214: 弥次郎 :2021/08/25(水) 23:10:54 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS 短編集8
Part.17 策謀を謳う乙女
- P.D.世界 火星-地球間航路 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」ブリーフィングルーム
寄港地であるドルト・コロニーへ向かうセントエルモス艦隊は順調な航海を続けていた。
ギャラルホルンの襲撃を受けるというトラブルを除けば、平穏そのもの。
鉄華団がタービンズとの模擬戦を行ったり、宇宙作業の訓練を行ったりあるいは勉学に励んだりしている。
また、帯同している火星連合の派遣組も彼らに交じってセントエルモスの人員に扱かれている最中であった。
セントエルモスの人員はそれらをこなしつつも通常の業務にいそしんでいたが、それ以外に大きなトラブルはなかった。
だが、平穏な航海は長くは続かないのが人の世というものだ。殊更、次なる寄港地であるドルトではトラブルは避けえないことが確定している。
そのドルトを控え、セントエルモス一行はブリーフィングを行っていた。
「GNトレーディング。
名目上は圏外圏における交易会社。そして、その実態はノブリス・ゴルドンが背後にいる会社となっています」
訥々と書類の内容を読み上げるのは、クロードの補佐官のエリーゼだ。
彼女はモニターに表示されたいくつかの地図やデータを指し示しつつ、説明を続行する。
「この会社は火星-各コロニー-地球を結ぶ貿易を行っております。
そして、この会社のかかわった多くのコロニーでは、特によくない噂の多いコロニーにおいては、武装蜂起が発生しています。
そして、その蜂起を起こしたグループは、寄せ集めとは思えないほどの武装を有し、大規模な破壊行動まで起こしています」
つまり、とエリーゼは断言する。
「ノブリス・ゴルドンはコロニーでの戦乱を煽り、また外部から武器を秘密裏に提供していると推測されています」
「死を商う商人、というわけか」
「これについてはほぼ確定といえるでしょう。
また、彼がギャラルホルンとのつながりがあったことを踏まえると、おそらく武器の提供で煽り、その対価として得た情報をリークしていた可能性がありえます。
出なければ、このように見せしめのように鎮圧されはしないでしょう」
表示されるのは、先日矛を交えたアリアンロッド艦隊によって鎮圧される暴徒たちの写真やニュースなどだ。
あからさまに見せしめとしているのは明らかだ。ギャラルホルンの、そしてアリアンロッド艦隊の強さを誇示している。
メディアなども集めたうえでの、まるでショーのような鎮圧劇。
「そして、これらはおそらくですが経済圏も一枚かんでいることが推測されています」
「……つまり、意図的に暴動を起こさせ、ギャラルホルンに鎮圧させている、と?」
クーデリアの問いに、エリーゼは肯定する。
「我々の、企業や連合の情報収集によれば、コロニーはある種搾取の対象となっています。
経済圏の国営企業が有するコロニーでは、地球出身者が使用側の大半を占める一方で、コロニーや火星出身者などが労働者を占めています。
そして、彼らの労働環境や居住環境・労働条件などは劣悪なケースが多くみられております」
「労使交渉は?いかに国営企業とはいえ、そのような無体をして経営が成り立つのですか?」
「疑問はもっともです、代表。しかし、どうやら成り立っているのです。
火星経済が搾取されながらも一応は成立していたように、コロニーの労働者たちもまた、生かさず殺さずのラインで留められ、経済圏の利益を優先しております」
「……」
「圏外圏出身者と地球出身者の間には差別があり、ある種のカーストとなっているようです。
裕福な地球出身者、そしてこき使われて貧乏な圏外圏出身者。当然のことでありますが、不満はいくらでもたまることになります。
本来ならば、バーンスタイン代表がおっしゃるように労使間交渉においてその問題が提起され、改善されるのが常でしょう。
ですが、それは行われているとはいいがたいようです」
「使い捨てにできる圏外圏出身者に金を費やすよりも、利益回収を急いだほうがいいと。
だから経済圏は労働者を搾取し続け、労働者が不満をためれば暴動を意図的に起こしてガス抜きをする、か」
胸糞の悪い話だ、とクロードは吐き捨てた。その言葉は、その場全員の思いを代弁していた。
「では、ここまでが前座となります」
一息入れたエリーゼは、この会議の本題へと入る。
215: 弥次郎 :2021/08/25(水) 23:12:19 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「我々セントエルモスの寄港地であるドルト・コロニーはその典型例となっております。
また、このコロニーの労働者たちには、そのノブリス・ゴルドンがバーンスタイン代表の名を借りて接触しております。
