162: 弥次郎 :2021/08/18(水) 20:48:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦神の星、血に染めて」4



  • P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 スピリット級機動要塞「ハーリーティー」中央指令室


 戦闘は、ズブの素人であるクーデリアでもわかるほどに一方的であった。
 最初から勝つことを前提とした準備が整えられていたと聞いてはいたが、ここまでくると襲撃者達に同情さえしたくなる。
 巨大なスクリーン上に表示された地図の上を動く光点--エネミーを示すそれらは分断され、包囲され、次々と消えていく。
 その速度は最初から最後まで増していくことはあっても落ちることはなかった。
 それだけ、彼我の戦力差がどれだけ開いているのかを如実に示していた。

「エリアS-22鎮圧完了」
「エリアN-52、敵勢力殲滅完了」
「エリアE-32、敵主力部隊及び指揮官の捕縛に成功」

 オペレーターたちの報告も、戦闘経過ではなく戦闘の終結を報告するものが増えていき、エリアが制圧されたことを示す水色に染まっていく。
 そういえば、とクーデリアは鉄華団もこの戦闘に参加していることを思い出す。一番アリアドネ街道のエリアを担当している、とのことだったがどうなったのか。

(確か…エリアN-81だったはず……)

 目を凝らしてモニターを見れば、そこは既に制圧済みを示す水色だ。
 戦闘はすでに集結し、状況を終えて戦闘後の後始末に入っている、ということである。
 自分も世話になることになるエウクレイデスの面々と共に出場していると聞くが、果たして彼らは無事であろうか。

(いえ、そうではありませんね)

 心配したが、すぐに首を振って否定する。
 個人の心配など不要だ。彼らは彼らで必死に戦っている。
 そして、アルゼブラや企業連がそれを必死に支えているのだから。
 彼らの戦いを汚すことにもつながりかねない。心配するのではなく、信じなくてはならない。
 地球に向かう際には彼らに自分の命を託すことになるのだから、余計にそう思う。

「バーンスタイン嬢、よろしいでしょうか?」
「はい?」

 名前は呼ばれて振り返れば、支社長であるペトローフが何人かの人員を連れて立っていた。

「この後の事を……政治的なことも含め、少々お話をしたいのですが」
「政治のことも……?分かりました、すぐに」

 少しもったいぶった言い方が気になったが、すぐにクーデリアは思考を切り替える。
 今回の戦いで大きく動いたのは確かで、これが単なる武力衝突だけで終わる筈がないと考えていた。
 それが来ただけということになる。
 ここからは、自分の戦場だ。
 鉄華団ではなく、自分にしかできない戦いの場があるのだと。
 そして、クーデリアは相対することになる。かつてないほどに拡張した、非現実的な現実と。

 さて、その後の戦闘について簡潔に語ろう。
 カラール自治区の四方で展開される戦線の様子は、ほとんどが戦闘にすらならない、一方的なモノであった。
 カラール自治区の戦力による防衛という名の蹂躙は数時間と経たず終了。ほぼ襲撃側の戦力の殲滅を完了させ、一部を捕縛することに成功した。

 そして、アルゼブラからの反撃の二の矢はすぐさま放たれた。
 航空機や航空艦を中心とした報復部隊が派遣されたのだ。派遣先はSAUをはじめとした経済圏の管轄する火星の各主要都市だ。
今回の襲撃に経済圏の息がかかった人間が参加していて、さらには、火星の有力者までも絡んでいるというのは想像に難くはなかった。
 故に、アルゼブラや企業連は自衛権を拡大解釈することによって行動し、それを暴き立て、白日の下に引きずり出すつもりであった。
結果として、経済圏やギャラルホルンらが結託して行動していた証拠が挙がり、また、ギャラルホルンの地上支部もかなりが制圧を受けることになった。
 この反撃によって、火星の都市の半分以上がアルゼブラや企業連の管轄下に置かれることになり、火星の実権は経済圏の手から企業連の元へと渡ることになった。
 残りについても追ってアルゼブラや企業連の浸食に呑み込まれていくこととなり、遠からず火星全土の制圧は成るとされた。

