827: 名無しさん :2020/10/06(火) 22:10:15 HOST:128.4.232.153.ap.dti.ne.jp
議論が煮詰まっていない部分を妄想で書いたのでボロボロかもしれませんが、投下します。
「ソビエトを守ろうとした二人」
「それさえ行えば、貴国は我が国を援助する、と?」
「ええ、その通りでございます。閣下。その契約書を履行していただければ閣下が望むだけの援助を実現して見せましょう」
暗闇の中でいかにも高級そうなスーツを身にまとったビジネスマンのような人物がひげ面の男にそう返答する。だが、その雰囲気からは濃い血の匂いが漂っており、まっとうなビジネスマンとは到底思えなかった。いや、事実まっとうなビジネスマンではない。人の生も、死も金銭に変換する商人――米合の外交官――だった。
話しかけられたひげ面の男――スターリン――は苦悩の様子を見せる。彼の選択によって国家全体の行く末が変わるかもしれない瀬戸際なのだ。
その様子を見た外交官は、悩みを好機だと捉え攻勢をかける。
「閣下。今この機会を逃せば国を救うことも、共産主義の理念を保存することもできなくなりますぞ」
「いや、しかし」
「閣下。あなたの理想はこの国なしには実現できないのではないですかな?」
なおも悩み続けるスターリン。その様子は頭を抱え、今にも叫びだしそうなほどだ。
外交官の男はここで声音を変えた。今までのビジネス然としたものから、相手を心底同情するような声音に。
「閣下。あなたの国と国民と理念を思いやる心に感服いたしました。あなたは真の愛国者だ。よろしいでしょう。我々もビジネスですが、あなたの心意気に惚れこんでしまいました」
そう言って手元の書類を書き換え、再度スターリンに手渡す。そこには事前に提出されたものの30%増しの無償供与資源と各種工作機械が記載されていた。さらにはトラックなど機械化に必要な車両の有償購入可能数も大幅に増加され、工場や交通インフラへの投資も倍額になっていた。
そして極めつけには戦車及び、航空機の共同開発研究が記載されていた。
「・・・っ。これは」
スターリンは息をのむ。これが本当ならば。
「はい、閣下。これだけあればあのドイツに対抗することも可能でしょう?我々の軍事技術に関しては閣下もよくご存じのはず」
スターリンは心の中で毒づきながらもそれに同意した。何しろ先の戦争であのドイツが圧倒的な勝利をおさめた原動力はこの吸血鬼共がもたらしたものだからだ。
おかげでこの国はボロボロになり、共産主義を実現していける目途が立たなくなった。この国の苦境を作り出した人間が目の前にいるのだ。
「我々の先進的な軍事技術を用いて、あなた方の事情に合わせた戦車や航空機をご提供いたします。その際には貴国の技術者も開発に参加してもらい、帰国の技術力の向上に貢献しましょう。生産体制に関しても、我々にお任せください。『誰でも』『高速に』『完璧に』生産し、運用できる兵器に仕上がることをお約束いたします」
しばらくスターリンは硬直していた。だがその名前通り、彼は鋼鉄の心を持っていた。
彼は決心したように迷いなく書類にサインをする。
そこには関税の段階的撤廃や国内資源開発の米合企業の参加、最恵国待遇といった内容が先の援助等と引き換えに米合に与えるという内容が記されていた。
中でも特異な条件がレフ・トロツキーの殺害と少数民族の米合への輸出だった。
サインしたのをしっかりと確認し、カバンの中にしまった外交官は笑顔でスターリンの方を向き、
「ありがとうございます。閣下。これで貴国にも我が国にもますますの繁栄がもたらされることでしょう」
そう言い、ドアの方へと歩みを進める。後ろからはスターリンのため息が聞こえてきた。
やがて部屋を出てスターリンから見えなくなった外交官の顔には、笑顔どころか何の感情も浮かんではいなかった。
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828: 名無しさん :2020/10/06(火) 22:10:55 HOST:128.4.232.153.ap.dti.ne.jp
ある部屋で一人の眼鏡をかけた男が手を組み、静かに座っていた。
静寂だけが存在する部屋に、やがてドアをノックする音が響いた。
それは特定のリズムと回数に従ったものであり、それはこの部屋に入る資格を持った同志であることの証明だった。
「入り給え」
「失礼します。同志トロツキー」
入ってきたのは部屋の中にいた男――トロツキー――の顔なじみの男だった。
彼は情報関係の職についており、多忙なことで有名だった。トロツキー自身も久しくあっておらず、日ごろであれば再会を祝しただろう。
だが、今日に限っては最も会いたくない人物だったといえる。
「君が来た、という事はそういうことでいいのかね」
「はい。残念なことに」
トロツキーは大きなため息をつく。そして顔を真っ赤にし、大きな怒りを込めて
「スターリンの大馬鹿野郎が。あの吸血鬼共に国を売りよって…!!」
そう叫ぶ。幸いにも『防音』がしっかりしている部屋であり、万が一にも漏れることはなかった。
部屋に入ってきた男は最近スターリンが進めている米合との関係改善について調査を進めており、大きな動きがあった際に報告するようになっていた。漏れ出てくる情報からある程度内容は推測されており、国を売る内容であることは確実視されていた。
男は怒り狂うトロツキーを制し、言葉をかける。
「同志トロツキー、残念ながらあなたにはここで怒鳴り散らす時間はありません。早急にお逃げください」
その言葉を聞いたトロツキーはきょとんとした顔から、次第に顔を青く染め白に到達したかと思えば再び顔を赤く染めた。
「まさか、スターリンの奴は」
「はい、同志を殺害するつもりです。米合からの指令で」
「奴らはそこまで私の永続革命論が邪魔か!!それにのせられるスターリンもだ!!」
