325: 弥次郎 :2021/08/10(火) 23:58:16 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「星の海に帆をかけて」5
その後の話をしよう。
跳躍航行で即応艦隊が10分と経たずに到着し、イオク艦隊の捕縛と艦内の制圧および首脳部の身柄の拘束が実施された。
もともと、航行能力も武装も剥ぎ取り、また、イオクという最重要人物の身柄を拘束していたことも有り、これらはあっという間に完了。
セントエルモスがやったことといえば陸戦隊による艦内制圧の手伝いや戦場の後始末、MSや漂流者の回収のみであった。
あとは戦闘詳報や証言をまとめて提出するだけですべきことは完了したので、速やかに出発してしまうことにしたのであった。
何しろ、ギャラルホルンに一度補足されたのであるから、ルートの変更などは急務であった。
その為、タービンズは別のルートへの変更を実施。その先導の元、セントエルモスは速やかに離脱した。
さて、後始末を任されることになった増援部隊だが、早速艦隊首脳部への尋問と提出された証拠の精査などを開始。
そのほかにも、生存者や負傷者がいれば治療などを行い、あるいは戦場の跡に残ったMSや無事だった艦艇の曳航準備などを開始した。
だが、本当の苦労はここからであった。戦闘そのものはあっけなく完了したのだが、そこからが大変だった。
まず、イオク・クジャンという人間が、悪く言えば独善的で、おまけに敵対心丸出しで会話にすらならないという事態が起こったのだ。
自分はセブンスターズのクジャン家の時期党首だ、卑怯な手を使ったのは許せない、大人しく開放すればしかるべき処分をしてやるなどなど。
いったいどちらが立場が上であり、また自分の行動が客観的に見てどういうものであるかを全く理解していないのだ。
確かにイオクが言うようにギャラルホルンには捜査権と逮捕権、その他治安維持や平和維持活動に関する権限が経済圏から認められている。
だが、かといって手続きや手順やルールを無視してよいというお墨付きなのではない。むしろルールにのっとって行動しなくてはならないのだ。
確かにクーデリア・藍那・バーンスタインは経済圏から見れば火星独立運動をあおり、武力でそれを成し遂げた人物だ。
故にこそ逮捕されるいわれは十分にある。だが、彼女は同時に誕生した国家の代表でも有り、そこは経済圏も認めるところ。
故にこそ、彼女は地球に赴き国交を結ぶかどうかの交渉に赴く必要があった。それを妨害するというのは、
拡大解釈にはなるが、イオクに対してローが問いかけたように、ギャラルホルンの政治介入に等しいものとなる可能性があったのだ。
さらに今回の戦闘や火星のカラール自治区襲撃などを考えると、ギャラルホルンと経済圏が企業連や連合に対し宣戦布告なしの戦争を仕掛けたことになりかねなかった。
連合とP.D.世界の経済圏およびギャラルホルンはエドモントン条約の締結後も情報交換等はある程度やっていたし、連合と経済圏の間には細いながらもつながりがあった。
そしてそのスタンスは基本的には相互不干渉に近いものだったのだ。どちらかといえばP.D.世界の自助努力に期待という形であるが、まあそれは些事だ。
連合や企業連が火星に進出して活動しているのは経済圏の許可をとったうえでのことであるので、これは経済圏の認めることといえる。
そこにギャラルホルンが短い期間で火種を持ち込むどころか、攻撃を仕掛けたとなればさすがの連合も動きを見せるしかない。
もともと火星圏独立の以前から動いていたからどっちが先なのかといえば微妙ではあるが、先に引き金を引いた、というのは体裁が悪すぎる。
といった、きわめて政治的な意見を少なくとも理解のあったイオクの部下とともに懇切丁寧に説明。
わけのわからない理由で反発やら逆上されたりしながらも、何とか説明するのに1日を費やし、何とか説明責任を果たすことは出来た。
その結果分かったのは、イオクとまともに話し合うのは無意味ということであった。彼の部下の方がよほど物分りがいい。
しかして、彼しか知りえない情報があることも確かであった。首謀者であるということもあり、是が非でも口を割ってもらわねばならない。
では、いったいどうするべきか?会話が成り立たない赤子から情報を聞き出すにはどうすれば?
