178: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:17:49 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
パリに吹雪いたアヤメとユリ
『世界大戦』が勃発してこの方、フランスは全てに置いて良い所が無かった。事前に国境線近くに兵器を備蓄して開戦時は速やかに徴兵と戦力化を行い、侵攻してくるドイツ軍に戦力を叩き付ける開戦前のフランス軍ドクトリンは、ドイツ軍が『電撃戦』と称される文字通りの雷撃の如き進撃速度に全く対応出来ずに備蓄していた兵器全てをドイツ軍に鹵獲されるばかりか、大して時間稼ぎも出来ずに首都パリすら失陥する醜態を全世界に晒していた。此処で心を折らずに徹底抗戦を選択したのは立派と言えるかも知れない。
だがフランスを、特にフランスを率いていた中層から上層部の多くに対しては、褒められる点はこの一点程度しか無かった。首都パリを失陥した事による指揮系統や権威・威厳の大崩壊と混乱、既存の新鋭兵器を丸々失った事によるフランス軍の戦力価値の激減と動揺、そしてフランスへ援軍に来た日英軍に対して事実上全てを頼るしかない屈辱的な状況。それら全てがフランス人特有の無意味に強固なプライドと最悪の相乗効果を発生させ、援軍に来た日英に対して自国防衛戦と言うお題目の下、政治的のみならず軍事的にもしつこくマウントを取ろうと精力的に暴走を繰り返し、日英側に強い不快感(過少表現)を何度も抱かせると言う、傍目から見て不毛を通り越した喜劇の如き醜態を晒していた。念の為付け加えておくが、極端にやらかしているのはあくまでフランスでも権力者であったり決定権に影響の有る程度の中層以上の面々であって、上からの無茶な命令や愚策に必死に対応して死んでいっている現場のフランス兵は日英軍に対して極めて真っ当かつ友好的だった。時たま、休暇中に酒が入ったら日英軍人とフランス人兵士双方が『鼻っ柱がエジプト級』の連中に対する鬱憤晴らしの暴言大戦が仲良く始まったりする程度には。
色んな意味で末期的である。
そんな日英とフランス間の溝は深まるばかりで埋まる事など無い日常の最中、最早ズタボロを通り越して組織的には残骸状態のフランス空軍の再建の為に日英に対して航空兵の教育をフランスが要求したのが転機であり、分岐点となった。実績も実力も無いのにどう言う訳か意味不明なまでに尊大で声高なフランスの高官連中に心底うんざりしていた日本は相当嫌がったが、どんなに上が『アレ』だろうと少しでも戦える戦力は多い方が良い、今のままでは唯の妨害要員にしかならない、と説得するイギリスに折れてフランス人の教導を受け入れる事になった。本来この説得は教育を依頼するフランス自身がするのが筋なのだろうが、向こうは半ば一方的に要求するだけでまともな対話が通じない事もしばしば有った為に、イギリスが代役的に説得に当たっていた。自国の損害を少しでも減らすと言う目的が有ったとは言え、この戦争に置けるイギリスは最早苦労人以外の何者でもない。
戦争中なのに何故か紅茶プチバブルが発生したのも、この件に対して多分無関係では無いかも知れない。
179: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:19:40 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
そんなお上の胃痛と頭痛の日々はさておき、日本陸軍航空隊が受け入れた30人のフランス人は、揃いも揃って年齢が二十歳にも満たぬ少年少女たちであった。
中には16歳にようやくなったばかりの子供すら居て、事前に『今回錬成を行うフランス人は全員若年層である』と通達しに来たフランス人が何故か苦虫を噛み潰したような顔をしていた理由をようやく知った陸軍航空隊の面々であった。世界的にも『航空隊』と言う存在の歴史は浅い為、航空機が出現して間を置かず建軍されていた日本陸海軍航空隊は兎も角他国の航空隊は大体【若い】のであるが、流石に『こんな子供』が多数来るとは想像だにしていなかった。送り付けたフランス軍の懐事情的に、壮健な男子は皆陸軍に矢鱈めったら送り込んでいるので、【余っている人的資源】がこれしか無かったと言う切実で無様な事情は有りはしたが。
