560: 弥次郎 :2021/05/23(日) 14:20:48 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「笛吹のオルフェン」4


  • P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区内 カフェ



 コーヒーカップを傍らに置き、マクギリスは休息がてら情報収集を続けていた。ソースはカラール自治区内で出回る新聞だ。
報道機関も漏れなく大手以外は衰退していたカラール自治区だったが、アルゼブラが入ってからは企業の広報という立場で瞬く間に息を吹き返した。
アルゼブラの息がかかっている、ということを考慮に入れなくてはならないのだが、これも十分なオープンソースだ。
 何より企業の活動を広めることが目的であるから、アルゼブラのスタンスや行動が逐次反映されており、参考になるのは間違いない。

「……」

 今日の分の新聞だけでも、目眩のするような情報ばかりだ。
 養殖もおこなえる人工湖の拡張工事の起工式のお知らせ。
 カラール自治区内を結ぶ航空バスの時刻表の更新。
 新しい職業訓練校の開校の知らせ。
 企業主催の資格取得のための公開講座の予告等々。
 事業規模が大きい、と長距離バスの時点で理解していたが、ここまで大きいとは思いもよらなかった。
これらが真実であるならば、そして、これ以上のものが実際に機能しているならば、アルゼブラが受け入れられたというのも理解できる話だ。
 というか、人工湖とはなんだ。湖と呼べるだけの水を確保し、それが維持できる環境を作ったというのか。
それは、地球ですら聞いたことのないようなものだ。それをさらりとやってしまうということに、現実味はなくとも戦慄を覚える。

 話を戻そう。
 元の持ち主であるSAUを含む経済圏であれ、ギャラルホルンであれ、その他圏外圏の勢力であれ、これほどのことはできない。
まして、搾取されるのではなく、相応にリターンがあるとわかれば、人はついていくことだろう。
 人が為政者に求めるのは、ともすればそんな都合のよいことであったりするわけで、それを提示されて実際に提供されれば、従順にもなろうというモノだ。
 さらに重要なのは、これだけの事業を展開しながらも妨害などを跳ね除けてきた、ということだ。
 この火星においても利権争いは熾烈そのもの。既存の勢力や利権を握る者たちにとっては死活事項となる。
だから、有象無象の形で反発や妨害などがあり、あるいは取り入って内側から蚕食しようと考える人間もいたことだろう。
 だが、結果は現にマクギリスの目の前に示されている。いずれもアルゼブラには勝てなかったということであり、自治区の人間はアルゼブラによる統治を受け入れたということだ。

(そして、現状分かりやすく反発しているのはSAUか…)

 カラール自治区に自治権を与え、そしてその権利をアルゼブラに引き継がせたのはSAUだ。
 恐らくは不良債権を押し付けるくらいの感覚であったのだろう。実際、このカラール自治区は治安も悪く採算が取れていなかったようである。
 しかし、そのSAUは当初の態度から一変、統治権の返還や課税などを求めているとのことだった。あるいは、行政にSAUの人間を入れるようにと要求している。
それはこのカラールを管轄するアルゼブラだけでなく、一般市民にもメディアを通じて公表されている。
当然の如く、そんな元飼い主の図々しいどころではない要求に、アルゼブラもカラール自治区の人間も首を縦に振る筈もなかった。
 新聞に載っているアンケート結果はほぼアルゼブラや企業連を支持する意見で占められており、SAUの統治を求める声は数パーセントもない。
繰り返しになるが、これは企業の広報だ。だが、そのことを考慮に入れても、民衆の支持が何処に向けられているかは明らか。
 新しい統治者による統治が望ましいものならば、ましてそれが的確にPRされて浸透している状態ならば、民衆は前のSAUの統治に戻りたくはないだろう。
ましてこのカラール自治区は「面倒が見切れない」という理由で自治権を与えられた、いわば失敗植民地に等しかったのだから。
勝手に捨てたくせに、都合がよくなると図々しくも要求を突き付けてくる。これでは企業側も市民も納得しないだろう。

561: 弥次郎 :2021/05/23(日) 14:22:28 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 まあ、SAUが簡単に諦めはしないだろう、と考えつつ新聞をこれまでに集めた冊子やパンフレット共々鞄に納める。
一通り目を通したので、後は分析官たちに渡して情報の精査を行ってもらう必要がある。自分の部下やガエリオなどに見せる必要も、だ。
少なくとも、コーラルの率いていた火星支部の人間のように握りつぶしはしないだろうし。
 あとは目下の課題として、アルゼブラや企業が有している軍事力の評価に移りたいところであったが、残念ながら公表されている以上の情報は得られていない。
 まあ、それも当然だ。このような環境であるカラール自治区を狙う輩はそれこそ山のようにいるだろうから、迂闊に内情を晒すなど愚の骨頂だ。

(だが、最低でもMSとMWの配備が確認されている。加えて、企業連やアルゼブラの独自戦力があることは確かだ)

 民間でも作業用に使われるロディ・フレームや残存数があるヘキサ・フレームをベースとしたと思われるMSの写真が載せられている。
 そしてMWについても、既存のMWとはどこか趣の異なるそれが多数見受けられている。ここまではまだいいだろう。

