654: 弥次郎 :2021/08/02(月) 21:15:28 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「星の海に帆をかけて」(改訂版)
火星、カラール自治区の陸港から出発したセントエルモスを構成するエウクレイデスおよびカルダミネ・リラタは、順調に上昇して大気圏を離脱。
火星の衛星軌道上のソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦とランデブー。
ここで護衛のリリアナ艦隊、地球までの案内役となるタービンズの船である「ハンマーヘッド」と合流した。
火星の衛星である「タイタン」を利用した火星における公用の宇宙港「方舟」は使用しないことになった。
というのも、ギャラルホルンやカラールの再構築会議において事実上決別した火星独立派やその縁者からの攻撃を恐れてのものだった。
ただでさえ治安が悪い圏外圏である上に、ギャラルホルンがまさか犯罪者を解き放つという事態をやらかしてくれたので公的な場所でも安心できないからだ。
ついでに言えば、もはや同じ火星独立派さえも信用ならない状態だった。実際、カラールの襲撃に火星独立派の一部が絡んでいたのだ、スポンサーという形で。
クーデリアがここで人間不信を再発しなかったのは僥倖だ。まあ、すでにフミタンという例を潜り抜けたのでダメージは小さかったのだろう。
ともあれ、より安全性が高い方を選ぶこととなり、コロニーを軽く超えるスケールのこの母艦が使われることになったのだ。
ここで簡単な出発式を経て、セントエルモスは出発。順調に星の海へと漕ぎ出すことになった。
タービンズの試算によれば順調に航海が進めばおよそ2週間と少しで地球の近縁、すなわち月軌道の内側に入ることができるとされている。
道中で少し寄り道をすることになることを考えれば、およそ3週間だ。正規航路ではないため時間はかかることになった。
だが、逆に言えばギャラルホルンの把握していない、テイワズ独自の有する航路であるため、安全性はほぼ確実だ。
そんなタービンズやテイワズ以外が知らない航路においてギャラルホルンにブッキングするなど、よほどの不運だということだろう。
というわけで、セントエルモスは哨戒機を放ちながらもエスコートを受けて航路を進むこととなった。
当然時間が余っているわけで、鉄華団の面々のやることは一つである。すなわち、勉強と訓練だ。
エウクレイデスに設けられた会議室を借り切っての学習は、主として年少組がメインとなっている。
そも、年少組がこの地球行に同行する条件が、学習を受け続けることと、地上では学べない宇宙作業の訓練を受けるためであったりする。
よって、地上にいた時よりもさらに密度の濃い課題を課され、彼らはうんうんとうなりながらも取り組んでいる。
彼ら自身は阿頼耶識の施術を受けていることで、立体空間の認識能力が訓練せずとも高く、無重力空間での作業は問題なくこなせる。
だが、体で理解していても、頭でも理解してもらわねばらなないので、ひたすらに勉強で基礎理論を学ぶ。
年少組だけでなく、年長組も忙しい。オルガの意向により通信制大学を受講することになったので、その事前段階の勉強をしなくてはならない。
加えて、MSやMTの訓練も合わさっているのだから、余計に時間は余裕がない。つまり、地上での準備期間を焼き直した光景が繰り広げられていたのであった。
「しかし、大所帯なんだな……セントエルモスは」
「止むを得ない事情がありましてな」
夜間時間前の夕食の席。タービンズとセントエルモス。ほかの出席者はリリアナからオールドキング、そしてアンジェラを引き連れたクーデリアだった。
自然と話題に上がるのは、訓練と教育を受けている鉄華団のことだ。
本来ならば地上に置いて行かれるかもしれない彼らが、エウクレイデスに同乗し、一端の傭兵として仕事に取り組んでいるというのは中々な光景だ。
ヒューマンデブリかと思えば、そうではない。キチンと教育を施し、人として扱い、訓練をしていて、仕事も割り当てる。
当初こそ眉をひそめていた名瀬だったが、事情を知ってからはむしろ感心していた。
「マルバの野郎の尻拭いってわけか」
「ええ。彼らがまっとうな道を進めるように導いてやることが大人のすべきことでしょう。
鉄華団に限ったことではありませんが、企業連では数十万人単位のストリートチルドレンやヒューマンデブなどの少年兵を保護。そしてDDRを行っています」
「数十万……そんなにかい?」
アミダの呆然とした問いにクロードはうなずいた。
「労働力として子供が使われる一方で、面倒が見切れなくなった子供は容赦なく捨てられる。