『幾ら何でもこんな子供を戦地に送るのは…』とばかりに騒めく日本航空兵だったが、行き成り徴兵されて大した説明も無く異人種の軍隊に放り込まれて恐怖に震えていたフランス人少年少女たちを、航空隊の創成期から関わり、昇進を拒否し続けて未だに前線に居座る名物少佐がそれなりに流麗なフランス語で優しく語り掛け、少佐の行動に他の日本航空兵も触発されてそれぞれのやり方で交流を図り、日が暮れる頃には何時の間にか人種や文化の壁を乗り越えて相互に友好的な雰囲気を作り出していた。鹿児島と会津出身の芸人気質な航空兵コンビがそこら辺にあったモノをでっち上げて作った小道具と何処で習得したのか不明なパントマイムを披露してその場に居た人間全てを爆笑の渦に叩き込んだ頃には、フランスの少年少女たちも内心抱いていた恐怖は何処ぞに消し飛んでいた。その後気付いた時には消灯時間を遥かに超過しており、全ての責任を庇った少佐が翌日始末書を書く羽目に遭うと言うオチも付いたが。
そんな和やかに終わった初日とは違い、翌日からは真面目にフランス人少年少女たちへの教導も開始された。後世の単葉機やジェット機時代とは違って、航続距離も短く安定性が高い複葉機での教習の為に錬成は比較的スムーズに進められていた。とは言え、単純に『飛ぶ』だけでも教導を初めて僅か三日未満で殆ど独り立ちした者も続出していたので、集められた少年少女たちの航空兵としての素養は日本航空兵が思った以上に高く、色々と複雑な心境では有ったがこのペースで有ればそれほど日数を掛けなくとも最前線に送っても問題無い程度の練度に高められそうだったのは、この時の日本航空兵は『不幸中の幸い』と認識していた。そして『一人でも故郷へ帰れるように』と真剣に彼ら、彼女らと向き合い、自分達の知る戦闘技能を惜しみなく教育して行っていた。戦訓や情報流出等の観点から見ると若干不味い行動でも有るのだが、彼らは気にせず精力的に教育を施していった。誠実で有るがために向こう見ずな部分の有る日本人らしいと言えばそれまでだが、そんな彼らの努力は悪い形で破壊される事になった。
事の発端は、唐突に視察に訪れたフランス軍高官が日本航空兵に教練された若年兵たちの動きを見て、『十分に実戦投入するに値する』と最前線送りを命じて来た事であった。
当然日本陸軍航空隊から見れば、このフランス人若年兵たちは『卵の殻が未だ引っ付いているヒヨコ』レベルでしか無いので最前線送りなど以ての外なのだが、緒戦の惨敗とその後のパリ争奪戦によって血に酔いしれたフランス軍からして見れば『それなりの熟練した航空兵』であった。『取り合えず飛ばせて引き金引ければ合格』と言う完全に末期戦状態の正気じゃ無い練度な航空兵が当たり前になっていたフランス航空隊と、十分に錬成するだけの余力が有り一定以上の練度が有るのが絶対条件な日本航空隊との常識の格差は、信じられない程に大きかった。そうであるが為に、日本側とフランス側の言い分は全くかみ合わず、最終的には『練度未熟な兵士を前線に送り出すのは我が軍の恥になる』とわざわざしまい込んでいた軍刀を携えた少佐が『説得』に当たった事で、この『闖入者』による騒動は一端幕を閉じた。因みにこのフランス軍高官は追い出されたその足で日本軍に抗議に行ったりもしたが、後述する事情によってけんもほろろに追い返されている。
180: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:22:59 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
そんな『事件』が起こってから数日後。比較的後方で錬成に当たっていた日本陸軍航空隊にも出撃命令が下る。内容はパリを制圧して守りを固めていたドイツ軍が、相変わらず無茶な奪還作戦で戦力をすり減らしたフランス軍を追撃しており、それを攻撃すると言うモノであった。フランス軍が勝手に仕込んだ物で無いか一応確認した上で、航空隊はフランス人若年兵たちを基地に残して出撃した。皆口々に『戻ったら課題の復習をするぞ』『大丈夫だ、パパっと落として帰って来るさ』『パインサラダを作って待っているが……いや待て、冗談だから本当に作らんでも良い』等と冗談を言いながら出撃した。そして追撃したドイツ軍を熟練の技量と先進的な機材の差によって危なげなく叩き、消耗した燃料や弾薬を戦場近くの基地にて補給した上で意気揚々と基地へ帰投した。……出迎えるフランス人若年兵が居なくなった自分達の基地に。
