720: 弥次郎 :2020/09/16(水) 23:40:19 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS 短編集5



Part.10 メメント・モリ

 小さな除幕式は、短く終わりを告げた。やや湿っぽい空気になったがしょうがない。
 オルガは、改めて目の前の墓碑を見つめた。一番組・三番組・ギャラルホルン---このCGS拠点での戦いで散った全ての命を弔うための墓碑だ。
訓練が休みとなったこの日、鉄華団のほぼ全員を連れてCGS拠点を訪れたオルガらは、今日という日を迎えた。

(これで、一区切りか)

 既に団員たちは三々五々に散っている。思い出を語り合ったり、懐かしんだり、死者に思いをはせたりと様々だった。
ひょっとしたら、今の自分達の隣にいたかもしれない命。あるいは、これまでの行いの報いを受けていたかもしれない命。
それらは等しく戦場で死を迎えた。不可逆的な、どうしようもない死を。だから、死者に区別はない。ブラフマンの言だった。
 当初は三番組だけの墓碑にするつもりだったそれが変更されたのは、そう諭されたからだった。

 無論年少組を中心に、年長組からも反発はあった。ギャラルホルンの兵士に殺されたり、散々な目にあわされた一番組も同列に扱うのかと。
 だが、そういった怒りと悲しみに満ちた声をブラフマンは受け止め、その上で言った。死者に鞭を打ったところで何も変わらないのだ、と。
寧ろ、死者に対して恥ずかしくない振る舞いを生者はしなくてはならないと言われた。死者を冒涜する真似をして恥ずかしくないのかとも。
要するに死者は永遠の沈黙をするしかない相手で、無力な相手だ。そんな相手を辱めて、何が楽しいというのか。
弱いから、反抗されないからと力を振るうのは一番組と同じではないか?そんな唾棄すべき外道に自分から堕ちるつもりかと。
 言われて、鉄華団は恥じるしかなかった。いっそ怒鳴られたり叱られた方が楽だっただろう。その優しさがむしろ痛かった。

「……大人ってのは、デカいんだな」

 ぽつりと、そんなことを漏らしてしまう。
 そう、大きいのだ。清濁併せて、丸ごと飲み込んでしまう大きな存在。一方的な怒りの感情を受け止めてくれる存在。
 いつになく、自分達というのが子供であるかというのを感じた。同時に、そういう出来た大人への憧憬さえも。

「オルガ」
「おう、三日月…なんだそりゃ?」

 そこにやってきたのは三日月だ。手には何かを持っている。

「これをお墓に供えたらって言われたんだ…ちょっと前から準備しておいた」

 置かれたのはガラス細工の花だ。サイズとしては手のひらに収まるような、そんな小さな物。
 置かれている生花よりも小さく、目立ちはしないが、それでも供えるものとしては十分すぎるものだ。

「カラールで買ったのか?」
「うん。アトラと相談して買って来たんだ。
 死んだ奴には死んだ後でいつでも会えるけど……今はまだ会えないから」

 いつだったか聞いた三日月の死生観だ、とオルガは思い出す。
 けれど、最後の方は初めて聞く。今はまだ会えない。それは、まだ死にたくはない、という意思の表れだった。

(そうだよな……)

 自分達はいつか死ぬ。戦いの中で死ぬかもしれない。けれど、まだそんな死を受け入れるほど往生際は良くないし、まだやるべきことがたくさん残っている。
まだこんな未熟なままで終われない。先に死んでいった仲間に顔向けできない。

「なら、会った時のために、土産話を沢山準備しておかねぇとな」
「うん」

 仲間の死を忘れず、精いっぱい生きる、生ききる。簡単に死ぬかもしれないから、なおさら命は大事にしなくてはならない。
 死を思うことで、生を実感する。死があるからこその、生なのだ。それをオルガ達は噛みしめていた。

721: 弥次郎 :2020/09/16(水) 23:43:18 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

Part.11 悪意の天使



「これはまた、デカいな」

 そんな声が漏らしたのは、カラール地上支部を経由してクリュセ自治区を管轄する第三基地に届けられたモノを前にしたガエリオだった。
 ハシュマルタイプMAと呼ばれるそれは、全長は35.2m、本体重量だけで40t以上の怪物だ。
現在はバラバラに解体されているので小さく見えるが、実際に動いていればもっと巨大で威圧されることは間違いない。
手元の資料、このモビルアーマーをカラール郊外において発見し、分解と解析結果を印字したアルゼブラのそれを改めてみて、ガエリオは改めてため息をつくしかない。

(こんなものをどうして生み出したんだ……!)

