105: 弥次郎 :2021/08/17(火) 23:42:44 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦神の星、血に染めて」3(改訂版)



  • P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 スピリット級機動要塞「ハーリーティー」中央指令室

 時を同じくして、カラール支社の収まる「ハーリーティー」を訪れていたクーデリアは中央指令室---というより中央司令塔に呼ばれていた。
 元々、ギャラルホルンがクーデリアを狙っているというのはCGS襲撃の時点で分かり切っていたことであった。
 クーデリアが極秘裏にCGSに依頼をだして赴いていたことをリークしたのが実の父親と分かったのはごく最近のこと。
 そして、そんな彼が逃げ出す前にアルゼブラによって身柄を抑えられたというのも同じく最近のことだ。
 兎も角、ギャラルホルンやそのバックにいる経済圏にとってはクーデリアの存在は疎ましいものなのは確かである。
 そんな彼女に何も教えないというのはおろかな判断であるし、アルゼブラにとっても依頼主である彼女には事態を把握しておいてほしかった。
 そんなわけで、これまで火星圏で起こっていたこととあわせて伝えなければならないことがあり、彼女は支社長のペトローフと並んでモニターを見ていた。
 カラール自治区に攻め込もうと動いているのはギャラルホルンだけではなく、宇宙海賊やらなにやらも混じっていた。
どちらにしても、それらがカラール自治区に飛び込めば何が起こるかなど、想像だに難くないことだった。

「これだけの数が、どうして…」
「カラール自治区そのものが目的で、ギャラルホルンは恐らくバーンスタイン嬢が目的でしょう。しかし……」

 しかし、とペトローフは首をひねる。荒くれ共を束ねるというのは難しい。
 それこそ、反抗を許さないほどの暴力か黙らせるほどの金が必要となる。
 そんなものを手軽に用意できる人間など、この火星においてはごくごく限られている。
 ギャラルホルン?確かにそうかもしれないが、脱走したという火星支部局長のコーラルが持ち合わせているとは思えない。
そんな能力があれば火星の現状は変わっていたはずである。
 では、いったい誰が糸を引き、この絵図を描いたのであろうか?

「しかし、誰がどうやってこれほどの集団を組織的に動かしたのかが問題ですな。
 最低でもMWを運用している上にMSまでも動かせている、これだけの数を…」

 ペトローフの言わんとすることはすぐにクーデリアも理解できた。
 軍事にもカネがかかる。いや、むしろ金も人も喰らい尽くしていくというものである。宇宙海賊や武装集団がアルゼブラなどの手によって駆除され、
治安が改善していたことは確かだったし、クーデリアもそれを知っていた。だが、何処からともなくこれだけの集団が動いているのはおかしいのだと。

「誰かが、私やこのカラール自治区を狙って扇動したというのですか?」
「恐らくは。正直に言いますと、カラール自治区は多くの人間から妬みや嫉妬の対象になっております。
 火星圏でも類を見ない発展をして急激な成長を遂げたからこそ、その事を妬み、疎ましく思ったり、あるいは奪おうとする。
 火星独立派からの接触も多数ありましたが、ルサンチマン丸出しで話にならない方ばかりでしたしね…」
「……」

 その火星独立派でも著名なクーデリアとしては、間接的に自分が咎められているような錯覚を覚える。
 そして、ペトローフのいうことも分からなくもなかった。カラールは、火星ではないかのような発展ぶりだ。
 その他の地域は対称的なほどに搾取され、産業や経済がガタガタで、とてもではないが治安も良いとは言えない苦しい世界。
クーデリア自身も身分を隠してカラール自治区に入ったこともあるが、火星であるということを忘れるかのような世界だった。
 正直なことを言えば、クーデリアも嫉妬したものだ。なぜ彼らは持ちたるもので、自分達は持たざるものなのかと。

「……と、失礼しました。バーンスタイン嬢を責めているわけではありません」
「いえ。火星独立運動は、どうしても持たざる側の理論で動いているところがありますので」

 自分で言っておいて、ひどい言い訳だ。自分も持たざる側の心情を抱いてしまったのは紛れもない事実だというのに。
ましてや、急進派ともなれば、一周回ってカラール自治区への嫉妬や妬みを抑えきれなかったとしても不思議ではない。
 火星も、決して一枚岩でもなければ、必ずしも理性的ではない。当たり前だが、重たい事実だった。

106: 弥次郎 :2021/08/17(火) 23:43:23 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 クーデリアがそんなことを考えている間にも、状況は変化を続けている。
 カラール自治区を目指す武装集団はいよいよカラールの最外縁部へ接触。
 警告をオープン回線で何度もだしてもなお無視されているということを以て、いよいよアルゼブラは戦闘状態に入る。