後から分かった事であるが、日本陸軍航空隊に襲来した件のフランス軍高官は、自らの『正当なる要請』を一顧だにせず蹴った日本軍に相当の不快感と不信感転じて激しい憎悪を抱いていたようで、偶然にもフランス人若年兵を教導して居た『邪魔者』が出撃して居なくなったのを幸いとして、日本陸軍航空隊の基地に押し込み、フランス人若年兵に直接【呼びかける】事によって強引に彼ら、彼女らを連れ出したのだ。基地の警備兵たちも発砲こそしなかったとはいえ相当抵抗したしフランス人若年兵たちの説得も試みたのだが、当のフランス人若年兵たちがフランス軍高官による『十分な能力が有りながら祖国や家族の危機に立ち向かわずに安全な場所で怠惰を貪るのか』と言う暴言に激しく動揺し、結局抗いきれなかったと言うのが真相だった。日本航空兵によって真剣に教練を施され、その事に深く感謝して居た事が余計に逃げられない足かせにもなってしまった。彼ら・彼女らは、あくまで【二十歳にも満たない少年少女たち】でしか無いのだ。後世のパワハラの如く声高かつ一方的に責め立てられれば、余程我が強くなければ耐えられる子など居る筈が無い。
帰投してから事情を知って能面の様になった少佐が本気で激昂しまくる部下を黙らせると、陸軍航空隊の上層部に事情を報告。始めは冗談かと困惑し、そして絶句し上層部はフランス軍に【強く問いただす】事を約束した上で部隊には暫くの間待機命令を下す。これに関しては後世一部批判的な者も居るのだが、関係が嫌悪に近いとは言え流石に周囲のフランス軍基地を手当たり次第に【強制査察】するのは、難しいを超えて不可能である。現在はフランスとでは無くドイツと戦争中であり、内輪揉めして居る最中に精強を以てなるドイツ軍に付け入られれば、どう考えても大損害は免れない。それに現場の兵士は兎も角上層部との関係が悪化している影響からか、現地フランスの軍や政府から非協力的態度を取られる事もしばしば有り、日本側としては自らに非は無いと自認して居てもこれ以上の関係悪化は出来る限り避けたかった。
そんな日本側の最低限度の【配慮】は、三日後に『パリ奪還作戦で活躍し全滅したフランス人若年兵部隊』の報道が大々的にされた事で木端微塵にぶち壊されたが。
強制的に連れ出されたフランス人若年兵達は、日本陸軍航空隊の虚飾を排除した士気顕揚な質実剛健さとは真逆の虚栄や表面的取り繕いに溢れ、そして低迷している部隊全般の士気に面食らい唖然とするも、改めて『同僚』となった同輩と交流する間もなく十何度目かの『パリ奪還作戦』の援護をする命令が下された。尚、単刀直入で分かり安い命令や指示を下していた日本陸軍航空隊とは別物な、無駄に装飾や言葉を付け足しまくって無駄な時間の演説を、航空兵を直立不動のまま恍惚としながら演説する姿には、若年兵たちも流石に絶望するしか無かった。今まで自分達を育ててくれた『教官』達とは違い、目の前の輩は自分達を『出世する為、生きる為の数字』としか見ていないのだ。割と真面目に『人間』として認識されているかすらも怪しい。それに加えて自分達に与えられたのは旧式のフランス製戦闘機。今まで操って来た日本機は言うに及ばず、敵国のドイツ軍機にも対抗出来るか怪しい性能である。誰一人としてまともに聞いていない演説ではフランスの誇りとエラン・何とかで勝利せよとか言っているが、精神論なんか戦場では何の役にも立たないのは、日本陸軍航空隊の教官たちの教導によって身に染みて分かっていた。若年兵たちは、フランスは自分達に『フランス高官のメンツの為に死ね』と言っていると理解させられたのだった。
181: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:24:23 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
