199: 弥次郎 :2020/10/12(月) 21:50:25 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「悪意の坩堝」2


 ドルトコロニーの所有宙域に入ったセントエルモス艦隊はいくつかに分かれることになった。
 まずタービンズはテイワズの支部があるドルト6へ向かった。
 クーデリアの乗艦であるエウクレイデスはドルト・カンパニーの船のエスコートを受け単独でドルト3に入港。
扱いは経済圏間でも決めかねているとはいえ、一応は火星代表であるクーデリアは礼儀を以て迎え入れられた。
 もっとも、それがドルト・カンパニーによるクーデリアの動きを拘束するためのもの、というのはセントエルモスにはわかり切ったことであった。
艦艇が一度入港してしまえば早々に逃げ出すことはかなわないだろう、そのように踏んでいたのであった。
もっとも、何らかの方法で労働者たちと接触したらそれはそれで構わない。その時は労働争議を煽った、と嫌疑をかけて拘束するまで。
 だがそんなことをおくびにも出さないし、クーデリアたちもそんなことをお見通しであることを見せはしない。
既に面倒なやり取りや駆け引きは始まっているのだ、隙を見せたほうの負けである。
 その他の艦艇は一度に宇宙港に押しかけてはスペースを圧迫してしまうことを懸念されていたため、コロニー外に設置されたステーションに停泊。
交代でコロニーへと上陸し休息と物資補給などを行う手はずとなった。

 一方で、労働者たちの居住区があり、工業区画のあるドルト2へと向かう船もあった。
 GNトレーディングからの荷物を届けるためだ。これについては火星を出発した時点で輸送艦であるカルダミネ・リラタに積まれていたもので、これをドルト2にある輸送艦によってけん引もしくは積み替えを行うことで運び込むことになっている。
何しろ、カルダミネ・リラタは輸送艦と一言にいってもギャラルホルンのスキップジャック級に準ずる400mクラスの大型艦艇だからだ。
その作業はコロニーの労働者たちやセントエルモスのアンドロイドたち、あるいは鉄華団の面々が行っている。
 経営陣側は積み荷が資材などではなく武器だということは知っている。それどころか、それが武装蜂起に使われることもだ。
ただし、それは内通しているノブリスからのもので、役に立たないように細工の施されたものだと知っている。
 だからこそ、あえて無視している。どうせ、労働者に武器を運んできた、という時点で嫌疑をかけられるからだ。
 そして、彼らはGNトレーディングと自分たちとギャラルホルンがつながっていることを証明できず、抵抗する大義がない。
 つまり、ドルト・カンパニーの裏ごとを担当し、今回の絵図を引いた一人であるレオス・アザイからすれば、クーデリアらは自分から罠に飛び込んできてくれたようなものであったのだ。
 無論、状況がすべて引いた絵図の通り動くのであれば、と但し書きが付くのであるが。



  • P.D.世界 L7 ドルト・コロニー群 ドルト3 宇宙港

 およそ600mもの巨体が宇宙港内部を圧迫していた。
 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」はスキップジャック級以上の巨艦。
MSをはじめとした機動兵器の運用はもちろんのこと、全域航行および戦闘能力を有し、恒星間航行も可能な宇宙船。
ここへの入港前に装飾も施したエウクレイデスは万全の態勢だ。
 そして、宇宙港のひときわ目立つエリアで、火星連合代表のクーデリア・藍那・バーンスタインが、ドルト・カンパニーの代表者たちとともに報道陣の前に姿を現していた。簡易ながらも歓迎セレモニーだ。
独裁者であり、火星を奪い取った簒奪者であり、火星連合を名乗る組織の首魁。とはいえ、まだ経済圏で彼女の扱いは決めかねている状態。
ゆえにこそ、最敬礼とまではいかないのだが、ある程度の格式を持って受け入れられている。一応彼女もまた政治家であるがゆえに。
 多くの報道陣の歓迎を受け、カメラに対して手を振るクーデリアの姿は余裕そのものだ。
 あえて歳を強調するようなメイクと衣装は、革命の乙女と名を馳せたころを彷彿させる。しかして、同時に彼女の放つオーラ、あるいは圧迫感というのは少女のそれではなく、すでに成熟した大人のようですらあった。
多数の護衛を引き連れるその姿は、ある種堂が入っている。完成された調和。具現化しているイデア。
 彼女を見る目は多数あった。それこそ、好意を含んだものから悪意を含んだものまで。それを、クーデリアは余裕で受け止めている。
無理もない、彼女はここに至るまでに壮絶な経験をしてきたのだ。だから、この程度の政治ショーじみた式典など怖くもない。

