430: 弥次郎 :2020/11/23(月) 00:01:05 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 融合惑星 蒼き鋼のアルペジオ世界編「天蓋を穿つ座天使」
空間が、飽和していた。
数えきれないほどのレーザーやビームの光条が空を焼き、ミサイルやロケットなどが飛び交う。
それは一隻ではなく、霧の総旗艦であるヤマトの護衛艦艇群からも発射されている。もはやそれは千を軽く超えている。
数えるのも億劫なほどであるし、目がチカチカして、見ている眼が非常に疲れてしまいそうだ。
霧の艦隊の総力と言っていい攻撃は、しかし、艦隊に対して向けられてはいなかった。
たった一機の機動兵器に、広域通信を用いて相対戦を持ち掛けて実際に襲い掛かってきた相手にのみ向けられているのだ。
その機動兵器が、同じ霧の艦艇の空母などが放つ艦載機などではなく、人類によるものだということはその意匠を見れば何となくだがわかる。
それに、演習などではなくここまで殺しにかかることなど、人類に対して以外はほぼありえないだろう。
そう、霧の艦隊は手加減抜きに敵を排除するための行動を行っているのだ。
だが、その機動兵器のほうも全く臆していない。
独特の光を放ちながら、文字通り目にも止まらなく速度で機動を繰り広げ、弾幕の隙間を抜け、ミサイルなどを打ち落としていく。
しかもそれは、人型形態と戦闘機のような形態を織り交ぜた、人間が行っているとは思えないマニューバ。
戦闘機で同じことをやろうとすればコクピットでミンチになっているであろう、とてもではないが人を考慮しているとは言えない動きだ。
いや、運動性や機動性だけでない、速力の時点で従来存在する戦闘機をぶっちぎっており、ブラックアウトなどで済むレベルではないのだ。
それが直角や鋭角な軌道に自由自在に進路を変え、ほんのわずかに生じている弾幕の隙間を潜り抜けていく。
コンマ秒前に機体があった空間をビームが通り過ぎ、まるで未来予知ができるかのように進路上のミサイルを打ち落とす。
時にはビームでビームを捻じ曲げるという芸当を見せて、強引に機体の通り抜ける隙間をこじ開けていく。
やがて、彼我の距離は迫る。
かつての常識で言えば航空戦が行われる距離から砲雷撃戦の距離、そして、艦隊防空の距離へと。
この距離まで詰めたことは脅威。だが、迎撃する方も射程が短い兵器を使えるようになり、いよいよ攻撃は苛烈になる。
また、接近されることを考慮した霧の艦隊は陣形を迅速に組み替えて、当初よりも濃密な弾幕を形成しだした。
その出力故に他の艦艇にまで影響を及ぼしかねないヤマトとの距離をとった僚艦が、ヤマトを中心に輪形陣をくみ上げ、防空に専念する。
だが、応じるように機動兵器も加速した。もはや瞬間移動のレベルの速度で動き、回避し、攻撃を防ぐ。
そう、防いでいるのだ。光の壁、クラインフィールドとは別な何かが機体を覆い、守っていた。もちろん、破れはするが、敗れた時にはすでに射線から逃れている。
いよいよ赤い機体の動きは視認さえ難しくなり、光の尾がかろうじて観測できる程度になっていく。
それに追従できるのは霧の艦艇のほうだった。正確に言えば、ヤマトであろうか。
噴火という言葉も生ぬるい、滝の瀑布をひっくり返したような攻撃。守っているのではない、攻撃しているのだ。
さらに、演算リソースを他の艦艇に対して貸し与えることにより、駆逐艦でさえも高度な演算を可能とさせ、攻め立てる。
その証拠に、明らかに攻撃の密度や正確さが向上していく。
だが、それでも。赤い機体はあきらめていない。生存のために、目的のために、ひたすら前に出ていく。
攻撃の中に含まれる意図を読み解き、動きを組み立て、相手の予想を飛び越えていく。
やがて。一瞬でありながら永劫の攻防の果てに、動きは一つへと収束していく。
ヤマトの敷いた防空人を飛び越え、赤い機体はついにヤマトを至近距離にとらえたのだ。
しかして、それもヤマトの計算の内側。瞬時に、他の艦艇に供与されていた演算リソースがヤマトへと戻る。
そして、これまで見せていなかった全力での演算が、接近までに組み立てられていた戦術が、牙をむいた。
超至近距離での、広範囲拡散型の超重力砲。もはや壁を打ち出すに等しいその一撃は、まさにピタリとあわされて赤い機体を襲わんとした。
ヤマトをして渾身の演算と予測の果ての、必殺の一撃。
人のように戦術や戦略を理解し、スペックのままに戦うのではない、メンタルモデルを有するからこそ可能とした戦い。
すでにヤマトは赤い機体の特性を読み解いていた。そして、絶対に避けえない一撃を用意していたのだった。
431: 弥次郎 :2020/11/23(月) 00:03:22 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
だが、それはたやすくも裏切られた。
霧にとってはイレギュラー的な「メンタルモデル」を最初に獲得し、超常的な演算力を持つヤマト。
人のように考え、悩み、迷い、判断を下すという能力を持っている。だがそれは、同時にそれという限界に押しとどめてしまう枷となった。