そんなこんなで士気高揚どころか自己満足の演説ですらない何かで疲れた足を動かして、フランス航空隊はまたパリへと飛ばされた。そして単なる離陸するだけのハズが、教官にしっかりと仕込まれた若年兵たちは特に問題無く離陸したのに対して、同輩の中には異様にふわふわとした離陸であったり、二機だけだが離陸に失敗して大破炎上した機体も居た。まともな機上無線なんか無いので若年兵たちはハンドサイン以外で何かしらの会話が出来たとは思えないが、恐らく状況が悲劇的過ぎていっそ笑いだしていたのも居たのかも知れない。教官からは『殻付きのヒヨコ』と可愛がられていた程度の自分達が、周囲の年上よりも遥かに上手く操縦出来ているのである。笑うしか無いだろう。
しかもパリに近付いてドイツ軍と交戦する時すらも、常に周囲を警戒して上空からの奇襲を何とか回避できた若年兵たちと違い、同輩の年上勢は周囲警戒どころでなく、飛ばす事だけでも必死で結果真っ直ぐにしか飛べておらず、簡単にドイツ軍によって刈り取られて行った。その為、大して時間も経たずに戦闘空域には『殻付きヒヨコ』と歴戦のドイツ軍機しか居なくなった。普通に考えれば、戦闘経験の差から『殻付きヒヨコ』はある程度交戦してもドイツ軍に圧し潰されるだけに終わった……ハズだった。
だが、民族性からか熟練兵や精鋭主義染みた部分の有る日本人から『素養がある』と評価されたフランス人若年兵たちは、そのドイツ軍の予想に反して大善戦した。
完全に教官たちの動きを見様見真似でぶっつけ本番な機織り戦術擬きをハンドサインで即席で組み立て、交戦した30機の内9機を失う大損害を受けつつも、ドイツ軍の猛攻を何とか晒し切り、基地へと帰還する事に成功したのである。しかもただ帰還するだけでなく、反撃でドイツ軍を10機撃墜確実、3機撃破と言う戦果を報告していたのだ。後世の損害報告書の突き合わせから、実際には撃墜5機、撃破1機では有ったのだが、練度や実践経験、機材の差を鑑みれば、ビギナーズラックにしても出来すぎな程の戦果である。
実際、報告を受けたフランス軍としても歓喜していた。今までフランス軍は一方的に敗者とさせられていたのが、損害比率としては勝る形の引き分けを得られたのだ。これが嬉しくない筈が無い。数合わせ状態だった連中の存在は完全に忘れ去られているが。だからこそ次に下された命令はフランス軍上層部に取って至極当然の命令であり、命令された若年兵たちは真の絶望へと突き落とされるしか無かった。下された命令は『期限無制限のパリ奪還部隊の援護』。戦死した戦友を葬る事すら許されずに、まともに休む事も出来ずに飛び続ける事を強制させられたのだ。
結果、日本陸軍航空隊の教導を中途半端に受けただけで最前線送りとなったフランス人若年兵たちは、初陣から三日と立たずに総員戦死、若しくは行方不明となった。
初日の様な奇跡や幸運は二日目以降には起こらず、そしてまともに疲労も抜けないまま無理矢理一日中出撃を繰り返された若年兵たちが、ローテーションを組んで休養を取っているドイツ軍に勝てる道理など無く、次々と若い命をパリの空に散らしていった。そして若年兵たちなりの戦意高揚の方策か、さてはこんな無茶苦茶で無謀な作戦を強行するフランスへの遠回しな抗議か、彼ら、彼女らの機体には革命で処刑された旧フランス王家の象徴たるアヤメとユリの花が描かれていた。その特徴的な機体は交戦したドイツ軍にも強い印象を付けており、『レッドバロン』と呼ばれたマンフレート・フォン・リヒトホーフェンもユリの花を描いたフランス軍機を夢中になって追撃していると、密かに背後に回り込んでいたアヤメのフランス軍機に奇襲され、僚機によりアヤメの機体とユリの機体が撃墜されなければあわやパリの空で散っていたかも知れないと振り返っている。因みにフランス軍機について明確に言及されているのはこの『アヤメとユリの機体』だけで有り、その他のフランス軍機に関しては殆ど記録や言葉に残っていない。
後世分裂時代に入ったフランスの一部からは自己顕示か名誉欲かそれとも大義名分でも欲したのか『レッドバロンはフランスを恐れて戦わなかったのだ』と失笑物の主張をする勢力が居たらしいが、実際には弱敵過ぎてどうでも良かったのが真相だろう。
182: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:27:08 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
