738: 弥次郎 :2021/08/03(火) 23:45:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「星の海に帆をかけて」2(改訂版)
- P.D.世界 火星-地球間航路 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」 艦橋
エウクレイデスの艦橋、用意されているモニターの一つを借り切ったローは思案を重ねていた。
火星が火星連合として独立を宣言したことはすでにメディアを通じて経済圏やギャラルホルンの知るところとなっている。
武力による火星全土の制圧と実効支配。それが企業を動かしてのもの、ということを差し置けば、旧世紀の植民地の独立運動そのものだ。
火星側から見れば、それは搾取と圧政からの解放を求め、実現させたということになる。
だが、反対に支配者であった経済圏から見ればどうなるか、といえば、それは反乱であり反逆行為。敷いては支配体制の否定だ。
これまで経済圏が結んでいたEM経済協定の破棄や市場などを奪い取ったということで内乱罪などが適用されることになる。
そうした場合、火星代表であるクーデリアは首謀者ということになるので間違いなく極刑となるだろう。
当然として、それに大々的に協力して出資や援助を行っている企業連やアルゼブラも同様に罪に問われることになる。
(そして、軍事経済活動はギャラルホルンが取り仕切っていて、経済圏はクーデリアの捕縛を命じることになる、と)
火星圏のギャラルホルンは過半がカラール襲撃に際して捕縛もしくは撃破されており、機能不全に陥っていた。
だからこそ、彼我の戦力さもあって臨時指令のマクギリス・ファリド特務三佐は権限を委譲し、実質的に業務遂行能力がないことを認めた。
だが、経済圏がこれまでの平穏を覆したクーデリアをその程度であきらめるわけがない。
(月以遠の治安維持は実質的に火星支部とアリアンロッド艦隊に一任されている。
そして、アリアンロッドはギャラルホルン最大にして最精鋭とされている。この艦隊が動くことはほぼ確定だな)
現在のところ、テイワズの有する非正規航路を用いていることでステルスしているのが現状。
とはいえ、どうしても非正規航路から抜け、人の目につくところを進まなければならないのも事実。
自分がアリアンロッド艦隊ならば、そこで網を張るというのが常套手段となるだろう。
戦力を一極集中とはいかないが、少なくともまとまった数を配置すればほぼ確実に捕捉は可能だ。
当然ながら相手との話し合いは無理だ。相手は結局のところ経済圏の意向を受けて動く武力組織でしかないのだから。
なにしろ、経済圏は火星の独立を認めはしない上に、その独立で損害を受けた立場でさえある。
そしてギャラルホルンは経済圏の指示で動き、また治安維持組織として革命を鎮圧する側だ。
もしぶつかれば、否応なく激突となる。火星出立前から考えてはいたが、やはりそうなるだろう。
まあ、自分の仕事は戦闘前の口上や戦闘後の後始末だ、とローは考えている。ドンパチは仕事ではない。
対して、経済圏、特にクーデリアが独自に交渉を持っているアーブラウとの交渉については出番が大きくなるだろう。
そこについてはクーデリアともすでに何度か話し合いの場を持ち、打ち合わせを済ませている。
問題点となるのは、アーブラウが火星独立を認め、新しい付き合いを持つかどうか飲み込むかどうかだ。
前提条件として、すでに火星の状況は彼らが既知としている範疇をはるかに超える形で変わっている。
火星独立によってアーブラウも植民地を失ったに等しく、それの補填、もしくはそれ以上の利益をもたらせるかどうかが火星に求められることだ。
少なくとも、火星独立がアーブラウにとってプラスであれば円満に終わらせることが可能だろう。
無論、火星としては地球の意向など無視してもよい。が、完全に縁が切れてもまずいのだ。
手にしているカードは十二分にある。あとは、いかに場に出していくか、それにかかっているだろう。
「おうい、ロー。いるか?」
「ブラフマン?」
顔をあげてみれば、ブラフマンがブリッジに入ってくるのが見えた。。
「珍しいですね、戦闘時でもないのにここに顔を出すのは……まだ鉄華団の訓練中だったのでは?」
「早めにカリキュラムが終わったんだ。阿頼耶識のおかげか、習得スピードが地上での訓練とは段違いだった。
精度や技術レベルに対して得られる恩恵がとんでもない。阿頼耶識でMSとリンクしていなくても、空間識失調などなく、MSを的確に操縦してのけるんだ」
言いながらも、ブラフマンはドリンクボトルを差し出してくる。
「だから、早めに宇宙での実機訓練は終了だ。ま、代わりにレポートを書く時間を長くとってやった」
「鉄華団にとってはそっちのほうがいいでしょう」
だよな、と苦笑いしつつ、ブラフマンもドリンクボトルの中身をあおる。
739: 弥次郎 :2021/08/03(火) 23:46:14 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「ま、先の一か月で急ぎで仕込んだ分、まだましだ。だいぶ一端の傭兵らしくなってきた。
あとはこの地球行で経験値を積んで、そこからは自分たちの力だな」
「……まあ、そうですね」
割と付き合いとしては長くなっただけに、愛着は沸いている。
あって別れを繰り返すのが傭兵業の常とはいえ、彼らにはもっと教えてやりたいことがたくさんある。
将来有望な若者たちだからこそ、もっと手塩にかけて育て、成長を見守ってやりたいのだ。
まあ、実務派のローとしては、事務方をもっと充実させる必要があると思うのだが----
「!?」
「アラート!?」
発されたのはコード:イエロー2。戦闘即応警戒態勢。未確認機(ボギー)もしくは敵性集団との会敵が予想される状況。
しかも直近に迫っていることを示す警報だ。直前まではコード:ブルー3、通常体制であったのに対し、段階をすっ飛ばしているおまけつきだ。
「ロー!」
「ええ、タービンズに問い合わせています!この航路だ、意味は決まり切っています!」
「任せた。オペレーター!非常呼集だ!戦闘要員はブリーフィングルームに集めとけ!」
「了解!ブリッジより全艦および作戦行動中の各機に通達!
