67: 弥次郎 :2020/11/27(金) 23:01:20 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW 融合惑星 蒼き鋼のアルペジオ世界編 短編集



Part.1 座天使、帰還す


 総旗艦ヤマトのいる宙域から離脱したナインボール=スローンズは、予定ポイントで回収機とランデブーした。
 当たれば一発アウトに等しい弾幕の嵐を潜り抜けた座天使は、汚れなどこそあれども損傷はなかった。
それだけこの機体のポテンシャルや性能が優れているということであり、パイロットの腕前が常軌を逸していることの証左だった。
あるいは、それだけのことをしてのけたという人の可能性の象徴と言えるのかもしれない。

「おかえりなさいませ」

 コクピットから出てきたタダノを出迎えたのは専属のオペレーター、すでに長い付き合いだ。
 タダノの為人を深く-深すぎて底が見えないのがタダノであるが-理解している人物の一人であり、扱いをよく心得ている人物でもある。
そして、タダノの無茶振りや気まぐれに付き合うだけの器の大きさというのも、ある種の特徴として備えている。

「準備が整い次第、我々はソラに上がります。報告のほうは…?」

 その問いかけに、タダノはクリスタルのような装飾の情報媒体を差し出した。
 それは、ランデブーまでの間に入力しておいた報告書が収められていたものであった。
 オペレーターは特に驚くことなくそれを受け取る。戦闘のあった海域からランデブーポイントまでは巡航でも時間がかかった。
その間に暇を持て余したのだから、報告書をまとめていても何らおかしいことはない。

「お預かりします、この後報告として……え?」

 微笑しながらもタダノのこぼした言葉に、オペレーターは言葉を思わず失う。今、このリンクスは何と言った?

「まさか、あの一瞬で…?」

 慌てて端末に情報媒体を接続し、確認する。まとめられた報告書のほかに、別のファイルが添付されている。
 それは、作成者こそタダノ名義となっているが、情報量はとても単なる戦闘報告書にしては容量が多すぎる。
そして、オペレーターはため息をつくしかなかった。

「あれで認められた、ということですか。わかりました。どちらの情報も報告しておきます。それと、硫黄島へ向かう手配も」

 ひらひらと手を振ったタダノは足早に去っていくオペレーターと別れて、帰還したパイロットを出迎えるアフターコンバットケアに向かう。
良くも悪くも、リンクスというのは体さえも商品だ。その肉体にかかる負荷は言うに及ばず、精密どころではない機器を埋め込んでいて、それを酷使する。
そのため、戦闘後には面倒であろうとも、こうして一通り体の検査を行うのだ。万が一のことがあれば、パイロットの損失どころの話ではなくなる。
 面倒だ、という表情を隠さないタダノを見送りながらも、オペレーターはもう一度ため息をつく。

(霧の艦艇の総旗艦から情報を直接受け取った、と…親書のお返しとでもいうのでしょうかね)

 タブレットに映るのは、ヤマトからの返信であった。
 返礼のあいさつに始まり、霧の艦隊についての簡単なレクチャー、現状についてまとめた資料などがある。
さらには、コンタクトを取りたいときに使う回線や接触方法までも記載されており、外交ルートの構築に等しい成果を上げたことがわかる。
明かされている情報から推測するに、とんでもない情報と伝手を手に入れてしまったようだ。

(まったく…)

 話に聞くが、まったくとんでもない。これだけの情報をあの一瞬でまとめ上げ、通信で伝えてしまうとは。
霧の艦艇の頭脳たるユニオンコアの演算能力がとてつもないモノとは知っていたが、こうして成果を見せられると拍手さえしたくなる。
 そして、スクロールしていった最後の方には特筆事項がかかれている。
 「イ401」。その潜水艦のメンタルモデルと、乗艦しているであろうクルーのことについて。

(主人公たち、ですか)

 夢幻会のメンバーから開示されている情報として、彼らが主人公だというのは知っているし、現在地はともかく向かうであろう場所についても知っている。
 だが、これを霧の総旗艦であるヤマトから受け取るというのは中々に解せない話だ。霧を出奔したイ401に接触しろというのは、人類に利しろと言っているに等しい。
 ともあれ、このことは一分一秒でも早く報告しなくては。オペレーターは託された仕事を果たすべく格納庫を出ていった。

68: 弥次郎 :2020/11/27(金) 23:02:12 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

