424: 弥次郎 :2020/11/05(木) 23:35:11 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS 短編集11
Part.23 高み、その先へ
- P.D.世界 ラグランジュ7 ドルト・コロニー群 ドルト3 宇宙港 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」 鍛錬場
三日月をして、明星の隙は見当たらなかった。どう仕掛けても、攻めきれるビジョンが見えない。
それはこれまでの手合わせ---MSの訓練も兼ねた生身での白兵戦訓練を重ねてきて磨いた、戦闘の組み立て技術による予感だった。
野性的に襲い掛かるだけでは勝てない。相手の動きを一瞬で予測し、対応策を組み立て、そのうえで戦ってようやく勝てるのだ。
それを三日月は火星にいたころから重点的に叩き込まれていた。戦闘センスや反応速度などに優れていた三日月であったが、どうしても弱点は存在していた。
だが、それも重点的な訓練で徐々に補われつつある。こうして、訓練刀を手にして対峙した時に、そういった観察と予測をできるようになった。
(まいったなぁ……)
いわゆる八相の構えのまま、三日月は考えを巡らせていた。
相手の一挙手一投足の予兆を見逃さないようにしているが、同時に思考もやめない。
正眼の構えの明星は、きわめて自然体でいて、それでいていつでも動かせるように張りつめていた。
明星の戦闘は後の先をとることが多い。先に動いた相手に反応し、返し技を仕掛ける。時にはあとから動いたのに先に動いた側を追い越すことさえある。
それを散々受けた三日月は、迂闊に仕掛けることの危険をよく理解している。だが、仕掛けなければならないのもまた事実。
返し技に優れる明星だが、決してそれだけが取り柄ではない。得意技に依らなくとも、三日月には勝ててしまうのだ。
(仕掛けるか……)
明星から出されている課題は、単純に明星の攻撃をしのぎ切ることと、カウンターに反応し防御することだった。
攻撃的なMSであるバルバトスだからこそ、その攻撃が通用しない相手を想定する必要があった。
あるいは、こちらから仕掛け、カウンターを出されたら、それに対してさらにカウンターを仕掛けるか。
計算に入れ、三日月は踏み込んだ。
「……!」
こちらの前進とほぼ同時に明星の体がぶれるようにして消える。
いや、消えたわけではない。一瞬で目が追い付かない動きをして視線の中央から逃れたのだ。こちらの踏み込みより小さめなバックステップ。
だが、三日月は知っている。ほんの僅かな距離であっても、稼がれたことに間違いはなく、それだけでこちらの動きは相手の思惑通りに動かざるを得ないのだ。
だが、三日月は果敢に踏み込む。踏み込みをより深く、鋭く。
そして、一撃を放つ。切り落とす一撃ははじかれることを予測した一撃。弾かれてから、すぐさま次の一撃を放てるように予備動作をしておく。
ガッ!
予想通り、瞬時に反応した明星の訓練刀が三日月のそれを弾く。そして、弾いた動きから瞬時に変化し、カウンターが襲い来る。
しかし反応したのは三日月も同じ。次の瞬間にカウンターの一撃をいなし、カウンターにカウンターをかぶせる。
鋭く伸びたその一撃は、吸い込まれるように明星の体に迫り----そして、姿勢を崩すことも厭わず強引に割り込ませたことで間に合わせた訓練刀に弾かれる。
「ッ!」
「フッ!」
そして、力押しで吹っ飛ばされ、距離をとられる。
体躯では明星に劣る三日月はやむなく飛ばされることを選び、隙を見せずに着地して、すぐに構えなおす。
なぜならば、すでに明星が眼前にまで一気に間合いを詰めてきているからだ。それに対して三日月に驚きはない。
書物や明星との訓練の中で、そういうものだと理解していたからだ。刀を持った剣士の攻撃範囲というのは案外広い。
数メートルを秒とかからずに飛び越え、必殺の一撃を放ってくるものなのだから。
ほらきた、と三日月は襲い掛かる一撃を受け止め、弾いた。力勝負になるとどうしても不利なので、そこに持ち込む動きはつぶさなくてはならない。
MSで戦うときと生身での戦いはまるで違う。バルバトスのように力で他のMSを圧倒できない。だから、力に振り回されずに立ち回るのだ。
(負けて……たまるか……!)
