754: 弥次郎@仮設回線 :2020/08/23(日) 19:56:20 HOST:softbank126163106038.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS 短編集
Part.1 策謀は機織りの如く
ギャラルホルンによるCGS襲撃とクーデリア・藍那・バーンスタインの捕縛が失敗したことは、それを後押ししたノブリス・ゴルドンの知るところであった。
彼は各業界、それこそギャラルホルンから宇宙海賊、行政府、ひいては地球圏にまで伝手を持つノブリスは、火星独立派を援助する一方で、それを取り締まる側のギャラルホルンや独立派を疎む経済圏に情報をリークするなどして暗躍している。
目的はただ一つ、己の商売である軍需関連事業で利を得るために他ならない。テラ・リベリオニスのアリウム・ギョウジャンなどの活動家も、ほかならぬクーデリアも、ノブリスにとっては単なる駒に過ぎないのである。
特にクーデリアは利用できると踏んでいる。何しろ、カリスマ性があり、ヒロイン性があり、またお飾りではなく実際に動いて回るようなタイプなのだ。
民衆受けするため、悲劇のヒロインとして「使いやすい」ということになる。彼女が不穏な死を迎えるなどすれば、瞬く間にその火種は炎上し、戦争にさえなるだろう。
そして、現在、ノブリスはギャラルホルンの火星支部を預かるコーラルから縋るように助けを求められていた。
彼は今、アーレスから逃走し、地上へと降りた彼はノブリスの手配で身を隠している。だが、何時までも使えない駒をかくまうほど温情のある人間ではない。
自分がかくまっていると知られれば面倒なことになるわけだし、自分とのつながりを吐く可能性もある。
「まったく……不甲斐ない」
それに、とノブリスはクーデリアの近辺においているスパイ、フミタン・アドモスからの報告で、クーデリアがアルゼブラや企業連と手を組んだことを知った。
はっきり言ってしまえば、企業連はノブリスにとっては極めて厄介な、そして邪魔な商売敵であった。
手を汚すこともいとわず利益を求め、紛争や争いを望むノブリスとは対照的に、企業連は安定と発展を望む気質だ。
そして現在彼女はその企業連を構成するアルゼブラのカラール支社にいるという。
「……利用できるか」
ギャラルホルンだけで足りないならば、他の伝手を使って宇宙海賊などを集めてぶつけるのも良いだろう。
コーラルも死んでくれればなおよいし、クーデリアが死ぬのも生き延びるのもどちらでも構わない。
それに、これから集められる戦力はまさに大部隊。いくら企業といえども無事では済まないだろう。
これまでにいくつもの宇宙海賊などを潰してきた企業といえども、無敵ではあるまい。いや、念には念を入れて、火星圏でも指折りの海賊を、「夜明けの地平線団」も投入すべきか。彼らが組織を維持できているのも、ノブリスの援助あっての事。
彼からの依頼であるならば断われはしないだろう。ただ、直接依頼するのは避けなければならない。
「さて、かかるとするか……」
サウナで汗をかいていたノブリスは、重たげに腰を上げ、自らの策謀を形とすべく動き出した。
755: 弥次郎@仮設回線 :2020/08/23(日) 19:56:56 HOST:softbank126163106038.bbtec.net
Part.2 革命の乙女のエチュード
- P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 アルゼブラ カラール支社
クーデリアとその護衛を務めることになる鉄華団は忙しい日を送っていた。
具体的にはカラール支社とCGSの拠点を行ったり来たりしながら、地球行きに向けた準備を重ねていたのだ。
クーデリアは今後の企業との連携を如何に進めるか、またハーフメタル資源の利権問題をどう落着させるかなどの話し合いを重ねていた。
並行して、企業連や連合についての知識やここ数年の動きについて改めて学ぶことになった。そしてクーデリアは知る。
一つの星系に納まる程度でしかない世界と、銀河クラスにまで拡張されている国家や企業が存在する世界との、絶望的なまでの差を。
「うー……」
「ねぇ、大丈夫?」
「うー……」
ラウンジで資料の山を前に机に突っ伏すクーデリアを三日月は呼ぶ。しかし、返ってくるのは唸り声ばかりだ。
三日月はまだ読み書きが出来ない。だから、様々な文字や図、グラフが並ぶ資料の意味するところは理解できない。
だが、クーデリアの反応でそれがとても難しいものだということくらいは分かった。それが悩みの種だということも。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
フミタンも唸り声を上げるしかないクーデリアを気遣ってお茶を持ってきたが、それにこたえる余裕などなかった。
しょうがない、とフミタンは机の上にそっとティーカップ一式を置いて、何時でも飲めるようにしておく。
「……ここにお出ししておきますね」
「…………うん」
深く追求してこない(三日月の場合は追及できない)侍女の気遣いを、クーデリアはありがたく受け取った。
