165: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:03:11 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
ニューファンドランドの奇跡 『ニューファンドランド島撤退作戦』


【事前状況】


 アメリカ合衆国、ソヴィエト連邦、フランス諸勢力を主軸とした反日英連合、別称【ジェノサイド・ファミリー】の奇襲攻撃により開幕した第二次世界大戦は、イギリス本土と本国艦隊に無視出来ない多大な損害を齎した。合衆国海軍による宣戦布告同時奇襲により、開戦近しと言う事で本土近海にて遊弋していた英国本国艦隊に少なからぬ損害が与えられた事に加えて、まともな国家体制にないカルト教団が跋扈しているのでまともな近代戦力を持っていないと看過されていたフランス側からの自爆攻撃部隊がグラスゴー等の英本土の重要工業都市や艦隊に直撃し、初動が一瞬遅れてしまった英国空軍が飛び立った頃には米合海軍の攻撃で損害を受けた本国艦隊や英国陸軍の高射砲部隊が押っ取り刀で死に物狂いに自爆航空機隊へ対空砲を乱射する地獄絵図が広がっていた。

 そしてイギリス本土への奇襲攻撃で米合側が求めて止まなかった『時間』を得た米合軍は、既定の作戦に則りカナダと米連へ大規模侵攻を開始。当然コレを予期していたカナダ軍・米連軍は総力を挙げて迎撃に挑むも、宣戦布告同時攻撃による奇襲効果に加えて想定を遥かに上回る火力と人海の物量攻勢を前に、国境線近くに作り上げられていた要塞陣地は米連側は二週間、カナダ側に至っては八日と立たずに力技で強行突破され、人員や民間人の後送を急ぎつつも撤退戦に移行する事を余儀なくされた。
ただ、国内に踏み込まれつつも何とか防衛ラインの構築に成功し、ギリギリの範囲ながら機動防御を成功させて踏み止まった米連側と違い、元々の国力や人口に劣るカナダ側はその国力に見合わぬ要塞や軍備を整えていたものの、全てを喰らい尽くす獣と化していた米合軍を押し留めるには戦力がどうしても足りなかった。この点、地理環境から寒冷地方と森林が多いカナダが各所に拠点を構築して必死の防戦を展開しても、それを全て薙ぎ倒す勢いで攻め込まれているのだから無理のない話である。


 あわよくば国境線近くで米合軍を押し留める事が出来れば最善であったが、予想されていた通りに米合側の飽和攻撃で押し切られた事を認識したカナダ政府や軍は、次善の作戦の通りに捲土重来を期する為に一時日本帝国領加州の援軍を受けられるバンクーバーへ撤退する事を決断。この事は開戦前から何十年にも渡って想定されていた事でも有るので、開戦前の米合側と日英側の今までより進む更なる関係悪化から進められていた加州側への大規模疎開を更に加速。使える輸送機や民間人協力者によるトラック、自動車輸送のみならず、鉄道輸送を西から東への一方通行にする事で多数の機関車や客車を使い捨てにする代償に急速な国民の避難を実現させたカナダ政府と官僚たち、そしてその『脱出車輛群』を守護するカナダ陸軍と空軍、そして日本陸海軍航空隊の活躍により、米合軍の熾烈な妨害により列車が爆撃されたり鉄道が一部破壊される等の、戦争には付き物である事前の計画との少なからぬ齟齬が発生したものの、カナダ軍主力と日本帝国加州軍に相当な損害が出たが何とか大多数のカナダ国民の脱出に成功。カナダとイギリス本国、一部加州の工兵が作り上げた要塞群で遅滞戦闘に努めたカナダ軍主力部隊の献身的戦闘は、電撃戦により一気にカナダ全土を飲み込む予定であった米合軍の戦略を序盤から頓挫させる大金星を挙げており、戦後の総括レポートでも米連側の防戦と共に米合に勝利に多大なる貢献をしたと明記され、21世紀現在に至るもこの前人未到のエグゾダス計画(脱出作戦)を凡そに置いて成功させたカナダ政府や官僚、そして軍の貢献は歴史書のみならず教科書にも大きく記されている。これは政府らによるモノで無く国民側の自発的選択と言うのだから、世界的にも異例と言えるだろう。

166: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:05:39 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


