853: 弥次郎 :2020/11/09(月) 01:04:25 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「ジークフリートの眠れぬ夜」



  • 特地 企業連拠点 特設コテージ C-9号



 特地にある企業連の拠点には、高級将校やそれに準じる扱いを受けるリンクスのための個室や離れが用意されていた。
 普段ならばホテルのような空間を無駄なく使った宿舎というものがあるのだが、無駄の省かれたそこではいささか息が詰まる。
殊更、リンクスのようなコンディション管理が重要であったり、ある程度の自由が認められている人員にとっては割と死活事項である。
故にこそ、こういった特別な居室を使う権利が認められていた。
 そして、その一室を日企連所属のリンクスであるアマツミカボシが利用していた。
 本来ならば、彼はここを利用しなくともよかっただろう。だが、今日という日は本当に大変で、思わず駆け込んでしまったのだ。
 そして、ルームサービスというかハウスサービスというか、ともかくそれを頼んで晩酌を開催していた。

「相変わらず振り回されているな、ミカ君」
「……非常に不本意ですけど」
「ミカ君は欧州の企業からも覚えもめでたいのだから、彼女たちを任せられるのだろう」
「……不本意ですけども!どっちかというと厄介払いというかお守り役任されています!」

 アマツミカボシの愚痴を聞くのは、同じく特地に派遣されてきた虎鶫だ。他のリンクスで言えばタケミカヅチもいるのだが、
彼は晴れて婚約者となったβ世界からの出向者である篁唯衣とともに過ごしており、この場にはいなかった。
流石に同室ではない、節度ある付き合いをしている。だが、ともに激戦を潜り抜けた二人の仲は良好であるとのことだ。

「タケミ君がうらやましいか?彼らは割と良好な関係だけれども」
「いえ……タケミさんもだいぶ感情の整理に困っていましたからね。
 キャラクターではなく、その人間を愛せているかって…」
「なるほど」

 それはある意味転生者特有の悩みであった。キャラクターに対しての愛なのか、それともその個人への愛なのか。区別がつきにくいのだ。
タケミカヅチはサブカルにも詳しかったらしく、マブラヴについてもある程度の知識を持っていた。
それゆえに、篁唯衣から愛情を向けられることにも、愛情を向けることにもある種の戸惑いとためらいがあった。
 例えばヤンデレが売りの人気キャラクターがいるとする。現実にいないならばまだかわいいものであるが、現実に付き合うとなると厄介で好意を抱けないかもしれない。
GMやプレイヤーとして画面越しに眺めている際に感じる感情と、実際に触れあって感じる感情は決して同じとは言えない。
キャラクターとして愛するのは時と場合によってはとてつもない侮辱にすらなるだろう。あるいは、現実とイメージのギャップに幻滅してしまう可能性もある。

「私たちは浮世離れしているというか、現在の生への執着が薄いところもあるからな…執着する理由がないというか」
「ですよねぇ…死んでも次がある、とわかると途端に命を大事にできなくなるかもです」

 虎鶫はその根本的な理由をズバリ言った。つまり、転生者たちは転生を経験したがゆえに常人と離れてしまっているのだ。
文字通り見える世界も価値観も違う。そうなれば、周囲となじめなくなってもおかしくない。何しろ、根本的に死への恐怖が小さいのだから。
無論、死を経験して死を恐れるタイプもいるが、場合によっては死という快楽に飲まれるタイプもいる。

854: 弥次郎 :2020/11/09(月) 01:06:17 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
 それはともかく、と虎鶫は話題を変える。

「タケミ君や私のようにキャラクターではない相手に好かれているのはある種幸運ではないかな?」
「……そうなんですけどね」

 アマツミカボシは彼女たちのことは憎からず思っている。彼女らの奔放な性格も、人を振り回すところも、相応の理由あってのものだ。
あれが彼女らの処世術だというのが分かる程度には付き合いが深く、それを受け入れている。
あの二人が自分のことを「ジークフリート」と呼ぶのも決しておふざけではない。声音や込められた感情でわかるし、呼び名の時点で察せる。
バレエにおける「白鳥の湖」を知っているならば、猶更のこと。ただし、その筋書きと違うのは、一人二役のオデット/オディールが別の人間であること。
さらには、その両方がジークフリート=アマツミカボシに思いを寄せていることであろうか。
 まあ、バレエも創作の一つであって、ハッピーエンドになったりバッドエンドだったりするわけで、結末が多少変更することはよくあることだ。
だからと言って、重婚を迫られることになろうとは。脚本家の創作にしてはぶっ飛んでいる。

