこまで腐っているとは思いもよらなかった。
一応治安維持組織であるとはいえ、軍事的な面も絡むギャラルホルンで脱走というのは重罪だ。それこそ、降格程度で済む話ではない。
しかし、とガエリオは疑問を呈する。
「しかしだ。CGSという組織は元々MWくらいしか有していない民間軍事企業だという情報がある。なぜMSを含めた戦力が未帰還になった?」
「そこにアルゼブラが、そして、地球連合や企業連が絡んでいるのだろうな」
「その戦力についての情報は?」
「ない。アルゼブラは独自にカラール自治区の治安維持や宇宙での海賊討伐を行っていて、火星支部には犯罪者の引き渡しと報告だけを行っていたようだ。
これについては、カラール自治区の支部長であるユーリ・バトン一尉から報告が上がっている」
「コーラルはこれを握りつぶしていた、か」
余計なことを、とガエリオは吐き捨てた。
「これだけの戦力を抱えていたのを調べようともしないとは、怠慢だな」
「ギャラルホルンに対して保有している戦力を一々届け出る必要は何処にも存在しないのだからな。
だが、MSを保有する海賊を壊滅させているなら、ましてギャラルホルンの部隊を退けられるならば、同等以上の戦力を組織的に運用しているのだろうな」
「そんなに手強いのか?」
「間違いない」
そもそも捕縛するというのは楽ではない。相手を無力化するのは技量が必要で、相手を上回っている状態でうまく手加減してやる必要がある。
ただMSを持っているだけでなく、訓練を重ね、組織的に運用するだけのバックがあるということに他ならない。
そこには武力だけでなく、経済力や指揮能力なども関わって来る。それらを揃えて運用できるだけの組織力があるということだ。
「失礼します、ファリド特務三佐」
そんな仕事部屋に入ってきたのは、マクギリスの部下の一人。険しい顔のまま近づいた彼は何事かマクギリスに囁く。
「どうした?」
ガエリオの問いに応えず、しばらく考え込んだマクギリスは、やがて口を開いた。
「コーラルが消息を絶った」
「なんだと!?」
「うまくこのアーレスから逃げられた……こういうことは予測済みだったということだろう」
激高するガエリオに対し、マクギリスは努めて冷静に思考を進める。
「すぐに宇宙港の監視を強めるように指示は出す。第一、火星と地球を結ぶ航路の警備は厳しい。正規ルートを使う船で密航などリスクが高すぎる。
となればおそらくは非正規のルートで向かうことだろう。だが、そんな伝手や能力のある相手と接触できるのはここではない」
「地上、だな」
「ああ」
二人の視線は、一角が再びテラフォーミングされ、地球のようになりつつある火星へと向けられた。
どうせ、地上の情勢を確認するのも仕事だった。雑多な業務は部下たちに任せ、火星に降りて調査と捜査をする必要がある。
233: 弥次郎 :2021/05/20(木) 19:29:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
翌日、ガエリオとマクギリスの二人は信用のおける部下たちに仕事を任せ、火星地表へと降り立った。
地上に降りれば、宇宙や地球では手に入らない情報も手に入る。ことさらに、火星の一角をテラフォーミングした組織や場所については。
「カラール自治区、か」
「クリュセとは違う、名ばかりの自治区……経済圏の一つであるSAUのお墨付きとは言え、半ば管理できなくて捨てられた土地だな」
「火星支部の資料では、アルゼブラが現地入りするまで少々荒れていたようだな。
だが、アルゼブラが支社を設置し、経済を掌握し、治安維持を行い始めてからすべてが変わった。
アルゼブラについて調べるならば、ここ以外に適する場所はないだろう」
「そして、CGSがあるのはクリュセと……どうする?」
カラール自治区とクリュセ自治区。調査をするにしてもどちらも手が抜けない。
カラール自治区の調査はほぼ決定だった。正確にはアルゼブラの調査といってもいい。
圏外圏で地球に情報が入ってこない以上、今回の調査で可能な限りの情報を集めなくてはならない。場合によっては、企業と接触を持つこともできるかもしれない。
一方でクリュセも重要だ。ギャラルホルンの火星地上基地でも大きな基地があるのがここである。
ということは、脱走したここにコーラルが潜伏している可能性もあるし、実際に戦闘があったCGSで何があったのかを調べられる。
「二手に分かれよう。私はカラール自治区に向かう。ガエリオはクリュセで調査を頼む。
間違いなく警戒されているだろう、ギャラルホルンだと名乗るなよ?」
「それくらいは分かっている」
そんなことを言い合う二人の格好はギャラルホルンの制服ではなく、あくまでも一般人の服装だった。
ギャラルホルンに襲撃を受けた立場にあるアルゼブラを下手に刺激し過ぎるのは良くない。最悪、警戒されてしまい調査が儘ならなくなる可能性もあった。
だからこそ、護衛もいない単独行動で正体を隠しての覆面調査だ。
だが、正直マクギリスは直情的で典型的なギャラルホルンの特権階級の思考のガエリオを心配していた。
腹芸をこなせるだけの余裕や思慮深さという点において、些か不安がある。ただでさえ特権階級のセブンスターズの生まれなのだ、
些細なことで差別的な発言をして、売り言葉に買い言葉の言い争いとなり、地位を引っ張り出しかねない。
「では、まかせるぞ」
「ああ、互いに気を付けるとしよう」
だから、企業のおひざ元に自分が向かうと決めた。少なくとも火星地上部でギャラルホルンの名前をだしても、問題が無いのがクリュセだ。
ただ、クリュセには独立運動家が集まっているので、それとかちあうリスクも少なからずあったのだが、しょうがない。
ひとまずは仕事を果たそう。そう思い、マクギリスはガエリオと別れて、カラール自治区行きの長距離バス乗り場を目指す。
彼はまだ知らない。カラール自治区で、想定をはるかに超える出会いがあり、これまでの常識を打ち壊す事実と直面することを。
笛吹のオルフェンが、これまでの殻を破ることになる、その始まりであった。
234: 弥次郎 :2021/05/20(木) 19:30:40 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
マッキー編の改訂を開始しますねー。
最終更新:2023年06月18日 13:17