「各員、状況開始せよ!カラールの興廃、この一戦にあり!」

 戦闘指揮所の最上部、幾人ものオペレーターたちなどを統括し、この戦いの指揮を執る総指揮官の声が戦闘指揮所に響くと同時に、各地の戦力は一斉に動き出した。
 初動は各地に設置されたエネルギースクリーンによるバトルフィールドの形成に始まった。
 十分を過ぎるほどに広い区画がカーテンのように展開されたエネルギースクリーンで瞬時に遮断され、逃げ場をなくしてしまった。
この力場は戦場の区分けと確定のほかにも、戦闘で発生する余波が周囲に影響を与えないようにするためでもあった。
そう、それは時間をかけて整えられたカラール周辺の土地でMSが容赦なく暴れてよいということであった。

 そして、初撃。
 無粋な武装集団に対するオーバーロングレンジ攻撃はカラール支社である「ハーリーティー」から放たれた。
 それは極めて単純な一撃。
 元となったAF「スピリット・オブ・マザーウィル」より引き継がれてきた兵装、大口径3連装砲による砲撃だ。
 既に詰みとなっていることにも気が付かずただひたすらに迫るならず者たちを粛正する一撃は、あっけなく放たれる。
カラール自治区を外部と結ぶ4本のアリアドネ街道に設定されたバトルフィールド、そこに着弾した。

『初撃、予定通りのエリアに着弾。想定通りの被害を与えたことを確認』

 その一撃はもはや残虐すぎた。
 エネルギースクリーンで封鎖されている。それは内部で爆発がおこれば、四方を囲うスクリーンによって反射されて何倍にも増幅するということになる。
 だから、これだけで十分すぎるほどに大打撃だったのは言うまでもない。これだけで雑多なMWなどが消し飛び、極めて頑丈であるはずのMSらも被害を受けた。
 案外忘れられがちだが、MS自体が極めて頑丈なP.D.世界であっても弱点はある。
 例えばであるが、武装自体はそこまで頑丈ではない。
 MSの装甲であるナノラミネートアーマーに比べるとはるかに柔らかいので、本体が無事でも武装が破壊されてしまう、というのはよくあることだ。
 またスラスターのように装甲化できない箇所が存在しているので、そこならばダメージを受けてしまうということになる。
 よって、無事だったMSも爆発や振動あるいは衝撃によるダメージで何らかの支障をきたした状態であった。
 それらの弱点を突くような砲撃は順次行われ、形成されたバトルフィールドにそれぞれ砲弾を送り込み続けた。

『ファーストフェイズ完了、セカンドフェイズへ』

 暫くして、ハーリーティーからの攻撃はほぼ止まった。
 無論このまま砲撃だけで殲滅しても良い。むしろそうした方が低コストで時間もかからないだろう。
 しかして、今回はそうではない。カラールを襲撃した賊のトップと思われるギャラルホルンのMSは捕縛しなければならなかった。
 加えて、敢えて手加減をして、MSをはじめとした機動兵器同士による戦闘を行う必要があったのである。
それが鉄華団、そしてカラール自治区治安維持部隊の実戦訓練になるのだ。このことは当初から織り込み済み。
つまり彼らはその死さえも利用されていたのだ。


  • P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 一番アリアドネ街道 鉄華団担当区域


『よし、各機前進だ!支援砲撃にあたるなよ!』

 護衛のMTであるサーベラスⅡを引き連れたカガリビに乗るオルガの指示のもと、鉄華団のMSは前進していく。
 その先には、先制攻撃となったハーリーティーの砲撃で損傷を抱えて動きが鈍ったMSが10機ほどいた。
 鉄華団が知る由もなかったが、そのMS---ガルム・ロディやユーゴーは夜明けの地平線団の所属であり、一角の戦力であった。
 だが、悲しいかなあくまで機動兵器としては優れていたとしても、戦略攻撃に対しては無力であり、砲撃で指揮系統も何もない状態に陥っていた。
それでもまだ戦うだけの気概は彼らにはあったのだが、そこに押し寄せたのが拙いながらも指揮を学び補助を受けるオルガ率いる鉄華団だった。

『ぶちかませ!』

 オルガの声と共に、ナースホルンの砲撃が一斉に襲い掛かる。
 たかがMTと侮ることなかれ。MSがナノラミネートコーティングをされていたとしても、完全に衝撃まで殺すことはできないのだ。
まして、P.D.世界の基準から見ても先行する連合の標準的なMTの砲撃だ。つまり、生半可な攻撃ではない。
そんなものが弾幕として襲い掛かってくれば、如何にMSに乗り込んでいるとはいえ、彼らに恐怖心を植えつけるのに十分であった。
 後はもはや駆逐を待つだけの哀れな獲物でしかなかった。