1920年代に入ってからの世界情勢は極めて混沌としていた。あまりにもスピーディな第一次世界大戦の終結は、そこに至るまでの世界中のゆがみを取り除けないばかりか、悪化させていた。
それは世界中に民需市場の停滞という影響をもたらしていた。社会情勢の不安から投資心理が鈍っていたためだ。
例外は日英経済圏だったが、それ以外の特に欧州地域においては復興需要こそあったものの、大規模な民需市場の成長にはつながっていなかった。
そして米合は第一次世界大戦においてさらに成長した工業力の投射先を欲していた。その経済構造上、内需にはほとんど期待できないため外需の安定と成長は彼らにとって必須だった。
そのため永続革命を掲げ、一時的にでも世界を不安定にしかねないレフ・トロツキーという男が邪魔だった。そこで米合はロシアという大きな人口を抱える国家の民需を牛耳るとともに、不安定要素のトロツキーを排除するという一石二鳥の合理的な手段に出た、というのが今回の条約の真相である。
「とにかくお逃げください。あなたが生き残ることこそ、我々の誇りを失わずに済む方法です」
「しかし、私が逃げたと思われては…」
情報部の男はそう言いよどむトロツキーの肩をつかみ、顔をしっかりと見る。
「あなたはおっしゃられました。平和を実現すると。あの地獄のような革命の最中に、共産主義革命を通じて世界平和を実現して見せると。万民平等を実現して見せると。国家という枠組みを取り払って見せると」
「…ああ」
「我々はそれを信じ、あなたについてきました。だからこそ、あなたを同志と呼ぶのです。同志トロツキー。その言葉を嘘にしないでください」
「…ああ、ああ」
「そのためには、ここであなたが死んではなりません。あのスターリンと米合に立ち向かえる共産主義者はあなたをおいてほかにはいません。あの革命のすべてを、無駄にしないためにも、あなたは死んではいけません」
「ああ、わかった」
トロツキーは静かに目に浮かぶものを拭いもせずに身辺整理を始める。
情報部の男も、今生の別れになることを覚悟し、静かに涙をこぼしていた。
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829: 名無しさん :2020/10/06(火) 22:11:29 HOST:128.4.232.153.ap.dti.ne.jp
誰もいない部屋で一人、スターリンがウォッカをあおっている。
「そうだ。これでよかったのだ」
独り言が口からこぼれ出る。
「トロツキーは何もわかっていない。どれほどこの国が危機的状況にあるのかを」
実際、ソビエトの内情は危機的といっても間違いがなかった。ウクライナをはじめとした穀倉地帯は失われ、明日の食べるものすら苦労するありさまだ。工業力も前身となるロシア帝国が近代において日露戦争をはじめとした諸戦争に負け、資金不足から十分に育てることができていなかった。
このままでは革命で発生した国が、革命によって倒されるという喜劇を演じなくてはいけなくなる。
そうでなくとも、ドイツが攻めてくれば現状ではまともに戦うことすら難しい。
「だからこそ、あの悪魔とも手を組む」
自らの力で立つことが難しいならば他者の力を使う。赤子でもわかる理屈だ。
米合に頼れば、この国は近代化できる。
戦うことができる。
一国で共産主義が成立すると証明できる。
そのためならば何でもするのが合理的な判断というものだ。
「それに、世界に共産主義をばらまくだと?日英が黙っているはずがない」
世界最大の同盟にして、帝王を戴く二つの国家。ブルジョアジーを否定する共産主義との相性が良いわけがない。
「そうだ、私は間違っていない」
スターリンはひとりウォッカをあおる。
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誰もいない部屋で一人、トロツキーが旅の支度を始めている。
「なぜ、こうなってしまったのだ」
独り言が口からこぼれ出る。
「スターリンは何もわかっていない。米合がいかなる国なのかを」
米合の内情は、トロツキーにも伝わっていた。もはや社会階層は固定化されており、民衆が夢を見ることすら許されない。資本家と貴族という差はあれど、基本的に親である英国よりもひどい階層社会だった。
どこまで本当かはわからないが、人以下の扱いをされている人々も存在するという。
このような国と手を組めば、共産主義は永遠に誤解され、二度と日の目を見ることはないだろう。
「だからこそ、この国を変えてみせる」
共産主義の理想を実現する為に、全力を尽くさなければならない。
例え、一時負けようとも。
卑怯者の烙印を押されても。
この身が滅びようとも。
この身の信念にしたがって行動してみせる。
「それに、あの吸血鬼と手を組むだと?日英が黙っているはずがない」
世界最大の同盟にして、帝王を戴く二つの国家。すでに百年以上にわたって敵対してきたあの帝国達が、我が国と米合の関係をそのまま放置するわけがない。
「私はこれからも、正しくあれるだろうか」
トロツキーは支度を終え、扉を開ける。
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二つの場所で、二人の男が声を発した。
「「そうだ。お前は間違っているんだ、トロツキー(スターリン)」」
「「間違いは正さなければならない」」
「「この国(共産主義)のために、私は全力をもって行動するだろう」」
「「お前はどうだ?未来のために、お前は何をする?」」
830: 名無しさん :2020/10/06(火) 22:13:07 HOST:128.4.232.153.ap.dti.ne.jp
以上になります。
ソビエトロシアを守ろうとしたスターリンと共産主義を守ろうとしたトロツキーの対比してみました。
どちらも守るべきものがあり、その優先度の違いが、そのまま方向性の違いになってしまった形になりますね。
最終更新:2020年10月11日 10:54