「それにミカ君は彼女らと張り合う家柄だろう?」
「……その話はなしでお願いします」

 虎鶫の指摘を、しかしアマツミカボシは眉をひそめつつも受け流し、飲み物を一気に呷った。
 家。そう、アマツミカボシの家柄は企業の重役を代々務めるという富豪の家柄。上から数えたほうが比較的早い部類だ。
しかも歴史のある名家というおまけつき。アマツミカボシはいうなれば銀の匙を咥えて育った御曹司なのだった。
 だが、そんな家柄に縛られるのを山猫(リンクス)が好むかといえば、人によりけりというところだ。
そして事実、アマツミカボシは実家を好んでいるとはいいがたい。リンクスという生き方が染みついたアマツミカボシには面倒とさえいえるかもしれない。
 だが、と虎鶫はあえて踏み込んだ。自分も料理をつまみながらも、アマツミカボシが自覚していることを改めて突き付ける。

「折り合いをつけるには、彼女らがいたほうがいいのではないか?」
「はい…」

 実家は好ましくはないと思っているが、同時に自分に求められるところも理解している。
 所詮はリンクスも宮仕えだ。山猫には常に首輪が付きまとう。企業やカラードといった組織に身を置き、相応しい振る舞いが求められる。
折り合いをつけ、自由な生き方の一部を犠牲にして、特権を得ている。故にこそ平穏は保たれているのだ。
もしも、その山猫につけられている首輪が外れ、タガまでも外れた場合に何が起こるのかも理解している。
 もしもだが、彼女らとの婚約などになれば、それは単にリンクス同士の婚約だけではなく、企業のつながりにさえ発展する。
 彼女らの所属のローゼンタールにすれば日企連とのパイプを一つ増やすことができるので、大いに推奨することだろう。
日企連にしても、反対する理由はない。そしてアマツミカボシの実家としても、没落しているとはいえ歴史ある貴族を迎えるのに反対の声はないだろう。
 たかが結婚、されど結婚。こういったつながりというのは、古今東西を問わず常にあったもの。

「ま、実家の方は心配していませんよ。彼女たちも気に入られているみたいですしね」
「それは良かった」
「……まあ、少しは前向きに検討しますよ」

 それよりも、と切り上げたアマツミカボシはタブレットを引っ張り出し、有線ケーブルで首筋のAMSと接続しながらいう。

「ま、最優先はヴォルクルスです。あとの予定をこなしたければ、生きて帰らないとなりませんよ」
「そうだな。と、それは?」
「我らがGATEにおける主人公の伊丹陸尉の専用機…とまではいきませんが、専用カスタマイズ機ですよ」

 タブレットをのぞき込めば、そこには明らかに手が加えられたアレイオンの姿があった。

「今日までの演習のデータや意見の聞き取りから得られた、陸尉専用のカスタマイズです。
 ここに来る前に受け取ったので、今のうちに見ておこうかなと…」
「まじめだねぇ」
「ここを使わせてもらっていますが、今は戦時中ですからね」
(なんだかんだいって、まじめなリンクスが多いのは良きことかな……例外もいるけれど)

 その筆頭、未だに勝てない気分屋の山猫を思い出し、虎鶫は笑みをこぼす。
 ともあれ、明日も決戦に向けた準備や訓練で忙しくなる。だが、今は、というように虎鶫はドリンクを一気に飲み干した。
 山猫たちのしばしの休みは、しかし、次なる戦いの匂いを纏っているものであった。

855: 弥次郎 :2020/11/09(月) 01:10:38 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ちょい短めですが、特地の様子を。
伊丹陸尉のカスタマイズ機については追々設定を投下します。

タグ:

憂鬱SRW GATE編
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • GATE編
最終更新:2023年10月11日 20:02