163: 弥次郎 :2021/08/18(水) 20:49:04 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そして、取り調べやこの襲撃の前から行われていた調査を元に、火星独立派のパトロンを務めるノブリス・ゴルドンらに追手が放たれた。
 以前からスパイの容疑というか疑いがかかっていたフミタン・アドモスの証言のほか、捕縛されたコーラルらの証言が決め手となったのだ。
 結果についてはまた別な機会に語ることにするが、ともかく、彼の存在はこの日を境に不可思議な希薄化を果たすことになる。

 さらに企業連の反撃は、武力以外を以ても行われた。
 火星独立派の糾合という名目で、カラール自治区においてノアキスの7月会議に並ぶ集会が行われることになったのだ。
「カラールの再構築会議」と呼ばれたソレの主催はアルゼブラ及び企業連であり、また、彼らに対して依頼を出しているクーデリアであった。
 これが何処が反撃なのか、と思うだろう。だが、これはクーデリアを疎む他の独立派への釘をさす場であった。
分かりやすくカラール自治区を通じて企業の力を見せつけ、彼女が企業連らと共に骨子をくみ上げた今後の独立のスケジュールなどを提示した。

 つまり、これを以て火星の独立派をふるいにかけたのである。
 クーデリアに味方するか、それとも敵対を選ぶか、はたまた第三の立場に身を置くのかどうかを。
 敵であることを選ぶならば容赦しないし、味方ならば相応に振る舞いを求めるし、敵でも味方でもないならば精々邪魔をしない程度に動くように釘をさす。
 味方だけで固めてもだめであるので、粛正などは避けはしたのだが、それに準ずることは実施したのであった。
 ギャラルホルンやその他雑多な武装集団を圧倒するアルゼブラなどの戦力も分かりやすく誇示し圧力をかけたのである。

 残虐さの使いどころだ、とクーデリアにペトローフは語った。
 なあなあで済ませて後腐れを残して重要な時に後ろ弾をもらうよりも、よほど安全を確保して現状の問題に取り組めるのだと。
 実際、火星独立派でも急進派はカラール自治区に対してルサンチマンを抱いており、それを隠そうともしていないことが多かった。
今はそうではない。しかし、今後のことを考えれば、彼らが一時の感情の赴くままに動くことは明らかだった。
 さらに、再構築会議において企業連やアルゼブラとの人員との折衝や交渉を行った際にも、仲違いや意見の対立などが発生したのだ。
あくまでも企業や地球連合を信用せずという派閥、政治に口出しをされるのを嫌う派閥、彼らは利用されるべきという派閥。
彼らも思うところや考えはあるのだろうとクーデリアは理解している。だが、それが如何に身の程知らずであるかを、彼女はわかってしまった。
 企業連や地球連合は火星、そして、P.D.世界と同じ地平に存在していない。圧倒的な高みから、こちらを見下ろしているのだ。

 一見すれば、彼らと自分たちは同じようなものに見えるが、それは間違いである。
 彼らは現実というチェスの盤面を見下ろして、駒を動かし、圧倒的な力ををふるっているだけにすぎないのだ。
 そして、その支援を受けるクーデリアの手も払いのけることとなった彼らは、袂を分かつこととなった。
それが前向きのものであればどれほどよかったか。実際のところはやけっぱちになっていたのが大多数だった。
 そして結果として、アリウム・ギョウジャンなどの有名どころの独立派の人間の何名かがクーデリア、そしてアルゼブラや企業連に見限られることになった。
 こともあろうに、独立運動家の中にはカラール自治区襲撃に関与していた人物がいたことまで判明したのも追い打ちとなった。
その人間は、ギャラルホルンさえも信用ならないとのことから、アルゼブラ預かりとなり、表舞台から姿を消すことになる。

 そんな後始末やらなにやらが慌ただしくも行われてから4週間後。
 当初の予定よりも遅れや立場などに大きな変化を果たし、出発することとなる。
 目的地は地球。未だに安穏と惰眠をむさぼり、現実から目を背ける経済圏や、火星の変化を知らぬ人々が暮らす人類の母星。
 そこに、聖人の火に導かれ、革命の乙女が舞い降りることになるのは、間もなくのことであった。

164: 弥次郎 :2021/08/18(水) 20:49:39 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年08月31日 21:35