 外部操作を必要とせず、自らが状況を判断し、独自に戦闘行動を取り、人間では付きまとう良心の呵責に悩まされる事無くそのコンセプトに従う殺戮兵器。
自己メンテナンスや自己改造までも無人子機と連携することで行い、ひたすらに戦いと殺戮を続けるだけの装置。
 しかも、決して愚鈍ではなく、並のMSなど一蹴してしまうほどの暴威を持つというのだからふざけた存在だ。
運よく休眠状態のそれを発見してばらばらにしたことで再起動の可能性は0となったのだが、そうであってもなお、恐怖心を抑えきれない。
一度動き出せば、壊れるまで敵味方関係なく殺して回る怪物だというのだから。

「ボードウィン特務三佐、これは一体…?」

 やってきたのはこの第三基地の仮司令のダグラスだ。MS隊の小隊長という地位から、仮の司令官に任じられたという、コーラルの被害者の一人でもある。
既に彼との仲は十年来の友人のようだ。具体的に言うと、ブラックな職場のつき合いによってすっかり階級の垣根を超えた仲になっている。

「モビルアーマー……厄祭戦において、大量殺戮のために生み出され、際限なく暴れた怪物だとさ」
「厄祭戦の、ですか」
「これはマクギリスからの受け売りだが、我々ギャラルホルンの前身組織は、このMAを狩ることにより、厄祭戦を終わらせたらしい。
 人であることを捨て、人を救った者たち。何とも理解しがたいが、阿頼耶識とは元々このMAに対抗するための手段だったそうだ」
「阿頼耶識が…?」
「俄かには信じられんだろうな。俺だってそうだ。だが、分からなくもない。シミュレーションされたコイツの戦闘力は、まさにバケモノだ」

 シミュレーション映像をタブレットに映して見せてやると、一気に顔が蒼白になった。
 無理もない。グレイズ一個大隊が10分と持たなかったのだから。粘っても10分持たず、油断していたグループは5分足らずで全滅した。
 そして、これが仮に市街地に解き放たれればどうなるかは、考えるまでもない。
地形を変えるほどのビーム兵器はMSでは防げても、ソフトスキンを相手にする場合では極めて効率的で、あっという間に大都市一つが火の海になった。
加えて、付随するMWの様な小型兵器であるプルーマが、小回りの利かない本体に代わって殺戮を行うのだからたまったものではない。
10や20どころではない数展開されるプルーマはエイハブリアクターを搭載していないのがせめてもの救い。
 だが、逆に言えばエネルギーを供給し、コントロールを行う本体を叩き潰さない限り戦闘を続行するということでもある。
これもまた、厄介だ。一つ一つを確実に仕留めなければならないのだが、それを行うだけで一体どれほどの時間と労力、そして犠牲が出ることになるのか、考えたくもない。

722: 弥次郎 :2020/09/16(水) 23:43:55 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

「ここにきて、阿頼耶識の施術を受けた人間を見て嫌悪感を抱いたが……こいつは別格だ。
 人の身体を多少弄る程度の施術など、比較にならない」

 そうだ、たかだか体を弄った程度が何だというのだ。こっちはもっと嫌悪すべき、そして唾棄すべきおぞましいものだ。
ましてこれが、へき地であるとはいえギャラルホルンが管轄する火星で300年以上も眠っていたというのだから余計に。
何か違っていれば万全の状態で目覚めて、大暴れされていたのかもしれないのだ。
そもそもそんなMAについての碌な資料が無く、おまけに現在の戦力を以てしても抑えきれないという事態が許せない。

「正直なところ、ギャラルホルンがMAを狩りつくしたというのは半信半疑だが、これと同じようなものがまだあるかもしれないと考えるだけでな…」
「同意いたします……もし他にも眠ったままで、何かの拍子に目覚めたら……!」
「厄祭戦再び、だ。まったく、たまったものではないな」

 もしマクギリスの話が本当であるならば、今のギャラルホルンはMAが再び跋扈する事態を防ぎ、尚且つMAをいざというときに打倒する役目を果たすことが出来ない状態にある。
まして、その役目の伝承さえも300年という時間の間に殆ど途絶えているというのだから目も当てられない。
 ガエリオは、悪く言えばお坊ちゃまで、セブンスターズという特権階級の出だ。だが、一丁前に高貴ゆえの義務には理解があった。
その考えに基づけば、ギャラルホルンは特権階級としてこれに対処しなくてはならないと感じているが、その力が無いという何とも歯がゆい事態だ。

「ともかく、コイツは地球のギャラルホルンの本部に送ることになっている。できるだけデータを集めておいてくれ」
「はっ!」

 ダグラスに残りの仕事を任せ、ガエリオはデスクワークに戻る。モビルアーマー。なるほど、自立兵器というのは確かに高度なテクノロジーだ。
 だが、かと言って手放しで使えるものではない。実際、手を放した結果敵味方関係なく暴れるハシュマルのようなものが生まれたのだから。

(……たしか、企業では似たようなのを使っているとマクギリスが言っていたが、よもや同じものではないだろうな?)

 まあ、制御されていなかったら今頃大戦争になっているな、と一旦思考から追いやる。
 今ガエリオがやるべきは、このアルゼブラから渡ってきたMAについての報告をまとめることだ。
 既に実質3徹目にはいってふらつく足を引きずりながらも、ガエリオは自分の仕事以上のことを果たすべく動き続けるのであった。

723: 弥次郎 :2020/09/16(水) 23:44:55 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ガエリオとマッキーの激務の原因はこんなのもあったりするんです。
あと、鉄華団にとって大事なことを一つ。
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最終更新:2023年09月18日 22:47