200: 弥次郎 :2020/10/12(月) 21:51:14 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


(……まあ、所詮はただの娘だ)

 そのセレモニーに出席しているレオスは鼻を鳴らす。
 火星連合とは言うが、その実態は後援団体なり組織が火星独立派を旗頭にしているに過ぎないと判断している。
アルゼブラ、そして企業連。少々火星のほうにアンテナを向ければ情報は少なからず入ってきた。
 そうすればあとは推測が付くというもの。つまるところ、彼女はあくまでも旗頭、神輿にすぎないのだ、と。
 ともかく、だ。レオスは傍らに控える部下のアレスとフローレンスに指示を出しておく。

「アレス、フローレンス。分かっているな?」
「はい、心得ています」
「もちろん」

 まずはクーデリアの身柄を抑えておくこと。これが最大の武器だ。いかに彼女を護衛する艦隊や集団が強くとも、彼女自身が弱く、身柄を抑えられてしまえばどうということもない。そしてこの後彼女はドルト3のホテルに招待されることになるのだ。
つまり彼女の命運はドルト・カンパニーの胸三寸ということになる。抵抗したり暴れればそれを理由にギャラルホルンも介入できるのだから。

「彼女から目を離すな。動きも逐次報告しろ」
「は」
「了解」

 やがて、式典は終わり、クーデリアとその周辺の護衛たちは移動を開始した。
 火星連合の大使館などないために、ドルト3のホテルの一室が仮の大使館となり、彼女らはそこで過ごすことになる。
 いずれは労働者たちの争議が始まり、武装を持ち出すことになるだろう。そうなれば、彼女は終わりだ。
 そして、1週間余りが経過した。
 クーデリアの自由はドルト3内部の限られたエリアのみであり、常にドルト・カンパニーの監視下にあった。
彼女はドルト3内部でしか活動できず、彼女の乗ってきた船の乗員たちも基本的にドルト3内部でしか活動できていない。
通信も一応監視しているが、ドルト2への接触はどうにも見受けられなかった。不審な動きも見られず、平穏そのものだった。
 一方で、労働者たちの動きはやや騒がしい。おそらく、武装蜂起をしようと動き始めているのだろう。労働者たちの暮らしているドルト2にいるスパイは、そのように報告を送ってきている。クーデリアが到着したことやGNトレーディングから武器が届いたことなどが後押ししていると思われる。
 それに加え、レオスは経営陣側に手を回して労働者側との労使交渉を一時的に中断させていた。これは挑発だ。
一方的に突き付けてやれば、労働者側に血が上るだろうということを見越しての判断。

「しかし、動かないな…」

 若干のいら立ちを込めて、レオスはつぶやく。
 問題のクーデリア到着してから1週間が経過している。労働者側の熱が高まっているのは確かだ。
 しかし、何か統制が効いているのか、まるで動きがみられない。
 駐留しているギャラルホルンの陸戦隊がドルト2に向かった輸送艦に立ち入り調査を行ったという報告は受けたが、見事に対処されてしまったらしい。これはGNトレーディングの荷物の中身がいつの間にかすり替えられ、無難な資材などに変えられていたためらしい。
まあ、これくらいは想定内だ。おそらく、念のために積み荷を確認していたのだろう。とはいえ、今回の荷物だけがすべてではない。
 すでにギャラルホルンの艦隊は目と鼻の先。だが、いつまでも先方を待たせるわけにもいかない。
 いっそ、こちらか容疑をかけて無理にでも火種を作ってしまうか、と考えが浮かぶ。調べれば不相応な武装を保有しているのは明らかなのだから、それを適度にやってやればすぐに火が付くだろう。まあ、それはそれでこちらにあらぬ嫌疑がかけられるかもしれないのだが。