 もう一つ気になるのがAC、アーマードコアだ。
 MSとは異なるカテゴリーの兵器らしく、シルエットも、大きさも、装備している兵装もMSとは明らかに違う。
パッと見たところはMSと同じ人型兵器ということは分かるのだが、どういう基準でカテゴリー分けされているのかは不明だ。
 だが、この手の人型兵器の開発技術はギャラルホルンがほぼ独占している状態だ。一般に使われるMSはリアクターも含めレストア品ばかり。
新造できるのはギャラルホルンに限定されており、それ故に絶対的な武力の差というものが生じているのが現状。
 だが、まったく違うカテゴリーの兵器を、大々的に運用できるということはそれだけの技術や工業力を有しているということに他ならない。
それこそ、ギャラルホルンと同じ程度なのは間違いはない。だから、単なる武装集団を持つ企業ととらえるにはあまりにも危険すぎる。

(この兵器を主力としている、というのはほぼ間違いない)

 なればこそ、このACについての調査が必要だった。
 だが、問題は何処でそんな情報を集めるか、というものだ。広報に掲載されている情報だけでは限りがある。
出来ればもっと詳しい情報が欲しい。それに加えて、実物を見たい。出来れば動いているところを。
MSとの違いや戦闘力がどれほどのものであるかが分かれば、企業の持つ力がどれほどのものであるかをより正確に評価できる。
兵器や軍備というのはどれだけの力を有しているかの総決算と言える。ならば、それを見ることで企業を測れると考えた。

562: 弥次郎 :2021/05/23(日) 14:23:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 だが、前にも言った通り、そんなに簡単に都合の良い情報が得られるはずもない。軍事機密というのはそういうものだ。
そんな簡単に手の内を明かしたりするわけもない。まして、企業が主力として配備しているならば猶更だ。
既に手に入れている情報だけでも十分であるし、こうして一人だけでも集められたならば、もっと力を注いで情報を集めることもできるはず。
何も自分一人ですべてを明らかにする必要などどこにも存在しないのだ。あくまでこれは火星支部が行うべき仕事を肩代わりしているに過ぎない。

(さて、次は何処に行くか……)

 会計を済ませ、次なる情報収集のため町の中を歩く。
 あとは企業連という組織についての情報を集めた方がよさそうだ。

(国家の域に近づいた巨大な企業。そして、有するテクノロジーはどう控えめに見てもギャラルホルンを超えたレベルだろう。
 厄祭戦の以前の技術を何とか維持している我々をはるかに超えている……)

 これだけの力があるならば、一体これまでどこに潜んでいたというのか。そこについてもマクギリスは疑問を感じていた。
 その気になれば圏外圏を糾合して巨大な国家としてしまうことも簡単だろうに。わざわざ歩調を狭めてまでこちらの動きに合わせる必要などないはずだ。
あるいは、それが出来ない理由が存在しているのか。多くの情報を得ているが、まだ核心に至りついていないという予感がある。
 もっと根本的な、もっと注目すべきところが他にもある筈なのだ。

(それを知らなくては、ん……?)

 その時、ふとマクギリスの目は街頭に建てられた掲示板に張り出されているポスターに気が付く。
 そこには企業連主催で開かれる定期イベントの内容がデカデカと書かれていた。

「アリーナリーグ。それに……フォーミュラフロント?」

 見慣れぬ言葉だ、とマクギリスは内容を読み取っていく。
 企業の管轄する土地に用意されたスタジアムで、そういった興業が行われるとのこと。パンとサーカスの、サーカスに該当するものだろう。
 だが、そんなことよりもマクギリスの注目を集めたのは、その内容であった。なんと機動兵器であるAC同士の戦いを娯楽として見せる、というものだったのだ。
どうやらかなり組織的、かつ大規模なモノらしく、搭乗者である「レイヴン」や「リンクス」達がACでその腕を競い合っているそうだ。

(……こんなことを堂々とするとは)

 困惑を隠せない。多少見せる程度かと思いきや、戦っているところを見せ、それを娯楽とするとは思わなかった。
だが、同時に納得も行く。細かな技術だとか軍事的なあれそれを気にしてみている人間など、ほんの一握りしかいないのだ。
大多数の大衆にとってみれば、巨大な人型兵器が戦っているだけでも興奮間違いなしだし、知られても困らないスペックの機体ならばそこまで隠す必要もない。
むしろ、軍事という消費に結びつかない分野が金になるのだから、そこはむしろ歓迎しているのかもしれない。
どんな時代の、どんな軍事組織も、結局予算というものには勝てないのである。時計を確認すれば、ガエリオとの交信までは時間がたっぷりある。

「見せてもらおうか、企業連の有するACの性能とやらを……」

 不敵に笑い、マクギリスは足をポスターに記されていたアリーナ行きの空中バスの発着場へと向ける。
 その足取りは、子供のように軽く、興奮を抑えきれていないものだった。

563: 弥次郎 :2021/05/23(日) 14:24:05 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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では買い物行ってきます…返信は帰ってきてからやります。
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最終更新:2023年06月18日 13:24