8: 弥次郎 :2021/08/07(土) 22:41:21 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「星の海に帆をかけて」3(改訂版)
- P.D.世界 火星-地球間航路 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」 艦橋
『降伏しないか、反徒共!』
「残念ながら、そちらの勧告には従えない。そちらの一方的な要求は無茶苦茶を通り越している。
ギャラルホルンの統制局やそちらの所属先であるアリアンロッド艦隊司令部に問い合わせたいところだが?」
『ふ、貴様らなぞにそんなことが許されるとでも?』
「確かに逮捕権や捜査権がギャラルホルンにあることは確か。
だが、それが明らかな横暴であった場合、あるいは誤りである場合、それについて問い合わせることもできるはず。
まして、今回のクーデリア・藍那・バーンスタイン代表の地球行きは経済圏も認めるところとなっている。
GHは政治的な案件に対して首を突っ込むことができないはず。そこに介入するのはどういうことかな?」
ローは特大爆弾を投げ込んだ。
そう、ギャラルホルンはあくまでも治安維持組織であり武力組織。その権限は確かに大きい。
だが、経済圏の政治経済などに対して緩衝する権限は持っておらず、それを犯すことはセブンスターズと言えども許されることではない。
もしそれをやらかせば、除名どころではない処罰が下されることになるのだ。それこそセブンスターズでも追放は避けえない。
それを指摘したところ、明らかにイオクは動揺した。
『か、か、解釈などどうにでもなる!虚言でこちらを惑わすなど姑息な!』
「虚言も何も、真実ではないのか?」
『ふ、ふん。後悔するんだな!われらアリアンロッド艦隊に、そしてクジャン家に逆らったことを!』
お決まりすぎる捨て台詞と共に、通信は切れる。明らかに、逃げを打った。
エウクレイデスの艦橋には何とも言えない空気が漂っていた。戦いの直前にはふさわしくない、弛緩した空気というべきだろうか?
余りにもお粗末すぎる相手の対応に呆れてしまって、何にも言えなくなってしまったのだ。
「まったく、締まらないな……まあいいか。艦載機部隊は順次発進。
定石通り砲戦から仕掛けるので、射線上から離れるように通達」
「了解」
「気の抜けそうな相手だが、油断するなよ」
ブラフマンは、緊張の糸を緩めぬように声を張り上げる。
正直なところ、相手は脅威ではないだろう。だが、これで油断してはならない。これでも一応は戦闘なのだから。
包囲されている状態であるとはいえ、艦載機の発艦準備はとっくに済まされており、展開は即座に行われた。
エウクレイデスおよびカルダミネ・リラタからは本隊と鉄華団のMSが出場。
続けて、リリアナ艦隊からハイエンドノーマル部隊とオールドキングの操る「リザ」が出撃していく。
総勢としてはおよそ20ほどだ。そして、そこにタービンズのMS隊も出場することになった。
本来ならばセントエルモスの艦載機戦力はまだまだあるのだが、まだ出場させてはいない。
対して、イオクの率いる艦隊はハーフビーク級宇宙戦艦を8隻とエスコートとなるビスコー級クルーザー14隻余り。
艦載可能なMSは相当数に及び、実際に出場しているだけでもMSが60機越えの大戦力となっていた。
しかし、戦力差があっても作戦指揮を執るブラフマンには焦りなどなかった。
「各艦、ディメンジョンフィールドを展開しつつある程度密集。牽制砲撃を行って決戦距離に近寄らせるな。
こちらからの反撃は少なめでいい。話を聞かなくてはならんからな」
この世界における艦砲はおおむね実弾系だ。ディメンジョンフィールドはよほどの大出力でなければその程度はじき返す。
同じ次元作用効果を持つ兵器か、相応の属性付与を済ませたものでなければおそらく艦砲でも抜くことは不可能だ。
そしてこちらはあえて密集することで、フィールドの展開幅を小さくし、確実に防御する。
手早く指示を飛ばしつつ、しかし、ブラフマンは解せないところが一つあった。
9: 弥次郎 :2021/08/07(土) 22:41:57 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
(しかし、艦載できるであろうMSに対して展開数が少ないな……第二攻撃のために温存しているのか?)
