265: 弥次郎 :2020/11/03(火) 23:30:41 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦禍のドレサージュ」1




 クーデリアおよびセントエルモスの監修した抗議活動は至極単純なものであった。
 ドルトの各コロニーごとと近辺宙域でデモを行う。武装は使わない。行政と会社には届けを出す。破壊活動は厳禁。
抗議活動への参加者の安全の確保のため、パーソナルシールド発生装置などをセントエルモスが貸与し、これを使用する。
労働者たちの行うのは以上の行動だけだ。そのようにクーデリアがナボナに確約させ、通知させ、従わなければ叩き潰すと予告し、実演さえした。
 一方で、労働者たちを守る側は忙しい。PMCとして雇用されたセントエルモスやリリアナ、鉄華団の戦力が守り、いざとなれば全力でギャラルホルンを排除する。
クーデリアはすべてを暴露すべく、あらかじめ手配していた回線やメディアなどを通じて地球圏・経済圏問わず届くチャンネルで演説を行う。
さらに、専用機であるイシス・ヴィルゴーとその親衛隊を用いて抗議活動の列に加わり、パフォーマンスを行う。
ギャラルホルンが用意している艦隊戦力は嫌でもこちらを中心に対応せざるを得ない。
 そして艦隊が目を惹きつけている間に、本命であるナボナらを代表とする一団が、クーデリアの名代のローを伴いドルト3にある本社で労使交渉の申し入れを行う。
 では、ギャラルホルンやドルト・カンパニー経営陣が攻撃を選択した場合は?
 それは至極単純、応戦するのみだ。決定的な映像証拠などを確保したのちに、労働者たちを守るべく、ギャラルホルンの艦隊を撃退するのみである。


  • アリアンロッド艦隊所属 ドルト派遣艦隊 ウィンター艦隊旗艦 ハーフビーク級「トリマラン」


「くそ、どこのどいつだ!あの演説の後にこちらから手を出しただと!」

 派遣艦隊の旗艦を務めるハーフビーク級の艦橋で叫ぶウィンターは、言葉の限りあの演説の意味を理解せず鎮圧を実行した愚か者をののしっていた。
 あの演説でもはや手出しはできなくなってしまった。手を出せば、それはその演説を認める行為に他ならないからだ。
そういう意図がなかったとしても、ギャラルホルンにはそういう意図がある、と言われても文句が言えない状況になった。
 もともと騒ぎを---爆発や何かを起こし、それを労働者側の行動だと決めて鎮圧するというのは当初の予定にあった筋書きだ。
その前段階として、労働者側が武器などを奪うためにギャラルホルンの駐屯地などを襲うことも考慮していた。
だが、労働者側はそれらを予見していたかのように平和裏に抗議活動を始めてしまったのだ。
そして、現在も武装をしているのは雇用されているPMCのみであり、労働者たちを守りながらも、暴走をしないように監視している状態だという。
 一切の破壊活動を行わず、届けも出したうえで抗議しているに過ぎない。つまり合法範囲内の抗議活動ならば、正当な理由なくそれを鎮圧できない。
鎮圧に乗り出せば、ギャラルホルンが定められたルールを無視したという誹りを受けてしまう。
 おそらく、それに業を煮やした現場指揮官あたりが指示を出したのだろう。とはいえ、すでに発砲してしまったという事実は消えない。

「労働者たちの動向は?」
「抗議活動を継続中です。ですが、明らかに警戒が強まりました。あっ…続報です!ドルト3を除く抗議活動のグループは撤収を開始!」
「手出しはするな!おそらく連中はそのまま引き下がる。下手に撃つと今度こそ終わりだぞ」
「宇宙での抗議活動をしていたグループ、ドルト3に移動を開始!」
「准将!ドルト・カンパニーから緊急入電です」
「言わずとも内容はわかっている。わが身がかわいいんだろう…」

 ちっと舌打ちする。おそらく宇宙で抗議活動しているグループが宇宙港を経由してドルト3に乗り込み、抗議活動に合流するつもりだろう。
 さすがにMSなどでコロニー内部に突入するような真似をするとは思えないが、最低限でも宇宙に出ているグループの動きは止めなければならない。
ドルト・カンパニーの経営陣もMSなどで乗り込まれることを恐れたのか、それを阻止するように連絡を入れてきた。

(まあ、すでに戦端は切られたようなものだしな……)

 割り切るしかない。手を出してしまった以上は、出し切るしかないのだ。おめおめと引き下がるのもギャラルホルンの威信にかかわる。

「リッカルド艦隊に連絡。こちらは労働者たちの行動の抑止に移るとな。ほかのコロニーで動きがないか監視させておけ。
 こちらはMS隊も出して抗議活動のグループの動きをけん制する」
「はっ!交戦は?」
「…やむを得ないが許可する。無様をさらすわけにもいかんからな。
 それと、今のうちに抗議活動の中止を要請する広域通信文を送っておけ。いざというときの言い訳くらいにはなる」