誰かのためでなく、自分の得たい勝利のために。
三日月は果敢に踏み込んでいった。
425: 弥次郎 :2020/11/05(木) 23:37:08 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
Part.24 千里の彼方へ
- P.D.世界 ラグランジュ7 ドルト・コロニー群 ドルト3 宇宙港 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」 シミュレーションルーム
PMC鉄華団の戦力は、ガンダムバルバトスおよびガンダムグシオン、さらにドルトの前の補給で受領したフラウロスと極めて充実していた。
厄祭戦時代に建造されたガンダムタイプMSであり、素の状態でも現行のMSを超えているのに加え、連合の技術まで導入されているのだ。
さらには、ヘリウスやドラクル・ロディ、あるいは鹵獲されたグレイズなども年長組を中心に割り当てられていることから、隙の無さは言うまでもない。
ここにとどめとばかりにファンタズマという大型兵器までもあるのだから、もはや語るまい。
彼らがいかに少年兵であり経験不足な面があるとはいっても、あくまでもそれは連合基準での話である。
このP.D.世界においては十分すぎる実力であることは言うまでもなし。とはいえ、このまま放りだしてよいわけではない。
彼らがまともに軍事訓練を受け始めて半年も過ぎていないのだ。独り立ちまでにはまだまだ時間がかかる。
そして、それまで生き残るためにも、教練はこのドルト3に入港してからも変わりなかった。
シミュレーションルームでは、多くのパイロットたちが訓練を重ねていた。
なぜ、こちらのドルト3に乗り込んだエウクレイデスの鉄華団の団員が訓練ばかりなのか。それは、ひとえに監視の目を嫌ってのことだ。
セントエルモスの人員の動きは常に監視されている。ドルト・カンパニーもセントエルモスがただの護衛とは考えていないのだ。
もちろん、上陸が拒まれるわけでもなければ、邪魔をされるわけでもない。それでも半舷上陸が許可されても、外でのびのびとは過ごしにくい状況だったためだ。
殊更、晴れて専用機であるフラウロスを受領したノルバ・シノは慣熟訓練にいそしんでいた。
これまで彼が乗っていたヘリウスαとは格段に違う性能を誇るMS。近接格闘戦もそうであるが、フラウロスの主軸は中遠距離射撃戦。
激しい戦いの中でも冷静に照準を定め、射撃を行わなくてはならないのだ。こけおどしにしかならないなど弾丸の無駄にしかならないのだから。
とはいえ、まだ若く行き負い任せな所のあるシノで扱いきれるかどうかは未知数。本人の希望や状況に合わせた選択だが、容赦なく変更も有りうる。
というわけで、シノの希望もあり、セントールだけでなくハイエンドノーマル部隊の腕利きであるアイリスにも扱かれている。だが---
「ダンジ…ダンジが見える……?」
「シノー!?」
「まあ、そうなるな」
「絞りすぎたわねぇ、あっはっはー」
「笑っている場合じゃないですよ、アイリス」
豪快に笑うアイリス、それを咎めつつもシノをシミュレーターから引っ張り出すセントールとチャド、慌てて医師を呼びに行く鉄華団の団員。
流石のシノも意識を手放すことを選んだようだった。それくらい厳しくしなければならないと告げられ、それを受けてて立った結果がこれだ。
「うんうん、けど問題点は最初のころよりだいぶ潰されてきたから、まあ良しかなー?」
とはいえ、ダウンするまで結構粘っていたし、追い詰められてからの粘りも見事だった。
先ほどまで相手を担当していたアイリスはそのように評価していた。機体性能におんぶにだっこではなく、機体を生かす戦いができている。
少し前までヘリウスやグレイズに乗っていたとは思えないような成長ぶりだ。まあ、ハロという補助輪があることは考慮しなくてはならないが。
「そうだな、このドルトでの騒ぎが起こるならば、それが初陣になるだろう。それまで可能な限り教え込まなくては」
セントールもアイリスの言葉に頷くしかない。自分たちがいるからと言って、絶対に安全とは限らない。
次の瞬間には命を落としているかもしれないのが戦場だ。連合の技術を以て強化されているフラウロスとて例外ではない。
そのことをよく知っている傭兵たちだからこそ、その言葉には重みがあった。
「でも先生、こんなにきつくやって大丈夫なんですか?」
「それが必要な時もある、ということだ。では、シノ君が復帰するまで他の人の相手をしてあげましょうか」
悲鳴のような、歓声のような声が上がり、セントールは思わずほおを緩める。
彼らのような力強さ溢れる若者と競い合う。なんと心が躍ることか。
戦いが近いということも忘れ、セントールたちは力をより注ぐのであった。
426: 弥次郎 :2020/11/05(木) 23:37:56 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
どうしても省略しがちな鉄華団の様子を少し…
あとはオルガとかの様子ですかねぇ…
最終更新:2020年11月10日 09:28