コード:イエロー2発令中、コード:イエロー2発令中!直ちに戦闘準備態勢に入ってください!」
ブラフマンの一声で、ブリッジはにわかにあわただしくなり、クルーがそれぞれの動きを始める。
そう、セントエルモスとカルダミネ・リラタ、そしてハンマーヘッドを囲うように警護するリリアナ艦隊の艦載機が補足し、警報を発したのだ。
未確認のエイハブウェーブを発していた機体の映像はすぐさま解析にかけられ、照合され、確認がとられた。
それは、宇宙での偵察行動のため装備を換装したグレイズ。すなわち、ギャラルホルンと推測されていた。
「みよ、匪賊どもが現れたぞ!」
イオク・クジャンは歓喜していた。
火星独立をあおり、反乱を引き起こし、火星を武力で制圧したクーデリア・藍那・バーンスタインを補足したのだから。
より正確に言えば、そのクーデリアの乗るエウクレイデスとお付きの輸送艦、さらに案内役の船などを、ジャスレイからリークされた航路でついにとらえたのだ。
ジャスレイとイオク。この両者は一見にしてつながりがないかのように思えるが、実際はそうではない。
先代のクジャン家当主、すなわちイオクの父親のころからJPTとの間でつながりがあったのだ。
現体制におけるトップに君臨するといっていいセブンスターズと言えども、必ずしも清廉潔白でいられるとは限らない。
その意味合いもあって、圏外圏の企業というのはある意味で都合が良い存在なのだ。
さて、本題に戻ると仕様。
イオクがこのような行動、すなわちクジャン家の戦力を含めてアリアンロッド艦隊の一部を動かして出撃したのには理由が存在していた。
すなわち、自分の後見役であるラスタル・エリオンの汚名返上のため、である。
現在、アリアンロッド艦隊司令官を務めるセブンスターズの一角、エリオン家の当主であるラスタルはいくつかの問題について責任を問われていた。
いや、いくつか、などという生ぬるいもので終わるものではないといった方が正しいだろう。
火星支部での通常業務を超えた治安維持行為。
さらに火星支部において捕縛されていた犯罪者の釈放。
さらにそれらを用いての自治区への襲撃、襲撃に脱走したギャラルホルンの兵士が関与していた問題。
そのほかにも常態化していた火星の汚職などなど数えるだけでめまいがするような罪状や腐敗の責任を問われた。
無論、ラスタルがあずかり知らぬところのほうが多いのは確かだ。
ギャラルホルンの指示系統や監督責任は複雑で、どの家がどこまでを管轄しているのかがよく決まっていない。
一応の区分としては、月より外側を管轄するのはアリアンロッド艦隊であり、その司令官として責任を負う立場にいたのがラスタルである。
むろんラスタルも、これが火星支部を野放しにし、犯罪を見過ごしてきたギャラルホルン全体の過失だと訴えたがそれは言い訳にもならない。
また、ここには経済圏からもやり玉に挙げられていた。
理由としては至極単純な話だ。火星支部の戦力が減っていたとはいえ、火星独立運動を阻止できなかったこと。
そして、これまではせいぜい独立運動レベルだったものが、一気に独立のために実効性を持って行動され、実効支配を許してしまったこと。
740: 弥次郎 :2021/08/03(火) 23:47:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
いうまでもないことだが、火星は経済圏によって分割統治され、搾取されている。あらゆる産業において奪うことにより経済圏が潤う、というわけだ。
だが、搾取による経済体制を覆されたとなれば、独立運動を抑止する義務のあるギャラルホルンに責任追及の手が伸びる。
まあ、無理もない。これまではせいぜいが小規模な運動ばかりで、ようやくまとまりを見せたのがノアキスの7月会議くらいであったのだ。
それがいきなりすっ飛ばしで独立に至るなど、だれが想像できただろうか?だが、結果がすべてであるのも事実。ゆえに、ラスタルは窮地であった。
イオクもまたそれを知り、何とかしようとしていたが、いかんせん彼はまだクジャン家の次期当主という肩書に過ぎない。
ついでに言えば、彼もまたラスタルの庇護下にある人間であるため、彼がラスタルを弁護するとしても説得力に欠けた。
これが往時のクジャン公、イオクの父親であるならばもう少しましだったかもしれないが、あいにくと彼は病床にあった。