【想定外の籠城者】

 一千万弱のカナダ国民を可能な限り脱出させると言う常識外れの離れ業を決行し、しかもその計画の大半を成功させる偉業を成したカナダ政府や官僚が、行きつく暇も無く受け入れ先のカナダ州東部や加州との会議や調整に入ろうとした矢先に、既に放棄していたハズのカナダの大西洋沿岸部に存在するニューファンドランド島から緊急電文が入電した。電文を打ったのはカナダ東部にて哨戒や民間人疎開の警備任務に就き、既に鉄道で長躯カナダ西部に撤退して居たハズの部隊の一部だった。電文を受信した瞬間から嫌な予感しかしなかったカナダ軍は、その嫌な予感通りの事が記された電文に頭を抱えざる負えなかった。米合との戦争間近となっても疎開をどうしても拒む一部民間人を説得し、時間が掛かったが何とか折れた民間人達を連れて東部に退避していた最中に、米合による交通網を狙った爆撃に巻き込まれてしまい、幸か不幸か人的被害こそ無かったが操車場や鉄道の線路が爆撃の直撃を受け、数少ない工兵や土木業者が必死に修繕している間に米合軍はカナダ中央部を真っ二つにする形で占領地を拡大。
その為に東部への退路を断たれたこの民間人を抱えた部隊は止む無く西部へ撤退を始め、そして死神の如く目敏くこの孤立無援と化したカナダ軍部隊を米合軍は発見し、始めは主に航空機による空襲であったが次第に米合軍陸上部隊の存在が見え始め、必死の逃避行の末未だ米合軍の手が及んで居なかったニューファンドランド島に逃げ込んでカナダ東部へ電文を発した頃には軍人、民間人合わせて七千人程度にまで戦死、行方不明で人数を割り込んでいた。この時米合軍への欺瞞用としてカナダ軍とイギリス本国軍工兵がニューファンドランド島に欺瞞陣地や施設を作っていたがそれを本当に使う羽目になった現地残存部隊は、カナダ政府は英国本国に緊急打電を行う。『救援に来れるか、さもなくば人として死ぬ事を望むか、何れかを願うか』、と。

逃避行の間に各地の基地や町村から物資を徴収し、米合との常態的関係悪化によりかなりの寒村であったが世界屈指の漁猟地であるニューファンドランド島での漁である程度の食糧自給と耐久は可能であったが、米合軍が押し寄せてきたら一瞬で全滅するのは分かり切っていた。ただ何とも幸運な事にカナダ軍とイギリス本国軍工兵が精鍛込めて作り上げた欺瞞陣地は見事に【案山子】としての効力を発揮し、米合軍はこのニューファンドランド島を『イギリス本国軍がカナダに乗り込む為の橋頭保とする為に作り上げた要塞島』と誤認しており、この【要塞島】を攻略するには全く陸上戦力が足りないと判断していたが為に米合軍陸上部隊が多数集結するまで対岸で待機状態に居たが、代わりに米合海軍が艦砲射撃等で事前攻撃を開始し始めたので、陣地の奥深くに籠る残存部隊と民間人に限界が来るのは時間の問題だった。


【政治的決断と望まれなかった救援作戦立案】


 そしてこの緊急電文を受信したカナダ政府は本国へ転電し、本国はこのニューファンドランド島に逃げ込んだ七千人弱の将兵と民間人の救援か、それとも僅か七千人を割るカナダ人を見捨てて玉砕させるかを巡って短くも激しい論争に突入した。
当時の英本国海軍は米合海軍の奇襲に加えて予想外のフランスカルト兵による自爆攻撃によって、本土の港湾施設のみならず正規空母『ヴィクトリアス』や戦艦『キング・ジョージ・五世』の艦橋に自爆機が体当たりし艦隊上層部諸共吹き飛ぶ等の装備のみならず人員面を含めてかなり大きな被害を受けており、その混乱が尾を引いてニューファンドランド島を取り囲む米合海軍の主力艦隊を排除、または牽制するだけの戦力は早急に用意出来なかった。開戦と同時の損害に加えて、米合海軍の奇襲部隊並びに潜水艦部隊、そしてフランスカルト兵によるものと思われる多量の機雷も本国近海に浮遊機雷として流れており、此方の掃海にもそれなりに時間が必要だった。加えて米合海軍の襲撃にフランスカルト兵による特攻に加えて、米合の大規模支援と言う柱に括りつけられ、さながらゾンビの如き復活を遂げたソ連軍が陸上部隊だけでなく潜水艦による通商破壊に加えて虎の子の米合製高速戦艦に中型正規空母を基幹とした艦隊が出撃してドイツへプレッシャーをかけ出した為に、そちらへの対応も余儀なくされた。

