673: 弥次郎 :2020/11/16(月) 18:24:49 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦禍のドレサージュ」2
- アリアンロッド艦隊所属 ドルト派遣艦隊 ウィンター艦隊旗艦 ハーフビーク級「トリマラン」
ウィンターが指揮下のMS隊に命じたことは、鎮圧を行ったという事実を作らせることだった。
それが一時的にでもできれば撤退してもよい、というわけである。すでに、長居をすればするほどギャラルホルンの権威は落ちていく。
なので、最低限撤退できるだけの状況を作り上げ撤収するしかない。同時に、アリアンロッド艦隊本隊に対して救援要請を発している。
(統制局は何をしている……!アフリカユニオンにしてもだ!)
一応鎮圧の事実化を図っているのは現場の判断だが、あくまでこれは現場のものでしかない。
すでに単なる鎮圧ではなく政治的に意味合いを深く持っている状況。なればこそ、意見を求めるしかない。同時並行でやるのは、どちらに転んでもよいようにするため。
しかし、ウィンターは知らなかった。クーデリアの演説を以て経済圏、特にコロニーの抱え主であったアフリカユニオンの混乱は著しいものだったのだ。
火星連合の件はもはやどうでもよいので今すぐクーデリアの口を封じるべき、という意見も出たのは当然だった。
全世界にアフリカユニオンの暗部が暴露されてしまい、その威信やら権威は一気に落ちてしまったといっても過言ではない。
ただでさえ、火星における事実上の植民地を火星連合により併合されてしまったことで「上がり」が消えてしまっていたのだから。
今ならばクーデリアが地球の近くにまで出てきているのだから絶好の機会であるわけで、黙らせてしまおうというわけである。
一方、その対案として「ここはいったん要求を呑むべきでは」という声も出ていた。口封じをするというのは事実を認めてしまうことになるわけである。
そんなことをすれば各国から非難の的になることは確実であるし、恥の上塗りとなる公算が高いわけである。
それに、ここでクーデリアを殺害してしまえば確かに火星連合は瓦解するかもしれないが、果たしてその後自分たちは無事であろうか?と。
伝え聞く火星連合とその後援をなす組織が果たして黙っているかどうか、怪しいところがあるのだ。
ただでさえガタガタで失態続きのギャラルホルンがその火星連合らを押しとどめて制圧できると信頼できるか?と言われれば、Noであった。
だが、この二者択一はどちらを選んでも、リスクとメリットがあり、その期待値は未知数すぎた。
それに加え、彼らは自らが仕込んだマッチポンプが暴露されたことに動揺を隠せなかったのだ。
入念に準備をし、コントロールし、仕込みを済ませたうえでの計画だったのだ。
パトロンであるノブリスがうまくクーデリアをコントロールし、ドルト3に立ち寄らせ、労働者たちをたきつけるところまではうまくいったのだ。
それが突如として失敗するどころか、実態の暴露にまで及んでしまうなど、いったい誰が想像できただろうか。
そしてウィンターの所属元であるアリアンロッド艦隊司令部もラスタルの不在が大きく、政治的判断を下せずにいた。
さらにひどいことに統制局はトップであるイズナリオがここぞとばかりにアリアンロッドをせっつくことで混乱を助長させ、ラスタル派閥の追い落としを始める始末。
つまり、笛吹達は事態の鎮圧をまともに考えている人間のほうが少ないという異常事態に陥っていたのであった。
指示や対応の是非について問う声を上げている現場のことなど全く置き去りにして、もう一つの戦いは幕を開けた。
故にこそ、ウィンターたちの声は届かず、また、まともな返答が来ることもなかったのであった。
675: 弥次郎 :2020/11/16(月) 18:25:21 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
