263: 弥次郎 :2021/08/26(木) 23:02:27 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS 短編集9(改訂版)
Part.19 人の上に立つもの
実際のところ、連合は連合で各コロニー群にアプローチをかけていた。
それこそ、クーデリアがドルトコロニーに赴くよりもずっと前、この世界に対して介入を行うことを決めた後からのことだ。
MSだけでなく、武器や艦艇なども密かに渡したり、訓練を積ませたりしていた。無論のこと最初から武装蜂起を促したわけではない。
ただ、見せ金としたのだ。連合の傘下に収まることでどれだけの恩恵があり、この後にどれだけ良い待遇で働き続けることができるのかを。
あるいは、連合がどれほどの力を有しているのかを。その庇護下に収まればどれほど楽になるのかを。
そして、その仕込みは少々違う形で使われることとなった。
つまり、火星連合独立後に味方となってもらうための土台として活用することになったのだ。
火星独立後は、できるだけ味方が多いほうが望ましいのは言うまでもないことだ。味方が邪魔になるということもあるが、基本的には優位を得られる。
もちろん、火星が火星連合として今後経済圏と付き合いを持つにはクーデリアが持つ伝手が重要なのは言うまでもないこと。
ただ、経済圏の一つでしかないアーブラウへのそれだけではあまりにも心もとないというのが実情だ。
その気になれば、アーブラウは火星に対して自らに都合が良いように条件を飲ませることもできてしまうのだから。
だからこその、コロニー群への伝手、というわけである。
できれば、地球圏への足がかりとなり、尚且つ防波堤となるような場所が欲しかった。
連合がこれをいつから考えていたのか。それはおそらく、このP.D.世界に深く介入するプランを策定した時からであろう。
つまり、連合からすればクーデリアはノブリスがやらかしていたことの後始末のための駒である。
同時にコロニーを火星連合側に取り込むための演出装置であった。身もふたもない言い方であるが実際そうであった。
そして、クーデリアは連合の意図を組んだうえで、それを是とした。
「よろしかったのですか、お嬢様」
エウクレイデスの艦内、割り当てられている居室でフミタンに問われたクーデリアは、鷹揚に肩をすくめた。
「それくらいはしなければ、連合としても私や火星連合への投資の価値がないと思うでしょう。
それに、コロニーの実態を知った以上、このまま放置するわけにはいきません」
実利だ、とクーデリアは考えている。火星連合が成立したのも、半分は自分たち独立派の意思があるが、もう半分は連合と企業連の思惑のあってのこと。
この太陽系、P.D.世界からの難民の発声や海賊の跋扈は連合にとっては面倒なことだ。なまじ惑星間航行能力があるだけに、その気になればたどり着いてしまう。
それこそ、難民であるとか武装集団あるいは宇宙海賊など、地球連合にとっても厄介な存在となるものがこぼれ出てしまうかもしれないほどに。
だからこそ、こちらの世界に介入し、半ば内政干渉を行っているのだ。ならば、連合と良い付き合いをするためにはそれに乗ってやる必要がある。
まるで、ノブリスのようだとフミタンは思う。理想を掲げる乙女とは違う、火星連合の最高権力者としての姿、例えるならば女帝。
企業連と地球連合という組織を介し、また彼らの意思にある程度合わせる必要があるとはいえ、彼女は絶大な力を持つ。
ただの偶像(アイドル)であったのに、今や確固とした政治家になりつつある。ノブリスのようだ、と思ったがそれを訂正する。
ノブリスを超えて、単なる商人を超えて、支配者になりつつあるのだ。
「フミタン?」
「はい、お嬢様」
その支配者---女帝としての顔をのぞかせながらも、クーデリアは自らに従う従者に問いかけた。
「ドルトコロニーでは内部で動くことになります。ついてきてくれますね?」
確信を込めた問いかけだ。
そんなもの、彼女と改めて主従となった時に覚悟を決めてある以上、愚問にすぎない。
「お嬢様が命ずるならば、どこであろうとも」
「良い返事です」
自然と頭を垂れてしまう。これがカリスマか。利益と権力ではなく、人として圧倒し人を傅かせる才覚。
だからだろうか、ノブリスの命で動いていた時より、不快感がない。ああ、自分は彼女に入れ込んでしまっているのだ。
そのようにフミタンは思うしかなかった。人の王とは、支配者とはこのような人物ということかと。
264: 弥次郎 :2021/08/26(木) 23:03:47 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
Part.20 二つに割かれた銀の輪
プロスペール・ウィンターは、座乗艦であるトリマランの艦橋で、絶賛不機嫌キャンペーン開催中であった。