「レオス主任!」

 その時、レオスの待機する会議室にアレスが走りこんできた。

「動いたか?」
「はい……ドルト3およびドルト2にて抗議活動が開始されました。
 行政に許可を取り付けて現在行動中です……こちらに!急いで確認を!」

 差し出されたタブレットで報道を見れば、労働者たちがトラックなどで大通りを行進しているのが見える。
プラカードや横断幕を掲げ、アピールをしているのだ。待遇の改善や労使交渉に入るようにと要求を叫んでいる。

201: 弥次郎 :2020/10/12(月) 21:52:21 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

「ふん、ようやく予定通り動いたか。わざわざ行政府に届出を行うとはなんとも律儀なものだ」
「ですが……気になる点が」
「ん?」

 レオスは焦りを隠さずに続ける。

「どうやらこの抗議活動、こちらの目論見が読まれているかと」
「なんだと?」
「こちらを……!」

 さらに出されたタブレットには、別アングルから撮影された抗議活動の様子が見受けられる。
 そこに映っているのは労働者たちだけではない。明らかに労働者とは違う、武装をし、訓練された軍人がいる。
MWのようなものに乗り込み、あるいは装甲車で労働者たちの周囲を固め、警戒を全方位に払っているのだ。
明らかに俄仕込みではないのがわかる。現場にいる警察やギャラルホルンも動揺が隠せていない。

「どういうことだ?」
「発表された声明では、労働者たちは武装をしていません。あくまで警戒を行っているのはPMCだといっています。
 完全に統制されていて、おまけに身を守る行動をとると先手を打って宣言しています」
「なら撃たせれば……」
「ダメです、すでに挑発を仕掛けていますが、どういうわけか全く効いていないんです!銃が、効いていないんです!」

 具体的に言えば、発砲したのだ。どちらが先に撃ったかなどあとの情報操作で何とでもなる。
 だが、攻撃はなぜか効果を現さなかった。何発も労働者側に打ち込んだのだが、だれも倒れない。そして、撃たれていることが分かっているであろう労働者側は、なぜか不気味なほどに落ち着いて行動を続けている。

「報告では、何かにはじかれたとか…」
「そんなわけがあるか!いい加減な報告を持ってくるんじゃない!」
「ですが、本当なのです!」

 レオスは叫ぶが、アレスもまた真剣だった。信頼のおける部下に監視をさせていたのだが、何やら光の壁のようなもので守られているとのこと。
つまり、向こうを挑発するしか鎮圧に乗り出す口実はないのだが、相手はとてつもなく冷静に行動しており、手出しができない状態。
厳密には大義名分が存在しない状態なのだ。ならば、ともう一つの抗議活動が起きているであろう場所の状況を問う。

「宇宙のほうはどうだ?」
「宇宙のほうでもクルーザーでの抗議行進などがみられています。MSも用意しているかと。
 しかし、こちらにもPMCが張り付いていまして、睨み合いが続いていると報告が」

 レオスは舌打ちするしかない。狙い通り鎮圧作戦を実行することができないとなれば、自分の責任問題にもなる。
 というか、なんなのだろうか、労働者側に味方するPMCとやらは。いったいいつの間に来たのだ。

「PMCとやらはどこのものだ?バーンスタインとつながりがあれば…」
「それが、動いたのです!バーンスタインが!しかも、先手を打たれたのです!」
「!?」

 そう、クーデリアはその発砲が確認されるのを待っていた。虎視眈々と、焦れた側が大義名分をこちらに与えてくれるのを。

「馬鹿な!バーンスタインは、今ホテルで軟禁状態に……!」
「おそらく、あれは影武者です!本物はおそらく、ドルト2に!」
「!?」
「主任!」

202: 弥次郎 :2020/10/12(月) 21:53:33 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 続いて飛び込んできたのはフローレンスだ。顔色が真っ青なところからするに、何かが起きたのだと直感する。

