104: 弥次郎 :2021/08/08(日) 21:10:02 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「星の海に帆をかけて」4(改訂版)
禁止兵器「ダインスレイヴ」。
『スノッリのエッダ』の『詩語法』に登場する魔剣の名を冠する兵器。
MSのフレームなどに使われる高硬度レアアロイを用いて作られた弾頭を、MSがようやっと抱えるレベルの電磁射出装置、すなわちレールガンによって射出。
この射出された弾頭の直撃を以て標的を撃破せしめるという、極めてシンプルな兵器である。
シンプルながらも、艦砲射撃を越える距離から、艦艇クラスのナノラミネートアーマーでさえ容易に打撃を与えられるという破格を通り越した兵器だ。
故にこそ、エイハブウェーブによる誘導兵器および長距離攻撃兵器の廃れている世界においては反則級のものであった。
これが禁止兵器となった理由は単純明快、その射程と威力ゆえだ。
対人戦闘に使われ、のちにはMAとの戦闘でも用いられたこの兵器はあまりにも強力すぎた。人類は自らの生み出した産物に恐怖したのだ。
故にこそ禁止兵器。その魔剣の名の通り、一度抜いて使えば流血は避け得ない、危険すぎる兵器ということで。
しかして、それを禁止し、独占しているギャラルホルンとて人。その強さの魔力に取り付かれるのもやむなしであった。
だからこそ、非公式にそれが使用され、その猛威を振るっていたのは一度や二度の話ではなかった。
そう、禁止兵器の中でも技術が単純ゆえに失われることもなく、このダインスレイヴというのは使われ続けていたのだ。
そして、私情で艦隊を動かしたイオクもまた、そのダインスレイヴを持ち出していた。
これは後見であるラスタルを倣ったものであったが、悲しいかな、イオクはラスタルがこれを使用するためにどれだけの根回しをしたか全く知らなかったのだ。
彼の認識の中では、ダインスレイヴは禁止兵器ではあるが、ギャラルホルンはその職務のために使ってよいもの、という酷く適当なものでしかなかった。
だから、それが何を招くのか全く理解していないのだった。持っているモノの恐ろしさを理解しないからこそ、勝手気ままに使える、というかもしれないのだが。
閑話休題。
当然のことながら、戦闘中のセントエルモスもイオクの艦隊の動きを探知していた。
MS隊が別に展開して何やら兵器の準備をしていればいやでも目出つ。まして、この距離ならばなおさらだ。
「何をするつもりだ……?どう思う、ブラフマン」
「MSが2機1組で、明らかに大型兵装の準備をしている。考えるまでもなく、何らかの攻撃だろう。
オペレーター、過去現在に存在したMSの兵装で類似した兵器を検索してくれ。
観測班、できる限りの情報を集めるんだ」
了承の返答とともに、オペレーターたちは瞬時にデータベースで検索を開始する。
検索条件は目の前にあり、このP.D.世界の兵装ということで絞ればおのずと正体は推測できるはずだ。
電脳化と義体化でコンピューターと文字通り一体化しているオペレーターたちは眼前で展開される兵器についての予測をわずかな時間で出した。
「あれらはMSの運用する大型兵装と推定。おそらく実体弾を用いた大型砲かと思われます」
「後ろに控えるグレイズが爪楊枝みたいなのを持っているから、あれが弾頭ってところか」
爪楊枝というクロードのたとえに少数の人間が噴き出す。爪楊枝、それは形こそ残っているが、すたれている部類のツールであった。
その噴き出した音に気が付いたのか、クロードは一つ咳払いをして仕切りなおした。
「ともかく、だ。そういうことならば食らってやる必要はない。対応は任せる」
「了解だ。射線上のMS隊に通達。敵MSが戦術兵器を使用するようなので、予測される射線上より退避せよ。
これよりエウクレイデスは前進。艦前方にフィールドを広域に展開、これを阻止する。アンク・シールド・ユニットを展開!」
了解の声が飽和し、エウクレイデスは動いた。
艦載されているアンク・シールド・ユニットが展開してフィールドを前面に指向展開。そして、あえて目立つように全力で前に出たのだ。
他の艦艇はその陰に隠れるか、あるいはディメンジョンフィールドを同じように前面に集中させる。
