582: 弥次郎 :2021/08/21(土) 18:55:04 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦神の星、血に染めて」2
実際のところ、カラール自治区を襲撃しようとした元ギャラルホルン、そしてノブリスがパトロンとなって結成された混成軍はお粗末な事情であった。
まず、その集団における指揮系統がしっかりと確立されていないのだった。
名目上のトップこそコーラルである。
この混成軍の大半を占める元宇宙海賊や武装集団は本来コーラルらギャラルホルンが取り締まるはずの荒くれ者だ。
当然ながら、元宇宙海賊などはコーラルのいうことを聞くつもりはない。
彼らは、パトロンであるノブリスの甘言と金、そしてカラール自治区での「収穫」を目当ての集団なのであって、ギャラルホルンに従う理由はない。
元々はギャラルホルンに身柄を拘束されていたところから自由にされたのだから、このままおさらばしたいというのが本音であった。
その元ギャラルホルンのコーラルにしても、カラール自治区のクーデリアの身柄が何としても欲しいわけで、荒くれどもを数以上には信用していない。
事実上、「カラール自治区を占拠する」という目的以上は合致していないのだ。
一応、所属元でおおよそにグループ分けし、カラール自治区の四方に配置することで何とか解決を見た。
互いが互いを囮として利用するという、集団にあるまじき考えの下であったのだが、やむを得なかった。
下手に混成にした場合に仲間内でトラブルになることは火を見るよりも明らかであって、触れることさえ危険だ。
よって、時間をあわせ、サイレントラインの隙間であるアリアドネを通って突撃、という指示以外は出せなかった。
ついで問題だったのが、カラールを見守る防衛機構を甘く見過ぎていたということだ。
カラール自治区の防衛体制は、自治区内の人間に対してメディアを通じてある程度は公表されている。
安全を確保するための戦力を用意し、それを認知させることで、人々に安心というものを広げることで治安をより安定させるものだから。
だが、公表されているといっても、すべてを教えているわけではないし、どれほどであるかまでは明言しておらず、機密に触れない程度でしかなかった。
連合にしても、このカラール自治区の価値やそこにあるモノを求める人間が「そういう」手段に出ることくらいお見通しだったのだ。
よって、ノブリスらも情報を集めていたが、所詮はオープンソースだよりにとどまった。その情報も、バイアスをかけて精査してしまう有様。
だから、カラール自治区を天空から見下ろす人工衛星などによる監視網を考慮せずに動かすなど、致命的なミスを犯した。
というわけで、武装集団がカラール自治区周辺に集まりつつあるというのは、襲撃が始まる数時間前からすでに補足されていた。
そして、あらかじめ用意されていたマニュアル通りに、迎撃の手順やどの領域で待ち受けて対処するかの具体的なプランが決まり、通達されていた。
さらにはサイレントラインを突破する街道であるアリアドネを舞台に戦うというのは織り込み済みで、普段は隠してある防衛機構が起動し、準備された。
そして、数を用意するためにノブリスやコーラルが手を回して釈放させた犯罪者の多くが、とっくにマークされていたことを想像しえなかったのだ。
まあ、文字通りマーキング(識別)されていたことを施された本人たちでさえも知らなかったので無理もないことだ。
アルゼブラや企業連の抱える部隊は宇宙海賊・武装集団・犯罪者集団の拿捕や捕縛を行った際には、再犯などを警戒していた。
何しろ、ギャラルホルンの活動に疑問符がついていたために、自らにできる方法で対策を打っていた。
具体的には、逮捕した犯罪者たちの肉体に生体電流式の情報発信ナノマシンを打ち込んでいたのだ。
追放されたCGS一番組にも打ち込まれたこれは、およそP.D.世界であれば信号が受信できるようになっている。
そしてその信号が、まとまってギャラルホルンの施設から移動を開始して、なぜか自由に動き出した時点で疑いをもたれてしまったのだ。
分からないのはしょうがないのであるが、隠密行動が最初から筒抜けということを勘案していなかったのは紛れもない落ち度であった。
583: 弥次郎 :2021/08/21(土) 18:55:47 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
だが、同情の余地はない。カラール自治区内に突入されたら何が発生するかなど明らかであり、アルゼブラにはこれを守る使命がある。
よって、防衛側は時間と資材を投じて準備した戦力と、星間国家として持つ国力や技術力をいかんなく発揮することにした。
まずはLCSによる通信の傍受及び量の計測による敵首脳部の補足。これでどこにいる誰が指揮を執っているのかを把握した。
それらについては捕縛を目的とした戦力が向けられることになり、それ以外に関しては文字通り殲滅が確定していた。