「開放回線やドルトの報道局すべてを中継して、バーンスタイン火星連合代表の声明が!」
「な、すぐに中止させろ!」
「ダメです!ドルト・コロニーすべてに中継されています!おそらく、独自の通信網を持ち込んでいます!」

 やがて、テレビでもクーデリアの声明が中継され始めた。
 内容は、ギャラルホルンがドルト・カンパニーと結託し、さらには武器商人であるノブリス・ゴルドンとも内通し、意図的に労働者の不満をため、暴動を起こさせ、見せしめに鎮圧するというマッチポンプを行っていることを糾弾するものだった。
 ただの戯言ではない、とばかりに具体的な証拠が明示されていく。なぜかドルト近隣の宙域に展開するギャラルホルンの大艦隊。
 これまでの平和的な抗議活動に対する経営陣側の横暴の記録、さらにはギャラルホルン側から放たれた弾丸のことまで、赤裸々に。
 アレスも、フローレンスも、アレスも血の気が音を立てて引いていくのを感じた。
 そう、ここにドルト・コロニーの暗部があらわにされようとされているのだ。


 少し時間を巻き戻す。ドルトでの抗議活動が始まる、ほんの少し前のことだ。
 ドルト2の宇宙港。停泊しているカルダミネ・リラタの格納庫に固定されているイシス・ヴィルゴーのコクピットには、美しいドレスをまとうクーデリアの姿があった。演説用に設計された中央シートに腰かける彼女の傍らには、サポートを担当するクーデリアの侍女であるアンジェラとフミタンの姿もあった。
 本来ならばドルト3のホテルで軟禁状態にいるはずのクーデリアは、実際にはドルト2にあった。
そう、ドルト3に入港していったクーデリア・藍那・バーンスタインは影武者だった。
厳密には、彼女のアストラルパターンをコピーして、外見をそっくりにしたアンドロイドであったので、ある意味では本人だ。
 労働者側と直接話をしなくては埒が明かないし、暴走を抑えられない。そう考えたがゆえに、クーデリアは自ら乗り込んだのだ。

「お嬢様、準備はよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ、フミタン、アンジェラ」

 衣装の最終チェックと音響機器の準備も完了し、声明の原稿も完成している状態。あとはクーデリアの力にかかっている。

「しかし、申し訳ありません。まさか、あの男があのような行動に出るとは…」
「いいのよ、アンジェラ。彼のように、板挟みにあう人もいると知ることができました。彼もまた、被害者なのですから」

 数日前に起こった予想外のトラブルを思い出し、クーデリアは苦笑する。
 そう、本来はもう少し早くに行動に移すつもりであったのだが、予想外の事態で延長せざるを得なかったのだ。

「彼の分も、苦しんだ労働者の皆さんの分も含めて、すべてを明らかにする。それが私のなすべきことです。
 火星連合も私も恨まれるでしょうが、今更ですしね」

 謝罪するアンジェラに対し、クーデリアは強かに笑う。
 どうせやることはドルト・カンパニーと経済圏のアフリカユニオン、そして結託しているギャラルホルンに喧嘩を売る行為だ。

「では、始めましょうか」
「カウントダウン入ります。10秒前……5、4、3、2、1」

 そして、革命の乙女であり、火星の女帝の顔となったクーデリアはカメラに向けてにこやかに、されど強い意思を以て微笑む。

「ごきげんよう、この放送を見ているすべての皆さん。
 私は火星連合代表、そして火星連合暫定政府首相のクーデリア・藍那・バーンスタインです。
 私は今、世界の歪みの一つと対峙するべく、ドルト・コロニーにいます」

 まず初めに言葉ありき。その言葉通り、すべてが動き出した。クーデリアの言葉とともに。

203: 弥次郎 :2020/10/12(月) 21:54:37 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
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クーデリアが何をしていたのかは次回。
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最終更新:2023年11月12日 16:01