良くある艦隊規模での防御態勢。想定される以上の攻撃を放ってくるならば別であるが、P.D.世界の技術を鑑みるに、これで十分防げるはずだ。
そして、ディメンジョンフィールドの光が、艦隊の前方に帯のように広がり、美しくも確かな守りを展開した。
105: 弥次郎 :2021/08/08(日) 21:10:51 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「敵艦、なにやら光を発しながら前進を開始!」
「何をする気だ?」
当然、その動きはイオクらも感知する所であった。
が、彼らに連合の艦艇の防御機構について知る由もなし。
むしろ、間抜けにも近づいてくるという判断をせせら笑った。
そして、イオクは高らかに命じた。必殺の魔剣を、禁じられるほどの威力を持つその兵器を、解き放つように。
「これも大儀のため!ダインスレイブ隊、放てぇ!」
そして、魔剣が解き放たれ----結果が生じた。
「なん……だと……!?」
結論から言おう。ダインスレイヴは、放たれた10本もの魔剣は、ことごとくがその役割を果たすことはなかった。
如何に強力なレールガンで高硬度レアアロイの暖冬を打ち出そうとも、それはこれまで連合が経験してきた攻撃を超えることはなかったのだ。
所詮はP.D.世界で作ることが出来る程度の技術でしかなかった、というわけか。
多くはディメンジョン・フィールドにより受け止められ、展開された転移フィールドによって、射手と装填手のところに勢いのままに反射されたりした。
当然ながら、ダインスレイヴの直撃を受けたグレイズは大破という言葉では生ぬるい惨状になった、とだけ述べておこう。
「……」
一瞬の静寂が戦場に満ちた。ギャラルホルンは驚愕で、セントエルモス側は無事に防げたことへの安堵で。
だが、それも一瞬。リリアナはオールドキングの「リザ」を先頭にダインスレイヴ隊への強襲を敢行した。
防げることはわかったが、かといって放置してよい相手ではない。第二射が撃たれる前に排除するのが最善だ。
タービンズと鉄華団のMS達に関しては、残存していているギャラルホルンのMSの排除を続行した。
彼らが巻き込まれかねない状態で戦術兵器を使ってきたのは驚きではあるが、それが防がれたならば問題はない。
これまで通り、練度とMSの性能差を活かして一方的に駆逐していくだけである。
だが、即座に行動に移れたセントエルモスとは対照的に、イオク艦隊は混乱の極みにあった。
ダインスレイヴが効果なし。
それどころか、全く原理も何も分からないが、それがそっくり跳ね返ってきたのだ。混乱しない方がどうかしている。
必殺にして勝利を約束するその一撃が防がれたというのは、ショックが大きすぎた。
〈な、何が起こった!?〉
〈ダインスレイヴが…〉
〈馬鹿な、ありえないぞ。ぐあ!?〉
ショックのあまり、動きを止めてしまうパイロットや艦艇クルーもいた。
しかし、それらの行為は戦闘の最中においては命取りであった。
機動兵器とは、文字通り動いてなんぼの兵器である。動かなくなったらそれはただの的になり下がるわけだ。
それは激しい運動を続けて動き回って戦う兵器にとっては、相手に殺してくれと宣言しているようなもの。
ことさら、連合基準のスパルタ教育を受けている鉄華団のMS隊にとっては間抜けすぎる動きに他ならない。
『叩けるうちに叩け!』
『うおおおお!』
〈ひ、卑怯者め…!〉
『勝手に言っていれば?』
鉄華団のMS隊は、それぞれが混乱しているギャラルホルンのMS隊を分断し、次々と討ち取っていく。
特に三日月に狙われた機体の末路は悲惨だ。重たいメイスの一撃がMS全体を揺らし、頑丈なはずのMSがあっけなく崩壊していくのだから。
運よく破壊を免れ、脱出シートが作動してもそれを捕まえられればもはや絶望だ。まあ、三日月は手加減を教えこめれているので、捕まえた脱出シートはちゃんと保護している。
106: 弥次郎 :2021/08/08(日) 21:11:43 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
『…セントールさん』
『どうしたのかな、三日月君?』
『ギャラルホルンでも精鋭……とても強い艦隊?が相手なんでしょ?弱すぎない?』
