950: 635 :2020/10/17(土) 00:52:04 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp

銀河連合日本×神崎島 ネタ 帰還―――故郷の海―――


日本近海 超大型飛行艇「蒼空」輸送型


大海原の上をを超大型飛行艇がその巨体からは想像も出来ない程の軽やかさで飛んでいく。
その腹の中には人ならざる者たち、艦娘を大勢乗せていた。


『総員に通達、本機は間もなく伊豆大島近海を抜け、房総半島沖にて日本、ヤルバーンからの出迎えとの接触空域に到達します。』


機内に大淀の声がスピーカーから流れる。
普段物資輸送に使われる蒼空のカーゴスペースには多数の椅子が設置され人員輸送形態となっている。
戦艦に空母、巡洋艦に駆逐艦、一部特務艦たちもこの場にいる。
この蒼空は神崎島鎮守府の日本への帰属条約締結の為に一路日本本土へとその針路を取っていた。



「もうすぐ日本かあ…。」


蒼空の左翼側の窓側の座席で吹雪は呟いた。吹雪自身が鉄底海峡へ沈んでから七十年以上が過ぎたが実感が湧かなかった。
そんな事を話せば周囲に座る今回臨時に戦艦大和護衛部隊を組む駆逐艦達も同意する。


吹雪型五番艦 叢雲

綾波型九番艦 漣

暁型四番艦 電

白露型六番艦 五月雨


所謂始まりの5人、提督とも付き合いの長い駆逐艦達であり提督からの信任も厚い。但し五月雨のドジは除く。


「しっかし私(叢雲)が沈んで七十年以上経つけどどんな国になってることやら…。」

「あー…、漣達は蓄積され続ける島の電算機の電子記録や書物なんかの情報でしか知りませんからなあ。」

「日本艦で最後になった響ちゃんや雪風ちゃんですら昭和四十年代ですものね…。」

「アイオワさんは除籍なら平成の御代だけどずっと予備艦だったからアメリカ国外のことは分からないそうなのです。」

「本土に残っている船といえば一時海軍籍だった宗谷に氷川丸と日本丸、海王丸ぐらいなものだものね…。」


叢雲達のそんな話を聞きながら吹雪が窓の外を見ればどこまでも大海原が広がっている。
しばしぼうっと外を眺めていると海の向こうに島影、伊豆大島が見えてきた。
そしてその上、高度八〇〇メートに浮かぶ高さ六〇〇メートルの巨大な人工物、


ヤルバーンだ。


ヤルバーンに気づいた吹雪は目を見開き窓に齧りつきヤルバーンを見つめる。
その様子に気づいた叢雲が怪訝そうな表情で吹雪の脇から窓を覗き込むと氷ついた。
そんな二人の様子に他の残りの三人も隙間からギュウギュウと音がしそうな程強引に覗き込むと叢雲の様な表情をして、


「ヤルバーンキタコレ!!」


漣が叫ぶと機内の全員が蒼空の左翼側へと殺到する。


「デカイ!大きい!」

「何メートルあるんやろか?」


全員が思い思いの言葉を口にする。
大きいという感想しか出てこない。
さらに大島へと接近し、ヤルバーンもだんだんと大きくなり、吹雪はヤルバーンの向こう側にそれを見つけた。

951: 635 :2020/10/17(土) 00:54:26 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp


「富士山だ…。」


吹雪の呟きに機内が静かになった。
霊峰富士、吹雪達の故郷日本の象徴がそこにはあった。
吹雪が最後に見た姿のように七十年以上前と変わらず、その頂に雪を抱き美しい円錐の山体を吹雪達に見せていた。


「私達、本当に日本に帰ってきたのですわね…。」


誰かが呟いた言葉に吹雪の中に日本へ帰ってきたのだという実感が湧いた。


『総員降下準備、接触空域まで後10分。』


大淀さんもうちょっと感傷に浸らせてもらっても…と吹雪は大淀の声にそう思った。




海上へと着水した蒼空、開かれたカーゴドアより艦娘達が次々と海上に飛び出していく。
吹雪も叢雲達と共に海上へと飛び出す。
肌に触れる本格的な春も遠い冬の空気はひやりとしていたが吹雪はその空気を知っていた。
日本海流、黒潮の空気だ。懐かしく切ない思いが吹雪の胸を満たす。

激戦を潜り抜け最期を迎えた鉄底海峡の全てを飲み込む地獄の釜の底のような苛烈な空気とは全く違う、
鋼鉄の身体を持つ艦艇だった頃から全身で慣れ親しんでいた穏やかで全てを包み込む慈母のような蒼い蒼い故郷の海の汐風と波濤。
五感なんてない頃の事であるのにその匂いも音も海と空の色も確かに吹雪の記憶に刻み込まれ全て鮮明に覚えている。
鼻の奥がツンとし目尻から一筋の涙が流れ出した。
周囲は静まり返り波の音だけが艦隊を包み込む。


ゴウっという音とが耳に入り吹雪がハッと空を見上げれば慣れ親しんだ故郷の空の蒼が見え、
聞いたこともない音と共に空中に静止する複葉機のような航空機と共に噴式エンジンの轟音を響かせた流麗な姿の噴式戦闘機が目に入る。
吹雪の良く知る暗緑色の迷彩を施した海軍機とは全く違う故郷の海の色の様な色彩の噴式戦闘機。
その機体には吹雪が知る戦闘機に描かれたものより遥かに小さいが確かに吹雪の良く知るものが確かに描かれている。
吹雪達の時代より受け継がれてきた日の丸が…。



「吹雪さん。」


声に振り向けば大和と共に叢雲、漣、電、五月雨が立っている。
吹雪は目を擦りえへへと笑う。
叢雲はやれやれとした表情をし、漣はニヤニヤと笑い、電は吹雪のように目を擦り、五月雨はアワアワとなんかつまづいてる。
そして大和は優しげに微笑んでいた。


「帰りましょうか、故郷(日本)へ…。」

「はいっ!」


吹雪は笑顔と共に精一杯の敬礼をした。

952: 635 :2020/10/17(土) 00:55:12 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。

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最終更新:2020年10月21日 18:04