991: ライスイン :2020/10/21(水) 16:43:52 HOST:g219-100-239-052.scn-net.ne.jp
1940年9月25日 上海 在沖米軍司令部
「閣下、中国軍の第12波攻撃を撃退しました。」
「市内の暴動を制圧、但し弾薬の消耗が大です。」
上海の在中米軍司令部では総司令官のスティルウィル中将に戦闘の結果が報告されていた。
8月末に米本土で大規模なバイオハザードが発生。それに伴い感染拡大阻止に全力を阻止でいる
アメリカを見て、掌を返いしたかのように奉天軍は在沖米軍及び在中アメリカ人に
襲い掛かっていたのだ。名目としては
”疫病の中華への浸透阻止” ”中華搾取への報復”
を掲げていた。上海沖に停泊していた米
アジア艦隊支隊の軽巡マーブルヘッドと駆逐艦2隻はほぼゼロ距離まで接近してきた”中華英雄艦隊”の奇襲攻撃で撃沈。
これを合図として奉天軍は上海へと侵攻を開始した。ただ
アメリカにとって幸いな事に大規模演習と将来の対日戦へ向けて膨大な武器弾薬が運び込まれており、同時に
パットン少将指揮下の第1騎兵師団(※1)を演習の為に呼び戻していたおかげで奉天軍の度重なる攻勢を撃退できていた。また郊外の飛行場を保持できていた事も幸いした。
「援軍はどうなっているのですか?」
第1海兵師団を率いるヴァンデグリフト少将がスティルウィル中将に尋ねた。しかし・・・
「本土からは疫病感染が確実な為に援軍は来れない。フィリピンからは
アジア艦隊と2個フィリピン師団が、ハワイからも太平洋艦隊と1個師団が来るそうだが・・・大幅に遅れるとの事だ。」
本土からは当然の事ながら援軍は出せない、その為ハワイとフィリピンから軍を派遣するのは理解できたし準備に時間がかかるのも当然だ。
しかし何故大幅に遅れるのか・・・司令部の皆が疑問に首をかしげているとスティルウィル中将は語りだした。
「日本が領海通過を拒否している為に大幅に迂回しなければならない為だ。更に日本企業が取引を拒否している為に近場・・・特にフィリピンでは物資調達に困難とのことだ。」
「何故です、人道上の危機だというのに。日本人は外国人とはいえ女子供が暴虐にさらされて良いというのかっ!!」
司令部要員に一人が日本の領海通過や取引拒否について怒りの声を上げる。
「疫病を領域内に入れない為だというが・・・本音では奉天と組んで散々嫌がらせ・・特に女学生への暴虐を止めなかった我らを信用できないとの事だ。」
その言葉を聞いた司令部の面々は今更ながらに政府の命令とはいえ日本に対して奉天軍と組んで日本へ嫌がらせした事を公開していた。特に女学生の乗った避難船を襲撃した
英雄艦隊の拿捕を阻止した件は日本側を酷く激怒させており、領海通過を拒否させていた。
「今東京の在日大使館を通して交渉中だ、最悪女子供だけでも助けなければ・・・」
在日米大使館を通して領海通過を認めてもらう様に交渉中だと明かすスティルウィル。最悪市民・・・特に女子供だけでも助けなければと悲痛な決意をする。しかし・・・
「た・・・大変です、上海外縁部に奉天軍が接近中です。無理矢理徴兵したと思われる市民や多数の暴徒も伴い、数は100万以上と推測されます。」
「市内の〇〇地区で暴動が発生しました。しかも地区の武器庫が無数の暴徒に襲撃され、大量の武器が奪われた模様。」
「港湾地区で大規模な毒ガス攻撃です」。
彼らの先は暗かった。
日ソ同盟の憂鬱 第5話「どくそせん」
992: ライスイン :2020/10/21(水) 16:44:45 HOST:g219-100-239-052.scn-net.ne.jp
1940年10月1日、世界は混沌に陥っていた。
アメリカ本土は疫病の感染が必死の努力にもかかわらず拡大し、外に出る力を無くしつつあった。更に衰退する
アメリカの今を好機と見た奉天軍の手のひら返しで中国大陸の米国系市民は本国よりも悲惨な状況に陥っていた。在中米軍が保持する上海とその周辺まで逃げ込めたものは何とか助かったが逃げ込めなかった者の運命は残酷であった。男は戯れに殺されるか奴隷として強制労働に従事させられ、若い女は奉天兵に愛を与える仕事に就かされた。
そして当然ながら在中資産は接収、更にその対象はアメリカ人以外の白人にも広がっていた(疫病を恐れて香港には手出ししていなかった)。
同じ頃、日本を連合国から追放し、
アメリカと交流を深めていた英国と英連邦(+各亡命政府)も混沌を極めていた。彼らは支援物資と共に疫病も受け取ってしまい、それが英連邦各国に拡散。更に被害は英本土に拠点を置いていた亡命政府も多大な被害を受け幾つかが機能を停止。中には自由フランス政府(※2)の様に崩壊した所もあった。