266: 弥次郎 :2020/11/03(火) 23:31:59 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 労働者側に流されているMSや兵器はすでに細工が済まされている。そのように以前から準備していたのだから。
もし抗議グループがこちらに攻撃を仕掛けてきたとしても、圧倒的に優位なのだ。そもそも戦いにならないレベルなのだ。
 だが、ウィンターは嫌な予感が止まっていなかった。相手がこのマッチポンプを見破っていているのではないのか、と。

「……それとMS隊に通達しておけ、想定外の事態が起こることを考慮しておけと」

 具体的な確証はない。だが、そんな気がしてならない。
 だが、すでに賽は投げられた。ウィンターにできることは、結果が出るのを艦内で待つ以外になかった。
 ウィンターの懸念は、果たして正しかった。
 まず第一に、労働者側の抗議活動の列にはPMCの、セントエルモスやリリアナのMSやACなどが護衛として張り付いていたこと。
 さらには、抗議活動を行う労働者たちの兵器が事前の細工を見抜かれて、すでに手を入れられて欠陥品ではないということだった。
さらにはコロニー内で抗議活動を行う労働者たちはパーソナルシールド発生装置により銃弾はもちろんMWの攻撃すら通用しない状態だった。
彼らにできることは進路をふさぐことであったが、歩兵やMWを持ち込むPMCによりそれらは押しのけられるか、あるいは進路変更されるがオチだった。
反撃されていないので、正確に言えば進行を止めようとした歩兵がのされるくらいはありはしたが、銃撃はギャラルホルン側から一方的にしかない。
そして、パーソナルシールドで守られる労働者たちは銃弾などを恐れることなく前進してくるので、ギャラルホルンは下がるしかない。

「くそ、どんな手品だ!」
「本部に連絡を取れ!労働者たちを止められない!対応の指示を乞うと!」

 破壊活動はむしろギャラルホルンが行っている。しかもそれはあらかじめギャラルホルンが呼び寄せていたメディアを通じて拡散している。
統制局がメディアを抑えているとはいえ、すでに拡散されたものは止められない。むしろ下手に統制すると余計に騒がれかねない。
結局彼らにできることは、単なる時間稼ぎでしかなかった。やがて無駄に撃つだけ撃った後は玉切れとなり、労働者たちを見守るしかなかった。
彼らに指示を乞われた本部も、ただただ混乱するしかない。まったくの未知を前に、人は無力なのであった。



  • ドルト3近辺宙域


 エウクレイデスから発艦したACおよびMS隊は、抗議活動を行う労働者たちの進路を確保するべく展開していた。
 さすがにコロニーに対して直接攻撃を仕掛けるのはあり得ないだろうが、そうでなくともクルーザーなどに攻撃を仕掛けることは間違いない。
一応労働者側もMSを、コロニーの外壁工事などに使われるスピナ・ロディに武装を施して持ってきているのだが、極力使うのは避けてもらわねばならない。
あくまで労働者側は平和裏に抗議活動を行わなければならず、そのためにこそPMCとして雇用された、という体をとっているのだから。

「おいでなすったな」
「うん」
「すげぇ数だな…」

 ネクスト3機を筆頭にハイエンドノーマル部隊、そして鉄華団のMS隊と大型兵器「ファンタズマ」などを展開しているが、ギャラルホルンの数はそれらの上を行く。
そもそも、いかに大型とはいえ1隻のエウクレイデスの艦載機と艦隊の艦載機では大きな数の差が生じている。
 まして、こちらは護衛しなければならない対象がいるというのだ。一見すると極めて不利な状況。しかし、部隊指揮を任されたセントールに焦りはない。

「予定通り、隊は3つに分かれます。MSへの対処を行う私の隊、リグを中心に対艦攻撃を仕掛ける隊、そして明星の率いるルート防衛の隊です。
 隊のメンバーについては事前にブラフマンからブリーフィングにて指示されたとおりにお願いします。
 防衛対象が多く、またコロニー近辺ということもありますので誤射に注意を。特に火力の高い機体の人は注意を」

 ブリーフィングでの内容を再度通達し、セントールは戦術指揮官であるブラフマンに確認をとる。

「ブラフマン、何か追加で言っておくことはありますか?」
『いや、何から何まで言われちまったからないな。あともう一つだけ付け加えるなら、バーンスタイン代表もしばらくしたら護衛と共に出てくる。
 護衛が張り付いているから問題はないと思うが、何かあった際のフォローを忘れるな。あと、彼女を持ち上げることも忘れんでくれ』
「持ち上げる…?」
「敬意を払った仕草をしろということだぞ、三日月君」

 表現に首をかしげる三日月に苦笑しながらも教えたセントールは、こういったときにも備えて追加されている装置の存在を教えておく。

267: 弥次郎 :2020/11/03(火) 23:32:53 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