ヤマトは確かに赤い機体---正確にはその中にいる人間のことを分析し、観察し、対処を組み立てていた。
だがそれは同時に、ヤマトの内側を人間にのぞき込まれていたということ。
だから、このように動くことも、流れを組み立てていたことも、どの程度自分を把握しているかを、把握していた。
ヤマトの考えもパイロットであるタダノ・ヒトナリには読み解けていたのだ。メンタルモデルを持ったがゆえに読まれるとはなんという皮肉だろうか。
殊更、トレースや模倣、戦術予報においてはタダノの技量は超えるものなどほとんどいない、まさに世界最高峰レベルだ。人間のそれが、霧を超えた瞬間であった。
そして、赤い機体---ナインボール=スローンズは操縦者の命じるままに、その機能を解放する。
リミットバースト。
ナインボール=スローンズの有する、リミッターの解除機能。枷を解き放ち、その先へと踏み出す機能。
加えて、もう一つ、彼がこの時空において習得していた技能、精神コマンドが発動する。メタ的な視点を持ち、己をよく理解していたからこそ選択的に発動させることができたそれ。
選択されるのは「魂」。
戦闘で一度きり使うことが可能な、機体とパイロットの合一が極限に高まり、タダノ・ヒトナリというイレギュラーの在り方を体現するそれ。
そして、ナインボール=スローンズは回避を選ばない。真っ向から、超重力砲を迎え撃つ。
極限まで迫った剣技は、時空を切り裂き、神をも斬りさいたという。
ならば、自分はそれと並びうる射撃を見せよう。心技体の完全なる合一、そして、人の持ちうる可能性の力を。
二丁のKPビームマグナム、そして頭部のアサルトキャノン、展開したサテライトビットによる究極射撃。
機体のポテンシャルを限界以上に解き放つそれを、パイロットは選ぶ。そして---
「発射」
「---!」
両者の射撃は激突し---光がすべてに飽和した。
映像が終了した時、千早群像はただため息をつくしかなかった。
非常識な光景はこの数年で嫌というほど見てきた。霧の艦艇の理不尽さを、でたらめさを、よく知っていたはずだった。
にもかかわらず、その映像は彼さえも信じがたいものであった。
ほかのイ401クルーも同じようなものだ。織部僧、橿原杏平、八月一日静、艦橋に来ている四月一日いおりも呆然とした表情のまま。
最後のシーン。射撃によりヤマトの超重力砲が相殺され。クラインフィールドが一瞬揺らぎ、その隙間から何かが投じられた。
そして、大和型を模した艦橋すれすれをフライパスした赤い機体が悠々と飛び去って行くのを最後にして映像は終了した。
「以上だ」
映像を流し終えたイオナが告げて、艦橋に思わずため息が漏れた。
霧の艦艇の持つ共同戦術ネットワークにアップロードされた、「ヤマト」発の映像。
それは、霧の総旗艦ヤマトに比肩する存在が出現したこと---だけではなかった。
ヤマトに届けられたモノ、すなわち親書のデータも公表されたのだ。
「他の世界、他の惑星への転移、か」
それは、はるか上空、宇宙から観測された映像と詳細なデータだった。
日本列島とその周辺の島々があり、しかし、その周囲にあるべきユーラシア大陸やアメリカ大陸などが存在していない。
かと思えば、通常よりもはるか遠方には大陸がある。よく見知った世界地図のそれに酷似している。というか、それをそのまま張り付けたかのような形で。
それも、一つや二つどころではない、きわめて多数だ。地球という惑星に存在する大陸を子供が巨大な紙に張り付けて遊んだかのように。
イ401クルーをして、でたらめすぎるとしか言えないものだった。まるで信じがたい、オカルトのような出来事。
ご丁寧に、転移の瞬間の映像まで添付されていた。
432: 弥次郎 :2020/11/23(月) 00:04:03 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
当然のことであるが、この情報はヤマトの精査したところであろう。それがこうしてアップロードされたということはそれが事実らしいことの証。
加えて、転移が発生したと思われるその日、イオナは異常を感知していたのだ。その異常が何であるかは不明だったが、今ならば説明がつく。
だが、あんなとんでもない戦力が存在する世界にやってきてしまったというのは、まして霧の総旗艦と戦える戦力がいるというのは、頼もしくもあり恐ろしい。
「艦長?」
「ああ、すまない…」
ここにイ401のクルーが集まったのは、イオナが共同戦術ネットワークから拾った情報をクルーで目を通すため。
そして、ここからはこの後の行動について決めなければならない。
「他の世界、惑星に転移しているという情報が正しいならば……我々が目指すべき
アメリカは既に存在していないことになる」
口火を切った群像は、それを自分に言い聞かせる。
振動弾頭という、霧の艦艇に対しても有効となる兵器。それをアメリカへと輸送し、量産し、反攻の切り札とする。
その依頼を受け、イ401は現在のクルーで太平洋を横断して、成し遂げるという契約を結んでいた。