何の許諾も無く勝手に教練中のフランス人若年兵たちを全員連れ出された挙句、僅か三日で総員戦死か行方不明に追いやった事を、【戦意高揚の宣伝新聞】で知った日本陸軍航空隊。しかもその新聞の記事に書かれていた、若年兵たちの【遺書】は、『戦いの空では無く、平和な空を飛びたい』と儚げに言っていた少女が『戦いの空に死すは本望』と書いたり、『戦後はワイン作りをやって見たい』と語った少年が『例え四肢がもがれ様とドイツを倒す』と書き記した等、自分達の知っている彼ら・彼女らが書いたとは到底思えない文面や内容であった。当然、フランス側からの報告は一切合切無かったので、余りの理不尽さに教練に携わっていた航空兵が皆一様に激昂している中、その怒りの矛先であるフランス軍高官が彼らの基地に当然面してやって来た。出迎えた航空兵がことごとく氷の如く冷たい目線か怒りを無理矢理抑え込んだ憤怒の表情を叩き付けている中、冷え切った雰囲気を何とも思っていない処か何処かしら日本人航空兵達を下に見て更に逆鱗を掻きむしった挙句、能面以下の無表情で応対していた少佐に言い放った言葉が最後の分岐点となり、そして取り返しのつかない最悪の爆弾となった。
高官曰く、『前回の連中は中々に役立った。次は数を優先して揃えてくれ』『あの【遺書】は代筆しただけだ。良く書けていただろう、連中も祖国の為に死ねて本望だ』
その言葉を聞いた瞬間に、対面に座っていた少佐は一瞬の躊躇も無く胸倉を掴み上げて、一瞬の躊躇なくその高官の顔面を殴り飛ばした。まさか他国軍、しかも階級がいくつも下の人間に殴られる等とは露とも思っていなかった高官が唖然とし、自分がされた事を理解した次の瞬間に怒鳴りつけようとして、無表情のままの少佐が放った二度目の容赦無い顔面への右ストレートをもろに喰らって吹き飛ばされ、そこに至ってようやく相手が【本気】である事を理解させられた。
だがフランス軍高官は何故中佐がそこまで激昂しているのかまでは理解出来ておらず、そもそも静止の言葉もまともに言わせられないまま少佐に延々と10発程殴り飛ばされてからようやく解放された。一応周囲には日本人航空兵や高官の御つきの人間も居たのだが、余りにも問答無用で殴り続ける少佐に圧倒されて身動きが取れなかったのだ。因みに、高官の顔面は鉄拳による土木工事により見事な荒れた平地へと変貌した。鉄火場で被弾した訳でも無いのに。
そして若年兵たちを無意味な死に追いやった事に対する少佐による怒鳴りつける様な糾弾は、当の高官が根気無くアッサリと意識を手放していたので不発に終わった。ちょっと顔面が砕かれた程度で気絶とか根性ないなコイツ。
日本陸軍航空隊の少佐によるフランス軍高官への殴打が発覚した時、フランスの上層部は内心歓喜して居た。今の今まで意地を張って傲慢にふるまってはいたが、実質面では日英に対して全く頭が上がらない状況が続いていた所に、前代未聞の殴打事件である。この『大事件』を以て日本から大きな謝罪と賠償をもぎ取れると確信したフランスが表面上だけ憤怒の表情を貼り付け、内心は小躍りしつつ追及しに日本軍の所へ乗り込んだ所、日本のみならずイギリスも同席した席にて反対に『フランスの方が』糾弾されると言う事態に転がった。フランスの視点では明確な被害者であるのに何故糾弾されるのか、全く持って意味不明であった事に対して冷めきった表情で日本側の担当者が突き付けた書類は、傲慢なフランス人の顔面を一瞬真っ赤にした後、青を通り越して白に変化した。その書類には『日本陸軍航空隊にて受け入れ教練を行うフランス人航空兵は、教練中は日本陸軍所属となる』と明確に書かれていた。つまり纏めれば『日本陸軍所属の訓練兵をフランス軍が強制連行して無為に全員戦死させた』と言う事になるのである。
183: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:28:38 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
不運と言うべきか、今回のケースでは日本側とフランス側の相互理解が致命的に不足していた。日本側としては素人を受け入れて教練する以上便宜的にも実利的にも、【日本軍人】として教練するのが当然であった。他国軍所属、それも戦争が始まってこの方後ろ弾的な行動しかしてこないフランス軍所属では一々面倒が起きるのが目に見えており、その様な面倒ごとを避ける為にも、そして【日本軍人】であれば日本から持ち込んできているある程度の機材の融通も効かせられる利点もあった。