何のこともない。アリアンロッド艦隊の一部を率いてドルトコロニーで起こることになっている暴動鎮圧の作戦に横やりが入ったためだ。
本来はラスタルから任された、アリアンロッドやギャラルホルンお得意のマッチポンプで片が付く予定であった。
これはある意味で定例の作業ともいえる作戦行動で、何のこともない仕事のはずだった。
躓いたのは、ラスタルがギャラルホルンの火星支部の一連の失態の責任を背負わされたことに始まった。
確かにアリアンロッド艦隊の管轄している範囲というのは、月とその周辺のコロニー群、ラグランジュポイント、そして月軌道以遠にある。
だが、厳密には火星支部は火星支部として独立しており、監督責任がラスタルにあるかといえば微妙なところなのだ。
ここまではまあいい。ラスタルもギャラルホルンの古い体制の欠陥と指摘したし、一応いい分くらいは聞いてやろうという動きはあった。
仮にもセブンスターズの一角だ、それくらいは認められていた。
問題にさらにケチが付いたのは、ラスタルが後見を務めていたクジャン家の次期当主のイオク・クジャンの暴走にあった。
経済圏からまだ手を出すなとは指示されていた状態のクーデリア・藍那・バーンスタインの逮捕をもくろみ動いてしまったのだ。
そして、禁止兵器であるダインスレイヴを持ち出し、私設艦隊までも動員して勝手に行動した彼は見事に失敗してしまったのだ。
彼の取り調べの中でギャラルホルンの杜撰な組織体制が表ざたとなり、経済圏は厳しい追及を行った。
そしてその非難の的になってしまったのがラスタルだったのだ。現在はアリアンロッド司令の役職を解任され、イオク・クジャンともども沙汰を待っている状態。
そしてアリアンロッドが大きく揺れている中で、さらに追い打ちがかかったのである。
即ち、反ラスタル派ともいうべき急進派がアリアンロッド内部で勢いを伸ばしだしたのだ。
(統制局のファリド公が裏にいると噂されているが、どこまで信用できるか…)
プロスペールの嗅覚は、その急進派の動きを鋭敏とまではいかなくともとらえていた。。
建前的にも組織図的にも、アリアンロッドもまた統制局の管轄下にある。だから、イズナリオがラスタルの追及をするのはおかしくない。
とはいえだ。この短期間に身柄の拘束や周囲の近しい人間までも職から追放したり、権限をはく奪するなど、あまりにも性急すぎる動きがみられた。
経済圏への示しをつけるためにしても、急ぎすぎているというか、あるいはうまく話が進みすぎているような気がしてならない。
そう、まるでアリアンロッド艦隊の内側から後押しが発生しているかの如く。
(ったく、簡単な仕事にさえ支障をきたすまで介入するか?普通)
そして、今回のドルト派遣艦隊は、実のところ二つの艦隊の連合状態だ。
元々派遣が決まっていたプロスペールの管轄下にある艦隊と、急進派のリッカルド・光政・タッキー二准将の艦隊。
一応は指揮はプロスペールの下で行われる予定なのだが、果たしてどこまで守られるのか。
噂によれば、彼はイオク・クジャンにも近しい人物であるという。果てしなく不安しかない。
アリアンロッドも決して一枚岩ではない。ラスタルという人物がいたからこそまとめ上げられていたが、その彼が遺恨を残してしまった以上、致命傷とならないはずがない。
「無事で終わればいいんだがな…」
そのつぶやきは虚空へと消えていく。
そして、その予感が的中することを、いや、それ以上の事態へと発展してしまうことを、彼はまだ知らなかった。
【人物設定】
名前:プロスペール・ウィンター
人種:人間
性別:男性
年齢:46歳
義体化率:0%
所属:ギャラルホルン アリアンロッド艦隊
階級:准将
出身:アフリカユニオン
概要:
アリアンロッド艦隊の一員。
実家であるウィンター家は格こそ低いがギャラルホルンの貴族階級、つまりウォーレン家同様に過去の厄祭戦で功績をあげた一族。
ガンダム・フレームを有していたのかどうかは不明である。
家柄もあって階級などは高いのだが、ここ数世代にわたり特に目立った功績がなく鳴かず飛ばず。
ラスタルの更迭を受け、有能な上司の庇護を得られなくなったことにショックを覚えるも、同時に成り上がりのチャンスととらえる程度には野心家。
ラスタルも彼が野心家であり、いざとなれば敵対することも選ぶであろうことをわかったうえで使っていたようである。
能力としては平凡。鳴かず飛ばずは伊達ではないが、政治的な嗅覚は鋭い方。
家の方針のためか、300年前から伝わるとされるサーベルを常に身に着けていて、白兵戦がやれるタイプ。ただし、それを生かす機会はない。
265: 弥次郎 :2021/08/26(木) 23:04:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
着実に改訂とか色々と進めてまいりますね。
落ち着いて次の話も書いていきたいですが…身体が足りない(白目
最終更新:2023年11月12日 15:58