そして、自分たちを狙った大戦艦「ハルナ」「キリシマ」を撃沈し、一先ず硫黄島への航路をたどろうとしていたのだ。
だが、状況は大きく変化した。届けるべき荷物はあれども、届ける先がない。つまり、宙ぶらりんというわけだ。
群像も、横須賀で嫌というほど「振動弾頭」の厄介さを理解している。政府や軍では奪い合いとなり、それを届けるという任務さえ諍いの種になっている。
さらには、霧もまたこの兵器のことを察知している可能性は十分ある。すでに哨戒艦がこれにより撃沈されているのだから、人類の動きには目を光らせているはず。
「そんな状況でこの振動弾頭を抱えてうろうろするわけにもいかない」
「では、どこに?横須賀に戻れば、情報共有もできますが?」
僧の提案はもっとも。しかし、それは危険だと判断せざるを得ない。
「戦艦を二隻も撃沈したならば、霧の包囲網はどうしようもなく緩んでいる。今ならば安全に戻れるだろう。
だが、あの時点でコンゴウがすでに接近していた。加えて、緩んだ包囲網の隙間を埋めるために霧の艦艇が時間を置けば集まってくる」
「……戻れば袋のネズミ、ですか」
頷くしかない。あの状況で包囲網を突破して横須賀を発することができたのは僥倖。だが、それは幸運と努力と状況が重なったが故の結果。
もう一度やれ、と言われたところでできる確証は全く存在していないのだ。
「それに、船体も損傷が著しい。この状態で戦うのはあまりにもリスキーだ」
「俺も賛成だ。浸食魚雷も残りが少ないしな」
「ドック入りしたいねー。このところ、機関部もだいぶ無茶を重ねていたんだし…」
「それについてはすまないと思っている。これからも頼むぞ」
「……またやるのー?」
メカニックの四月一日に言われると、群像としてもなんとも言えない。
タカオとの戦いもそうだったが、無茶のし通しだった。綱渡りだったと思う。
ともかく、と群像は通達した。
「これより本艦は硫黄島へ向かう。各員配置についてくれ」
433: 弥次郎 :2020/11/23(月) 00:04:41 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
休息の時間。僧とイオナにしばし艦を預け、群像は自室にこもっていた。
やるせなさを覚えていた。
あの赤い機体。あの兵器は、世界に風穴を開けたのだ。
イオナと出会い、いくつもの艦艇を沈め、蒼き鋼だの航路を持つ者だの言われていてもなお、できなかったこと。
この閉塞して、鬱屈して、どうしようもない世界に風穴を開けてやろうと自分は思っていた。そのために、やるべきをやってきた。
ずっとずっと、積み重ねていた感情であり、行動原理だった。だが、自分が躍起になっている間に、世界は変わり、風穴をあけられてしまった。
「あれは…」
目を閉じれば、脳裏に焼き付いた映像の機体の姿がよみがえる。霧の艦艇、いや、付随していた艦隊をも含めて戦ってのけていた赤い機体。
力(Force)。そう、力そのものだった。
縛られることなく、思うが儘にふるまう、力の権現。
どうしようもないほどに、憧憬が湧いた。人類の諦めた多くがそこにあり、人類を超えたものがあった。
つまり、この世界の外側には、これまでの世界を超えるものがあると、そういうことなのだろうか。
世界は急速に広がった。そしてその先は未知であふれている。
「しかし、解せないな…」
そう、同時に疑問に思うのだ。
何を思い、総旗艦ヤマトは共同戦術ネットワークにこのような情報をアップロードしたのか。
すでにイオナが霧を離反して人類と共に行動していることは知っているはずで、こういった情報を流せば自分たちに、人類に知られるはず。
霧の包囲を続けている側にとって不利な情報をわざわざ流すだろうか?そもそも、あの情報自体が欺瞞である可能性もある。
自分たちが感知しえないところで行われた戦闘なのだから、実は起こっていなかったとしてもわからない。
わからない、そう、何もかもがわからなかったのだ。
これまでの閉塞した世界から解放されてしまったのかもしれないが、だからこそ、分からないことだらけになってしまった。
この先、いったい何が待ち受けているのか。霧や人類同士の争いだけではない、もっと大きなものが自分たちと対面する。
そうと決まったわけではないが、何か確信めいた予感がある。この先、とてつもない流れに飲み込まれていくのだと。
体に走る震えは、怯えか、武者震いか。
ベッドに身をゆだねてそのまま休もうとしても、群像の体から興奮が抜けるのはまだまだ先になりそうだった。
434: 弥次郎 :2020/11/23(月) 00:05:26 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
他の霧の艦艇の反応についてはまたのちの話で…
タダノ君の搭乗したナインボール=スローンズについてもまたのちの話で設定を投げます。
え、超重力砲をKP兵器による射撃で相殺できんのかって?無茶が通れば道理が引っ込むんだよ(真顔
最終更新:2023年06月18日 22:06