749: 陣龍 :2020/11/06(金) 23:51:39 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

伊400型潜水艦とナンバーズ・フリゲート


 1930年代。米合陣営が日英による空売り砲攻撃で混乱と再編に奔走している最中、日本海軍は事前に練り込んだ艦隊のリニューアル計画として【新・八八八艦隊整備計画】を策定した。
徹底した改装を行っている旧式化した艦艇の刷新と言うあからさまに意図がバレバレな名目で発表されたこの計画では、三万トン級正規空母八隻、41㎝三連装砲戦艦八隻、30㎝三連装砲超甲種巡洋艦八隻を主軸とする極めて雄大な艦隊整備計画であった。またほぼ同時期にイギリスでも、建造する新造戦艦のネームシップから名を取った【ライオン・プラン】を策定。同じく艦隊のリニューアルを図り始めていた。
当然米合も公式発表に加えて株価や資材の流れから大規模な艦隊増強計画を察知したが、元々敵対国に隣接している為に陸空優先で海軍の発言力が低い上に、空売り砲で受けた経済ダメージが思いの外大きすぎて、対抗した大規模艦隊建造計画を決行する事は至難の業であった。米合陣営に加わっているソ連やカルトフランス、バルカン連邦等も基礎体力や技術、造船施設等の問題で自力建造は夢物語、寧ろ米合自身が軍艦を送らなければならない程である。


 そして大々的に艦隊リニューアルを表明した当の日本海軍では、表明した建造の大まかな発表とは打って変わって、実際に建造した艦艇の内【戦艦】と言えるような主砲搭載艦は米合を欺く為の46㎝砲戦艦四隻の大和型戦艦だけに留め、残りは超大型装甲空母の大鳳型装甲空母と各巡洋艦や駆逐艦に高速補給艦ら補助艦艇群、そして史上初の『SSG』伊400型潜水艦の建造に注力していた。尚戦艦閥の奔走と血反吐と他派閥からの憐れみで何とか新造戦艦を4隻だけ建造出来たが、残りの本来建造予定であった紀伊型以降の戦艦は容赦無く予算を本来の目的に使う為のダミーとして名前だけ使われるだけに終わっていた。後に米合艦隊の水上艦を海の藻屑とし、沿岸地帯の都市要塞を全て地下要塞の基礎すら粉微塵にする艦砲射撃を繰り返して全艦健在で有り続け、終戦後も長年堂々と海上に君臨していたのは、恐らく戦艦閥としては水子と化した名前しか無い姉妹たちへの鎮魂歌のつもりであったのだろう。実際、米合の良く考えられた強固な地下要塞をその46㎝砲弾でいとも容易く貫き米合をあざ笑うかの如く次々と爆砕し崩壊させて行ったその姿に『大鳳型の量産よりも大和型を量産した方が良かったのでは無いか』と一部物議を醸しだした程であったので、戦艦閥としては多少なりとも胸のすく思いだっただろう。

750: 陣龍 :2020/11/06(金) 23:54:02 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


 そんな嘆き悲しみに溢れた戦艦閥を他所に、潜水艦閥は既存の潜水艦の概念や戦力価値を根底から引っ繰り返す伊400型の性能に始めは喜ぶも、暫くして微妙な顔を揃って浮かべていた。
理由としてはかなり分かり安く、そもそもこの伊400型は『潜水艦搭載用に縮小した【雷火】を搭載可能な潜水艦』として建造された為に、今までの潜水艦の切り札であった魚雷は前部発射管に装填している分を合わせても僅か4本のみで、既存の潜水艦が搭載していた主砲が無いのは兎も角、念の為に付けられる事が多い対空機銃も据えられていない形状であり、切り札であり主兵装である縮小型『雷火』である潜水艦搭載型ミサイル『烈火』も、後の時代のVLS方式など時代的に出来る技術など有るわけがなく、所謂ボックスランチャー方式で撃ちだす仕組みであった。しかも威力は兎も角目標識別力や精度は技術的限界から少しばかり大雑把であり、尚かつ浮上して『烈火』を装填したボックスランチャーを展開すると言うかなり面倒な形式で有る為に、伝えられていた断片的情報から一種の漫画的な未来兵器を想像していた潜水艦閥は『実質潜れるだけの唯の対地砲艦では無いか』と現実に少々落胆してしまったのだった。単に早とちりして子供の如く想像を膨らませて現実に失望すると書くと何とも馬鹿らしい話だが、各軍がそれぞれ対米合戦に備えて既存兵器の印象や概念を破壊する強力兵器を整備しているのを横目にしていれば、こんな考えが出て来ても変では無いだろう。
元々潜水艦閥は通商破壊する様な敵国が海の彼方と言う事で結構な期間、戦艦閥よりも影が薄い存在でも有ったのだ。



