647: 弥次郎 :2020/10/30(金) 23:35:35 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「彼らの時間」
- P.D.世界 地球-火星間航路上 ボードウィン家所有ハーフビーク級「スレイプニル」 個室
再びの火星行。それも、他者の尻拭い。
その事実は、監査局の特務三佐二人にとっては十分すぎるほどの重荷を背負わせていた。
ギャラルホルンの精鋭たるアリアンロッド艦隊の一部が、セブンスターズの一員の扇動で暴走し、経済圏の意向を無視して、禁止兵器まで持ち出して、暴れた。
法と秩序を守るギャラルホルンにあるまじき失態であり、管理され、統制されるべき軍事力が野放図に振るわれたのだった。
たとえそれが火星独立をなしたという、経済圏から見れば犯罪者ととらえられてもおかしくない相手だったとはいえ、事情は事情だ。
火星連合についての扱いは、何度か述べたように経済圏でも扱いを決めかねていた。ゆえにこそ暴走がとがめられた。
ついでに言えば、その火星連合に対して釈明に追われることになった。しかし、現状ギャラルホルンで火星連合や企業連と伝手を持つ人間は少ない。
これまでは企業連にせよ地球連合にせよ相互不干渉条約を結んでいたため、交流自体が乏しい。せいぜい情報交換を行う程度だったツケが回ってきた。
弱った統制局であったのだが、そこで天啓がおりてきた。そうだ、あいつらに任せればよいのだ、と。
企業連とも伝手があり、ギャラルホルンの中でも一定以上の地位におり、尚且つ火星圏に近い位置にいる人物。
そう、火星連合の独立に居合わせたマクギリスとガエリオの二人組だった。どちらもセブンスターズの嫡子。
若くしてギャラルホルンの監査局に勤め、特務三佐という地位にいる。彼ならば不足はない。
だが、その事情を知らされたときの彼らの反応は語る必要はないだろう。だが、宮仕えの二人に拒否権などあるわけもない。
二人は地球を目の前にして迎えのボードウィン家所有のハーフビーク級スレイプニルに乗り換えることとなった。
ただでさえ火星での激務の後でささくれ立っていた二人は、柄にもなく荒れた。ふざけるな、である。
自分たちの報告はLCSを通じてアリアンロッド艦隊の拠点である月基地を経由して本部にまで送ってあった。
企業連や地球連合、火星連合についての可能な限りの情報とその脅威度査定、さらには火星で起きたギャラルホルンの醜態の全容を載せてあった。
監査という仕事の枠を超え、オーバーワークしながらも必死に送ったのだ。火星連合やそのバックにつく企業連の脅威を伝えるため、必死に。
その結果がアリアンロッド艦隊の醜態なのだから、やってられない。セブンスターズの系譜の自分たちの声さえまともに通らないのかと。
「やってられんな…」
いまだに火星での激務の疲労が抜けきれていないガエリオは、個室で何をするでもなくぐったりとしていた。
さすがにここまで残っている仕事はない。あとは火星に到着し、謝罪行脚をするだけなのだが、気が重い。
それに加え、暇なのだ。ただ浸す他に到着を待つしかない。私物など公務ゆえにほとんどないし、あってもごくわずか。
気を利かせて他の仕事が回ってこない状態にしてもらったらしいが、余計なおせっかいとさえ思えてしまう。
(アルミリアに通信でも入れておくか…)
時計を見れば、現時刻、地球のギャラルホルン本部であるヴィーンゴールヴは真夜中。
まだ幼いアルミリアは眠っているであろう時間だ。流石に起こすのは問題あるので、ビデオメッセージを送るだけとなりそうだ。
「よし、いくか」
648: 弥次郎 :2020/10/30(金) 23:36:21 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
数分後、なぜかガエリオはマクギリスの個室にいた。
手にはタブレット端末のような何かがあり、目の前のモニターには何やら機械が接続されている。
「……なんだこれは」
「時間をつぶすための娯楽だ」
隣の椅子に腰かけるマクギリスは至極まじめな声で言う。
彼もまたタブレット端末のようなコントローラーを手にしている。加えて、モニターにつながれた機械を手際よく操作している。
「そういうことではなくてなぁ…」
「これは、カラール自治区で購入したものだ。報告用にと買ったはいいのだが、あいにくと子供向けらしくな。
報告書には載せられないから、私が私物としている。ああ、ちゃんと私費で購入したぞ?」
「ならいいんだが、何をやるんだ?」
「娯楽だ」
娯楽?と問いかけようとしたとき、マクギリスは何やら冊子を差し出してきた。
「子供向けのシミュレーションゲーム、というらしい。これは案外馬鹿にならない」
渡された説明書にざっと目を通す。
内容としては、プレイヤーは火星の自治区の守備隊の一員として、襲い来る賊をMSのような兵器で撃退するというものらしい。
操作はコントローラーにあるスティックとボタンで行い、こちらの体力がなくなるとやり直し、ということ。
いかに敵を手早く倒すか、被害なく終えられるか、目的を達成できるかどうか、それが重要らしい。
「どういうことだ?」
「これがカラール自治区の子供に向けて作られ、販売されている、ということだ。
舞台の設定と動かす兵器、そして防衛を行う組織というシチュエーション。どこかで見たことがないか?」
「……カラール自治区治安維持部隊か!」
ガエリオの声を、マクギリスは肯定した。
「最初は私も子供向けの娯楽と思っていた。だが、実態はまるで違う。これは子供に向けたPRであり、パイロット養成に等しいものだ。
MSそのものを直接操縦するわけではないが、それ以外は実際の治安維持活動や武装集団の討伐などと同じ。
これに親しんだ子供がやがて成長した時、MSの操縦を教えるだけで、立派な下士官になると思わないか?」
「……娯楽であり、同時に人材育成というわけか。それに、自治区の一体感を高める目的もあるな」
「間違いない。たとえ遊ばなくとも、内容を知らされるだけで十分なPRになる。そういったところから意識に刷り込むのだろう。
やがては、カラール自治区という大きな集団の一員としてのアイデンティティーを形成することになる」
「……つくづく、やることなすことに卒がないな」
やがて、ゲームが始まる。マクギリスの操作するメカの支援を受け、ガエリオのメカが前線をかき回していく。
だが、ガエリオはゲームの内容が極めてリアルであることに気が付いた。弾薬も無尽蔵ではないので補給に戻らなくてはならない。
さらに敵の攻撃でダメージを受ければ下がって修復を受けなくてはならない。防衛ラインが突破されないように立ち回らなくてはならない。
不慣れなガエリオが動けるのも、MSの操縦経験や軍人としての訓練があってのことだ。逆に言えば、それが必要になる娯楽といえる。
「ええい、猪口才な!」
(案外簡単にドハマりしたな……まあ、少しは息抜きさせてやれたから良しとするか)
次第に熱の入るガエリオを見ながらも、火星までは退屈しのぎになりそうだ、とマクギリスは考える。
彼らが火星にたどり着くまで、あと5日ばかりと迫った頃であった。
そして、この火星行が彼らにさらなる苦難をもたらすことになるとは、まだ知らなかった。
649: 弥次郎 :2020/10/30(金) 23:37:26 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
再び火星の旅路を行く彼らの姿を。
女帝クーデリア様のお姿はもうしばらくお待ちを。
現在話を練っている最中でありますので…
最終更新:2020年11月01日 09:45