107: 弥次郎 :2021/08/17(火) 23:44:34 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

『来やがったぞ!?』
『く、くそ、速く逃げろ!』
『なんでMWなんぞに……!』

 彼らはもはや一種の恐慌状態だった。何が何だかわからないうちに吹っ飛ばされ、あるいは友軍が消し飛ぶのを見た。
 そうでなくとも、砲撃の衝撃を受けてダメージを受け、混乱していたのだから。
 だが、そんな彼らを逃がすはずもない。

『いくよ』

 先頭を行くのはバルバトスMk-2を操る三日月だ。
 MSを一撃で仕留めうる大型のメイスを片手に突っ込む。
 当然ながら反撃の銃撃が襲って来るが、三日月はそれが余りにも適当な射撃だとわかった。
 リンクスたちを相手に訓練を積んでいた中で、射撃にも牽制であったり、直撃を狙ったり、回避運動を強いるなどタイプがあると学んでいた。
それらすべてに反応して回避していると、動きが誘導されてしまい、避け得ない一撃を喰らうことになるということも、だ。
 だが、今の相手の射撃にはそれが無い。兎に角ばら撒いているだけなのだ。そうとわかれば、防御する必要もないし複雑な回避もいらない。

(なら、やることは一つ)

 三日月は射線を誘導するように加速しつつ、あえて動きを大きく見せる。
 案の定、相手はこちらに射線を集中させ、弾幕を張る。それでいい、こちらのトップスピードならば有効打はほとんど当たらない。
 むしろ、相手はバルバトスへの射撃に集中して自分たちに近づけないことを優先するあまり、後続のMSから意識を逸らされている。

『こんな感じかな』

 シールド内蔵のマシンガンで適度に反撃しつつ、半円を描くように動く。
 特型AMSとガンダム・フレームに由来する運動性と反応性は、三日月の操縦に見事に反応して動き出していく。

『よし、お願い明弘』
『おう』

 そして、それによって生じた隙を続いた鉄華団のMS隊はしっかりとつかんでいた。
 通信を受け、グシオン・セカンドとヘリウスαによる弾幕が横殴りに襲い掛かっていく。こちらはMSが運搬するものであるから、MT隊による砲撃よりもさらに効く。

『ぐっ、まだいたのか!』
『撃ち返せ!』
『駄目だ、こっちの武器が!』
『なら近づいてやってやる……!』

 そして注意が一瞬でもバルバトスから離してしまったことは、文字通り命取りであった。
 その一瞬の隙を見逃す三日月ではなく、バルバトスというMSはそれに合わせて踏み込んだ三日月の反応に十分に応えた。

『しまっ……!』

 気が付いた時には遅い。弧を描いた軌道からバルバトスは一気に肉薄して、もはやクロスレンジにまで踏み込んでいた。
 そして、ガルム・ロディのカメラには振りかぶられたメイスだけが映っていて、逃れられない距離だった。

      • ぐしゃり

 あっけなくガルム・ロディの一機がメイスにより沈黙する。
 バルバトスの接近に気が付いて咄嗟にバスターソードを引き抜いて対処しようとしたのだが、相手が速すぎる。
それもそのはず、テスラ・ドライブの恩恵もあってありえないほどのトップスピードに入って加速していたのだから。

『野郎!』

 メイスを振りぬいたバルバトスは一瞬であるが硬直がある。
 それを狙い、別のガルム・ロディがバスターソードを抜いてとびかかるが、三日月にすればあまりにも遅かった。
 振り下ろされる前のほんの一瞬発生した隙だけで十分だ。その一瞬で間合いを詰めた三日月は腕を伸ばし、ガルム・ロディの腕を受け止める。
メイスを手放せないため左手だけでの動きの阻止だが、ガンダムのパワーはやすやすと操縦者の意思に応える。
 そして、スラスターで強引に機体の向きをガルム・ロディごと変更すると、こちらに銃撃を放とうとしたユーゴーに対して楯とした。
 フレンドリーファイアを恐れ、あるいはバルバトスのパワーに怯んだユーゴーらは一瞬動きを止める。