 そんな内心の落胆は兎も角、地球を軽く半周出来る程の長大な航続距離と『烈火』を装備する関係上今までの潜水艦よりも巨大な船体により潜水艦としてはかなりマシになった居住性等に乗り込んだ水兵は驚いたり喜んだりしつつも多数の配備が進められる中で、運命の第二次世界大戦が開幕する。そしてイギリスやスペイン、ドイツに話を付けて日本海軍がスペイン領カナリア諸島に潜水艦基地と哨戒航空隊の設営準備を開始。潜水母艦や補給艦を現地に向かわせる艦隊に帯同させた複数の伊400型潜水艦は人知れず艦隊から分離。開戦から間もない上、『合理的思考』から『開戦初頭に行き成り味方制海権内に敵潜水艦が侵入し、長距離ミサイルで敵地攻撃する』等と言う事は想像だにしていなかった事から少々油断して隙を見せていた米合海軍の哨戒網の穴を突破し、大胆を通り越して命知らずな事に夜明けと共にニューヨーク沖にて6隻が浮上。伊400以下6隻が浮上と同時に高速で展開した『烈火』は、調整もそこそこに搭載していた全弾を発射し、戦果を確認する事も無くすぐさま潜航して遁走する。狙いはワシントン海軍工廠とニューヨーク海軍工廠であったが、精度の問題から中には狙いを外れて合衆国の誇る林立したビル群に加えて良く整備された商業区画にも何発かが着弾。民間施設側は兎も角頑丈に整備された工廠に着弾した『烈火』は、その雄々しい名に反して元となった『雷火』に比べると炸薬量が潜水艦搭載の為仕方なく抑え込まれたのが仇となり、敷地内の倉庫を複数破壊し、一発が偶然にも整備を終えて出渠直後の重巡洋艦に直撃したが、命中箇所が良かった為に整備した艤装が吹っ飛んで出渠直後にすぐさま戻って入渠する羽目になった以上の軍事的損害は無かった。だが嫌がらせとしては上々であるとも判断された事も有り、その後も伊400型潜水艦は哨戒機の威力が激減する夜間や夕刻等に、ある日は単艦で、ある日は戦隊を組んで神出鬼没に『烈火』を沿岸部の重要拠点目掛けて撃ち込み、そして狙いが外れた『烈火』が度々市街地や民間施設に着弾していった。

751: 陣龍 :2020/11/06(金) 23:56:52 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 そして日本側としては、米合の何時もの思考ルーチンとしては『合理的に考えて散発的な攻撃は大した軍事的損害には成らない為、既存の建艦方針に変化なし』となるだろうと考えて居たのだが、初撃となった伊400型潜水艦の対地ミサイル攻撃はその余波を軽く見ていた日本側の想像を遥かに飛び越えた過激な反応を米合に齎していた。何故ならば、開戦初頭で米合と日英側による殴り合いが国境線近くで激しく展開されていたが、米合の真の支配者たる資本家ら上層部はあくまで『合理的に考えて、この戦争は日英側に相応の損害を与えれば【利に成らない】と講和になる。
そして際限無き不利益を齎す全面戦争も日英は望んでいない』と判断していた為に米合の牙城でも有る東海岸地域に戦略爆撃等が行われる事は無いと考え、開戦初頭でも暫くは日常の生活を行っていた。
【合理的判断】を旨とする彼らからして見れば、『民間人を多数巻き込み講和不能の事態になるのは非合理的である』と断じていた以上、『今戦争で如何に更に儲けるか』を同業者と協議する為に何時も通りに仕事をし、その家族も『東海岸が戦争に巻き込まれる事は無い』と信じ込んでいた為に、普段通りに学校や買い物等に勤しんでいた。だからこそ、唐突な爆発がニューヨークの各地で発生しても『単なる事故』としか認識出来なかった人間が過半であり、遅ればせながらに鳴り響いた空襲警報の最中の対空砲火の轟音とそれを超える複数の爆発音でようやく、ニューヨークや近隣地域の人間が『日英軍の【何か】に襲われた』と理解した。
因みにこの時点でも米合軍では情報が錯綜しており、潜水艦発射型ミサイルによる襲撃と判明したのは伊400型潜水艦の二度目の襲撃の時点であった。


