264: 陣龍 :2020/11/14(土) 22:23:58 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 S-3 特殊誘導魚雷 Sea Serpent



 合衆国にて製造され、実戦投入も行われた人間誘導式大型対艦魚雷。M1特殊高射砲と同じく誘導装置を『備品』とする事で安価に【量産】する事を目指して設計された非人道的兵器の海に置ける象徴。
戦前から設計と開発が進められ製造ラインも作られていたが、開戦初頭の伊400型潜水艦による対地攻撃によってこの『S-3 特殊誘導魚雷』関連の生産に回す予定であった資材が全て『ナンバーズ・フリゲート』に強制的に回されて一時量産が頓挫し、合衆国海軍の主力艦が壊滅する前後になってようやく資材が一部回されて生産が開始されたが日英陣営の犠牲を厭わぬ容赦の無い戦略爆撃や弾道弾攻撃で生産は本来の想定より遅れに遅れ、事前想定では戦争中に五千発以上を揃える予定が実際には五百に満たぬ数の生産が限界となり、尚且つ末期の粗製乱造の影響で少なからぬ数が設計の想定外の動きを仕出かし、結果多数の偶然と必然も有り、既に底に有ると思われていた日英陣営内での合衆国の悪評を戦時中に更に下に付き落とす事態を引き起こす事となった。



 日英陣営との壮絶な総力戦となった第二次世界大戦前、合衆国海軍は陸空に割かれて少ない軍事予算で日英海軍の片方を相手取ってもある程度渡り合えるだけの艦隊を戦前より長年努力し、整備し続けて一枚看板とも言えるだけの質量を持つ打撃艦隊と機動艦隊を揃えていた。新たに米合陣営に参入したブラジルやバルカン連邦、ソ連との経済圏を独占する事により日英による空売り砲で垂直墜落していった経済も持ち直し、尚且つ南北戦争以後から伝統の軍需経済によって復活を成し遂げ、陣営を構成する各国に艦艇を輸出する事にすら成功していた。だがこの米合海軍の血のにじむような努力を重ねても、彼らの艦隊を質量共に超える大海軍を抱え、世界帝国の一角を成す大英帝国とは独立戦争以後から関係が悪く、そしてカナダへのマンハントや続海賊時代を呼び込む原因を作った事で事実上の敵対関係は固定されていた。また世界帝国のもう一角を成す大日本帝国とはマニフェストディスティニー時代から常時交戦国に等しい最悪の関係性な上、大英帝国とは極めて強固な同盟関係を締結して一朝事あらば合衆国海軍の全艦艇を上回る大艦隊が太平洋を押し渡って来る事は常識以前の話であった。つまり一言で纏めれば『正規戦で海上では勝機を望めず、この差を埋める【ナニカ】が合衆国海軍には必要』と言う事であった。

265: 陣龍 :2020/11/14(土) 22:26:58 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


 そして様々な検討を重ねられた結果、新型超重量徹甲弾(SSHS)の開発と配備等と言った基本的な戦力増強に加えて、陸地で開発が進められていたM1 特殊高射砲からヒントを得た『高火力かつ必中の巨大魚雷の量産』を合衆国海軍は画策し、M1にて開発された技術を一部流用し、合衆国のお家芸と化した『備品誘導』装置を組み込んだ大型魚雷を開発した。設計はモノがデカい事とコスト圧縮の為、完成の目途が立たない上にコスト圧縮も見込めない機械式誘導魚雷の開発プランを潰して予算を捻出し、基礎となる船体も既存の魚雷では無く小型潜水艇のモノを流用。
【誘導装置】には『備品』の中でも小柄なモノを選抜して無駄な容積を可能な限り抑え、残りを燃料や爆薬の搭載スペースとすると言う可能な限り量産性を高めた単純な構造と設計としたために設計より製造コストが一割も削減され、試作品による標的艦試験では一発で標的艦を跡形も無く消し飛ばし、実験後の検証でも【備品の調整】次第では敵艦の直下から命中させられる可能性も現実的に考えられると判定された事に、合衆国海軍は思った以上の切り札(Joker)を手に入れられる事に喜び、予算策定の際には小型艦整備計画と言う名目でこの新型誘導魚雷こと『S-3 Sea Serpent』並びに搭載先の通常潜水艦を量産する予定であった。