だが、そんなことで納得する彼でもなく、また我慢ができるわけではなかった。
というかできる性分ならば、もうちょっとはまともなことをしているだろう。
ともあれ、そんなところにジャスレイ・ドノミコスからの情報のリークがあり、名誉挽回とばかりに動いたのである。
無論、ラスタルに相談どころか報告すらしていない。ラスタルが事実上の軟禁状態であったことに由来する。
取り調べ中というか、他のセブンスターズやギャラルホルンの監査局などからの突き上げを食らう立場にあって、そんな悠長なことを許されるはずもなかった。
閑話休題。ジャスレイから情報や企業連から得られた物品などを入手し、これを証拠として弾劾せんとしたイオクは出撃した。
ここで自分が賊をとらえれば、火星独立運動は一気に象徴を失い、ギャラルホルンによる元の秩序を取り戻し、ラスタルにかけられている嫌疑を晴らすこともできる。
即ち、ラスタルとその派閥が自分たちの不始末の結果を自分で処理した、と言い張れるわけである。
だが、ここでイオクが失敗すればそれ以上の嫌疑と追及がラスタルにおっ被さることになるのだが、果たしてそれをイオクが認識していたかどうか。
自浄は理解できなくもないとしても、軍事組織としてコントロールされるべき戦力を勝手に動かすことの重大性を果たして理解していたかも怪しい節がある。
ともあれ、目論見通り偵察機は賊をとらえ、艦隊は賊の艦隊を包囲するように展開した。
万全といえる態勢と、それに由来する自信をもってイオクは命じる。
「停船命令を出せ!また、賊には私自ら話をつける!回線を開け!」
だが、彼はすでに酔っていた。自らが正義をなすのだという優越感に。だから、想像もできなかった。
エウクレイデスを筆頭としたセントエルモスが自分たちより早く自分たちを探知しており、その対応について打ち合わせ、対応策を整えていたことを。
また、相対している相手が、いかにこの世界の常識では決して図ることのできない、危険極まりない存在であることを。
戦いはその準備の差を以て決着するといっても過言ではない。その意味では、とっくに勝負はついていたかもしれないのだ。
- ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」艦橋
こいつはアホだ。主任渉外官のローは渉外、つまり外部との交渉を行う主任として顔を出していたが、相手をそう判断していた。
モニター越しに仰々しく振舞い、ギャラルホルンの「正義」を語るイオク何某を冷めた目で見つめていた。
ギャラルホルンであることを明かしてその権限に基づいて停船命令を出してきたので、とりあえず速度を緩めて話だけは聞いてみることにしたのだ。
相手の口上は「火星で独立運動を扇動し武力で実行に移したクーデリア・藍那・バーンスタインを逮捕する」云々というもの。
これは、まあ問題はない。だが、気になるのは憂える一般市民からの通報でこちらを補足したと自信満々に語ったのだ。
「こんな馬鹿が情報をボロボロ出してくれるとはな」
ローは意図的に話を長引かせ、情報を吐き出させている。それは情報を集めるためであり、セントエルモスの意思決定の時間を稼ぐためだ。
その間にクロードはクーデリア、ハンマーヘッドの名瀬、ミネルバ級全域航行艦「リリアナ」のオールドキングらとリアルタイムで交信中だ。
741: 弥次郎 :2021/08/03(火) 23:48:37 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
『一般市民がギャラルホルンに情報を告発した。
ということは、この航路を知っているテイワズ内部に内通者がいるってことになるなぁ?』
『……そうかもしれないな。はっきり言えば、俺はテイワズ内部に味方は多いが敵も多い。
だが、今回の件はテイワズでもオヤジに厳命されている件だ。裏切ったら、はじき出されるどころじゃねぇ。親父が自分で首を取りに行くような件だ』
オールドキングの指摘に、名瀬は顔を青くしながらも答える。
そう、今回のエスコートはテイワズに対する試金石だ。ちゃんと仕事をこなせる、信用に足る組織かどうかを知るための。
仕事の報酬の前払いという形でエイハブリアクターのほか、技術なども提供されており、その価値は生半可なものではなかった。