おそらくですが、すでに相当数の戦力や武器などが供給されているかと推測されます。
現在、カルダミネ・リラタに積まれているGNトレーディング名義の荷物にも、かなりの武器が含まれておりました」
「ということは、それを鎮圧する準備も進んでいるな」
「その通りとなります、ブラフマン戦術指揮官」
そう、武器を流し、暴発させ、鎮圧させるプロセスは一朝一夕に準備を終えられるものではない。
相応の準備も行ったうえで、それなりの期間を必要としている。
あとは着火を行う誰か、すなわちクーデリアの到着を待つだけだ。
「我々の目的はノブリス・ゴルドンに踊らされていることを伝え、無用な流血を避けることに有ります。
また、バーンスタイン代表が扇動工作を行い経済圏に悪影響を与えようとしている、という誹りを避けることも目的です」
どちらかといえば、後者が主目的だ。
ドルト・コロニー群は経済圏の所有物であり、内部で起こることは経済圏の政治的な問題に過ぎない。
そこに火星連合のクーデリアがかかわることはあまりよろしくない。ただでさえ、いざこざが起こりかねない状況というのがわかっているのだから。
かといってクーデリアの名前が労働者側から出ればそれは問題だ。彼女はすでに火星連合の代表。
経済圏に対して火星連合が間接的にしても侵略行為を働いたとなれば、経済圏の態度は硬化するだろう。
また、火星連合にとっても、今後の地球経済圏との間の外交においてとてつもない躓きとなりかねない。
「公式にはノブリス・ゴルドンの関与の証拠は有りません。あくまで、表向きには。
また、本人が公式に認めることはないでしょう。よって、証拠の提示で無罪を証明する事は難しいと思われます。
加えて言えば、連合や企業連の干渉も過度を過ぎれば問題視されるでしょう」
現段階のところでは、かなり使える選択肢が絞られていることをエリーゼは語る。
「八方ふさがりではないが、面倒事だらけだな…」
ブラフマンのボヤキは事実だった。無関係であることを示しつつ、尚且つ暴動を抑え、また横たわる問題を解決し、安全に離脱して、地球への航路をたどる必要がある。
やることがてんこ盛りで不確定要素も多い。
そして、もしも鎮火に失敗した場合には、火星連合の今後に大打撃が起こってしまうという悪条件。
「だが」
沈みかける空気を強引に捻じ曲げたのは、クロードだった。
「だが、この程度は解決していくべき。そうでしたな、バーンスタイン代表?」
「その通りです」
クロードに問われたクーデリアは、強く答えを紡ぐ。
そういう無体が、火星だけでなくコロニーもまた搾取されているのを、座してみているなどクーデリアにはできない。
ノブリスが自分の名前を使って扇動したことも許せないし、その悪影響は迅速に断ち切るべきであった。
そも、自分に害が及ばないとしても、クーデリアはコロニーのこの問題に介入することをためらわなかっただろう。
彼女は根本的には秩序や善を重んじる。無法は嫌うし、暴力を前提にすることはない。
それは他者に求めることであり、己に課していることでもある。互いが互いにルールを守り、妥協点を探る。そうでなければならないと信じているのだ。
「看過できません。労働者側も、経営陣も、経営陣も、ギャラルホルンも」
一息入れ、セントエルモスの首脳部に対してクーデリア宣言する。
「地球に乗り込む前座として、ちょうどよいでしょう。ご協力、いただけますか?」
その問いかけに、答えは決まり切っていた。
聖人の火の名を冠する艦隊は、闇を払うべく進みながら、その方策を練り上げ始めていた。
216: 弥次郎 :2021/08/25(水) 23:12:50 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
Part.18 世界はこんなにも簡単
- P.D.世界 火星-地球間航路 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」格納庫
鉄華団の訓練は、ドルトコロニーを前にしてコロニー内戦闘や要人警護をメインとするものに切り替わっていた。
三日月や明弘のようなMSパイロットたちは引き続き訓練を重ねていたのだが、それ以外の面子の訓練は明らかに変化した。
それの意味するところを、鉄華団の面々が理解できないはずもなかった。
「やっぱり、次の寄港地で何かあるのかな?」
「だろうなぁ…オルガとビスケットが難しそうな顔してたしな」
割り当てられているヘリウスの調整を続けながらも、ノルバ・シノはタカキ・ウノの言葉に頷く。
学がないと自覚のあるシノでも、次に行くドルト・コロニーがやばい状況というのはブリーフィングで理解していた。
かつての自分たちで言えば、三番組として組み込まれていたような状況だということだ。
自分たちは子供で、相手は大人。後先考えない行動をオルガが抑止していたから自分たちは一応従っていた。
だが、仮に一番組が一線を超えたら?故意にしろ不運にしろ、「そういうこと」が現実となったらどうなるか?
