623: 弥次郎 :2021/05/23(日) 20:13:03 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「笛吹のオルフェン」5(改訂版)




 結論から言えば、マクギリスはACによるバトリング--アリーナリーグにドハマリした。
 試合をいくつも観戦し、売店で買い物をし、さらには他のファンたちとの交流を終えた彼は、すっかり訓練されたアリーナオタクになっていた。
 まあ、これもしょうがないことでもある。言うなれば素質溢れる6V個体をパワーレベリングと努力値振りの廃人並育成をやった結果だ。
 元々、力というものに渇望してきたマクギリスにとっては、まさに純粋なる力のぶつかり合いであるACの戦いは心躍るものだった。
行われているのは互いのプライドをかけた真剣勝負。技量の限り、力の限り、知力を尽くしてぶつかり合い、競い合う。
 それが無人機によるものであれ、有人機によるものであれ、あるいはシミュレーションによるものであれ、そこに手抜きはない。
まさにマクギリスが憧れる世界そのものであった。

「素晴らしかった……」

 アリーナから出てきたマクギリスはホクホク顔で両手に荷物をぶら下げ、背中にはリュックサック背負っている状態だ。
どれにも、AC関連の写真集であるとか、プラモデルだとか、あるいは解説書などが詰め込まれている。経費で買ったものもあるが、
中にはマクギリスが私費をはたいて購入したものもある。ACの軍事的な評価、という名目だ。別に私欲なんてない、はず。
 とまれ、企業の有する主力兵器であるACについての情報はかなり集められたし、また、その戦闘能力についても直接見ることが出来たのは大きい。
マクギリスの主観ではあるが、ACはカテゴリーにもよるが、MSとかなり対等に戦うことができる兵器だ、と思えた。
実弾兵器の他に光学兵器を使っているのには驚いたが、その動き、機動性や耐久力に関しては明らかに生半可なMSを凌駕している。

(そう、あれはまるで阿頼耶識による操縦……)

 ランク上位のパイロットの動きは、極めて有機的な動きをとっていた。反応も、対処速度も、いずれも優れている。
 ギャラルホルンの現行主力機であるグレイズと比較すれば、コンピューターやOSに登録されたパターン化された動きに当てはまらない柔軟な動きが目立った。
誰もが一定の技量を発揮できる、という点においてグレイズは優れているが、しかして実際の戦闘で戦えばどちらが有利かなど言うまでもない。
そして、彼らの動きはまるで人間の動きをそのまま拡張したかのようだった。無論、全部がそうというわけではない。
しかし、それでも低ランクのレイヴン達でさえその動きに慣れ切っていたのが窺えたのだ。

 もしや阿頼耶識のような操縦システムを使っているのでは、とマクギリスが疑うのも無理はなかった。
実際、手に入れた解説書によれば、身体を義体化したり機械化するというのは割とよくある手法なのだという。
驚くべきは、そんな体を改造したパイロット相手であろうとも同等かそれ以上に戦える生身のパイロットがいるということであろうか。
つまり、彼らの技量はインターフェイスによるものではなく、純粋にパイロットの技量ありきということになる。
ギャラルホルンのパイロットたちの動きを凌駕していることは明らかで、激突すればどうなるかは明白だ。

 閑話休題。ともあれ、ACが決してMSに対して劣っていない、むしろ優れているところさえあるとわかったことは大きな収穫だ。
 さらに、ACにはアリーナで公表されている区分よりも更なる上位互換機まで存在するというのだ。もはやMSは凌駕されていると考えるべきだ。
そして、それらを組織的に開発・製造・配備・運用する。企業の範疇では収まらないような大きなものだが、この際どうでもよい。
ギャラルホルンや経済圏などを半ば無視して我が道を進む企業の自信の源はここにあったのだ。

(これを見た統制局やセブンスターズがどういう反応をするか……見ものだな)