 そして今回の攻撃が潜水艦によるものと判明した直後に、米合海軍に政府から、否資本家達から『直ちに敵軍の潜水艦による襲撃を完全に阻止せよ』と言う命令が下され、米合海軍に有無を言わせないままに強制させられた。米合海軍にして見ればあくまで襲撃は散発的な所が多い為に、既存の哨戒網を更に密度を強める程度で十分と判断していたのだが、合衆国のスポンサーたる資本家達はその答えに全く納得しなかった。
先の襲撃にて軍事的損害は大した事は無かったのだが、海軍工廠から外れた『烈火』は彼ら資本家達が入るビルに着弾し、最上階で会議を行っていた為に直接負傷はしなかったが突如飛来した『烈火』によって下のフロアーが吹き飛ばされたのを直視していた。そしてそれだけに終らず、商業区に着弾した『烈火』は、偶然資本家達らの妻や子女が通う上流階級専門の高級店の近隣に飛び込み、爆風と破片が店内に雪崩れ込んで偶々買い物に来ていた複数の上流階級の子女に襲い掛かり、被害に遭った店員二人と上流階級の子女五人グループの内一人が爆風で壁に叩き付けられ即死し、二人が破片の直撃を受けて一人は右腕を吹き飛ばされ、一人は爆風で破砕されたガラス片によって顔面の左半分を削ぎ落し、残りの子女四人は軽傷で済むも目の前で突如起きた惨事と友人たちの有様に二人が心を病み、心身共に何とか無事だったのが二人のみと言う事件が発生していた。彼女らが起点となって何処か他人事感覚だった『戦争』が上流階級にようやく明確に突き付けられたのだ。

752: 陣龍 :2020/11/06(金) 23:59:16 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 米合の支配者たる資本家達が何故『備品』等と言う倫理を投げ捨てた『商品』を平然と当たり前に扱えるのか?それは『自分の世界』が『外の世界』から隔絶しているからである。ゲームをする人間は、ゲームの駒をどう役に立たせるかを考えはしても駒の事を思い図る事は無い。彼ら米合の資本家達の感覚は正しく『ゲームをする人間』であり、つまりは『決して傷つけられる事の無い安全圏』に居るからこそ、幾らでも【合理的】に【効率的】に、そして【倫理を全く考慮に入れる事無く】『金稼ぎゲーム』を続けて来ていた。
【合理的行動】を導入しその後の合衆国の未来を決定付けさせた南北戦争頃やそれ以前の彼らの先祖の本当の真意は今では定かでは無いが、【合理的行動】を受け継いだ子孫たちの表層を取り除いた本当の思考を暴いてみれば、結局はこんな所である。そして『決して傷つけられる事の無い安全圏』と言うぬるま湯に浸かり続けていた人間が突如『戦争と言う現実』を突き付けられたらどうなるか?その疑問に対する彼ら資本家達の答えは、全く持って【非合理的】な……そして『とても人間らしい』行動であった。



 米合海軍の意見や反論の一切を封じて下された『敵国潜水艦の完全排除』命令に逆らう事など出来やしない米合海軍は、しつこいまでに資本家と有権者に突き上げられた議員からの確認と命令に翻弄された。始めは処分予定であった旧式艦の対潜艦としての再就役でお茶を濁そうとするも資本家からは『旧式艦では戦力価値に不安が大きい』と一刀両断で却下され、では建造が容易な戦時急造商船規格に爆雷満載で行こうとすれば『構造な脆弱な商船規格では戦場で戦えない』と切られ、ならば後の改装で魚雷を載せられる様な駆逐艦を建造しようと資材収集を始めた段階で『建造に時間が掛かり過ぎる』と朝令暮改の典型例な命令が政府と海軍上層経由で次々と下され続けた為に設計は二転三転七転八倒し続け、何とか最終的に出来上がった『対潜艦』も最大速力が僅か20ノットに届く程度、搭載砲も旧式砲は既に【合理的に】処分していた為に陸地用の高角砲を分捕った申し訳程度の小口径砲に小口径機銃が幾らか、構造として魚雷の後付けは殆ど不可能で居住性も悪いが航続距離と爆雷の数量に量産性だけは無駄に高いと言う何とも始末に困るシロモノが出来てしまった。当然ながら米合海軍としてもこんな無駄に数を量産される予定の『軍艦未満な対潜艦』に命名する労力を掛けたがる訳もなく、建造一号艦から全て数字とした『ナンバーズ・フリゲート』と分類する事とした。