167: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:07:27 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

昨今の戦略事情や国民感情などの変化によって日英側に着いたドイツ海軍が本来このソ連海軍に対応するべきなのだが、日英による空売り砲を国内の公共投資に加えて東欧を経済圏として確保した上で日英に与する事で日英側の経済圏にリンクして安定した経済運営が出来ている現状であっても、元々ドイツは陸軍国家で海軍に回される予算は常々少なく、そして先の大戦の結果世界各地に皇帝陛下の置き土産と揶揄される植民地が点在している為に、これらの領域守護の為典型的な近海迎撃海軍では無く英国海軍型の長距離航続可能な軽武装で尚且つ安価な巡洋艦を(比較的)重視した海軍に
なってしまっており、ヒトラー宰相の肝いりでドイツ海軍の艦隊拡張計画(Z計画)の第一期艦となるビスマルク級戦艦二隻にグラーフ・ツェッペリン級空母一隻、そしてそれ以前に建造されていたヒッパー級重巡羊羹数隻を除けば、目ぼしい水上艦は少なかったのだ。相変わらず潜水艦は優秀だが、海域的に狭いバルト海では哨戒機が各海域を飛び交い易いのでその効力は大分減じられる。イギリスからして見れば、陸上と海中は兎も角海の上では何とも頼りにし難い『盟友』である。因みに戦争勃発の為Z計画は計画の端緒で中止を余儀なくされた。


開戦初頭の損害に加えてソ連海軍の策動への対応で戦力が引き抜かれてしまい、その為に大規模艦隊を投入した救援は不可能と結論されかけた時、日本海軍に一時出向してイギリス海軍人らしからぬ思考を時々見せるようになったとある海軍将官の発案により、急遽カナダ政府救出作戦が立案された。作戦内容は、高速発揮可能な巡洋艦以下の軍用高速艦によって、この時期ニューファンドランド島を包む霧に隠れて揚陸し、人員のみを救出し即時撤退すると言う、何とも運の要素が強すぎる賭け染みた作戦であった。
当然ながら軍事学上の定石を無視したこの無謀な作戦には、話を聞いた英国海軍人の誰もが『ジョーク』と認識した。
裏を返せば『ジョークと見做している間にこの夢想を撤回しろ』と言外に伝えていたのだが、件の海軍将官は『現状すぐさまカナダへ、米合海軍に警戒態勢を強化される可能性が少ない状態で接近出来る』と続け、そして『米合に同胞を見捨てたと言う喧伝材料を敢えて与える必要性は存在しない』とまで言い切った。賭け事が好きなイギリス人でも流石に投機性が強すぎると渋い顔をする海軍上層部であったが、この時戦時体制に移行し新たに首相に就任した元海軍大臣の首相がこの話を聞き付け、首相直々に今救出作戦にゴーサインを出した事で強制的に実行される事となった。渋る海軍上層部だったが首相が『あの人喰い共には、我らが同胞、我らが国民の一人足りとて奪われる訳には行かない。奴らは人に非ず、戦争の為に戦争をし、【効率】の名の下に神の御許に行かれた人々を埋葬すらせずに家畜に食わせる。獣以下に堕落した者どもの魔の手から、我が王国海軍が救い出すのだ』『今の英国国民は開戦初頭の損害に動揺し、士気を落としている。その上で同胞を見捨てる様な行為をしてしまえば、国民からの政府や軍への信頼は失墜し、何より厭戦気分が出て来る恐れがある。今戦争は米合を滅亡させる唯一にて最後の機会、それだけは避けなければならないのだ』と言う説得の言葉には、折れるしか無かった。


ソ連海軍のプレッシャーに対応すべく臨時編成で出撃する主力艦隊に多数の浮遊機雷の除去作業に全力を尽くす掃海部隊に紛れ、表向きは米合海軍の通商破壊に対応する為として、英国海軍でもこの時期僅か数隻しか存在しない貴重な新鋭洋上高速補給艦をこっそり艦隊に同行させたカナダ政府救援艦隊、その旗艦の名をエメラルド級軽巡洋艦『エンタープライズ』と言う。既に旧式化しており、改装されたものの現在では船団護衛専任だった軽巡であった。