 思わず黒い笑みが浮かぶ。
 国家ではない、企業だけでもこれだけの戦力を有している。これ以上の戦力を抱えているであろう地球連合はどれほどの存在であろうか。
 さらに言えば、カラール自治区をここまで変えてしまった連合や企業連が持つ技術力は途轍もないもので、どうあがいても既存勢力の上を行く。
 経済・政治・軍事・産業あらゆる面において、この火星は違うのだ。その立役者たる企業と地球連合に勝てるわけがない。

624: 弥次郎 :2021/05/23(日) 20:14:09 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 抑止力であり治安維持機関であるギャラルホルンにすれば、己の存在意義を否定されるようなものである。
 経済圏にしてもこれほどの勢力と接触してその脅威を見抜けなかったばかりかこれまで放置していたのは大問題だ。
自分が提出することになるであろうレポート、あるいは報告書が与える激震はこれまで安穏としてきた秩序に大きな打撃を与えることになるだろう。
マクギリスにはその確信がある。そして、それに否が応でも振り回されるであろう義父イズナリオの顔を浮かべ、笑みが濃くなる。
 あの男に命じられるままに仕事をした結果、あの男を苦しめることができるというのは、何という愉悦であろうか。
従順なふりをしているだけでいつかは、と考えていたが、こんなにも簡単にチャンスが巡って来るとは。

(だが、まだだ……決定的な証拠を表舞台に引きずり出すには、状況を整えなくては)

 アーブラウの議員であるアンリ・フリュウとの癒着。これは政治に干渉しないというギャラルホルンの鉄則にもろに抵触するものだ。
それこそ、セブンスターズといえどもである。まして、直系の後継者もいないままに逮捕されれば栄光あるセブンスターズの一つを断絶させたという汚名まで被ることになる。
今回の件については、恐らくイズナリオを混乱させ、余裕をなくさせるツールとして使うことができるだろう。
副作用として、ギャラルホルンどころか経済圏全体にまで激震が走ることがあるのだろうが、まあそんなことなど些事だ。
その間にさらに仕込みを済ませられる。決定的な、そして致命的な報復を果たすのは間近に迫っている。そう直感した。

 そして、マクギリスはその足でカラール自治区にあるギャラルホルンのカラール地上支部を訪れた。
 カラール自治区の変化を目の前で見て必死に報告し、しかし、無視されていたこの小さな支部の面々はマクギリスを驚きながらも歓迎してくれた。
無理もない。コーラルの命で報告が握りつぶされて以来、この地上支部はずっと何もできない状態であったのだから。
人員も装備もろくに支給されることなく、しかし逃れられない飼い殺しの状態。珍しく仕事熱心な人員が心折れるのも当然。
そんなところに地球から監査局の特務が訪れて情報提供を求めれば、救いの手が現れたと考えてもおかしくない。

「そうでしたか。コーラル司令は……」
「姿をくらましたままだ。捜索は行っているが、まだ発見していない。

 マクギリスを出迎えたカラール地上支部の支部長であるユーリ・バトン一尉はマクギリスから一連の話を聞き、項垂れてしまう。

「バトン一尉、君に何ら責任も落ち度もない。報告を握りつぶした側の問題だ。
 そして、それを見抜けなかった統制局の問題でもある」
「しかし……」
「何も言わないでくれ。君は自分の仕事を果たした。そして、ここまで情報を集めてくれていたのだ」

 思うところがあるであろうバトンを、しかし、マクギリスは手放しで称賛した。
 実際、バトン以下、カラール地上支部の面々はそれでも情報収集を行っていたのだ。マクギリスの情報と被るところもある。
それは、マクギリスの報告が彼らのそれを補強することになるだろう。
 それに加えて、彼の報告を追いかけることでマクギリスが来るよりも以前、アルゼブラが来てからの動きも追うことが出来る。
今は軽く目を通しただけだが、後で詳しく精査する必要があるだろう。
 緊張が緩んだのか、あるいはマクギリスを信頼できると判断したのか、バトンは呟くように漏らす。

