330: 弥次郎 :2021/08/19(木) 20:48:50 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS 短編集4(改訂版)
Part.8 集いし者たち
タービンズのハンマーヘッドが案内役となり、テイワズに属する艦艇が連なって航行していく。
見るものが見ればわかったであろう。艦艇に彫り込まれている社章は圏外圏でも有力な企業のそればかりである。
IOS、4Sファランクス、ガニメテ・ファーム、タービンズ、コペルニクス、ニコラウス、JPT、エウロ・エレクトロニクス、カリスト。
そしてそれらの企業を束ねる総合商社でのテイワズ。そのどれもが、圏外圏では推すにも推されぬ大企業ばかりである。
通常ならば、テイワズが直々に動くというのはよほどのことが無ければありえないことだ。
他の企業に関しても圏外圏での権威や実力は高く、このようにわざわざ出向いてくるというのはありえない。
つまり、テイワズを傘下の企業共々雁首揃えて呼び出すほどに相手が強大だ、ということになる。
それもそのはず。相手は下手な星間国家を凌ぐ星間企業であるアルゼブラであり、さらに言えばアルゼブラと同じく星間企業の集まりである企業連。
圏外圏でも並ぶものがほとんどいないといわれるテイワズでさえも、地方の零細企業扱いできてしまうほどに相手の方が大きいのだ。
何しろ、太陽系という狭い範囲のそのまた一部の企業でしかないテイワズと、複数の銀河に渡って事業を手掛ける星間企業の連合組織という差がある。
比べるのがバカらしいほどに企業規模が違い過ぎる。その事を名瀬から報告を受け、理解したマクマードは自ら部下を率いて出向くことを選んだのだ。
相手のスケールが同等ならば、あるいは小さいならば呼びつけるなり代理を送ると言うても使えた。
だが、今回に限って言えば、マクマードが自ら礼を尽くして相手に会いに行かなくてはならない。
「しかしよう、名瀬……とんでもないことになったもんだな」
マクマードは、座乗する船からハンマーヘッドの名瀬と通信で会話していた。
『親父でも信じられない話だよな……』
「まあな。まさか、圏外圏の更に外側からやってきた、なんて言われたところですぐに信じられるかって話だ」
だが、とマクマードは言い切る。
「お前がここまで証拠を揃えて必死になって訴えてきたんだ。無碍にするわけにもいかねぇよ」
そう、マクマードが緊急で招集したテイワズの重役会議において、名瀬はこれから付き合いを持つことになるアルゼブラや企業連という組織について語ったのだ。
それはそのオリジンに始まり、その企業としての規模が如何に規格外であり、自分達の尺度に納まらない存在であるかまでにおよんだ。
彼らは、企業規模、資産、従業員、戦力など解説した名瀬さえも信じられない、馬鹿みたいな力を持っていた。
勿論これだけの勢力の現実味など彼らは、少なくとも当初のマクマードを含めた重役らは感じはしなかった。
だが、名瀬にしても本気であったし、真剣だった。だからこそ、マクマードをはじめとした幹部の多くはそれを信じることにした。
それにな、とマクマードは続ける。
「……こうして目の前にありゃ、いやでも信じざるを得ねぇよ」
眼前、テイワズの拠点であるはずの歳星がかわいく見える宇宙要塞が悠然と浮かんでいる。しかも複数個、護衛の艦艇を多数含めてだ。
ギャラルホルンなども目ではないというのはうなずける話だ。これが全戦力ではなく、この太陽系に派遣されてきている派遣部隊の一部に過ぎないのだから、
総勢ともなれば一体どれほどの、気が遠くなるような数になるのかは想像したくもない。
「疑って悪かったな……ひとまず、俺はもう一度直参に釘をさしておく。
お前は、あっちとの折衝を頼んだぞ」
『もちろんだ』
義理の親子の、真剣な会話はその後しばらく続く。
後知恵に過ぎないのだが、ここでもっとマクマードは良い意味で身内を疑うべきだったのだ。
トップが納得したからと言って、それに従う下が納得しているとは限らず、独自に動いてしまう可能性があることを。
その結果が巡り巡って、世界を厄祭戦以来の危機に陥れてしまう可能性を、懸念すべきだったのだった。
しかし、たらればを語ってもしょうがない。結局結果が物を言うときもあるのだから。
331: 弥次郎 :2021/08/19(木) 20:50:14 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
Part.9 時計の針は止まらない
- P.D.世界 火星圏 火星 カラール自治区 スピリット級機動要塞「ハーリーティー」
「単刀直入に言おうじゃないか、アドモスさん。あんたはそろそろ自分の立場って奴をはっきりさせな」
自分と同じ匂いの男が、そう言い放つ。たしか、名前はジョナサン・ドゥといったか。明らかに偽名だ。
名前だけではない、直感としてわかる。いくつもの仮面を使い分けている人間の匂い、後ろめたいことをやる人間の匂い、日の当たらない所で動く人間の匂いだ。
つまるところ、高潔な彼女、クーデリアとはまるで対称的な闇から闇に蠢く人間だ。同じ間者あるいはスパイだからそれは理解できた。
あるいは、そういう人間を相手に取ることを何度もしてきた人間だろうか。
「アンタの雇用主…ああ、バーンスタイン嬢じゃないのは分かっているが、ともかくそいつにくっつくのはやめておいた方がいい。
誰か?初歩的な推理だ。
バーンスタイン嬢の周囲にいる、あるいはバックについている誰かだ。
俺達は最初はノーマンだと思っていたが奴は違った。だとするならば、自然と候補は絞られてくる。そう例えば」
わざとじらされ、その名前が紡がれた。
「ノブリス・ゴルドン」
「……」
フミタンは沈黙を返した。相手はもう確信を持っている。今さら何かを言う必要などないだろう。