今回は引率として鉄華団のMS隊を率いるセントールは、捕縛したパイロットを三日月から受け取りながら、心底不思議そうな三日月の問いかけに答えた。
『三日月君の主観からすれば弱いだろうね、客観的に見ても、訓練が行き届いているとはいいがたいのも事実だ。
ただ、三日月君はバルバトスという特別なMSを使っているからこそ勝っている面もある。慢心や思い違いはしないように』
『はい』
次にいつダインスレイヴが跳んでくるかわからない状況でなんとのんきな、と思うかもしれない。
だが、遠めにダインスレイヴ隊がハイエンドノーマルによって蹂躙されているのは彼らの位置からでも良く分かった。
ダインスレイヴを、より正確にはダインスレイヴ射出装置を装備したグレイスの機動性は最悪そのものだ。
片腕を外し、MSの全長に匹敵する大型の射出装置を装着。そして本体にもケーブルやら何やらを接続する事で、MSの形をした砲台にするのがダインスレヴだ。
無論、それだけのことをするだけの価値はあるのだが、あくまでそれは遠距離での話。MS本来の距離である有視界戦闘においては大きすぎるデッドウェイトになる。
お付のMSであるフレック・グレイズにしても、あくまでもダインスレイヴの弾頭を運搬する以上の役割を持たされておらず、そもそもグレイズのモンキーモデルだ。
では、そんなものが無防備に固まっていたら、どうなるのか。それは語るまでもないことだろう。5分と経たずMS隊は壊滅。
残るは、MSによる援護を失い、丸裸になってしまったイオク艦隊の艦艇が残るのみであった。
〈イオク様、ここはお逃げを!〉
そして、イオクの部下たちの決断は早かった。砲撃戦を開始しつつセントエルモスのほうへと突撃を開始したのだ。
意を汲んだイオク座乗艦クレイソンの艦長は最低限の護衛艦に追従を命じると、大きく舵を切った。
すなわち、相対する方向から向きを変え、背中をさらしてでも逃げ出す方向へ。
〈な、何をしている!〉
〈我らが殿を務めます!お逃げくださいませ!〉
〈ここでイオク様まで命を落とされては、我らの末代までの恥!ラスタル様にもクジャン公にも顔向けできませぬ!〉
殿を務めることの意味くらいは分かる。自分が逃げるまでの時間を稼ぐのだ、命をとして。
イオクとしては苦渋の決断を迫られていた。部下の命を犠牲にして生き延びるなど我慢ならない。
その一方で、ココで死んでしまっては元も子もないことも分かりきっている。というか、自分の命は惜しい。
だから生き延びて、体勢を立て直し、磐石の態勢で再び挑まなければならないのだ。今回負けたことはしょうがないとしてもだ。
だが、イオクは思い違いをしていた。既に彼は超えてはならない点を通り過ぎてしまっていることを。
次などというチャンスが残っているわけもないことを。そして、たとえギャラルホルンの総軍を集めようとも、勝てない相手なのだということを。
そんなやり取りが行われていることは知らなくとも、イオク艦隊の動きはセントエルモスも観測していた。
というか、わからない方がおかしい。艦隊が一部を除いてこちらに突撃してくるのは、そういう意図があるということに他ならない。
その一部の艦艇、ハーフビーク級とその護衛が折り返して逃走を図っている時点でわかろうというもの。
「……逃げ始めた?」
「そうだな、クロード。尻尾を巻いて逃げ始めた。こっちに突進してきているのはおそらく時間稼ぎだろうよ」
「そうか。まあ、やることは変わらんな。
オールドキング、逃げているのは建前的には『ギャラルホルンを名乗る賊の首魁』だ、逃がさないように」
『任せな』
建前は重要だ、とクロードは一人つぶやく。
まさかセブンスターズの一角と直接激突する事になるとは思わなかったが、これはこれでチャンスでもある。
そういう体で相手を捕縛し、尋問し、情報を聞きだすことが出来るのだから。
それにテイワズ内の内通者についても、しっかりと聞き出さなくてはならない。単に情報が漏れているだけ、というならばまだましである。
だが、もしもテイワズに供与した技術やその他物品などもまとめて流出しているとすれば?それはとんでもないことに発展する。
107: 弥次郎 :2021/08/08(日) 21:13:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
