420: 弥次郎 :2021/05/21(金) 23:56:21 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「笛吹のオルフェン」3(改訂版)
一体いくつの驚きを経ればいいのだろうか。そんなふうにマクギリスは嘆息するしかない。
カラール自治区の外延部を警戒する幾多の兵器が動き回っているのがまずは衝撃だった。
それは明らかに人の制御するものであり、しかし、人が直接動かしているものではなかった。
それを知ったのはカラール自治区の中に入ってからであったが、かつて厄祭戦以前に使われていたという無人機であったのだ。
まさしくロストテクノロジーそのものだ。それが、明らかに警ら活動を行っていた。嘗て人の制御を超えて暴れたそれを、完全に使いこなしている。
そうだと理解できる人間は少ないだろうが、マクギリスはその理解できる人間だった。
さらに驚いたのは地上戦艦と呼ぶべき巨大な鉄塊が地面をゴリゴリと削りながらも、とてつもないサイズの腕で作業を行っていた光景だ。
重機というものは見たことはあるし、作業用のMSというのも見たことはある。あるいは、大型の作業用機械も。
だが、それはマクギリスの既知をはるかに超えている。というか、最初はその光景を理解できなかった。
スケールが違うものを見せつけられて、柄にもなく思考停止に陥ってしまった自覚もある。
衝撃というのは続いた。大きな足の生えた建造物「タワー」が一定間隔で林立しているのであるが、それがスケールが違いすぎた。
文字通りスケールが違う。デカすぎて遠近感覚を失ってしまった。目測でも500m以上はあるだろう。いや、もっとか。
さらに高さ以外にも幅も圧倒的に大きい。明らかに大きな、マクギリスが見てきたモノでもトップに大きなものであった。
それこそ、ギャラルホルンの本部であるヴィーンゴールヴ内部でも早々に見ないスケールの物体ではないだろうかと思う。
そして、それはただ大きいだけなどではない。高度なテクノロジーの塊なのだという。
さらに、上空を、それこそ遠い太陽ほどの高度を見上げれば「ステーション」が見えてくるし、その「ステーション」は光を放っていた。
そのいずれにもアルゼブラのマークがあるということは、彼らの手で用意され、このカラール自治区の郊外の開発を行っているということか。
もう、驚き疲れたし、未知なるものであふれかえりすぎていて、夢中になってしまった。興奮しすぎで頭の中で考えがまとまらない。
「疲れたな……」
あらかじめ購入しておいたボトルから飲み物を喉に流し込みつつ、マクギリスは呟いた。
カメラで撮影は可能な限りしたので、後で解析に回す必要があるだろう。
今の自分は地球からクリュセに赴任してきたビジネスマンで、尚且つカラール自治区には観光で向かうという体だ。
カメラで撮影しても特に怪しまれもしない。ただ、そのカメラの性能限界で不鮮明なところも多い。
まったく、監査に来ただけなのになぜこのような諜報員のような活動をしなければならないのか。本来ならば、火星支部が行うべき諜報活動だろうに。
こうしてオープンになっている情報をかき集め、精査し、背景までを推測し、報告するというのも立派な諜報活動。
そこまで難しいものというわけではない。にもかかわらず、これまで行ってはいても報告がまともに受理された形跡は先日調べた限りではなかった。
(腐敗著しいな…まあ、直接見れたのだから幸運ととらえるべきか)
それに、自分という地位とバックがあればたとえ眼前の荒唐無稽な光景を報告したとしても疑われにくい。
自分はセブンスターズを構成するファリド家の跡取りなのだ、疑って無視しようものならば最悪物理で首が飛ぶ。
まあ、そうでもしなければなっとくと理解を得られるような光景ではないのだ。非現実的かつ、夢のような光景。
あるいは、厄祭戦の前の、嘗て繁栄を極めた世界の光景がこうであったのかもしれない。300年以上前の世界。
厄祭戦で総人口の25%近くが失われる前の、今よりも高い水準の世界。どんな世界なのだったのかと、しばし思いをはせた。
421: 弥次郎 :2021/05/21(金) 23:56:52 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
それに、カラール自治区の最外延部を超えたあたりから、明らかに変わった。何が、と言われれば空気がだ。
見えない膜があるかのように、一定ラインを超えたところから環境が激変した。火星らしい乾燥した大地が、湿潤な気候へとかちりと切り替わったのだ。
確かなものはないのだが、恐らく、パンフレットで紹介されていた環境構築フィールドの内に入ったということか。
(そして……)
遠方、門のようなものが見える。