 だがその計画は、合衆国にとって想定外の日英陣営による宣戦布告と先制攻撃、そして開戦初頭に行われた伊400型潜水艦の東海岸地域目掛けた多数の対地ミサイル攻撃によって一瞬で頓挫した。
経済的な被害では無く、物理的人命的に合衆国を牛耳る上流階級にも命の危険が有る事を突き付けられて狂乱した結果、伊400型潜水艦を完全に追っ払う為と称し『ナンバーズ・フリゲート』と称された対潜艦を無数に量産する事が厳命された為、通常の駆逐艦や潜水艦計画も流産するのみならず『S-3』の整備計画も製造ラインを作って量産の端緒に入った段階で資材が丸ごと流用された結果完全に停止。
加えてドックや工廠が『ナンバーズ・フリゲート』の量産に既存艦の整備で埋められた事で『S-3』用に確保していた【備品】も活かし処が何処にもない『余剰品』と見做されて陸空に回された。無数に建造された『ナンバーズ・フリゲート』によって合衆国の海域から伊400型の姿が消えた事でようやく『S-3』の整備計画が再稼働したが、海軍に回される資材は大半が既存の主力艦の修繕や建造艦、そして対潜以外では哨戒艦程度にしか使えない『ナンバーズ・フリゲート』に使われており、残った資源では『S-3』製造の為のラインの再構築と少数量産をちまちま進めるだけで精一杯であった。しかも追い打ちを掛ける様に、合衆国海軍の主流派は主力艦隊が壊滅後は東海岸地域全てを機雷の海で封鎖する事を画策。
『最早敵艦を百や二百沈めた所で大局に変化は無い』と言う正論と発言力の差、更には搭載予定であった通常の潜水艦が多数戦没した事の対処として臨時に設計変更して燃料を追加搭載する改造が急に行われた事等によって再度生産に混乱が生じ、結局計画は初期から大幅に縮小され、短期間で可能な限り量産の努力は重ねられたが終戦までに製造数が総数五百発未満と言う、潜水艦派閥としては極めて痛恨の結末となった。

266: 陣龍 :2020/11/14(土) 22:29:41 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 『ナンバーズ・フリゲート』に続き末期感溢れる散々な出生となった『S-3』であったが、その不運に比する様に投入された時期は最悪の環境であった。元から巨体だったロイヤルネイビーとインペリアルネイビーは、小型艦のみならず戦艦や正規空母ら主力艦すらも戦争で更に規模を拡大させており、そして重爆撃機や飛行艇改造の哨戒機のみならず、各種空母にも対潜哨戒機を多数配備を完了させており、『S-3』を
投入する時期には搭載予定だった合衆国海軍の潜水艦の大半が撃沈か行方不明の末路を辿っていた為、目標である戦艦や空母、大型の輸送艦へ突撃してもその多くは重厚な護衛の駆逐艦と対潜哨戒機の群れによって高確率で封殺され、敵艦を確認する事も出来ずに訳も分からぬまま沈められた『S-3』も少なからず出ていた。
無論戦果が完全に皆無と言う訳でもなく、航空隊と共同で敵輸送船団を襲撃した際には、『S-3』魚雷十発にて護衛任務に就いていたサザーランド級軽空母一隻、大型輸送艦二隻を爆沈させる戦果を挙げていた。
だが共同で襲撃した航空部隊は間接護衛に付いていた空母機動部隊によって叩き潰されてもおり、尚且つ大型輸送艦二隻と軽空母一隻沈められた所で代わりの艦はそれこそ無数に存在していた。完全なる結果論かつ後知恵論であったが、仮に『ナンバーズ・フリゲート』の量産は避けれなかったとしても、東海岸地域の無差別機雷堰に回された労力を『S-3』に回していたら主力艦の数隻は撃沈ないし撃破に持ち込めた可能性は皆無では無かった。隻数の事も有るが、機雷堰の為に出撃路が固定され、襲撃を繰り返す間に襲撃可能ポイントが特定されれば、中盤以降はただ撃沈される為に突撃している様なモノでしか無いのだ。無論機雷堰を作らなければ、無数の水上艦と強襲揚陸艦が東海岸に殴り込んで来たであろう事も考慮すれば、主流派の思考の方が正しいとも言えるだろうが。