 そして生まれの経緯からしてかなり特異な『ナンバーズ・フリゲート』であったが、資本家達の介入で色々とゴタゴタが連発したとはいえ東海岸各地で無数に量産されたこの『ナンバーズ』は対潜艦として立派に任を果たし、当時米合沿岸部に襲来し潜んでいた日英独の潜水艦を多数追い払い、少なくない数の日英陣営の潜水艦を撃沈、撃破に追いやっていた。
無論性能の低さから潜水艦による反撃で撃沈された艦も多く出た物の、それ以上に大量に数が湧き出て来た為に潜水艦のみによる大反撃は難しく、連動して散々東海岸に対地ミサイルを撃ち込み続けた伊400型潜水艦も、何時しか出て来なくなった。陸戦や航空戦の行方がだんだんと雲行きが怪しくなってきていた中のこの朗報には、強引に介入して、海を埋め尽くす勢いで量産させた資本家達も笑みを浮かべていた。因みにこの『ナンバーズ・フリゲート』の量産の際には米合でも対外交易が途絶えて仕事も無くなった海運関係への金回しの意味も有り、実際軍艦建造で懐を温めている造船系資本家の造船施設で量産された『ナンバーズ・フリゲート』が海運系の数少ない商船を護衛して米合沿岸を度々航行出来るようになったのも事実だった。

753: 陣龍 :2020/11/07(土) 00:02:04 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 だが資本家達が『ヴァンパイア(伊400型潜水艦の米合による悪罵)』による攻撃が無くなって安心していた頃、米合海軍は危機的状況に陥っていた。小型艦艇補充の計画が『ナンバーズ・フリゲート』量産のせいで崩壊した事と、人的資源の枯渇である。米合は昔から『備品』による軍隊の【合理化】を進めてきたが、こと海軍に関しては殆ど『備品』は扱われる事は無かった。特に水兵を含む艦艇の乗組員に関しては、時と場合によって独自判断による行動を求められる事が多い為、単純思考や行動しか出来ない『備品』はハッキリ言っているだけ邪魔でしかない。その為ずっと志願したり徴兵した一般の『合衆国人』を水兵として養成して来ていたのだが、この第二次世界大戦の初頭にて行われた伊400型潜水艦の対地襲撃とそれにより恐怖に駆られた資本家達の暴走によって、本来の計画では艦隊型駆逐艦や潜水艦に回す予定であった水兵を無数の『ナンバーズ・フリゲート』に回さざる負えなくなり、例え軍艦が作れてもそれに乗せる人員の供給面で完全に破綻していた。
しかも元々米合海軍の発言力は低く、しかも第二次世界大戦も進んで今や損害になりふり構わぬ日英陣営の猛攻の前に、陸空共に一人でも『合衆国人』は必要であると絶対に海軍に人の流れを回す事は出来なかった。
対潜掃討も済んだと言う事で『ナンバーズ・フリゲート』をある程度予備艦に回そうとしても、『烈火』の攻撃が未だ強いトラウマとして残っている資本家達は認めなかった。つまりはチェックメイトであった。



 何度かの米合海軍主力艦隊の決戦にて主力艦が壊滅した後、米合海軍に残されていたのは最大速力20ノット未満で魚雷も載せられず、火砲も貧弱な『ナンバーズ・フリゲート』しか残されていなかった。そして数だけは多い彼女たちが破れかぶれに日英連合の大艦隊に突撃した時に見た最期の光景は、自分達が笹船以下にしか思えない海を埋め尽くす超巨大な軍艦の群れと、空を多数飛翔して陸地へ飛んでいく『雷火』と『烈火』の群れ、そして灼熱の砲弾と無数の魚雷の豪雨だった。その中には、『ナンバーズ・フリゲート』が生まれる原因となり、そして終ぞ損傷を負わせられても撃沈艦を出せなかった伊400型潜水艦が全艦存在し、新規に装備した『烈火改』を盛大に撃ち込み続けていた。

754: 陣龍 :2020/11/07(土) 00:08:50 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
と言う事で15年早く技術加速してるなら通常動力ミサイル潜水艦作れるじゃろ史実でも排水量伊400型以下でもミサイル(V1)乗っけたヤツアメリカ建造してるし、で作ってぶち込んだ後の米合の反応を考えて見たらこうなりました。端折りましたが戦争資源の無駄な浪費や生産ラインに人員育成の大混乱、艦隊整備計画の破綻など割と地味に大きい悪影響も米合には起きてるやろなぁと思います(小並感)

因みに『烈火』の攻撃第一号で重傷負ったり精神異常起こした上流階級の子女はこの後悪化する戦局でだんだんぶっ壊れてったんやろなぁと思いますが、取り合えずカットしました。米合の対空砲火が街を彩る中病院の屋上で謳いながら投身自殺とか流石に無関係ですし

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最終更新:2020年11月10日 10:34