そんなことをしている間にも状況は動く。ウィンター艦隊のMS隊は抗議活動を続ける労働者たちの隊列と接触、鎮圧に移った。
彼らには楽観があった。元々労働者たちに流されていた武器には細工が施しており、およそMSや兵器として使えないものになっているのだから。
それをあらかじめ知っているMS隊は事態がまずいのだという焦りこそあれども、それを鎮圧できるのだという自信があったためだ。
所詮は武器もろくに使えない敵、PMCが付いているとはいえ数はこちらが圧倒しているのだから。
「各員、ブリーフィング通り行動せよ。状況は混乱しているが、やることに変更はない」
そして、MSの交戦距離である有視界領域に入る。護衛に張り付いている傭兵のMSと、労働者たちのMSやクルーザーなど。
当初の予定と違うところもあるが問題はない。いや、問題があっては困るのだ。パイロットたちの間にも動揺が広がっているのだから。
「警告…は不要だな、攻撃開始!」
そして、各員が動き出した。が、一瞬遅れて労働者たちも一斉に動き出す。
『た、隊長!?』
『う、動いた?どうなっているんだ!?』
『ライフルがはじかれた?おかしいぞ!』
「!?」
そして、その動きは明らかに細工などが機能していないものだった。
銃火器が火を噴き、クルーザーのミサイルは一斉に吐き出され、MSの動きは故障させてあるはずのスラスターなどが問題なく稼働している。
相手が無力だと油断しきっていたこちらが驚愕してしまい、動きが鈍った。そして、それはあまりにも致命的過ぎた。
労働者たちや護衛を務めるセントエルモスのAC部隊からすれば、面白いように攻撃が当たり、グレイズがダメージを負っていく。
ともすると間抜けすぎるほどだ。敵の眼前で棒立ちとなり、散発的な攻撃を仕掛けてくるなど。
そんなわけで、まともに動けないままに第一陣はAC部隊や労働者たちのMSに跳ねのけられてしまう有様をさらした。
そして、戦場の流れは初動で崩れてしまえばもはや打開はできない。当初の筋書きと違うという時点でギャラルホルンの能力を簡単に超えているのだ。
軍隊にはあるまじき対応能力の低さ。300年という安寧を経た故に、彼らの能力はどうしようもなく低いところがあったのだ。
『くそ、調子に乗って…!うわあああああ!?』
『予定通りエスコートの部隊はルートを確保!残りはMSの排除に!』
そして、何とか動き出そうとしたグレイズを一刀両断した明星は麾下の部隊に通達する。
『護衛対象は多い。それに暴走しないか監視しないといけない。だが、それをやれと代表はお望みだ。やって見せなさい!』
了解の唱和に満足し、ジュピターソンは優雅にふわりと舞い上がっていく。
そも、数で劣っている状態なのでぴったり張り付いて護衛というのは良くはない。ネクストを生かした戦いをするには、遊撃が最も効率的だ。
だからこそ、明星は単独行動だ。その気になれば全域のカバーも間に合うわけで、固定砲台にするなどもったいない。
押し寄せる幾多のレーダー上の光点-グレイズを認識し、明星は鋭い笑みを浮かべる。
そして、QBの連発で文字通り目にもとまらぬ速度域に突入したジュピターソンは迫りくるMS群の駆除に乗り出した。
676: 弥次郎 :2020/11/16(月) 18:25:58 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
その戦いは少し離れたエリア、ウィンター艦隊への攻撃に向けて進むリグの部隊からも観測された。
OBの推進光が流星のように戦場で輝き、幻想的な、それでいて複雑な軌道を描いていくつもの火球を生じさせる。
それらはすべて、命が散っていく光だ。絶望的なまでの暴力に、弱いものが蹂躙される光景そのもの。
幻想的なそれを横目に、対艦攻撃部隊は突き進んでいく。部隊長はリグが務め、AC部隊、さらに鉄華団のMSや大型兵器ファンタズマと初陣となるフラウロスもいる。