 そしてその様な不毛な戦闘が続く中、『S-3』シリーズの一発であるS-213が、先に逝った【備品】と同じく敵輸送船団への攻撃を命じられて出撃するも、戦争末期に敗勢にある国家特有の資材の劣化や粗製乱造の影響でエンジンと舵が突発的に異常を引き起こして迷走を始め、共に出撃した『S-3』から完全に逸れてしまい会敵出来ないまま燃料切れを起こし、浮上したまま海上で漂流を始めた。全く想定されていない為波に流されるまま海上でただただ何もせずにぼんやりとしていたS-213の【備品】は、偶然にも哨戒任務中に通り掛かったイタリア海軍の大型潜水艦であるルイージ・トレッリに救助され、軽い事情聴取にて乗員全てが驚天動地の衝撃を受けた後、同じく偶然にも丁度近隣海域にて米連への輸送任務を達成して帰投中だったイタリア海軍の輸送船団護衛部隊の旗艦、重巡ポーラに合流し、S-213(【備品】の為魚雷番号が名前扱い)を移乗。
艦内にて『彼女』に対し可能な限りの診療を行いつつ最大限に丁重な待遇を以てイタリア本国に帰投した。距離的に近かったイギリスに向かわなかったのは突然の突発的事態に重巡ポーラの乗員全てが驚愕して混乱し、イギリスに一旦向かうと言う考えが浮かばなかったと言う何とも冗談見たいな話が公式の理由であった。実際の所、S-213に乗っていた『彼女』をイギリスに上陸させたらイギリス人が『彼女』から情報を可能な限り引き出そうと尋問を繰り返すのでは無いかと思われた為に、『彼女』を守る為に敢えて恥をかくカバーストーリーをでっち上げたと言う説もある。もし此方の説が真実ならば、何ともイタリア人らしい話である。また余談であるが、欧州戦線に置けるWW2を描いた某超有名大型FPSでは、今回の事件をモチーフにしたステージが存在し、イタリア海軍の潜水艦が合衆国海軍の襲撃で損傷した中、自らの潜水艦搭載の主砲と機銃で敵駆逐艦を二隻撃沈、哨戒機を三機撃墜した挙句に潜行しての先制雷撃で敵空母を撃沈する大暴れをしているが、現実は敵軍と接触する事も無く普通に帰投している。

267: 陣龍 :2020/11/14(土) 22:31:51 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 閑話休題、可能な限りの最大船速でイタリア本国に帰還した重巡ポーラは、連絡を受けて可能な限りの設備と人員を揃えた特別病室をポーラが入港したタラントのすぐそばの病院を一部接収して設置。ルイージ・トレッリとポーラでの聴取ですらない乗員との会話で『名前はS-213であり、人名は無い』『ナイフやフォーク、トイレの使い方も知らない』『文字も計算も難しい物は出来ず、最大でも小学生程度が精々』『だが極端かつ異常なまでに指示に従順』『総じてまるで操り人形の様に有るべしと育てられたような【少女】』と言う事は判明していてヨーロッパ各地から招集された医師たちを唖然とさせたが、検査を進める内にこの【少女】には重度の麻薬や洗脳教育によって通常では有り得ない検査結果が弾き出されており、最終的には『どう足掻いても長くて一年の命』と判定された。
先進医療技術に優れているという日本からも三顧の礼と特別機を各地に準備して多数呼び寄せたが、診断結果は変わる事は無かった。診断中に【少女】が無邪気に話した事を諜報機関等が分析・精査して東海岸地域の『S-3』出撃拠点を完全に特定する事には成功したが、そんな事は【少女】を助け出して救い出そうとしたイタリア人の望んだ答えでは無かった。