元より、過半がかつてアルゼブラや企業連によって捕縛された元宇宙海賊である信号を放っているのだ、遠慮などもはや不要だ。
現地のルールに基づいてギャラルホルンに身柄を引き渡したというのにこの体たらくでは、もう期待しようがないというわけだ。
ついで、戦場の確定が行われた。
カラール自治区の外縁、サイレントラインの外側で、尚且つ防衛機構の敷かれているエリア内。
そこを迎撃のためのバトルフィールドとして設定し、地面の下に埋め込まれていたエネルギースクリーン展開機構によってそれが形成することとなった。
そしてそのバトルフィールドの支援のためにカラール外縁の防衛設備も稼働を開始、支援用の砲台やMLRSなどが地面の下から姿を現した。
敵集団がバトルフィールドに突入して来たらそれらが一斉に稼働、フィールドの内側に敵を閉じ込めることになる。
展開されるフィールドの強度は星間国家たる連合や企業連が求めるレベル、即ち、旧世紀の核兵器などの戦略兵器をまともに喰らおうが決して揺らぐことのないもの。
カラール自治区の防衛圏内に入ってきた時点で、カラールを狙う賊は逃げることも前に出ることもできなくなる。
そうなれば、 外部から増援も得られず、一方的な攻撃を受ける状態に陥り、迎撃側と会敵することになる。
そうなった場合、どうなるかは明白。ただただ一方的に潰されるのを待つだけである。
つまり、ノブリスやコーラルらが策謀を巡らし、可能な限りの戦力を集めてぶつけてきたところで、初めから計画が失敗することが宿命づけられているわけである。
そして、その無粋な連中は企業連とカラール自治区の防衛部隊による熱烈な歓迎を受けることになったのであった。
- P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 スピリット級機動要塞「ハーリーティー」 甲板上「エウクレイデス」格納庫
エウクレイデスの格納庫は出撃準備のため大きな音と人の動きで満ち溢れていた。
カラール自治区周辺に出没した武装集団が襲撃するのに合わせ、セントエルモスとその教導を受けていたPMC「鉄華団」は動員体制にあった。
立ち位置的にはカラール自治区の「ハーリーティー」の指揮系統に組み込まれ、一定区域の防衛を任されることになっている。
その為の準備として、艦載機部隊の出撃前の調整と装備換装などが急ピッチで進められており、賑やかそのものであった。
もし確認されている武装集団が、確率としては低いのだが、そのまま帰るならばそれでよし。もし攻め込むなどしてきた場合には、迎撃に出ることになる。
584: 弥次郎 :2021/08/21(土) 18:57:18 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
最もまだカリキュラムが未了の鉄華団を前面に立てて戦う、などということはなく、あくまで戦場を体験させるという目的で彼らは出場することになる。
また、出場するメンバーは年長組が中心であり、残りのメンバーは後方要員と定められている。
これには出場できないメンバーから苦情があったが、団長であるオルガの説得と一喝により無事に収束することになる。
オルガは言った、自分達はまだ未熟すぎる集団なのだ、と。
だから、ここで命を懸けて戦う必要など全くない。死に急いでどうするのだと諭した。
これまでCGSで大人に並ぶべく背伸びをしてきたオルガであったが、もうそれもあまり必要ないのだとこの1カ月余りの訓練で身に染みて理解できていた。
「……なんとか説得は出来たと思うんだがなぁ」
「あれでいいと思うぜ、オルガ」
自身に割り当てられた専用のMT「イーゲル」、オルガの命名「カガリビ」のコクピットで防衛プランを見直しながら会話するのはオルガとユージンだ。
後部シートで鉄華団のMS隊の指揮を執るのがオルガで、カガリビ自体の操縦を行うのがユージンとなっている。
そのほかの戦力は、三日月のバルバトスMk-2、明弘のグシオン・セカンド、ヘリウスαに乗るシノとチャドの合計4機のMS。
鉄華団はエウクレイデス指揮下に納まり行動することになっており、オルガは前線指揮官として赴くことになる。
だが、オルガの心配事は起こるかもしれない戦闘よりも、組織の和の方であった。
「オルガだけじゃなくて、俺達も納得しているんだし、大丈夫だろ」
「けどな、大人に良いようにされているんだって言われると、否定できなくてな」
「それは……そうだけどよ。けど、一番組なんかよりよっぽどマシな大人だぜ?俺達を騙して使うなんてするとは思えねぇよ」
心配し過ぎだ、とユージンは諭す。
オルガは以前よりだいぶ本音を吐き出すようになったと思う。
だが、反対に果断なところが弱くなったと感じている。
まあ、強く自己主張しなければ一番組に殴られるような環境だったからしょうがないともいえる。
そして、そこから急に脱したことで気が抜けたのかもしれないだからしょうがないとは思う。いい意味で迷うようになっている。
だが、自分たちのリーダーとして、ドンと構えていてほしいというのもユージンの偽らざる本音だ。