168: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:09:53 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


【待機・遊弋・焦燥・活路】


北極圏に近い航路を回って米合海軍の目から逃れつつニューファンドランド島に突入する機会を探るカナダ政府救援艦隊であったが、事前の想定とは異なり、本来この時期であればかなり濃い霧に包まれるハズであったが今年は異様な事にまともに霧が出て来ない、出て来ても霧と言う程に全く濃くないと言う異常気象であり、現地ニューファンドランド島に籠る残存部隊からの報告でも霧が殆ど
出て来ない上にこの時期(11月~3月)特有の激しい嵐も発生しておらず、米合海軍が盛大に艦砲射撃を繰り返していると言う悲鳴と絶望の絶叫が電文で英国本土や救援艦隊にも届いていた。だがニューファンドランド島を取り囲む米合海軍の戦力は戦艦や重巡を多数含む等強大であり、霧が出ていない中での突入は作戦失敗しか有り得ないとする、今作戦の発案者にして指揮官として任じられた提督により一時洋上を無為に屯する事になる。

その後もあくまで通商破壊対応の小艦隊の振りをしつつ突入の機会を伺い続けるも、現地残存部隊に救援艦隊の願いも虚しく未だに濃い霧や激しい嵐は起きない季節外れの穏やかな海に包まれたままのニューファンドランド島海域。この事には作戦指揮が消極的だとする一部艦隊の人員や、カナダ人救援失敗の危険性に加えて貴重な洋上高速補給艦を危地に出している事に焦る英国本国から批判の的となり、一時はあわや撤退命令が下されるまでに至ったものの、此処まで来て帰投すればそれこそ完全に『見捨てた』事になると必死の説得をする首相、そして各所からの非難も全く意に介さず『英国紳士は優雅成れ、待てば必ず助け出せる』と唯々『時』を待ち続ける救援艦隊の提督の悠然とした態度により時間が稼がれ続け、各艦の燃料、並びに高速補給艦の油も限界まで減りかけてとうとう撤退の言葉すら出始めた直後に、後世に残る有名な救援艦隊からの電文をイギリス本国は受信する事となった。

『ニューファンドランド島海域は霧に包まれる。ワレ、これより突入セリ。神の御加護に感謝す』



【ニューファンドランド島の奇跡】

 レーダーによる逆探、並びにニューファンドランド島の守備隊からの報告で島を取り囲む米海軍が霧に包まれた為か反応が無くなった為、これまでの消極姿勢から打って変わって突撃を命じた指揮官隷下のカナダ政府救援艦隊は勇躍ニューファンドランド島へ突入。僚艦と接触事故を起こしかけた程に濃すぎる霧を隠れ蓑に接岸に成功し、生き残っていた現地残存部隊に民間人全員の救出に成功。
着の身着のままの民間人は勿論の事、守備隊の装備していた銃火器等重かったり嵩張る軍装は全てその場に海中投棄し、偽装陣地である為本来であれば装備や機密書類等の爆破処理等をせずとも良いので一心不乱に急がれた収容作業により、数時間と立たずにして全員乗艦した後は燃費無視の最大船速でニューファンドランド島から脱出。そして事前に退避させていた高速補給艦から最後の燃料補給を受けつつも高速で離脱に成功し、一度北極航路にて時折起きる悪天候に見舞われただけで通商破壊に出ているハズの米合海軍潜水艦とは一度も接触しない幸運に恵まれつつも英国本土へ帰投。軽巡『エンタープライズ』率いるカナダ人救援艦隊の奇跡の活躍は、開戦直後の損害に落ち込んでいたイギリス人の士気を一気に盛り返した。無論この事はイギリス海軍や政府を通じて世界に喧伝され、圧倒的優位な状況でありながらまんまと出し抜かれた米合海軍はイギリスの宣伝の巧みさも相まって世界的に途轍もない大恥をかく事となった。

169: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:11:42 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