鉄華団らを艦隊直掩、タービンズとリリアナMS隊が対艦攻撃に展開していくように振り分けたはいい。
こちらのMSより多いからこそ、対MS戦闘に割くMSの数を少なくしているのはある程度納得だ。だが、展開数が少ない。
まるで、何かのために温存しているかのように。
(……なにかある、な)
ブラフマンはそう判断した。確証はない。だが、何かあると考えておいて悪いようにはならないだろう。
念のためにオペレーターに追加で指示を出しておきつつ、ブラフマンは戦闘の幕開けを宣言した。
「さて、始めようか……各砲門開け、攻撃開始!」
ブラフマンの声とともに、ミサイルセルや各艦の砲門が一斉に火を噴く。
鉄血世界ではすたれているビーム兵器を中心に実弾砲も交え、先制で敵をの動きを封じる射撃だ。
だが、第一射以降はあえて直撃を狙わない。艦隊の動きをけん制するにとどめる。何しろ、事情を聴きださねばならないのだ。
だから、MSによる近接戦を以て敵艦隊を無力化、拿捕する必要がある。そして、セントエルモスから放たれたMSがギャラルホルンのそれと激突する。
「先鋒、タービンズMS隊が交戦開始!」
「さて、お手並み拝見だな」
まず先鋒としてギャラルホルンのMSと激突したのは、タービンズのMS隊3機だった。
オキツヒメ、千里、百錬改で構成された3機種3機のMSは、イオク艦隊の持たぬアドバンテージを有していた。
すなわち、KP式ビーム兵器である。
『もらったよ!』
先制攻撃として放たれたそれは、ギャラルホルンの兵士にとっては脅威ではなかった。
だから、よけるまでもないとせせら笑い、しかし、次の瞬間に綺麗にコクピットごと貫かれ、この世から退場することになってしまった。
『うわぁ……本当に貫通しちゃった』
『ぼさっとしている暇はないよ!』
『はい、姐さん!』
KPビーム兵器は、長じれば分子結合の分解まで起こすコジマ粒子を攻撃転用しているだけあって、ナノラミネートアーマーと相性が良い。
機体表面を覆っている分子を無理やり剥ぎ取り、分解し、貫通してしまうのだ。
加えて、興奮状態のコジマ粒子の余波で、至近弾でさえもMSの装甲を覆うナノラミネート装甲のコーティングをはぎとってしまう。
つまるところ、一発即死も在り得る攻撃が次々と自分を狙ってくるという恐怖が急に襲い掛かってきたのだ。
『ほらほら、ちゃんとよけてみなよ!』
オキツヒメ、そして僚機の百錬改からの射撃に対して、先鋒を任されていたグレイズたちは右往左往するしかない。
そもそも、碌な回避運動さえとっていない彼らはあまりにもいい的すぎて、同時に、アミダらの策の中にとらわれてしまった。
〈な、なぜだ、古いビーム兵器がなんで!?〉
〈知らねぇよそんなの……がぁ!?〉
『動きが遅い!』
射撃に気をとられて動きが単調になったその隙をついて、百錬改は一気に接近を選んだ。
抜き放つのはKPビームサーベル。こちらもコジマ粒子の恩恵を受けた光学兵器だ。当然のこと、ナノラミネートコーティング程度では防げない。
だが、相手もさることながら、とっさにアックスを引き抜いてそれを受け止めようと繰り出してきた。
しかし、アジーは押し切る。知っている通りの性質ならば、こちらが押し切れると知っていたからだ。
〈な、なんで……!?〉
10: 弥次郎 :2021/08/07(土) 22:42:41 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そして、狙い通りアックスはコジマ粒子の刃によって一気に食い破られ、その刃は止まることなく胴体を切り裂いた。
『次!』
それで満足することなく、アジーの放ったKPライフルの一撃は一機のグレイズの脚を打ち抜いた。
たかが足であるが、宇宙空間において活動するMSでは四肢の欠損はAMBACに大きな影響が及ぶし、バランスも大きく狂うことになる。
そして、ダメージを受けたという事実はパイロットにも影響を与え、集中を鈍らせる一要因となり得るのだ。
〈な、どこから……!?〉
『もらったよ!』
そして、その隙をついたアミダのオキツヒメは一気に肉薄。こちらもKPビームサーベルでグレイズをなます切りにする。
瞬く間にグレイズが駆逐されて、しかも眼前で見せつけられて、戦意はどうしてもくじかれてしまう。
〈ひっ、こ、こんなの聞いていないぞ!〉
〈待て、逃げるな!敵前逃亡は……!〉
怖気づいてしまったグレイズが逃亡を図るが、そんな動きよりも千里改のほうが圧倒的に早かった。
元より他のMSを圧倒する速力を発揮することが可能な特異なMSなのだから、高々グレイズが逃げを打ってもすぐに追いつける。