だからこそ、マクマードは自らアルゼブラや企業連との話し合いに赴き、幹部にも釘を刺し、今回の仕事を引き受けたのだ。
今回の仕事を無事に終えることができれば、テイワズは独立した火星とその周辺での商売への参入も視野に入ることになる。
そうなれば、これまでの比ではないシノギを得られるのだ。単に火星だけでなく、連合との交易も見込めるのだから。
そういうわけだから、名瀬を恨んでの行動にしてはあまりにもリターンが小さすぎる。最悪、テイワズが丸ごとつぶされかねない事態になるのだ。
そして、もう一つ気になる点がある。イオク何某は、セブンスターズの一角のクジャン家と名乗りを上げたことだ。
それが意味するのはどういうことか?所属であるにしても、セブンスターズの家として名乗り出るのは少しずれている。
『セブンスターズの家が独自に動いた、というのも解せんな』
『はい。私は経済圏から見れば独立運動をあおって独裁を敷いた人間ですから、目の敵にされるのは当然です。
ギャラルホルンからすれば逮捕されてしかるべき。ですが、まずセブンスターズとして名乗りを上げた、というのがなぜなのか…』
『そこを聞いてみよう』
おほん、と咳払いをしたローはあえて慇懃に尋ねる。
「では聞こう、イオク・クジャン。クーデリア・藍那・バーンスタインをとらえようとする、その理由は?
この企業連の所属であるエウクレイデスやカルダミネ・リラタ、そして傭兵であるリリアナまでとは、その根拠はどこにある?
『ふ、殊勝なことを聞くな。いいだろう。
貴様ら火星独立派の扇動や工作で、ギャラルホルンの火星支部はいわれなき罪をかぶせられた。
卑怯なそれにより、ギャラルホルンは動けなくなってしまったのだ……そう、ラスタル様までも!』
「アリアンロッド艦隊の司令官までも?」
『その通りだ!ゆえに、私はその汚名をそそぐべく行動している!』
堂々と言い放つイオクに、ローも、そして話を聞いていたエウクレイデスのブリッジクルーも言葉を失う。呆れで。
『完全に私情で警察権を行使しているんですが…』
ローのあきれ返った報告に、他の面々も面を食らった。
つまり、正規ルートで戦力を動かせないから、100%私情と家の持つ立場と権力で艦隊を動かした、ということだ。
それで動く軍事組織というのもどうかと思うが、それ以上にそんな統制でよく組織としての体を成していると感心さえしてしまう。
それに加えて、アルゼブラと交渉の場を持ったファリド特務三佐から上がっているはずの報告書とまるっきり証言が異なっていることが気になる。
『情報がまるっきり違うんだが……』
『あの特務三佐の報告はこちらでも目を通させてもらったが、ギャラルホルンの非を認めるものだったぞ?
何をどう読んだらそうなるんだ?』
『……すいません、ちょっと頭が痛くなってきました』
『奇遇ですね、バーンスタイン代表。私もです』
『もう少し長引かせろ、ロー』
『了解』
再びイオクとの話に突入するローは心得たもので、クロードの指示の通り話を長引かせる方向に動く。
その間に、セントエルモス首脳部は最終的な意思決定を行う。
『とにかく、背後関係は不明だが、火星独立を阻止できなかったことなどから、このイオク何某の上司であるラスタルは咎められている最中。
そして、何者かの情報リークを受け、セントエルモスの情報を得たことで、これを捕縛することで名誉挽回とするつもり、と』
『しかも令状もなしに100%私情で、だな』
『笑えん話だ。しかし、法を掲げながらもその実として無法を振りかざすならば、こちらにも利がある。そうだな、ブラフマン?」
『ああ、やり取りはすべて録音済みだ。いつでもやれる』
うなずき合うセントエルモスとその一行の首脳部。すでに艦載機の準備は整いつつある。
相手ももとよりそのつもりだろうが、喧嘩を売った相手が悪かったし、状況も最悪そのものだ。
ならば、この状況を食い破って脱出することに、何ら憂いはない。イオク・クジャンらの命運はここに決まった。
742: 弥次郎 :2021/08/03(火) 23:49:16 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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あちらこちらの修正を行いました。
最終更新:2023年09月30日 18:56