 その米合海軍だが、カナダ政府救援艦隊が突入する直前に搭載レーダーに敵艦の反応を検知しており、丁度霧が極めて濃くなって来た事も有って『敵艦隊』への突撃を開始。霧に巻かれて衝突事故を起こして複数の艦艇が損傷、一隻の駆逐艦が長期ドック入りを余儀無くされる損害を負いつつも米合が誇るレーダーを以て遠距離射撃を決行。また霧に加えて急激に激化した嵐に苦慮しつつも米合海軍でも初の『艦隊決戦』を前にして盛大に発砲。『敵艦隊』に反撃の余地を与える事無く『殲滅』した後、ようやく訪れたニューファンドランド島特有の嵐が吹き荒れる中再度島の周囲を取り囲み、捕捉した『獲物』への再攻撃を行った。
そして嵐が収まった後に揚陸した米合陸軍の報告によって全ての事の顛末を知り、米合内で相当な『嵐』が吹き荒れる事になる。圧倒的優位にある米合艦隊がものの見事に独活の大木を演じてしまったのだから、これに対するオペレーションリサーチは極めて厳しいモノとなった。しかも戦後の状況の突き合わせにより、脱出途上のイギリス海軍のカナダ救援艦隊と米合海軍機動部隊の空母『エンタープライズ』の艦載機がニアミスをしており、仮にこの時救援艦隊側が冬場の北極航路特有の悪天候に偶然見舞われて居なければ、米合の『エンタープライズ』に捕捉されて空襲を受けて助け出した人間の多くが冷たい北の海で没していただろう。
米合は表面上かつ軍事的にはニューファンドランド島を制圧して勝利こそ収めはしたが、政治的・感情的にはものの見事にイギリス相手に惨敗したのだった。


【奇跡の撤退作戦に残る謎】


 さて、この奇跡と称される撤退作戦だが、軍事研究者等からは『米合は一体何を【敵艦隊】と認識したのか』と言う一つの疑問が提示されている。定説上は『レーダー上の虚像を敵艦隊と誤認した』となっているが、米合海軍のレポートによれば全艦が同じ標的を確認し、命中弾有りと推察した標的は全艦一斉に反応が消失すると言う極めて不可思議な現象が確認されている。米合海軍の艦艇には須らくレーダーが搭載されており、もしレーダー上の虚像が有ったとしても別個の位置に存在する艦艇全てが同じ反応を示すとは少し考えにくい。加えてそのレーダーで捕捉していた『敵艦隊』は妙に動きが遅く、まるで帆船か何かが相手のようだったと言う証言すら残っていた。その為一部のオカルト雑誌やオカルト番組では、過去この海域では米合に『交易船』によって連行されるも、死力を尽くして港湾の船舶を奪取して脱走した奴隷たちが乗る船が米合海軍の手により撃沈され、真冬の海に投げ出され誰一人として救助される事も無く全員溺死した事件が存在して居た事から、米合の手から逃れようとするカナダ人たちを脱出させ、自分達を地獄へ追いやった米合へ吠え面かかせる為にこの世に舞い戻ったのだ、等と言う与太話も有る。一体何が真実なのかは、永遠に謎なのかもしれない。


【奇跡と相対した軍艦『エンタープライズ』のもう一つの【事件】】


 ニューファンドランド島への救出作戦の功績を讃え、作戦を指揮した提督のみに留まらず、各艦の艦長や下士官等にもそれぞれに応じた勲章が授けられ、軽巡『エンタープライズ』を拝啓とした写真が紙面の一面を飾り、国民からもその勇気と功績を讃えられた彼女は、その後は本来の目的であった船団護衛任務に邁進し、『奇跡』の軍艦であると言う事も有って商船隊の士気や安心感も一入であり、実際この軽巡『エンタープライズ』が旗艦を務めた船団は他の船団よりも統計的にも体感的にも被害が少なくなっており、その『奇跡』に肖って『エンタープライズ』の写真や艦の一部をお守りとして持っていく商船は後を絶たなかった。だが彼女…軽巡『エンタープライズ』と共に奇跡を体験した他の駆逐艦や軽巡には余り運が向かず、有る艦は米合潜水艦の雷撃から商船を守る為に壁となって被雷・爆沈し、有る艦は常態的に体当たり攻撃を主戦法としているフランスカルト兵に発見されて守るべき輸送艦諸共航空攻撃と特攻を受けて沈没し、また有る艦は敵艦隊と鉢合わせして輸送艦が逃げる時間を稼ぐために敵艦隊に突撃、火達磨になりつつも敵巡洋艦に体当たりして無理矢理輸送艦が逃げるだけの時間を稼ぎ出した後撃沈される等、様々な形で戦火の波に飲まれ、次々と海神の御許に誘われて行った。