オルガがリーダーとしてしっかりしていれば、自分達も迷いなくついていけるのだから。それともあれか、とユージンは問いかける。
「プレッシャー、感じているのかよ?」
「……あぁ、そうかもな」
これまでとは違う「期待に応えなくては」「結果を出さねば」というプレッシャーがオルガにはかかっていた。
まだ未熟だが、それなりに成長してきている、ということである程度の働きは期待されている。
これまで受けてきた数え切れない恩に報いるためにも、オルガとしては相応に働かなくては、と考えているのだ。
プラス方向のプレッシャーだが、ともすれば焦りなどにつながりかねない。
「でも、いいんじゃねぇの?多少しくじってもよ」
「……おう。俺らはまだ未熟だしな」
「ただし、失敗前提で動くなよ?」
「やれることは、きっちりやるにきまってる」
それだけは、オルガの強い意思だった。
自分のため、自分達鉄華団のため、そして目をかけてくれたセントエルモスやアルゼブラのため。
いつになく、強い気持ちがわいてきているのを感じていた。
585: 弥次郎 :2021/08/21(土) 18:57:53 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そんなことを話していると、特型AMSに対応したパイロットスーツに着替えた鉄華団のMS隊の面々が、今回はMSで出場するリグに引率されやってきた
「オルガ、緊張している?」
「え、あ、はい……少しは」
「それもやむなし。フォローはするし、命を大事に」
「りょ、了解です」
リグはオルガらの緊張を見て取ったか、そんな声をかけてきた。
この一カ月という短い期間ではあるがオルガはリグという教官についてはある程度把握していた。朴訥な人間というかまるで明弘の様な人間なのだ。
ただ、周囲との間に壁を作っている明弘とは違い、あまりしゃべるのが得意ではないということらしい。喋る時は喋るし、会話を成立させようとする意志が感じられる。
まあ、これまでの一番組の大人とは別ベクトルで接しにくいのも確かであるが。
そして、リグは後ろに振り返り、MS隊の面々にも声をかける。
「皆、さっきも言ったけど、生きて帰ることが第一。OK?」
「了解」
「はい」
「あ、はい」
「はい、無理はしません」
リグの目は真剣だ。少なくとも鉄華団全員をちゃんと生きて返さねばならない。危険が少ないとはいえ、何が起こるか分からないのも事実。
だから、リグは繰り返し釘をさしておく。ハリネズミの如くなっているかもしれないが、それくらい重要なことだ。
死なせるためではなく、学んでもおらうためにあえて危険を冒して戦場へと連れていくのだから。
三日月、明弘、シノ、チャドらもそれをくみ取り返事を返す。何とか形になってきた敬語を使う彼らに、リグは目を細める。
「それでよし。各員、コクピットで待機。出撃の準備を始めて」
パンパン、と叩いた手で合図された4名はそれぞれコクピットへと乗り込む。
そして、鉄華団のメカニックである雪之丞やタカキらと話して、MSのコンディションを確認していく。
これまで何度も訓練したことであるが、パイロットたちにはやはり緊張が窺える。いつも通りなのは三日月くらいか。
戦いについて、これまで経験したことのないほど学んだことを自覚しているが、オルガらはそれ故に実戦に脅えがあった。
「オルガ」
「は、はい!」
それを見透かし、リグは声をかけた。
「オルガたちはあまり難しく考えなくていい。大事なのは戦場を知る事。絶対に死なせないから」
「……分かりました。俺達の命、預けます」
「俺からもお願いします」
「上々だよ」
オルガとユージンの覚悟の籠った言葉にグッ、とサムズアップするリグ。
頼ってもらうのはいいが、頼りきりはダメだ。曲がりなりにも戦いに赴くのだし、これくらいの覚悟は決めてもらわなければ困る。
言いたいことを言い終えると、リグもまた今回搭乗する「ドラクル・ロディ」のコクピットへと乗り込む。
その時丁度情報が更新され、武装集団がカラール方面へと移動を開始したのが確定した。つまり、戦端が開かれる、ということになる。
リグに気負いはない。危険の少ない仕事だ。自分達が本気で対処せざるを得ない状況に陥るのはよほどでなければありえない。
言っては悪いが、このカラールに攻め込んだ時点で負けが相手には確定しているのだ。だから、せめて利用されてもらおう。
そんな容赦のないことを考えていると、艦内放送でエウクレイデスが間もなく発進することが通達される。
いよいよだと、リグは若干襲撃者達に同情しながらも、意識を集中させていく。オルガ達には悪いが、これからやるのは戦闘ではない、駆除だ。
586: 弥次郎 :2021/08/21(土) 18:58:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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いやぁ、なんか変だと思ったらレスを一つ投下忘れていたという…(白目
最終更新:2023年08月31日 21:24