「バルバトスの補助電脳のOSにモーションデータが登録されているので、それを参考にしてください。
 無論、無防備になるので安全を確保した状態で行うように」
「了解です」
「リグ、それと明星の二人は隊の指揮を任せます。逐次報告を」
「任されました」
「ええ、大船に乗ったつもりで」

 そうして各隊の状況確認が終わった頃にはギャラルホルンのMS隊もレーダー上の存在ではなく、光学視認できる距離に入っていた。
 さて、と一息入れたセントールは、「カノプス」をの武装を再度チェック。そして、迫る敵機を見据え、号令を下す。

「状況開始!」

 その声と共に、セントエルモスの戦士たちは一斉に動き出した。



  • ドルト2 宇宙港近辺 セントエルモス所属 全域航行輸送艦「カルダミネ・リラタ」

 ドルト2の宇宙港から悠然と姿を出した輸送艦「カルダミネ・リラタ」は護衛のMSやACを引き連れて動き出す。
 その巨体の周りには、労働者たちの乗ったビスコー級クルーザーや輸送艦などもおり、ちょっとした編隊を組んでいた。
彼らが目指すのはドルト3。抗議活動をギャラルホルンとドルト・カンパニーが行い始めたので、予定を早め、動くことにしたのだ。
彼らを無事にドルト3に送り届け、現地で抗議を行っている集団と合流させるのが目的。
 そして、もう一つの目的は、この抗議活動をより演出することにあった。

「おい、出てきたぞ……」
「ああ」

 それは、周囲の輸送艦やクルーザーからも見えていた。カメラマンやアナウンサーなどメディアの人間も、労働者たちも、それに注目した。
 他のMSより一回り大きな、しかして、優雅で美しいとさえいえる深紅のMSが姿を見せたのだ。
 それは、火星連合立ち上げの式典などで内外にPRされたMS。火星連合の象徴たるフラッグシップMS。

「イシス・ヴィルゴーだ!」
「あれらは…護衛か」

 メイデン・ワンドとラウンドシールドを携えたイシス・ヴィルゴーは、その周囲にゼノファルウスやヘビー・ゼノファルウスを引き連れている。
 それらは、まるで騎士たちを率いる女帝のようであり、あるいは、可憐なる乙女の姿を想起させた。
もっと言うならば、民衆を引き連れ、導く革命の乙女のようにも見える。希望、羨望、畏敬、畏怖。あらゆる感情を一身に集めていた。
 その姿はドルトをはじめ、あちらこちらから集められたメディアに見せつけられていた。その映像は圏外圏やコロニー群をはじめ、地球各地にも流されていく。
無論、ギャラルホルンの妨害もあった。だが、それを超えて映像は拡散される。テイワズ、タントテンポ、そして各地にいる企業連のメディア。
ギャラルホルンが想定する以上に広いつながりを持って、それは広められる。

『行きましょう、ドルト3へ!』

 クーデリアの声と共に、イシス・ヴィルゴーはそのメイデン・ワンドを掲げる。
 一瞬の収束を経て、放たれたビームがその機構の命ずるままに形を成す。ビームフラッグ。遠方からも確認できるそれは、火星連合のマークを形成した。
いや、それ以上の意味をなしていただろう。その旗は、導き手の持つべきものであった。それを見たものを、自然と従えるモノを持っていたのだ。
 そして、その巨大な旗に導かれた集団は一斉に動き出す。誰もが、内に沸き上がる感情に従ってしまう、ある種恐ろしい光景。
 だが、それがカリスマというものだった。イシス・ヴィルゴーに乗り、オープン回線によって声を届かせるクーデリアの放つ、圧倒的なそれ。
きわめて稀有な才能で、組織の上に立つ者にとっては必須でありながら、しかして必ずしも得られるとは限らないもの。
 超然として動き出すイシス・ヴィルゴーはビーム粒子の輝きを描き、さらには周囲に浮かぶアンク・シールド・ユニットが色を添える。
ドルト・コロニー群という巨大なステージが、あたかも彼女とイシス・ヴィルゴーのためにあるかのような錯覚。
 姿をとらえたギャラルホルンの兵士たちをも威圧する、堂々たる姿。武器を向けることも、その進路に立ち塞がることもできないような重圧。
 ドルトの騒乱の幕開けを知らせるように、ビームフラッグの輝きは宙域を照らし出していた。

 戦いの幕は上がる、革命の乙女にして火星の女帝の声と共に。
 笛吹達と、火星の人々と、外宇宙からの来訪者たちと、コロニーの人々と、安寧をむさぼる経済圏の人々。
 もはや、だれも無関係ではいられないのだ。

268: 弥次郎 :2020/11/03(火) 23:35:13 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
戦いだけでなく、それ以上のものが起きるドルト激闘編、開幕となります。
これが終わればようやく地球編に突入できそうです…

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最終更新:2020年11月05日 20:33