ファンタズマとフラウロス、それらが今回の対艦攻撃部隊の要となる。対艦攻撃も可能な大型のKPキャノンとドライバーキャノン。
どちらも機動兵器に搭載するにしては破格と言っていいものだ。どうしても本番となる地球を前に彼らには経験させねばならなかった。
(大丈夫、のはず…)
そう、経験。戦闘における初めての殺人をいかに超えるか、だ。
人が人を殺すというのは、この傭兵業では感覚がマヒするが、本来ありえないことなのだ、少なくとも平和であるならば。
まっとうな教育を受けているならば、倫理観が邪魔をする。積み重ねられ、その個人を作り上げる骨子が躊躇いを抱かせるのだ。
そうでなくとも、生死の瀬戸際においては多大なストレスを感じることになる。鍛え上げた精強な兵士でさえ、それによって「壊れる」こともある。
そこで登場するのが少年兵というものだ。彼らは命じられれば疑問を持たない。死兵となることも虐殺をやることも疑問に持たない。
白紙同然の彼らは、書き込まれたことをそのままに実行するのだ。だから戦闘にも躊躇いを持たず、恐怖さえ抱かない。
銃を撃つこと、刃物で人を切り裂くこと、物を奪い、力で相手を苦しめること。善悪を知らないがゆえに、あるいは無邪気さゆえに、あらゆる行為を平然と行う。
だからこそ、すでに書き込まれたプログラムを書き換え、一般社会になじませるのには苦労するのだ。
翻って、鉄華団はどうか。極まっている少年兵などよりはましとはいえ、鉄華団の人員はその少年兵上がりがほとんど。
そんな彼らが戦場に情緒を得て向かう。果たしてその時に彼らが心理的に負担を得てしまうようなことがないかと懸念しているというわけだ。
(戦闘前のカウンセリングも行われてる…けど)
リグも当然受けているそれらは、あくまで予防措置にすぎないのだ。
これまで、カラール襲撃やイオク・クジャンの襲撃を潜り抜けはしたが、あくまであれは少数の命を奪ったに過ぎない。
だが、自らのトリガーで数百人近い命を奪うということに、果たして耐えられるか。
「出たとこ勝負、かな」
『どうしました?』
「何でもない。予定ポイントに到着した、各員、行動開始」
自分にできることは、信じて送り出してやることだ。リグはそう結論付けた。あれこれ悩んだところで問題が解決するわけではない。
悪い言い方になるが、彼らのことは彼らしかどうにもできないのだ。干渉が過ぎれば、それこそ不安定になる。
すでに彼らは半ば大人として扱われ、そのようにふるまうことが求められている。これもまた、彼らのためと思うしかない。
「先陣は僕とファンタズマ、そして護衛機で切る。残りは残敵掃討を」
そして、リグは回線をファンタズマとフラウロスにつなぐ。
「シノ、ユージン」
『お、あ、はい』
『はい!』
「二人は実質初陣になる。けれど、役目は重要。けど、気負って無理はしなくていい」
それは、ブリーフィングでも釘を刺されたことだ。それを念のため、もう一度さしておく。
「二人なら今回の出場の意味は分かるはず。だから、生きて帰るように」
『了解!』
『了解!』
力強い返答を受け、改めて各機に通信をつないで、合図を出す。
『状況を開始、容赦はいらない!』
そして、対艦攻撃部隊は一気に加速、艦隊の対空射撃の中へと飛び込んでいった。
677: 弥次郎 :2020/11/16(月) 18:26:43 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
- P.D.世界 L7宙域 ドルト・コロニー群 ドルト3 宇宙港 エウクレイデス 艦橋
「明星隊、リグ隊、戦闘行動を開始。続いて、セントール隊、敵部隊とエンゲージ」
「ドルト3周辺の制圧は現在23%まで進行中。宇宙港管制塔制圧はもう間もなくです。現在ゲートの突破を試みています」
「了解だ。予定通りだな…」
エウクレイデス艦橋では、宇宙で繰り広げられている戦闘の様子が逐次報告されていた。