 診断結果で余命一年とされた【少女】こと、重巡ポーラ艦長により『Irene(イレーネ。意味は【平和】)』と言う名を貰った15歳の彼女は、診断結果より多少早く身体に異常を発生させ、16歳となる翌日を前にして親代わり家族代わりとなったイタリア海軍の乗員たちに見守られながら静かに死去した。イタリアに来てからの彼女はこれまでの【備品】生活とは真逆の穏やかで人間らしい生活を、所々で日常生活に躓きながらも毎日を楽し気に過ごしていた。『神様』の事も国王の事も良く分からず、お忍びで訪れたイタリア国王やバチカン司教に対しても『優しいおじさん』としか認識出来なくとも二人から掛けられた温かい言葉に嬉しそうに微笑んだり、ナイフとフォークの使い方に悪戦苦闘しながらもレストランでイタリア料理を沢山食べて満足気に笑ったりと、僅か数ヵ月の時間ながらも間違い無く幸福な生活を送ったイレーネは、死去する直前に震える手を動かして今までに世話になった人々への感謝の言葉と、決して上手くは無いイタリア海軍の重巡ポーラと潜水艦ルイージ・トレッリ、そして両艦の水兵の絵を書き記した遺書を残していた。その遺書は21世紀現在でもイタリアの最重要機密区画たる某所にて厳重に保管されているという噂である。



 合衆国に取っては、今回のケースはイレギュラーが幾重にも重なった結果であった。【合理的に考えて】、粗製乱造と言えども普通は燃料と舵が故障すれば浮上する事も無く沈没する筈である。【合理的に考えて】、普通は敵軍の兵器を発見すれば打撃を受けない内に先制して攻撃し、撃破する筈である。【合理的に考えて】、敵軍の兵士をわざわざ危険を冒して救助する様な不合理な事をする筈が無い。
そう言った合衆国特有の【合理的判断】は、イレーネが偶然かつ奇跡的な幸運でイタリア人に発見された事によって根底から覆っていた。
これは戦争の趨勢が完全に日英陣営に傾いていた事も有るが、元々から人道に悖る行為を【合理的】として押し通していた事に対する反動でも有ったのだろう。合衆国は、これまでの【ツケ】を纏めて取り立てられる時が来ていたのだ。



 合衆国本土侵攻戦では、イタリア軍はバルカン連邦が片付いた事を理由として、陸上戦力としてイタリア軍が誇る精鋭部隊であるフォルゴーレ空挺師団とリットーリオ師団を基幹とした軍団を派遣。また海上でもイタリア海軍の誇るスペックが46㎝砲に勝るとも劣らない優秀な戦艦砲を搭載した新型戦艦を多数投入し、機雷堰よりかなりの遠隔から艦砲射撃を敢行。イタリアの国力からして少々無理のある大軍派遣に日英の上層部は面食らったが、上の思惑とは無関係に現場の兵士達は彼らイタリア兵が口々に叫んだ言葉を真似するようになり、何時しか日英陣営の共通したスローガンとなっていた。何せそれは、昔から合衆国の被害を受けていた人々と国々の思いが詰まった言葉なのだったのだから。


『人々に自由を!世界に平和を!皆を悪夢から救い出せ!!』

268: 陣龍 :2020/11/14(土) 22:36:06 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
と言う訳で合衆国版人間魚雷回天でした。M1でかなりの【備品】製造ラインが持ってかれているし、ナンバーズ・フリゲートで予算も資源も吹っ飛び、序でに機雷堰で出撃ルートも制限されとどうしようもない状況下でも数百発も作ってのけた合衆国の底力まじ半端ない

とは言え結果は微小な戦果の代償にマジギレして余計な敵を更に増やしたと言う本末転倒な事態になりましたが。これが戦争と言う生き物よ、偶に神の贔屓起こすから

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最終更新:2020年11月15日 16:16