『逃がさないよ!』
〈ひいっ!?〉
だが、そのパイロットも馬鹿ではない。生存本能に従い、とっさにライフルをばらまいて牽制する。
が、とてもではないが射撃が追いつけはしない。華麗な動きで弾幕を振り切ってしまう。
〈な、なんて速さ…!〉
『遅いのよ!』
そして、一瞬で必殺の間合いに詰める。
ナックルガードから発生させたKPビームダガーは、寸分たがわずグレイズのコクピットをえぐりぬいた。
〈ぎゃあああああああああ!?〉
刹那、爆発。
MS隊同士の最初の戦闘は、もはや戦闘にさえならず、タービンズ側の圧勝に終わった。
だが、この程度ではタービンズとしては足りない。
テイワズの有するルートでギャラルホルンの襲撃を受けた。つまり、今回の仕事の情報をギャラルホルンに対して売った身内がいるということになる。
タービンズだけでなく、テイワズ全体に衝撃を与える出来事だ。依頼主を裏切った、というとてつもないこと。
だから、タービンズとしてはここで全力で戦って無関係を少しでも証明しなければならない。
あるいは、テイワズの内部の裏切りが、テイワズ全体の意思ではないということを示さねばならない。だからこそ、危険な先鋒を買って出たのだ。
『まったく、どこの誰なんだか!』
『あたしらでも知っているのに、企業連を裏切るなんて……まして、ギャラルホルンに』
『でも、ある程度は絞れるよ』
アミダは、無謀にも格闘戦を仕掛けてきたグレイズのアックスをするりと躱し、お返しで蹴りで吹き飛ばしながら断言した。
ツインリアクターに由来する圧倒的なパワーと打突用の突起が合わさった一撃はたやすくグレイズの装甲を砕き、動きを鈍らせる。
そして、動けなくなったところに容赦なくKPビームサーベルを突き立てた。
『どういうことなの、姐さん?』
『ギャラルホルンと伝手のある人間なんて、ましてセブンスターズと直接取引があるなんて、テイワズでも限られているんだよ。
あのイオクなんたら、うまく口車に乗せられてボロボロ喋ってくれたからね…』
『そっか、それなら!』
『ふんじばって、話を聞くだけだよ!』
ともあれ、先鋒の務めを果たしたタービンズMS隊の後を継ぐように、リリアナのハイエンドノーマル部隊が攻勢にでた。
軽量二脚を中心としたアセンブリのハイエンドノーマルの特徴といえば、その機動力である。
一般にACの機動力は脚部に依存する。脚部の比重が軽くなることでウェイトバランスが変化し、同じブースターでも差異が生じるのだ。
そしてリリアナのハイエンドノーマル部隊は、遠慮なくその機動力を生かしてグレイズを翻弄し始めた。
その動きは単純な速度でも、ギャラルホルン側の既知を大きく超えたものであった。
いや、速度だけではなかった。ハイエンドノーマルと言えども、幾度となく戦いを経て常にアップデートを重ねた武装や装甲を持つのだ。
それは、残念ながら現行のP.D.世界の一般的な技術やレベルをはるかに超えているモノであった。
ぶつかり合って命を取り合うというものにおいてはそれは致命的過ぎた。
そして、それに対処しきれるだけの技量や精神的な余裕などにおいて、ギャラルホルン側は欠けすぎていた。
11: 弥次郎 :2021/08/07(土) 22:43:24 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
〈た、助けてくれ!化け物だ!〉
〈来るなぁ…来るなぁ…!うわああ!?!?!?〉
〈ライフルが効かない!?なんだ、あれは!〉
もはや、語る必要もないだろう。
そして後詰の鉄華団も前線に出てきたが、もはやギャラルホルンのMS隊はラインの維持さえできていないありさまだった。
一応証人としての価値はあるので直接殺されているパイロットが割と少ないのが救いであろう。
それでも、一方的にわけもわからないうちに狩られていくのは恐怖でしかないだろう。理解できないこと、それこそが恐怖の根源なのだから。
時は少しばかりさかのぼる。戦闘開始から、イオクの思惑は外れてばかりであった。
それは、まだMSを発進させる距離ではない、砲戦の間合いであった時から始まった。
「な、なんだと!?」
イオクは敵艦の主砲、ビーム砲がハーフビーク級戦艦の一隻をあっけなく貫通し、轟沈させるのを見た。
対艦戦闘を優先とした大艦巨砲主義の権現ともいえるハーフビーク級のナノラミネートアーマーは極めて堅牢だ。
にもかかわらず、それを旧式化して久しいビーム兵器で貫通してのけた?理解ができない。
「ああぁ、あぁ……!やめろ、私の部下が……!」