そんなことに関しても、連合や企業連は十分に心得ていたし、それを躊躇する理由は何一つなかった。
そうして、イオク・クジャンは取調室に用意された専用の機械に縛り付けられ、調べを受けることになったのであった。
326: 弥次郎 :2021/08/10(火) 23:59:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
連合が用いた方法は単純。イオクのアストラルパターンと本人の言動などから汲み上げた仮想人格、いわばコピーの人格を用意。
頭に装着されたスキャナー兼インターフェイスを介して本人の記憶にアクセス、情報を汲み上げる「メモリースキャニング解析」だった。
人間の記憶と言うのは、実のところ機械に記録されているように正確でありほとんど欠落はない。
ただし、それを「再生」したり、「整理」したりといった工程には個人差が有り、これが一般的に記憶力の差として認識される。
要するに「思い出せない」や「忘れる」というのは正しい表現ではなく、単に記録されているものを「再生」出来ないだけなのだ。
逆に言えば、何らかの手段で、今回のように本人の人格を仮想で汲み上げ、記憶野にアクセスする事で、嘘偽り脚色のない記憶を再生できるのである。
そして、イオクの記憶からは何が原因で、いったいどこから情報が漏れたのかが明らかとなった。
結果は、ある程度想像ができた範囲もあったが、それ以上のこともあるものとなった。
発端となったのは、やはりテイワズの一員であった。その人物の名前はジャスレイ・ドノミコス。
テイワズにおいては直参に分類される商業担当の企業「JPTトラスト」を率いるテイワズの事実上のNo.2であった。
彼は内部で共用された情報を、具体的にはセントエルモスの航路予定図と工程表までも入手し、それをそっくりイオクへと流したのだった。
イオクは先代のクジャン公のころからジャスレイと伝手があったようであり、そのルートで情報が流れた。
ついでに、その際にイオクはジャスレイからあることないこと吹き込まれたようであった。
具体的には、火星が独裁状態になったことで、治安が悪化し、これまで以上に悪い状況にあると。
そして、企業連や連合がその片棒を担いでいるのだ、ということも吹き込まれたのだった。そして、イオクは根拠も薄いそれを信じたのだ。
なるほど、正義感や善意に溢れる、逆に言えばそれしかない人間ならば矢も楯もたまらずに動き出してしまうことだろう。
そして、イオクはその「証拠」となる物品をジャスレイから受け取り、それを調べた上で上司への報告も抜きに行動したらしい。
というか、その上司が、彼も述べていたように火星独立を阻止できなかった咎で動きがとれず、身柄も拘束状態にあったのだ。
一連の調査が終われば、即座に地球連合と企業連---特に主体となっている企業であるアルゼブラは動いた。
まずはテイワズの調査だ。これが果たしてジャスレイの一存によるものか、テイワズ全体の意思によるものかを調べる必要がある。
また、明らかに何かを、アルゼブラがテイワズに提供した何かをジャスレイが横取りし、横流ししている。場合によってはそれを追求し、探し出さなくてはならない。
その為、テイワズの本拠である歳星にアポを入れながら調査団が入り、徹底した調査と説明を要求した。
さらに、今回の事態を引き起こしたイオク・クジャンの所属であるアリアンロッド艦隊へと抗議を入れることにした。
加えて、火星圏で企業連の力を知り、カラール自治区襲撃事件と合わせて報告したはずの二人の特務三佐にも問い合わせを行った。
彼らが行ったはずのギャラルホルン上層部への報告がいったいどのようになったのかを説明するように要求したのだ。
具体的には、彼らが送った報告を受け取ったギャラルホルン、すなわちセブンスターズやアリアンロッド艦隊がどのように受け取ったかである。
それらの動きは、まさに電光石火。
得られた大量の証拠とともに突きつけられた要求は、鋭い刃にも似て各勢力に突き刺さった。
反応は劇的であった。
まずテイワズ。名瀬からの報告もあわせて聞いたマクマードは、憤怒などという言葉では収まらぬ表情でジャスレイの追及と捕縛を命じた。
無論、ジャスレイも逃げを打った。
だが、それは遅きに失した。彼としては天下のギャラルホルンに勝てるはずがない、と高をくくっていたために直前まで悠長に過ごしていたのだ。
そんなところに急に連絡が入って自らのたくらみが失敗したことを知って、それはもう大きく動揺した。
そして、マクマード自ら行った事実上の拷問により、ジャスレイは許しを乞いながら口を割り、得られた証言が偽りのないものであることが確認された。