それによって被る被害や発生するトラブルなどを考慮すれば、遺憾ではあるがこれを追及しなくてはならないのだ。
現状、タービンズとは鉄華団のことも含めてきわめて良好な関係にあるというのに、なんともままならないもの。
「5分もしないうちに決着が付くだろうな。
オペレーター、火星の支社に繋いで状況報告と増援の要請をだせ。
他のものは陸戦隊の用意を。取り付いて艦艇を制圧するぞ。相手の数が多いので、一先ずは大将を拝むとしようか」
指示を出し終え、クロードは深く深く息を吐き出す。特に激しい戦闘でもないのに、疲労感が著しい。
なんというか、火星を出発する前から面倒ごとに巻き込まれてしまっているという感じがしてならない。
無論、革命の乙女---現在は火星連合の事実上の独裁者---を地球へと送り届ける道のりが平坦であるとは思ってはいなかった。
だが、序盤からいきなり事が大きくなるとは予想に入ってはいなかった。
もちろん、ギャラルホルンと激突する事は考慮していた。だからこそセントエルモスという大戦力で護衛を務めることにしたのだから。
そして、ギャラルホルンがその職務の都合上激突するとしても、経済圏の意向がある以上、それを持ち出せば回避できるとも。
だが、いきなりギャラルホルンのセブンスターズぶつかることになるとは思わなかった。
加えて、経済圏と火星連合の政治的な問題だといっても構わずに介入を続行するとも、だ。
今回のことを考えればこの先、更なるギャラルホルンとの間の戦闘が待ち受けていることはほぼ確定だろう。
(今回の航路を考えれば、仕掛けられるタイミングはドルトコロニー。あとは地球への降下の際となるかもしれんな)
遭遇すると思われる箇所はいくつかある。公的な航路に乗る直前、労働争議が武力衝突になりそうだというドルトコロニー、そして地球降下直前だ。
地球降下に関してはセントエルモスの艦艇なら、降下ポイントを選ぶ必要なく、目的地まで大気圏内を航行していけばよいので、最悪何とでもなる。
しかし問題なのは物資補給もかねて立ち寄るドルトコロニーのことだ。
その仕事の関係上、艦艇を宇宙港に入れなくてはならないし、補給や休養が完了するまでは時間がかかることになる。その間に工作を受けるリスクもある。当然阻止するが。
だが、クーデリアにコロニー圏についても知ってもらうという目的が有る。それに加えて、クーデリアのスポンサーだったノブリスがかかわっているからでもある。
既に書類上の存在であるノブリスが、以前からクーデリアの名を騙ってひそかに労働者側を扇動して工作していたのだ。
過去形であるように、それに関してはすでに連合の方では手を打ってはある。だが、決定打になるのはクーデリアの存在だ。
ギャラルホルンにしても、労働者たちにしても、彼女の存在がスタートを切る合図になると考えているから。
逆に言えば、事態をコントロールしやすいということでもあるので、悪いことではない。
(やれやれ…早いうちに決定しないとな)
一先ずはイオク何某の件だ、と割り切ることにした。
だが、あそこまで、あそこまで天然というかバカ殿というか、喋る度に襤褸が出るような人間と話し合わなければならない。
そう考えるだけで、疲労感というか忌避感が体を襲う。絶対に相手との話し合いが拗れるという予感がするのだ。
あれこれ考えている間に、リザを操るオールドキングから通信が入った。
『オールドキングだ、艦艇の無力化は完了したぜ』
「了解した。だが、相手が最悪を選ぶ可能性はあるだろうか?」
『なさそうだな。完全にビビッている。ま、余計なことをされないうちに内部も制圧した方がいい』
オールドキングの進言にクロードはうなずくしかない。プライドが高いであろうセブンスターズのお坊ちゃまだ。
トチ狂って自爆だとかそういう行為に及んだとしても、なんら不思議はない。脈絡がなく、思考が読めない相手はこれだから厄介なのだ。
総指揮官としての仕事を果たすべく、クロードはさらに声を張り上げて指示を出し始めた。
108: 弥次郎 :2021/08/08(日) 21:15:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年09月30日 18:57