言っては悪いが、勝利して当前の戦いだ。相手も策をめぐらせていたが、それ以上の策が用意されていたのだから。
すでに宇宙港内部からドルト3内部の制圧は34%が完了している。MTやMW隊、あるいはPS隊がギャラルホルンの陸戦隊を蹴散らし、制圧しているのだ。
時折コロニーに響く音がしているが、コロニーの崩落につながるような大規模なものは発生していない。
後はドルトカンパニー本社に乗り込み、楽しい楽しい交渉に入るだけである。というよりも、交渉と言うよりは半ば決定事項の通達に近いかもしれない。
労働者たちが経営陣を追放しコロニーをのっとり、そのまま火星連合に編入されるという、とんでもないムーブを見せるのだから。
厳密に言えばこの後は火星連合とアフリカユニオンの交渉となるので、そこで正式に決まることになるだろう。
ともあれ、とブラフマンはモニターに映る状況を改めて確認する。
現在、3つに分かれた部隊それぞれにギャラルホルンのMS隊が向かっているが順調に撃退が進んでいる。
二つある艦隊の内、当初は片方しか出てこなかったが、どうやら苦境とみて惜しみなくMSの投入を行っているのが確認されている。
だが、多少MSが増えたところで大した問題にはなりえないだろうと踏んでいる。戦術予報というのもブラフマンの仕事にあり、いくつかの確証を基にそう導き出した。
(だが……)
何か引っかかるのだ。
例えばだが、先日セントエルモス一行を襲ったイオク何某の発言。今相手にしているアリアンロッド艦隊の司令官が糾弾を受けている件。
つまるところ、火星連合が独立を成し遂げ、さらにはギャラルホルンの支配を脱したことで生じた責任問題は相当内部で問題となったはずだ。
そしてもともと火星の領有者、実質的な植民地の宗主国であった経済圏も内部でもめただろうことは言うまでもない。
そんな彼らがいつまで後手に回り続けるだろうか?と。イオク何某が行動に移したように、ギャラルホルンが独自に動く可能性もある。
このコロニーに訪れることは前々から通達されていたことであるし、正規・非正規のどちらかでそれを経済圏が知ることができた。
ならば、相応の仕込みを済ませてあるかもしれない。特に、イオク何某のように半ば暴走して行動に移す可能性も含めて、だ。
「制圧部隊のほうに再度通達してくれ…トラップの可能性を考慮し、再度確認を実施せよ、とな」
「はっ!」
コロニーの内側か、あるいは外側か。それとも、労働者にまぎれているのか。
すでに労働者側に引き渡されている兵器やMS、艦艇などはすべてタグ付けがなされている。労働者たち自身にも、だ。
なので不穏な動きをとればすぐさまわかるようにはなっている。とはいえ、絶対阻止可能かといえば微妙だ。
念には念を入れて警告し、監視も混ぜているが、労働者たちが感情に任せて突っ走る可能性が0と決まったわけではないのだ。
そして、一見撃退されているかに見えるギャラルホルンが何もしていないわけがない。
(打てる手は、打っておかねばな)
そして、状況はさらに進む。
ドルト・コロニーにおける労働者たちの一斉蜂起と、それに付随して起こった火星連合による既存体制への事実上の宣戦布告。
なりふり構わない行動は、それ故に恐ろしいのだと、ブラフマンは改めておのれを戒める。
事態は、まだ誰も知らぬ場所へと突き進み始めたばかりなのだから。
678: 弥次郎 :2020/11/16(月) 18:27:14 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
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戦闘に…戦闘にならない…!(白目
本当はすでにドンパチする予定が、彼我の戦力差がひどすぎて話が成り立たない…
集団戦を書くのって楽じゃないんだよなぁ…とはいえ、やってみせましょうか。
一先ず戦闘のイントロという形で一つ…
最終更新:2020年11月20日 09:37