対してフランス軍側としては『名義貸し』と言う感覚が近く、形式的に若年兵たちを日本軍に出向させたと言っても、フランス人若年兵への実際の命令権や所属はフランスに有ると言う程度の認識でしか無かった。言ってしまえば『形式上変わっているだけ』程度にしか考えて居なかったのだ。その為に、日本人が公文書からして明確に『フランス人が日本陸軍所属』と言う事を記載しているとまでは全く考えても居なかったのだ。冷静に考えて見れば多国籍部隊でも何でもない部隊に他国人を多数入れると言うのは割と可笑しいのだが、現実はそれだった。
日本側としては『自軍の訓練兵を無為に死なせたスパイ容疑者の武力鎮圧』と言う主張であり、フランス側としては『自国兵を戦地に投入しただけで殴られた被害者』と言う主張を殴りつけ合い、結局は双方一歩も引く事も謝罪をする事も無く事実上の物別れに終わった。事がメンツ、しかも軍隊のモノとなると相互に引く事等出来なかった。
そしてただでさえ嫌悪な関係だった日本とフランスの関係はこの件で完全に断絶状態に陥り、幾度となく仲介役となっていたイギリス人も完全に匙を投げる形で終わってしまった。
そもそも今回の件に置いてイギリス側は、元々不合理な流血を続けているフランスに辟易としていた上に地球を半周して来て貰った日本に対して幾ら何でも不義理にも程が有ると言う事で、顔合わせのセッティング程度の最低限以上の事はする気が無かった。後にイギリスの新聞紙は、この事を『子供の流血を啜り生きながら自己を悪と認識出来ない邪悪の所業』とまでブラックジョークも何もなくドストレートにぶちまけ、フランスの外交官が抗議に来た時も『何を言われているのか分かりませんね。新聞に書いてある通りでは?』と同じくドストレートに叩き返していた。よっぽど同盟国の日本に喧嘩を大量販売して居たのが腹に据えかねていた様子である。
最後に、日本軍のみならずイギリス軍からも代表して代わりにいけ好かないフランス人の上層部の人間を殴り倒した少佐であるが、どれほど感情的に両手を打って称賛したくとも【一応】援軍先の将校を殴った事は色々と宜しくないので、形式的な叱責の上暫くの間【謹慎】と言う名の静養をさせた上で前線へ復帰していた。階級降格も考えられては居たが『そんな事をしたらフランス人が調子に乗る』と言う身も蓋も無い意見によって降格処分は無くなっている。何よりも、この中佐は前線の兵士達の中には『オヤジさん』とまで言われる程にとても慕われる、士気の柱でもあった。教導して余り日も掛けられず、自国の高官の暴挙のせいでパリの空に散ったフランス人若年兵たちにも慕われていた。フランス軍高官を殴り倒した後に下記の言葉を叩き付けたこの少佐を、『スパイ容疑の有るフランス人を殴り倒した』と言う下らない理由で除隊させる気など、誰にも無かった。
『軍人と言う生き物は、軍隊と言う組織は【生存】を旨とする!貴様がやっている事は、貴様のどうでも良いメンツの為だけに『市民』を【自殺】に追いやっているだけでしかない!何とか言って見ろよ、『兵士』にも『義勇兵』にもなっていない『民間人』を、戦地に追い込む事しか出来ないクソ野郎が!』
184: 陣龍 :2020/08/22(土) 23:34:57 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
以上投稿完了に御座る
『陸上部隊のみならず航空隊も壊滅してるなフランス』→『教官も多分壊滅してるし日英が支援するしかないな』→『でも大人しく育ち切るまで待つかフランス?』
の三段思考の結果爆誕した日仏の決定的関係断絶の引き金となった事件で有ります()後首都奪還に執着し過ぎて近視眼かつ暴虐になってるのも突っ込んだら、
最早アンチ・ヘイトと言うか超絶胸糞悪いエピソードに。ドウシテコウナッタ(´・ω・`)
実際の所日本陸軍航空隊に所属させてフランスの口出しを塞ぐと言うやり口を現実で取れるのかは分かりません。フランスが此処まで頭イカれるかも分かりません(無責任)
なんかダメっぽかったら罪の十字架背負ってアラマン周回して来ます()
最終更新:2020年08月27日 23:46