「妙に出来過ぎていた。
CGSとクリュセ、カラール自治区内とハーリーティー、さらにほかの場所にも移動し、滞在するバーンスタイン嬢がピンポイントで襲われているからな。
CGSの時はしょうがない。彼女の実の父親がリークしていたわけだからな。彼女の行動予定も把握していたわけだから精度も高い。
だが、今回はどうか?カラールの人間が情報をペラペラしゃべるわけもないし、そもそも教えてもいない。
つまり、スケジュールを把握している誰かがリークしているってことだ」
「それが、わたくしだと?」
「証拠は色々と上がってる。あんたがバーンスタイン家に雇われるまでの経歴などを探ればな。
それに、あれだけの戦力を、宇宙海賊やら武装集団をまとめ上げ、おまけに武装させることができる人間なんてのはそう多くはない。よほどの大富豪でもなければ、な」
「……」
「おっと、動かない方がいいぞ。アンタがそこまでゴルドンに入れ込んでいるってのなら話は別だがな」
「…!?」
さりげなく手を忍ばせていたモノに伸ばそうとしていたフミタンは椅子に接している背中に、そして太腿に違和感を覚える。
「アンタの座っている椅子は、ちょっとした仕掛けのある椅子でな。スイッチ一つで色々とできる。
だから、物騒なものから手を放すんだな」
「……それで、何が知りたいのでしょうか?」
半ばあきらめの混じった返答に、ジョナサンは口の端をゆがめ、笑う。
「結構。ではおしゃべりと行こうか」
そして、尋問が始まることとなった。
332: 弥次郎 :2021/08/19(木) 20:53:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
フミタンの尋問が進められているのを、クーデリアはただ見守ることしかできなかった。
カラール襲撃を跳ね除けてから3日と経たず、突如として連行されたフミタン。
彼女にかけられた容疑は内通および間諜。分かりやすく言えばスパイ疑惑。
そして、その本来の雇い主というのはノブリス・ゴルドンだという。
自分の侍女として、両親よりも近いところに寄り添ってくれた彼女が、まさか自分に害をなすための人間だったというのはショックであった。
アルゼブラの話によれば、CGS襲撃の時点で既にアルゼブラはクーデリアの周囲の人間を疑っていたのだという。
その中には実の父親であるノーマン・バーンスタインがおり、パトロンであるノブリス・ゴルドンがいた。
そして、最も身近なフミタンさえもそこには含まれていたのだという。彼女の経歴などを探るうちに、ノブリス・ゴルドンとの間につながりがあったというのだ。
(フミタン……)
衝撃的すぎて現実感が薄い。まさか、という思いが強すぎる。
調べはアルゼブラで行う、と申し出てくれたのは正直ありがたい話だった。自分では、今どういう顔をして会うべきかさえ分からない。
それに、自分にはなすべきことがあった。カラールで間もなく開かれることになる、火星独立派の集会だ。
今回の襲撃と、その襲撃の報復で行われたアルゼブラの逆侵攻により、カラール自治区の影響下に納まった領域は飛躍的に広がった。
正確に言えば、広がったという程度で収まるレベルではない。火星の大多数を事実上勢力下に治めてしまった。
実質的に経済圏の支配を跳ね除けてもなお余裕のある巨大勢力となってしまったのだ。
殴られた以上殴り返すが基本の企業連の行動の結果とはいえ、図らずも、火星は独立を実質的に勝ち取ってしまったのである。
そして、それだけの勢力を現地勢力として束ねられるのが火星独立派というわけなのであるが、正直なところその独立派さえ信用ならない状態だった。
それもそうだ。クーデリアの傍の人間にまでスパイが紛れ込んでいて、パトロンさえ裏切り行為を働いていたのだから、
他の独立派が同じようなことを行っていたり、あるいは企んでいてもおかしくはない。
(ある意味で、とてつもない暴力を振るうことになりますね……)
実質、独立派をふるいにかけ、不確定要素を排除する動きだ。敵か、味方か、それとも中立であるのか。
同じ志を持つ人々を、こちらの都合で切り捨てねばならない。如何に自分の身を守るためとはいえ、それに呵責を覚えないわけがなかった。
けれども、そうしなければ何時今回のようなことが起こるかはわからず、敵対者となるか分からないのだ。
だが、敵対者とは?同志ではなかったのか?同じ目的のために動いて来た仲間を疑い、失脚させることさえ必要なのだろうか?
(私は……)
自分はそれができるだろうか。
良心の呵責にとらわれずにできるのか。後腐れなく終えられるのか。
そして、それによって生じるであろう膨大な犠牲は仕方ないことなのだと言い切れるのか。
分からない、わからないのだ。無理もない話である。
クーデリアは大学を出ているとはいえ、まだ20年も生きていない。そんな彼女が背負い込むには、あまりにも大きなものだった。
しかして、彼女が背負わねばならない物でもある。何しろ、火星独立運動を行う人間の中で最もカリスマがあり、尚且つ実行力を持つのが彼女くらいなのだ。
それに、手段を選ばなければ、クーデリアに負担のかかる状況を容易に解決する方法はいくらでもある。
しかしながら、それでは何ら意味がないだろう。勝ち取った勝利を、独立を活かしきれないままに今度は内乱に発展しかねないのだし、自らやってこそ意味がある。
悩める乙女をあざ笑うが如く、時間は容赦なく過ぎていく。転がり出した玉が坂道では決して止まらないように、動きはもはや止められないのだから。
333: 弥次郎 :2021/08/19(木) 20:53:44 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年09月18日 22:39