他の都市とカラール自治区は概ね道路によって結ばれている。だが、アルゼブラは特定のルート以外を基本的に封鎖した。
アルゼブラの用意した観光案内のパンフレット曰く、テラフォーミング及び開拓技術は機密が多く含まれている。
さらには環境維持や改変のための機構が詰め込まれているのだという。それ故に、物理的損傷が致命的なものになりかねない。
よって、許可されたもの以外をオートで排除する仕組みとなっている。その境界線が、サイレントラインなのだという。
絶対に超えてはならない領域を示すライン。沈黙が強制されるライン。なるほど、うまく表現したものだ。
実際、武装集団が警告を無視してタワーへ接近した際には、あっという間に排除されてしまったし、その様子も公表されている。
が、火星支部上層部はこれを合成などと決めつけて、まともに取り合わなかった。
(はぁ……)
何が合成だ、とそのデータを火星支部でサルベージした時には吐き捨てたものだ。アルゼブラの有する圧倒的な戦力がそこにあったというのに。
つまり警告などは散々送ってきたし証拠も提示していた。だが、それを信じず、一笑に付した。間抜けも良いところだ。
話を戻す。ともあれ、そのサイレントラインは、しかして隙間が存在している。カラール自治区を外とつなぐライン。
それが現在、マクギリスが乗るバスを始め、交通機関が通行を許可されている道だ。
「アリアドネ、と呼んでいるのだったか…」
その女神の糸を手放せば、迷宮(ラビュリントス)で永遠の迷子となる。
ああ、地球と火星を結ぶラインもアリアドネで結ばれていたか。何という皮肉だろうか。
そして、その糸を頼る手は今マクギリスの乗っているバスに沢山いる。カラール自治区というこの火星でも有力な庇護が受けられる地へと向かう。
火星の現実を切り取ったのがこの光景だ。思わず、マクギリスは車内を写真に収めていた。世界の縮図が、そこにあるような気がしたのだ。
422: 弥次郎 :2021/05/21(金) 23:58:39 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 自治区内直通38番ゲート エントランスエリア
マクギリスは、絶大な権力を見た。
火星のような環境において、最も分かりやすく力を見せつけるものとは何か?
豪奢な家屋?広い土地?過去から受け継がれる美術品?圧倒する武力?確かにどれも力を象徴するものだ。
だが、否である。余計な理屈やら事情を抜きに、もっと単純かつ、分かりやすいものこそが一番強力に、鮮烈に印象付けるモノなのだ。
この、荒涼として乾燥しきった大地において最も権力と密接にかかわり、時には争いの種ともなるモノ。このエントランスエリアで客人を出迎え、圧倒する役割を与えられたモノ。
「水……」
正確には、巨大な噴水だった。
潤沢な水をこれでもかと使う、巨大な噴水。マクギリスが乗るバスもいくつもたやすく納めそうなほど広いそれは圧倒的なばく布を形成し、見る者を圧倒していた。
分かりやすく、見せつけているのだ。権力を、そして、力を。
アルゼブラという企業がこの火星においてどれほどのものであるかを本能的に悟らせるための、とてつもない演出。
巨大な門扉を抜けてすぐにこれである。明らかに狙っているし計算されつくしていると、マクギリスは見抜いた。もうここまで見事だと拍手の一つも送りたくもなる。
なんというかもう、完敗だ。完全にしてやられたという感想しか湧いてこない。
『ご連絡いたします。間もなく当バスはカラール自治区第38番ゲート、エントランスエリアを抜け、西部第42番バスターミナルに到着いたします』
涼やかな声が車内に響き、にわかに慌ただしくなる。
マクギリスもまた、降りる準備を始める。とはいっても、改めて偽装IDを確認し、鞄を肩にかけるだけで準備は整った。
偽りの身分で、偽りの観光で、偽りの仕事をこなす。もしこれが完全なプライベートであったならば、どれほどよかったことか。
既にそう思わせるほどに、このカラール自治区は良い場所なのだと理解できた。アルミリアに何か土産でも購入していくべきだろうかと仕事以外のことを考える余裕も生まれてきた。
「さて、何処から行くかな」
降り立ったカラールの空気を一杯に吸い込み、マクギリスは仕事をこなすべく踏み出す。
この地をここまで変えた企業アルゼブラと連合の力の一端を知るために。
423: 弥次郎 :2021/05/22(土) 00:00:39 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
改訂版も着々と投下してまいりますねー
家事代行してくれて尚且つ甘やかしてくれて世話を焼いてくれて愚痴も聞いてくれる自動人形とか来ないかなぁ…
最終更新:2023年06月18日 13:22