「報告を送って以来、冷遇続きでして。
 もう、ここはアルゼブラにとっては治安維持組織の支部というよりは、犯罪者の受け渡しを行うための窓口くらいにしかなっていなかったのです」
「犯罪者の受け渡し?」
「はい。アルゼブラは独自の戦力で犯罪者や宇宙海賊を拿捕・拘束し、そのままギャラルホルンへと引き渡しているのです。
 私刑をするでもなく、ただ取り調べを行い、調書までセットで引き渡してくるのです。もう引き渡された犯罪者は数千人単位に及びます」

 そんなことまで、そんな規模でしているのか、とマクギリスは驚きを隠せなかった。もう、企業というより国家ではないか。

625: 弥次郎 :2021/05/23(日) 20:15:58 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そして、彼らの心情は察してしかるべきか。本来ならば自分達の仕事であるのを他者が行い、後始末だけを任される。
 現地のルール、治安維持組織であるギャラルホルンのルールに従うのは何とも律義なことだが、このカラール地上支部の人間にとってどれほど屈辱なことか。
少なくとも仕事熱心なバトンにとっては無念だっただろう。彼はただ、自らに課せられた職務に忠実であろうとしただけであるのに。
 そして、冷遇されてもなお、職務を全うし、警察組織としての役目を果たし続けていた。コーラルには勿体ないほどに。
 使える。そうマクギリスは結論した。彼は今のギャラルホルンでは模範ともとれる精神の持ち主だ。自分の理想と噛み合うところがある。
 また、このまま彼をここで飼い殺しにされては困る。最悪、口封じさえしてくるかもしれないのだ。
 ならばその前にアルゼブラの力を見た証人として動いてもらう方がよい。
 彼や彼の部下の証言はこの火星支部の腐敗を、ひいてはそんな火星支部を放置し続けたギャラルホルンの腐敗を物語る証人となるのだ。

「バトン一尉。今回の件は、もはや監査の域を超えた事態になっている」
「そうでしたか…」
「ついては、君や君の部下には、このまま火星支部から引き抜きたいと考えている。私の部下として」
「え、えええ!?」

 思いがけないオファーだ。火星支部が半ば左遷先であるのは共通認識だ。
 何しろ、ギャラルホルンというのは縁故や血縁、あるいは地球中心主義ともいえる風潮がある。
反対に、地球から離れた火星など価値はないとみなされている。そんな火星の支部で飼い殺しにされている人間が引き抜かれるなど、前例がない。
 だが、それをやるだけの価値がある。

「頼む。ここで起こっていることを、世界に知らしめなくてはならない。その証人になってもらいたい。
 それに、君の様な人間がここでこのままくすぶっているのは個人的にも我慢ならないことだ」
「し、しかし……」

 私欲交じりのオファー。だが、彼を見捨てたくないのは本当だ。こんな腐り果てた組織でも、まだ志を失っていないのは高評価だった。
味方は一人でも多くいた方がいい。ならば、彼を引き抜けるときに引き抜いてしまう方がいい。だから、マクギリスは言葉巧みに誘いをかける。
言っては悪いが、彼のようなタイプを転がすなどマクギリスには容易かった。だから、そう、ちょっと大義を囁いてやればいいのだ。

「これもギャラルホルンの為だ……どうか聞き届けてくれないか?」
「っ……」

 効いた。あとは時間が解決してくれる。水を向けてやれば、後はなし崩しでもなんとかなる。

「もしその気があるならば……私は地球に戻るまでにここに連絡をくれたまえ。何、悪い様にはしない」
「……ですが」
「楽しみにしているよ」

 あえて無視して席を立つ。その時にアーレスの自分のところに繋がる連絡先を渡すことも忘れず。
 仕込みは終わった、後は結果を待つだけだ。そしてマクギリスはカラール地上支部の支部長室を出た。
 このことも含め、ガエリオに色々と吹き込まなくては、と思いながらも。


628: 弥次郎 :2021/05/23(日) 20:18:14 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
マッキーのフェイズの改訂は完了となります。
あとは細かい短編とか設定集の改訂も進める予定です。

626は書きこまれていないと思って書きこんでしまいました…削除依頼出してきます
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最終更新:2023年06月18日 13:24