そんな中でもドイツを盟主とする枢軸陣営は軍備増強を続け、勢力下の欧州各国をまとめ上げて欧州統合軍を編成。近い時期に実施される対ソ侵攻へ向けて着々と準備を進めていた。
因みにドイツは疫病の流入を防ぐため、英国と英連邦からの渡航を一切禁止しており、領域内に侵入した航空機や艦船は追い返すか撃沈していた。特に英国に憎悪を募らせるヴィシー政府は嬉々として英本土から逃れてくる船舶が領海内に入り次第、無警告で撃沈するほどだった。
会合の席上で誰かが切り出した。感染の拡大で医療機能がマヒし始め、更に物資の流通が滞り始めた事によって大都市圏では市民の生活が立ち行かなくなり一部では配給制が敷かれる程の
有様であった。おまけに何所からともなく中国人が疫病の保菌者であるとの噂が飛び交い、奉天軍の手のひら返しによる惨状も相まって各地で中国人(と中国系市民)狩りが続発。
中国人側も応戦し、それを制圧しようと警察や州軍も加わる等、内戦に似た状況も置き馴染めていたのだ。
「それだけでなくメキシコにも流入し始めましたね。」
「このままだとパナマ辺りまで拡散するだろうな。」
「抗生物質は完成しているが・・・連中に分けてやる必要は無いだろうな。」
更に
アメリカの傀儡政権となっていたメキシコにも疫病が侵入し、人種の区別なく感染が拡大。最悪パナマ北側まで感染の拡大が予測されていた。
また抗生物質を始めとしたワクチン類の開発が成功し、全臣民分の備蓄を目指して生産が進められていた。しかし
夢幻会としては万が一ワクチンの存在が発覚し、
アメリカから提供を求められても今の所は供給するつもりは無かった。
「それよりも大陸は凄まじい惨状ですな。上海へ逃げ遅れたアメリカ人は奴隷か慰み者になっているとか・・・。」
「
アジア艦隊とフィリピン師団が到着して一息つけましたがまだまだ劣勢。太平洋艦隊が到着しても補給問題で挽回できるかどうか・・・。」
在中米軍ではフィリピンからの2個師団が加入した事で防御を厚くすることに成功していた(ただしフィリピン人主体の師団な為、戦闘力は低かった)。
また到着した
アジア艦隊の戦艦ニューヨークとテキサスの艦砲射撃、空母ラングレー(※3)の航空支援により沿岸部に入り込んでいた暴徒を吹き飛ばし、生意気にも奇襲を仕掛けてマーブルヘッド他を撃沈した”中華英雄艦隊”を撃滅(※4)。取り敢えず一息付けていた。
但し毒ガス攻撃や損害無視の波状攻撃、そして痛みや恐怖をものともせずに突撃してくるバイオソルジャー部隊(※5)により甚大な被害を受けていた。
993: ライスイン :2020/10/21(水) 16:45:24 HOST:g219-100-239-052.scn-net.ne.jp
「それはそうとアメリカ大使館から悲鳴のような救援要請が来ておりますが・・・。」
「領海通過は良いにしても疫病の流入を防ぐためにも避難民の上陸は認められないな。まったく・・・奉天軍と組んで嫌がらせを繰り返した
アメリカを助けろだと、それも奉天軍から。」
会合の面々も現状のままでは最低限の人道的措置(監視付の領海通過)以外で
アメリカを助けるつもりは無かった。
「外相、どうしてもというなら本国政府にこれまでの行いに対する謝罪と我が国への不当な措置を全て撤回することを決めさせてからにしてくれと言ってください。」
近衛の言葉に外相の東郷が頷く。因みにイギリスからも支援要請が来ていたが無視されていた(※6)。
「まあそれよりもいよいよ独ソ戦が始まりますね。」
「ああ、T-34/76(97式中戦車)やT-34/85、そしてKV-1A(98式重戦車1型)とKV-1B(98式重戦車2型)などを装備した大量の機甲師団、率いるのは
トハチェフスキーやジューコフなどの名将たち。」
「空でもYak-9U やIl-2、海でも41㎝砲に換装した我が国が売却した扶桑型(ピョートル・ヴェリキー級)や伊勢型(ペレスヴェート級)がいますし・・・。」
「我が国も義勇軍として航空隊や潜水艦隊を派遣していますし・・・。」
幾つかの声が上がった後、しばしの沈黙の後、一同は声を併せて・・・
「「「「「チョビ髭ざまぁっ!!!!」」」」」
1940年10月18日 独ソ国境付近
この日、ドイツが主導する欧州統合軍が遂にソ連へと侵攻を開始した。冬が近いこの時期をあえて選んだ理由、それは前年度より密かに準備を進め冬季装備が充実していた事と、これ以上時間をかけるとソ連がさらに強大になってしまうという焦りからであった。
「ソ連は腐ったボロ小屋である、一蹴りいれれば倒壊する。」
ヒトラーの命令と共にドイツ軍を中核とした欧州統合軍が一斉にソ連領内に雪崩れ込んだ。しかし・・・