Part.2 深き海にて

 イ401の寄港先は日本各地にある。だが、本拠は?と言われれば、それは硫黄島と答えるだろう。
 硫黄島。かつての太平洋戦争において激戦が繰り広げられた島。そして、霧の艦艇の登場以来、人類の手から離れた島。
 もちろん、それはあくまでも人類の話にすぎない。霧の潜水艦であるイ401などは霧の包囲を潜り抜けることができる。
だからこそ、硫黄島を実質的に占拠し、拠点として好き勝手に改造してしまうこともたやすいことなのであった。
 つまるところのホーム。彼らがほかの港に停泊しているときとは段違いの安全と安心を得られる場所。
 尚且つ、大戦艦2隻と張り合う中で損傷を重ねたイ401が本格的な入渠ができる現状唯一の場所だ。
 正史において、彼らはここに向かう道中でU-2501の奇襲を受ける。だが、惑星転移の影響でU-2501はその途上で動きを止めざるを得なかった。
 よって、悠々と航路を進むことができた---のだが、予想外のことは起こるものだった。

「ん…?」
「イオナ、どうかしたか?」

 順調に進んでいたイ401の艦橋、イオナは自分のシートでピクリと身を震わせた。

「また接触があった…」

 にわかに艦橋の緊張感が戦闘時のそれに近づく。
 ヤマトのコンタクト以来、そしてこの惑星に転移以来、イオナの情報の重要度は増していた。いったいいつ、何が起こるかわからなくなったゆえだ。
 そのクルーたちの視線を受けながらも、イオナはつぶやくように続ける。

「霧のネットワークに外側から干渉して接触してきた」
「…どういうことだ?」
「言葉通りなら、霧しか使えないネットワークに何者かがアクセスし、我々にコンタクトをとってきた、ということになる」

 群像はイオナの言わんとすることをすぐに察した。
 だが、それの意味するところがいったいなんであるか、想像できないわけがない。

「霧が人類とのコンタクトをとったどころか、干渉を許した?」

 僧の言葉に沈黙が下りる。ネットワークの重要性は言うまでもない。
 手の内どころの話ではなく、それ故に干渉がされないように守られ、偽装され、封じられているものだ。
 まして、人類に敵対的な行動をとり続けている「霧」はそんなことを許すはずもない。そう、ありえないことだ。

「あるいは…」

 群像は、少し前に閲覧した映像を思い起こす。赤い人型の兵器と、総旗艦ヤマトの激突を。
 アレは確かにとてつもないものだった。だが同時に、既視感を抱いたものだった。
 そう、まるで、イオナと自分のような---いうなれば、戦いを通じて互いを知り、友誼を結んだようだった。
 そこまで考えて、首を振った。今はそんなことを考えるよりも現状に対応するのが優先事項だ。

(焦ってもしょうがない…)

 群像は自分に言い聞かせる。ほかのクルーにも言われたことだ。あの赤い機体を見て、自分はどこか焦っているのだと。
ともあれ、艦長として下すべき命は一つしかない。接触で行われた交信の結果を見定めるのみ。

「メインモニターに出します」

 映し出されたのは、やや格式ばった文章だった。まるで公文書のごとき厳めしさを感じる。
 並んでいるのは紋章---似ているものを探せば、かつて存在した国連のマークにも似ている。そしてそれに並ぶのは4つの国旗。
そしてその下に、加盟国と思われる国々の国旗が並び、その組織の名前が記載されている。

「地球…連合?」

 見慣れぬ組織の名を静はつぶやいた。

「データの精査は後に回そう。問題は……相手は何を望んでいるかだ」
「その心配なら無用だ」

 群像の言葉を、イオナが遮る。彼女の操作で、送られてきた書状がスクロールされ、それが表示された。

「!?」

 データ上の書状には似つかわしくない、手書きの文字が端的に用件を伝えてきた。

『硫黄島にて待つ ナインボール=スローンズ パイロット タダノ・ヒトナリ』

 短い文言。そして、その署名に添付された、あの赤い機体の写真。
 会えるというのだろうか、あの超常的な戦いをなした個人と。人とは思えない戦いをなした人と。
 蒼と赤の邂逅まで、あと少し。

69: 弥次郎 :2020/11/27(金) 23:03:01 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

以上、wiki転載はご自由に。
両弦微速前進!(δ世界は不定期に更新します。悪しからず)
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • 融合惑星
  • δ世界
  • 蒼き鋼のアルペジオ
  • 短編集
最終更新:2023年06月18日 22:07