今日もまた、SAN値直葬モノの情報の嵐だった。連合や企業連のたどった歴史や背景などを学んだのだが、相変わらず。
火星に展開している戦力など、彼らの国力や規模などから見ればほんのつま先どころか、髪の毛の先程でしかないのだ。
敵が強大というのは厄介なことであるが、味方が協力過ぎるのも考え物。これでは別に経済圏など考慮せず、火星が連合に加盟してしまえばそれで終わってしまうのだ。
ギャラルホルン?海賊?テイワズ?スポンサーのノブリス?そんな有象無象、はなから問題にすらならない。ともすれば、自分がやっている独立運動の意味自体が消失しかねないレベルなのだ。
「……」
何とか身を起こし、紅茶でのどを潤す。正直叫び出したいところであるが、我慢するしかない。
だが、分かったこともある。連合に頼れば一発であろうが、それでは意味がないだろう、ということだ。
火星圏の実情は厳しいのは知識としては知っている。だが、少年兵や貧困、あるいは経済的に搾取される状況が如何に人々を苦しめているのか、それを理解していなかった。理解しないままに独立を果たしたところで、問題が噴出しておじゃんになっていた可能性は否定できない。
また、この問題は火星が自ら解決すべきことなのだ。甘えだけで乗り切っては長続きはしないし、有難味を理解できない。
756: 弥次郎@仮設回線 :2020/08/23(日) 19:57:32 HOST:softbank126163106038.bbtec.net
(とにかく、このチャンスはつかんで離さないようにしなくては……絶対に)
交渉の窓口が開かれていて、自分がそれにコンタクトをとることが出来たのは途轍もない幸運だ。
連合がこちらに歩調を合わせてくれていることも、大きなプラスだ。今後10年20年と時間をかけ、独立を確固たるものとするのに、自分の後の代にまでこれを引き継いで進めていくことが必須になる。長期的なプランも練らなくてはならないし、根回しも必要だ。
頼りきりも良くはないが、同時に手を突き放してしまっては次善の策が必要になった時困ることになる。
ため息を一つついて、改めて資料と対峙する。ここで止まるわけにはいかない。
「ねえ、そんなにやって大変じゃないの?」
「えっ?」
不意を突いた三日月の問いかけは、シンプルだった。CGSにいた時から思っていたが、三日月の言葉は短いが、それでも常に本質を突いて来た。
クーデリアはその問いにはっとする。大変じゃないか、と気遣われたのはいつ以来だろうか。支持者や支援者は称賛や励ましばかりで、心配する言葉を聞いたのは久しくなかった。家族も、父や母は自分を半ば遠ざけていたし、フミタンは侍女という立場で距離がある。
そんな距離感を一気に飛び越えて、三日月はクーデリアの心情を聞いて来た。だから、若干戸惑ってしまった。
「そうですね……問題だらけです、正直大変ですね」
「そうなんだ」
「でも……」
でも、といったん言葉を区切り、自分の中に言葉を探す。
「だからこそ、やらなくてはならないと、そう思います」
「そう」
そうだ。投げ出そうと思えば投げ出せることだ。誰かに渡してしまえば、それで自分の荷は下りる。
けれども、CGSを通じて火星の実情を知り、連合を通じて世界の広さを知ったことで、もはや後に引くことなどできない。
目を瞑り、聞いていないふりをするなどできはしない。そんなことをしたら、クーデリアは自分を赦せなくなるだろう。
「三日月は、どうなんですか?」
「別に。オルガに頼まれているし」
そんな迷いのない返答を、少し羨ましいとさえ思ってしまった。覚悟が決まっているのだ。迷い、悩んでいる自分とは違う。
学が無い少年兵だから悩むことができないということかもしれないが、それでも羨ましさは覚えてしまう。頭であれこれ考えるより、自分の決めたことを貫いていける姿は正直なところまぶしい。
(ああ、そういうことなんですね……)
セントエルモスのクロード総指揮官に言われたことが思い返される。火星独立を考えるならば、火星を知ることが必要なのだ、と。
知ったことすべてが自分の糧になるのだと、そういわれた。まだ知らないことが多い、だから、知りに行く。一分が、一秒が惜しいほどに。
ならば、今できることを全力で取り組まなくては。そうして、クーデリアは再び資料に向かい合い始めた。
革命の乙女は夢を見る。曖昧なものではなく、確固たるヴィジョンを持つ、形あるものとして。
757: 弥次郎@仮設回線 :2020/08/23(日) 19:58:16 HOST:softbank126163106038.bbtec.net
Part.3 凪の中で
ガエリオ・ボードウィンのクリュセでの調査の結果は、想定以上に火星支部が腐敗していることを如実に語るものであった。
コーラルの元をクーデリア・藍那・バーンスタインの父ノーマン・バーンスタインが訪れていたこと、コーラルが何者からか献金を受けていたこと、さらにはそのクーデリアがCGSに依頼をだして護衛を引き受けるよう頼んでいたことなどが判明した。
これを知ったのはマクギリスからの助言もあってのことだったが、少なくとも、自分達の監査をくぐり抜けるためもあって動いたのは事実だったようだ。