327: 弥次郎 :2021/08/10(火) 23:59:51 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
ジャスレイがクジャン家に情報を売ったのは、タービンズに対しての罠であった。
つまり、テイワズを率いるマクマードから名瀬が直々に任された重要案件が失敗に終われば、タービンズを排除できると踏んだのである。
ジャスレイは確かにテイワズのNo.2である。だが、No.2だからと言って自由気ままにふるまうことができるわけではない。
テイワズ自体も単独では大きな企業であるし、直参組織は専門分野ごとに極めて高い実力を備えている。
そしてテイワズの実態--マフィアあるいはヤクザといった組織の関係上、上下関係には極めてうるさく、序列も単純ではなく、独自のルールで縛られていた。
それ故に、彼は自分が思うが儘に権勢をふるうことができずにおり、長年歯がゆさを覚えていた。
それが抑えられていたのは、偏にNo.2ということで場合によっては後継者に指名される可能性がある、という自信からだった。
だが、それが崩れたのが、タービンズがきっかけとなって始まった地球連合や火星連合との商売であったのだ。
これまでの商売を超える利益や規模が得られるこれは、テイワズにとっては非常に魅力的なものであった。
エイハブリアクターの供与に始まり、連合が独自に持つ技術のライセンス、あるいは市場の開放などなど多くを得ることができたのだ。
それゆえに、きっかけを作ったタービンズと名瀬に対しては、相応の報酬というものが渡されることになるのが自然な流れだった。
だが、それがジャスレイの気に障ったのである。
繰り返しになるがJPTトラストは商業を担当する企業だ。先に付き合いを持ったからと言って、タービンズにそれをとられて良い顔をするわけがない。
まして、輸送部門関係だけでなくそれ以上の仕事を任され、さらには幹部内で次期後継者に指名されるのではという噂が立ったのだから、なおのこと。
斯くして、ジャスレイはタービンズの仕事が失敗するようにと仕込んだ、というわけであった。
そして、ジャスレイから横流しされた物資がテイワズ直参の会社であるエウロ・エレクトロニクスに預けられた、Kマテリアルボックスと判明した。
それは、このP.D.世界においてコジマ粒子技術をもたらしうる、まさにパンドラの箱であることも判明した。
なぜ、パンドラの箱と称したのか。それはコジマ粒子技術が優れたものであると同時に、極めて恐ろしいものであるからだ。
そのまま使えば、蔓延と汚染によって広い範囲が、それこそ地球の大陸一つのほぼ全域が不毛の大地になってしまうほどに危険なのがコジマ粒子だ。
Kマテリアルボックスの資料にはそのコジマ汚染については記載されているモノの、付随するサンプルが無毒化されていることから認識されない可能性があった。
無論のこと、慣性制御や独自の光学兵器への転用、そして何よりも大電力の発電機関に仕えるコジマ粒子は有害なだけの物質ではない。
だが、使い方を誤れば、それこそ地球『程度』の惑星など容易く人が住めない死の星に変えることも容易い。
これらを知り、かろうじて発狂せずに済んだマクマードは、ジャスレイの首を手にして火星に赴き、謝罪と釈明に終われることになった。
とんでもない裏切りを行ってしまった業務提携の相手であるアルゼブラに、そして、危うく指導者を失いかけた火星連合に対して。
ついで、ギャラルホルンでも激震が走った。
まずは、火星独立を阻止できなかったラスタル・エリオンへの追求がさらにひどくなった。
彼の管轄にいたイオクがダインスレイヴを持ち出して、私的に使用、しかも経済圏からは手を出すな釘を刺されていたクーデリアに使ったのだから。
形だけを見るならば、ラスタルはイオクを動かしてクーデリアを討ち、経済圏と火星連合との政治問題に介入したようにも見えるのだ。
「政治に介入せず」を是とするギャラルホルンからすれば、最悪セブンスターズの地位も何もかも剥奪されかねない事態である。
また、そのダインスレイヴが全くきかなかったというのも大問題であるし、全力ではないとはいえアリアンロッド艦隊が一蹴されたことも衝撃だった。
既にカラール自治区襲撃事件において企業連合や地球連合の力は確認されていたが、あくまでも火星の二線級の戦力ゆえに負けた、と解釈していたのだ。
ところが、今回はそうではない。私設艦隊も含まれているとはいえ、ギャラルホルンでは第一線を担うアリアンロッド艦隊の戦力が敗北したのだ。
ギャラルホルンの武威が由来だとか、そんな生半可なものではない。存在意義さえも疑われるような大事件だったのだ。