「目標・・ゲルマンスキーの戦車、攻撃開始。」
国境付近に隠匿重バンカーの対戦車砲及び車体を地面に埋めて隠れていた重戦車の砲が一斉に放たれ、次々に命中し、一撃でドイツ軍戦車を爆散させていく。
「くそうっ、イワンの連中の待ち伏せか・・・反撃せよ。」
不意打ち的な反撃により、多くの戦車を破壊されてしまったドイツ装甲師団の指揮官は部下に反撃を命じる。しかし陣地に籠った質量ともに勝るソ連軍戦車を
相手にする形になり、どんどんドイツ軍戦車はその数を減らしていく。そして更に不幸なことに
「突撃せよ、萌えを理解しないゲルマンスキーをぶっ潰せ・・・ウラーッ!!」
994: ライスイン :2020/10/21(水) 16:45:54 HOST:g219-100-239-052.scn-net.ne.jp
ソ連軍が編成した切り札の一つである第1親衛戦車軍団(※7)が突撃を開始するとドイツ軍は総崩れになり後退していく。ドイツ軍は反撃しようにも、攻撃は全戦線で行われており、おまけに同盟国軍は混乱と劣悪な装備(※8)で役に立たたず、その混乱に巻き込まれるようにドイツ軍も動きが鈍る。また空でも野戦飛行場に分散していたソ連軍が反撃に出て、圧倒的な物量とドイツ空軍機を上回る性能で制空権を奪還。それを機に黒死病と渾名されることになるIl-2などがドイツ軍地上部隊に襲い掛から。一連の戦闘で欧州統合軍はソ連国境から僅かに進撃しただけで叩き出され、逆にソ連軍の侵攻を許す羽目になっていた。
「何をやっているのだっ!!」
返り討ちにあった事に加えて逆侵攻を受けた事に激怒するヒトラー。然しこの後、ソ連空軍がペトリャコフ Pe-8爆撃機を使用した11月1日のプロイェシュティ油田爆撃、11月8日のソ連潜水艦による巡洋戦艦マッケンゼン(元フッド)の撃沈、オマケに伊58によるビスマルク撃沈により更にブチ切れるのだった。
※1:対日戦を意識して編成・派遣された在中米軍の切り札。M3中戦車・M3軽戦車・M7自走砲などの最新装備で統一された優良部隊(これほどの部隊は他には本土の第1機甲師団のみ)。
※2:ドゴールやジローなど指導層が疫病で死亡。他に率いる事の出来る有能な者がいなかった為。
※3:対日戦に一隻でも多くの空母が必要とされた事から空母に再改装されていた。
※4:中華英雄艦隊の全艦を撃沈。また漂流者も機銃掃射などで”処理”していた。
※5:いわゆる薬物中毒兵。意図的に薬物を投与した上で、敵陣に突撃して生き残ればさらに上質の薬物を与えると煽って米軍陣地に突撃させた。武装は拳銃か刀剣類だが少々の被弾もものともせず突撃してくるため、阻止に大量の弾薬を消費し、一部では防衛線を食い破られて多大な損害を受けた。
※6:本国・各植民地・英連邦各国への疫病拡大で統治機能が低下。特に植民地各地で今までの抑圧の反動や物資不足に軍の機能低下から反乱や暴動が相次いでいた。
その為、イギリスは日本に対して避難民の受け入れと武器を含む各種物資の売却を要請していた。但し代金は混乱を理由に後日支払うと主張した為、余計に日本側を激怒させていた。
※7:所属する3個戦車師団がほぼ全てKV-1Bで構成される重戦車師団というソ連軍の切り札。また全ての車両(戦車だけではない)に痛ペイントがしてあるというある意味恐怖の軍団である。
※8:イタリアやフランスを除いた国の装備は劣悪であった。例えば小銃や機関銃はWWIかそれ以前の物で、戦車も大半がルノーFTか良くてヴィッカース6tかドイツ供与の35・38t戦車。
対戦車火器も対戦車ライフルか25~37㎜砲で航空機に至っては仏伊やルーマニアを除いて大半が複葉機という有様だった。
いかがでしょうか?大分時間が空きましたがなんとか5話を仕上げました。
今回は主に英米の惨状と独仏戦の開始を書きました。構想では10話以内に終わらせる予定です。あと
アメリカや旧連合国陣営と日ソが戦うかは今後の展開次第で現時点では決めていません。
あと描写はありませんが、ベルギーやルクセンブルクなどの亡命政府は崩壊こそしていませんが機能停止状態。またポーランド亡命政府は英米頼りにならずと一部領土割譲を前提に
ソ連に対して密に協力を求めている状態です。
~予告~
遂に始った独ソ戦。ドイツ軍は勢いよく侵攻したものの、盛大に返り討ちにあった挙句に逆侵攻を受ける。
一方
アジア方面では援軍を得た在中米軍だが損害を無視した中国側の波状攻撃に疲弊し、米本国では疫病対策の失敗で一部で無政府化が加速。
そんな中、遂に日本はドイツに再び宣戦を布告する。
次回”日本、対独宣戦”
掲載お願いします。
最終更新:2022年05月12日 21:56