だが、イオクの声もむなしく、爆散した。イオクの目の前で、あっけないほど簡単に。
思わず絶句するイオクをフォローするように、イオクの座乗艦のクレイソンの艦長は艦隊全体に指示を飛ばす。
「各艦、散開して距離をとれ!敵の主砲は当たれば終わりだ!」
しかして、大規模すぎる艦隊があだとなった。
艦隊が大きければ、その艦隊運動は大きくなり、必然的に時間がかかることになる。
僚艦との距離を保ちつつ、同時に単調とならないようにしなければならない。だが、あいにくとギャラルホルンは艦隊戦など不慣れであった。
演習などではあるし、鑑定を有する宇宙海賊の討伐で行うこともある。だが、その件数は極めて少ない。
何しろ艦艇戦力でもMS戦力でも劣っている相手をすることが多いためで、そこまでの練度を必要としないためだった。
至近弾が次々と船体をかすめ、中には大きく損傷を受けた艦艇も見受けられた。艦隊同士の殴り合いで最初からこれでは先が思いやられる。
「くそ、相手は通用しないか……」
そして、ギャラルホルン側の艦砲射撃は命中はしている。
ただ、命中はしているのだが、それは光の壁のようなもので弾かれているのだ。
彼らの知り得ないことであるが、それこそがディメンジョンフィールドであり、これまでに連合が積み重ねた防御手段の集大成だった。
セントエルモス側の防御力は、彼らの想定する外敵のレベルに合わせて高められているため、P.D.世界の基準から見ればはるか彼方。
セントエルモス側が包囲されている状況であるために艦隊運動をあまり行わないことを考慮しても命中弾は出ているが、効果は見受けられない。
12: 弥次郎 :2021/08/07(土) 22:44:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
だが、幸か不幸か、こちらへの砲撃は直撃しなくなり始めた。
「各艦、回避運動は緩めるな。当たればおしまいだ」
ただ、実際のところは砲戦ではオーバーキルになってしまい拿捕ができないために、セントエルモス側が意図的に外している。
何しろ、P.D.世界の艦隊戦と連合の艦隊戦では尺度が違う。連合や企業連からすれば、今の距離感はもはや近距離砲撃戦なのだ。
本来ならば、惑星間レベルの距離で離れていても砲撃戦を行うこともあるのだから、この距離ではむしろ外すことのほうが難しいレベルだ。
まして、相手が稚拙な回避運動しかしないともなれば。エウクレイデスの砲術長が文句を垂れたのも無理もないレベルだった。
ともあれ、砲戦は危険と判断した艦長はさらなる指示を飛ばす。チャフを撒いて光学測距を妨害しつつ、距離をとる。
そして、少々距離がある状態であるが、次なる手を打った。
「MS隊発艦急げ!」
「そ、そうだ、MS隊!敵艦を沈めろ!部下の敵をとるのだ!」
そうしておぼつかない回避運動をしながらも、MS隊は出撃し、セントエルモスらに肉薄していく。
いかに強力であろうと、当たらなければどうということはない。艦砲がMSに直撃するなどよほどのことがなければないのだ。
だが、そのMS隊もあえなく駆逐される。相手も総数はそれなりにいるが、ローテーションで入れ代わり立ち代わりしている。
つまり、ギャラルホルンのMS隊は倍以上の数の優位がありながら、いいように撃破されているのである。
「おのれ……!おのれおのれおのれ!」
イオクは、限界だった。いうなれば、我儘が通じなくて苛立った子供にもよく似ていた。
だから、怒りというよりは、もはやそれは癇癪。
イオクはそれを命じる。
「ダインスレイブ隊、攻撃準備だ!」
出し惜しみしていたMS隊、それは、禁忌とされている兵器を装備した一隊。
わけのわからぬ組織のMSなぞに負けるとは思ってはいないのだが、こうなっては、とイオクは彼なりに覚悟を決めた。
時には非情にならなくてはならないのだと、誰にともなく言い訳をして。
「正義の鉄槌を下すのだ!われらの手で、ギャラルホルンの正義を!」
あらかじめ準備してあったこと、そして、セントエルモス艦載機部隊がギャラルホルンの前衛を丁寧に無力化していくことを優先しているために、それは完了した。
「ダインスレイブ隊、展開完了!しかし、友軍機が!」
「構わん、彼らを見捨てるのは忍びないが……!」
だが、とイオクは叫ぶ。
「これも大儀のため!ダインスレイブ隊、放てぇ!」
そして、最後の一線を、超えた。
13: 弥次郎 :2021/08/07(土) 22:45:19 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年09月30日 18:56