170: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:13:48 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 そしてフランスのカルト教団群、米合の支援と言う柱を無くして尚戦い抜いて前のめりに倒れたソ連の後始末もそこそこに、一時撤退していたカナダ軍に動員と増援で膨大な戦力を抱えた日本帝国軍がカナダ全土を解放し、日英側の戦力全てを北米大陸へ運ぶ輸送船団の護衛に従事するニューファンドランド島の奇跡に遭遇した艦は、軽巡『エンタープライズ』のみとなっていた。他の軽巡や駆逐艦は既に皆激闘を繰り広げた末に水底で眠りについていた。そして米合討伐作戦の為に北米に派遣され、『奇跡』を見た彼女を初めて見たとある日本人提督は『寂しそうだ』と一言呟き、カナダ救援作戦を指揮した英国人提督に個人的に『エンタープライズ』に久し振りに乗艦してはどうかと提案したと言う真偽不明の噂が有る。

 その噂は兎も角として、既に新鋭艦が多数揃っている中その英国人提督は敢えて久し振りに軽巡『エンタープライズ』に乗艦し、輸送船団の護衛序でに英本土からカナダに航行した。そして因縁の
ニューファンドランド島海域に差し掛かった時、急速に濃くなった霧に紛れ込んだ軽巡『エンタープライズ』の反応が突如レーダー上から消失し、無線の応答も反応が無くなると言う前代未聞の事象が発生。船団が濃くなった霧から抜け出すも『エンタープライズ』が居たハズの場所からは忽然と消え去り、後方や周辺に居たハズの艦艇も『エンタープライズ』の視認どころか接触等も起こしておらず、一種の神隠しが発生したと大騒ぎになった15分後、レーダー上の反応が復活し、『エンタープライズ』が霧から抜け出して船団に復帰した。カナダに入港後事情聴取を行うも、乗員の殆どが狐に包まれた様な顔であったり、詳細の説明を曖昧にしか語らず具体的となると異様に固く口を紡ぐ等奇妙な応答に終始し、英国人提督すらも『良く分からない』と言う答えの一点張りであり、たった一度だけ『彼女に…皆に有った』と言う意味不明な供述をするに留まった。機械の点検も行うも船団に属していたそれぞれの艦の装備は何の異常も無かったが、軽巡『エンタープライズ』の無線とレーダー機器だけは一部が焼き切れていたり断線しており、原因は不明だが『エンタープライズ』が霧に飲まれた後に発生した故障と認定された。だが結局『何故突如船団から消えたのか』
『何故乗員が揃いも揃って供述が曖昧か非協力的なのか』『提督の漏らした【彼女】【皆】とは一体誰の事か』等、この事件に関する疑問は殆ど分かっておらず、事態は全て迷宮入りとなった。何時もの如く無責任な番組が好き勝手に解釈したりしているが、真相は今では乗員のほぼ全員が鬼籍に入っている以上、最早解明される事は永久に無いだろう。


 21世紀現在、軽巡『エンタープライズ』はカナダ国民の請願により、カナダの地にて記念艦となり、ニューファンドランド島にて起きた『奇跡』を、その後の戦争に置ける英国海軍の苦闘と奮闘を、その身を用いて後世に伝えている。時折、英国海軍の軍服を着込んだ
英国人美少女が記念艦となった『エンタープライズ』に現れると言う与太話にしても妙な噂が有るが、それも『奇跡』の立役者となった彼女に対する、畏敬の念の一種なのかもしれない。

171: 陣龍 :2020/10/10(土) 00:18:54 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
以上投下終了に御座る

変更点としては『カナダ国民脱出大作戦』『救出対象は取り残されたカナダ将兵と民間人』『ソ連による戦略的プレッシャーの存在』と言う感じで、多分コレで整合性の弱さとか妙な点は若干でも修正出来たのではないかと思います、多分()

取り合えず思いっ切り英国海軍に出し抜かれた米合への英国流煽りはセンス無いので作れません(オイ)

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最終更新:2020年10月11日 11:12