328: 弥次郎 :2021/08/11(水) 00:00:33 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そして、軍事的なことだけでなく、ギャラルホルンの指導体制や指揮体制に疑問符をつけてしまう事態が起きていたことも発覚した。
具体的には、七星会議にまであげられていたマクギリスとガエリオの火星と企業連についての報告書がギャラルホルン内でまともに共有されていなかったのだ。
一応、セブンスターズやそれに連なる貴族の間、そして統制局の一部にはこれらは閲覧が命じられていて、実行されていたのは確認できた。
だが、それ以外の末端、少なくとも中央離れるほどその存在は認知されておらず、ひどいところではその存在さえ知らない者さえいる有様だった。
こんな有様であるから、セブンスターズにはギャラルホルンに働きかけるだけの実行力が伴っていないと満天下に示したに等しい。
確固たる証拠と調査に基づいたそれを知っているならば、ギャラルホルンが総力を挙げても勝てない相手であるというのは判断できないはずがないというのに。
そして、ギャラルホルンに抗議を入れたのは、火星連合のトップであるクーデリアと企業連と連合から連絡が入った経済圏も同じだった。
繰り返しになるが、これは政治案件。
確かにギャラルホルンが治安維持のためというのもあって、革命を起こしたクーデリアを逮捕しようと言うのは通常の業務といえる。
むしろ、これまでは経済圏の意向もあって、独立運動が一定以上にならないように動くようにと申し合わせていたのだから。
だが、火星連合が独立を宣言して経済圏に対して国交を結ぶことを呼びかけ、アーブラウがそれに応じた時点で、ギャラルホルンは手を出すことを控えるべきだった。
あるいは、火星独立を許してしまったことも含め、経済圏に対して問い合わせや相談の一つでもやるべきであったのだ。
しかし、何一つなされない儘に、勝手に武力行使に出た。しかも、禁止兵器までも用いて鎮圧を通り越し虐殺しようとした。
いかに取り繕うとしてもそれは純然たる事実であり、否定しようのないことであった。
かくして、咎めを受けたラスタルはアリアンロッド艦隊の指揮官の地位を剥奪、今後の処分が決定するまで身柄を拘束されることとなった。
さらにはエリオン家を事実上のセブンスターズから追放という重たい処罰を下すこととなったのであった。
さらに彼に近しい人物も職から追いやられることになり、更なる厳しい処罰が下ることが決定していた。
そして実行の首魁たるイオク・クジャンも咎めを受けることになった。
マクギリスおよびガエリオが火星連合や地球連合らとの交渉および謝罪行脚を行ったことで何とか解放されたのだが、待っていたのは処罰だった。
イオクはこれに抗議したのだが黙殺された。身柄をアリアンロッドから統制局へと移され、監査局の調べを受け、具体的な処断を待つこととなった。
彼の部下がかばおうとしたのだが、到底かばえるものではなかったことをここで述べておこう。彼にしか、責は終えないのだから。
ここまでならば、連合も企業連も火星連合もきちんと処断されることになればこれ以上首を突っ込むことはなかった。
事実として、関係者の処罰などは進められており、それについてはその速さなどに文句をつけつつも、やるべきを成していたのだから。
だが、事態はここでとまることはなかった。むしろ途中でしかなく、更なる爆発が後に控えていたのだった。
このラスタル失脚はまさに降ってわいたものである。ギャラルホルン内でのパワーバランスが大きく狂ったのだ。
何しろセブンスターズの一角が、これまでの歴史の中でも最も重い除名と名誉?奪という形を以て消滅したのだから。
そして発生した政治的な空白。これをめぐり、己の権勢のため、あるいは自己満足のために全く懲りていない人間がいて、更なる暗躍を繰り返そうとしたのだ。
だが、神でないものたちには知る由もなかっただろう。
つまるところ、終末を告げる笛吹き達の間で溜まっていた膿は、まだまだ残っており、そして厄介だったというだけのことであった。
ともあれ、事態を切り抜けたセントエルモスは次なる場所を目指す。
次はコロニー・ドルト。次なる火種の待ち受ける場所に、聖人の火は向かう。
そこにある闇を払うかのごとく、まっすぐに。
329: 弥次郎 :2021/08/11(水) 00:01:37 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wikiへの転載についてはご自由にどうぞ。
これで改訂もだいぶ進みました…
そして気が付く。カラール自治区襲撃の話を改訂していなかった…!
お盆の休みでゆっくり進めます(白目
最終更新:2023年09月30日 18:57