あるいは、オルガの下での結束がなかったら、反旗を翻していたのかもしれない。
「聞いた話だとさ、クーデリアさんが名前だけ勝手に使われているから、無視できない状況なんだって」
「どういうことだよそれ?」
「そうだなぁ……よその喧嘩にいつの間にか巻き込まれていたみたいな感じだってさ」
格納庫内で作業を行う鉄華団の団員達も、その話題で持ちきりだ。
実際に戦場に出場するわけではないにしても、今後の鉄華団の動きについては周知されている。
だからこそ、こうして話題にもなろうというものだ。
「俺も聞いたぞ。えーっと、スポンサーが勝手にクーデリアさんの名前を使って暴動を起こそうとしているんだって」
「はぁ?」
「しかも、クーデリアさんには許可も取らずにな」
「すっげぇ迷惑じゃん」
「ろくでもない奴だな、そいつ」
「だけど金はあるからスポンサーなんてやっているんだぜ」
「かーっ、なんだそりゃ」
口々に言い合う彼らは、しかし手を止めることはない。
彼らの仕事もまた重要なのだ。MSやMWの整備や点検というのは早々に終わるものではない。
既定のマニュアルや工程表に沿って、慎重に行ってやらなければ、いざというときにトラブルが起こってしまうものなのだから。
217: 弥次郎 :2021/08/25(水) 23:13:20 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そんな賑やかな格納庫の中にあって、自然とシノもまたそれに当てられる。
「そんなにひどい目に遭ってんのか……」
「そうみたいだね。前の僕たちみたいに不満を抱えていて、けど逆らえなくて必死になっているみたいだ」
「だったらいっそよぉ、不満のある連中を引き抜いたりできねぇのかな?」
「え?」
「いや、だからよ。そこで働きたくないんだったら、そんなのやめて、火星に来ればいいじゃねぇか。
俺らみたいなガキでもちゃんと勉強させてくれて、飯も食わせてくれるアルゼブラなら悪い風にはしないだろ?」
「……シノ」
タカキだけでなく、他の整備班にいる年少組までもがシノの発言に言葉を失う。遠くからそれを聞いていた雪之丞もまた同様に。
「な、なんだよ……急に黙っちまって?」
その視線に気が付いたのか、シノは急に挙動不審になるしかない。
何か言っちゃまずいことを言ったのか?と柄にもなく不安になる。
「大丈夫、シノ?熱でもある?」
「どこか頭を打ったのかもしれない…それか病気?」
「俺、ちょっと医務室の人呼んでくる」
だが、周囲の少年兵たちは硬直から復帰し慌てて動き出した。何かあったに違いない。だって、あのシノが、だ。
「おいおいおい、なんだよ急に…」
「なんだ、はこっちのセリフだよシノ。急にそんなことを言うなんて、シノらしくない」
代表してタカキがズバリ言った。確かに学がなかった鉄華団の面々はここ最近集中して勉強をしていた。
文字の読み書きに始まり、四則計算や一般常識を叩き込まれ、なんとなくでしか認識していなかった社会というものを学んだ。
また、PMC、つまり傭兵会社となることで経済や社員としての常識や知識を教え込まれていたのだ。
無論、彼らにとっては未知の分野で、苦戦する面子ばかりだったのは言うまでもない。そこにはシノも含まれていたのだ。
そんなシノがさらりと解決策の一つを提案してしまうなんて。なんというか、言うのは問題があるかもしれないが、彼らしくないのだ。
これがオルガやビスケットなどであれば納得しただろうが、あのシノが言ったのだ。
「わ、悪いかよ!」
「プフっ……これまでのシノらしくないんだよ、いい意味でさ」
思わず噴き出したタカキは、そう言うのが手一杯だった。
なんだよそれ!とシノが叫び、周囲がさらに笑う。
戦いが近いとは思えない、穏やかな空気が格納庫に満ちていた。
218: 弥次郎 :2021/08/25(水) 23:13:52 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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盛大に誤爆してしまった…おいは(ry
最終更新:2023年11月12日 15:57