『もらったぁ!』

 だが、それは三日月と同じく現役の熟練傭兵に鍛えられた鉄華団MS隊にとっては悪手そのもの。
 一気呵成のままにシノの操るヘリウスαはヒートソードを抜いて吶喊、叩きつけるように振るった。
 装甲に食い込んだ灼熱の刃はナノラミネートコーティングで一瞬拮抗されるも、その威力を発揮し、ユーゴーを食い破った
 当然、それで終わりではない。振りぬいた姿勢から素早く立て直しつつ、空いた手で保持していたライフルから弾丸をばら撒いて牽制して離脱していく。
 ガルム・ロディらはシールドなどで咄嗟にそれを防ぐが、元々損耗していたMSに対してはそんな射撃さえ恐ろしいものである。
 そして、そんなことをしている間に、三日月はメイスで次のMSを狙って突貫して来る。それは、理性を伴う野生の怪物。
 そんな無慈悲で恐ろしい存在には、歴戦の宇宙海賊でも恐れをあらわにするしかない。

108: 弥次郎 :2021/08/17(火) 23:45:23 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 まあ、無理もない。彼らは常に襲う側であり、襲われる側というのは少なかった。
 だから、思わずコクピットの中で叫んでいた。なぜ、どうして、こうなったのだと。
 それを企業連の誰かが聞いていたら、こう答えただろう。「自業自得だ」と。
 そうなのだ、結局のところ、それに尽きてしまう。狙われるだけの理由は確かにカラール自治区に存在していた。
火星とは思えない環境に、現行のそれを大きく上回るテクノロジーによる恩恵、根底から改善された負のスパイラル。
目もくらむような、とはまさにこのことであり、クーデリアのような人物でさえも嫉妬を覚えてしまう魅力あふれる地。
 しかして、それを無法を以て得ようとするならば報いを受けるというのが当然なのだ。
これまでは力で奪うのが当然であっただろうが、その理を主張するということはより強い力によって叩き潰されても文句を言えないということである。

 閑話休題。
 そんな鉄華団の動きを見守りつつ、自身もMSを排除していくリグは、訓練どおりの動きが出来ていると評価していた。
1ヶ月と言う期間はあまりにも短かった。事実、勉強と平行している鉄華団の訓練時間は短かった。
それでもあれだけ動けるのはそういう風に訓練したのと、彼らが元から持つセンスあってのことか。

「パワーレべリングの効果は有りかな」

 そういいつつ、KPビームライフルでMSを容赦なく打ち落とす。
 ほとんど射的だ。
 KP兵器がこの世界のMSと相性が良いのもあるが、根本的には相手が弱すぎることに終始する。MSを保有し組織的に運用するのは確かに恐ろしいことだ。
 だが、それはあくまでも「操縦できる」と言うレベルにとどまっており、訓練を受けているとはいいがたい、いわゆる我流の喧嘩殺法だ。
 たまに比較的マシな動きもあるが、誤差の範疇。これならばまだ阿頼耶識で反射で動く初期の頃の三日月たちのほうがまだマシなレベルだ。
 ともあれ、リグは適度にMSやMWの数を減らし、鉄華団のMS隊が安全に戦えるように地ならしをするのみ。
 やがて、鉄華団と戦闘していた集団が蹴散らされた。こちらに損傷などはなし。初陣としては上々の仕上がりだ。
このまま戦闘を続けさせても問題ないだろう、と判断。そして、回線をつないだ。

「オルガ」
『はい、リグさん』
「ここでの戦闘はひと段落した。次のポイントに移動するから後退を」
『了解です。ついでに補給に入ります』
「ん、任せる。後退の殿はこっちでやるから、皆には連絡しといて」

 オルガの返答を聞きつつも自分もエウクレイデスに連絡を入れておく。
 そして、リグの意思に答えドラクル・ロディは一気に加速、テスラ・ドライブの恩恵もあって一気に跳躍し、鉄華団MS隊の近くにまで飛ぶ。
飛んでいる最中も有視界範囲で逃げ惑うMWに容赦なく弾丸を打ち込んでおくのも忘れない。
たかがMW、されどMW。ナパーム弾を集中投射されればMSでもMWの相手は時として危険だ。だから一機でも通すわけにはいかなかった。

「覚悟はいいかな?」

 出来ていなくてもつぶすけど、とつぶやく。手を出されたら兆倍にして返す。
 それが星間国家の中でも列強とされる連合のスタンスであり、ひいては連合の傘下にある企業連の基本的なスタンスであった。相手に同情はするが容赦はしない。

『リグさん、お願いします』
「まかされた」

 補給と整備の為に後退していくバルバトスに気が付いたMSが銃口を向けようとするが、その前にコクピットごと打ち抜いてやる。
 KP兵装をなめるな、である。まして教え子に手を出そうなど割と過保護なリグが許すはずも無かった。
 ともあれ、とリグは行動を開始する。戦いは継続している。最も、もはや掃討戦の有様を呈し始めているのだが手は抜かない。

109: 弥次郎 :2021/08/17(火) 23:46:35 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年08月31日 21:28