また、市井に紛れ込んで情報収集を行ったところ、ギャラルホルンの実働部隊は治安維持に力を入れておらず、もっぱら都市は有力者によって仕切られていることなどが発覚した。その有力者は一体だれと繋がっていたのか、それはコーラルだ。
つまり、コーラルは献金を受けて治安維持活動を行う組織としての役目を放棄していたというわけだ。
そして、一旦地上支部の一つにとんぼ返りして今度は火星各地の基地の状況について調べたところ、さらにとんでもないことが分かった。
昨日の調査で確認された戦力の未帰還という問題の他にも、コーラルの指示で行方をくらませた部隊が多数いたのだ。
それも、MSとMWを含む無視しえない部隊が、である。時間などを聞きだしたところ、それはちょうどコーラルが脱走してから現地に到着するほどの時間が経過した後。
それが一カ所だけに住むならばともかく、回線を借りて各地の基地と連絡を取って確認をしたところ、どうやら複数の基地から戦力の招集が行われている。
しかも巧妙なことに、個別に招集が行われ、怪しまれないようにしている上に、特定の個人を相手に別個で指示が出ている。
コーラルの子飼いだ、とガエリオは直感する。コーラルの権限は、癪なことに火星表層と周辺宙域のギャラルホルンに及んでいる。
だが、一度にそんな大戦力を集めれば怪しまれるだろう。よほどの規模の勢力でなければギャラルホルンと戦争などできはしないのだから。
だから、個別に不審がられないように別個に集めてしまう。そして、裏の事情を言うことを聞く手駒に伝えて後押しさせる。
昨日調べた限りでは火星の地上支部もだいぶ汚職に関与している。清廉潔白な行動を求めるだけ無駄ということか。
「というのがこちらの状況だ」
『そうか……やはりコーラルは、クーデリア・藍那・バーンスタインを』
「知っていたのか?」
『私も調べたのさ、昨日のうちにな。夜通しかかったが、確証に至るのに十分すぎた』
「相変わらずだな…」
LCSで事の次第を報告すると、マクギリスの方も大体同じ結論に至っていたようだった。しかも、昨日のうちに。
突貫で汚職の洗い出しを行った後に、どうやらさらにマクギリスは独自に調べていたらしい。真面目にしてもほどがあろうというもの。
758: 弥次郎@仮設回線 :2020/08/23(日) 19:59:03 HOST:softbank126163106038.bbtec.net
『これは地球を発つときに調べたことだが、彼女はアーブラウ政府と独自に交渉を行っていた』
「圏外圏の人間が経済圏と?」
『ああ、おそらく本気なのだろうな。だが、それは目障りに映ることになる』
「まさか、コーラルは彼女を?」
肯定が返ってきた。そうすると、コーラルの一連の行動にも共通項や目的が見えてくる。
『ノアキスの七月会議をまとめ上げた彼女の身柄を捕らえれば、統制局からの覚えもめでたくなるだろう。
我々の監査も、これまでの汚職も何もかもを帳消しにして有り余るほどのな』
「そして、その汚職が俺達に知られた以上、一刻も早くコーラルは彼女の身柄を抑えなくてはならない、か」
呆れた話だ、とガエリオはため息をついた。
「そして地上支部の戦力があちこちから引き抜かれているのも……」
『おそらく彼女の身柄を抑えるためだな。MSを含む一個中隊が未帰還になるほどの戦力を有している相手だからこそ、万全の態勢で動かせるだけの戦力を動かしたのだろう。そして、我々の監査で先んじて動かせなくなることを未然に防いだというわけだ』
「……無駄に有能だな。結果はお粗末そのものだが」
だが、これまで汚職などを重ねておきながら地位を保持していられたのは間違いなくその能力故だ。
安穏とした状況を守ろうという本能だけは評価できるだろう。もっとましなことに使えと思うのだが。
「問題はコーラルが何処に向かうかだ。手駒を集めたところで、何をする気だ?クーデリアの居場所もわかっていないだろうに」
『そこについてはまだ不明だ。だが、何らかの情報を得て行動しているのは間違いないだろう。
クーデリアとて敵がいないわけではない。そこから情報を得ている可能性が高い』
「勤勉な監査官殿にもわからないことはあるのか」
おどけて言うが、画面の向こうのマクギリスは少し口角を挙げるだけで受け流してしまう。
「まあ、そう真面目に受け取るな。で?そっちの方はどうなんだ?」
『ああ、こちらは無事にカラール自治区についた。一言で言うならば……』
暫く目を閉じて余韻に浸ったマクギリスは、今度こそ笑みを浮かべて言った。
『まるで別世界だな』
その笑みは、新しいおもちゃを与えられた子供のように純粋無垢であった。
759: 弥次郎@仮設回線 :2020/08/23(日) 19:59:59 HOST:softbank126163106038.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっとあちこちの動きをまとめてお送りしました。
マッキー編はまだしばらくお待ちを。
カラール自治区での動きから書いていこうかと思います。
最終更新:2023年06月18日 13:18