弱肉強食の世界から一度脱落すれば、もはやそこは畜生の生きる世界です」
「人じゃない、か」
「タービン氏ならばお分かりかと思いますがね」
「……まあな」
655: 弥次郎 :2021/08/02(月) 21:16:04 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
言われれば名瀬も理解できる。自分のハーレムは、一方で女性の駆け込み寺的な意味が大きい。
それは女性が弱者として搾取され、行き場を求めて路頭に迷うのを見ていられないからこそ、名瀬が拾ったのだ。
それこそ、タービンズという一つの会社を構成するくらいには女性を拾ってきた。その性質上、女衒などと揶揄されることもある。
しかし、少なくとも名瀬としては全員にちゃんと愛情を注いでいるし、一端の人間として仕事を任せてもいる。
彼女らは単に囲われるだけでなく、タービンズの社員として働き、自らの糧を得て、居場所を得ているのだ。
逆に言えば、そうでもしなければ、女性という弱者は貪られて、ごみのように捨てられる世界ということだ。
成り上がれなかったものは容赦なく命を落とす。いや、命を落とすよりも惨いことになることもある。
「企業連としてはこれを進めてはいますが、やはり社会の根本的な問題解決が必要と考えております」
「だからこそ、バーンスタインのお嬢さんを支援するってわけか」
「ええ。これには企業として市場を拡大することと、火星を健全な状態にすること、この過程での利益をいただくつもりです。
むろんその後の火星の発展も含めて、ですが」
「大変だな」
「ええ。ですが、私がやらねばならない状況です」
事情を聴かされている名瀬としては、何とも言えない表情を浮かべるしかない。
やらねばならない、とは退路がない悪い状況。しかして、彼女しかいないのは事実だ。まともな奴がクーデリアしかいねぇ!というわけである。
そんな火星の事情にあきれるやら同情するやらで、タービンズとしては複雑極まりない。応援すべきか、助言の一つでもやるべきか。
「慰めはいりませんよ。それに耳を傾けるより、前に進みますから」
訂正、とクーデリアへの評価を名瀬は改めた。これは女傑だ。この歳で完全に覚悟が決まっている眼だ、と。
さもありなん、とクロードはうなずくしかない。この少女、十数人分が一生で背負う苦難をこの2か月足らずで味わっている。
その間、数回ではきかない挫折と復帰を繰り返しているので、メンタルはすでに鋼を通り越してオリハルコンだろう。
「それより、ぜひタービンズやテイワズについて…圏外圏について教えていただけませんか?
「俺たちの、か」
「いいじゃないか、アンタ。いろいろとネタになりそうなことがあるじゃないか」
「といっても、なぁ…」
「一夫多妻をなされているようですが、連合では割とあることですしなぁ…」
「お、そっちでは一夫多妻が普通なのかい?」
「いえ、選択肢の一つです。一夫多妻、多夫一妻、同性婚・異性婚、異種族間婚などいろいろとありますから」
さらりとクロ-ドが口にした内容に、タービンズ側は驚きを隠せない。
多様というにも限度があるのでは?というレベルだ。というか、異種族もいるというのか。
「異種族?人間と、その、別な種族がいるのか?」
「ええ。ゼントラーディ、メルトランディ、ELSといった外宇宙からやってきた種族。
そのほか、平行世界から流入してきた種族が多数。さらには人格を持つと認定されたAIとの結婚もあります」
「……魂消たな」
「その、なんだい?おとぎ話のような種族までいるのかい?」
「ええ。おおよそ100年ほど前に連合に加盟した地域におりますので」
「……下手に俺たちが喋ってもインパクトに負けそうだな」
謙遜、いや委縮してしまった名瀬に、クーデリアは迫った。
「いえ、私はこの宇宙のことを知りたいので、ぜひお願いします」
特に、とクーデリアはアミダのほうへ視線を送った。
「おいおい、お嬢さんは一妻多夫でも考えているのかい?」
「いえ、どちらかといえば……一夫多妻のほうです…」
顔を赤らめるクーデリアに、さすがのクロードたちも驚く。
覚悟が決まっていたと思っていたが、まさかそっちのほうまで決心していたのか?と。
同時に、日ごろクーデリアとも鉄華団とも接しているブラフマンは何となくだが誰が意中の相手で、誰がともに伴侶を支えていこうとしているのかを察した。
「……面白そうじゃねぇか。じゃ、聞かせてやろうかね」
そして、その日の夕食は、たいへん姦しいものとなったとだけ言っておこう。
656: 弥次郎 :2021/08/02(月) 21:16:47 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年09月30日 18:56