86: リラックス :2020/11/29(日) 20:49:29 HOST:119-228-232-201f1.kyt1.eonet.ne.jp
ネタをもういっちょぉ!
ネタ:建造中止になった二番艦の方の話
「パシフィカ級二番艦の建造中止」という正式な事例が出たことで、自分の運命はここで終わったことを「彼女」は理解した。
ドイツでA・D・M級戦艦が建造されたのを皮切りに、各国は一度絶滅した巨龍達、戦略兵器としての戦艦を復活させた。
現代技術を用いて復活した戦艦達は既存の兵器での撃沈は困難を極め、戦艦には同じく戦艦を用いて対抗するという役割が復活した為である。
アメリカのエイブラハム・リンカーン級戦艦、ロシアのボロディノ級打撃巡洋艦、イギリスのロイヤル・サブリン級戦艦、イタリアのナポリ級戦艦、そして中国の定遠級戦艦。
彼女も、この流れを汲んで姉のパシフィカと共に中国の定遠級戦艦の脅威に対抗する為に、ASEAN向けに計画された戦艦だった。
完成した時点で他国へと赴くことが決定しているこたに寂しさを感じないではなかったが、それでも「お前達は中国の脅威に怯える東南アジア諸国を安心させる為に行くんだ」という使命を思えば不満はなかった。
まだ見ぬ姉と共に、その使命を真っ当しようーーー
そんな未来を疑わなかった。
しかし、姉のパシフィカが一足先に引き渡された頃から雲行きが怪しくなる。
話を聞けば、自分が赴くはずだったASEANでは姉のパシフィカを手に入れた時点で満足してしまったらしい。
後はもう、「戦艦保有国」というステータスを巡りASEAN加盟国同士で政治的な争いに明け暮れるばかりで、二番艦の支払いについてまともな話し合いも出来ない有様だと。
一度は盛り上がりを見せた環太平洋連合艦隊構想さえも有耶無耶になる有様で、今後も交渉が再開するかは恐らく絶望的だとも。
その後、米海軍で引き取れないか?或いは他の国に売れないか?と彼女の身柄を巡り議論が行われたが、先日、最後まで交渉が続いていた台湾との交渉が打ち切られたことで彼女の建造は絶望的になった。
そして、正式な通達が今、行われたのだ。
覚悟していたとはいえ、改めて告げられるのはやはり辛いものがあった。
「太平洋……姉さんと一緒に駆けたかったなぁ……」
姉と同じ名前を持つ海を思いながら、産まれることのなかったパシフィカ級二番艦は終わりを迎えた。
そして私の意識も途絶えた。
はずだった。
88: リラックス :2020/11/29(日) 20:50:37 HOST:119-228-232-201f1.kyt1.eonet.ne.jp
どれだけ時間が経過したかは分からないが、再び意識が浮かび上がるのを感じた。
気づけば懐かしい、ドックの騒音。
最初に思ったのは、あの後、建造が再開されたのかということ。
しかし、作業員の会話を盗み聞いて情報を集めている内に、それは違うということを理解した。
私の建造が中止されたあの日よりも、前の時間軸であること。
そして、私が建造されているという場所も記憶と違う。
記憶が確かなら、この場所は姉のパシフィカが建造された場所だったはず。
単に過去に戻った訳ではない。
環太平洋連合艦隊構想について、具体的な形にするべく積極的に活動している一派が(多少の問題を起こしつつも)成果を出しているという話を心強く思いながら、無事に迎えた命名式で私は衝撃を受けた。
ーーー同艦をパシフィック・リムと命名する。
パシフィック・リム級戦艦一番艦パシフィック・リム、それが私に与えられた名前だった。
薄々気づいていたはずだった。
いや、気づかない振りをしていた。
この世界に『姉さん』はいないのだと。
せめてもの幸いは、姉の名前である『パシフィカ』そのものの名前ではなかったことだろうか?
しかし、泣いてばかりはいられなかった。
強化された主砲、電子兵装、対空装備、対潜装備、更に同じ目的の為に建造された同志達。
戦艦という魔力に惑わされることなく、戦艦を運用する組織として強化された環太平洋連合艦隊。
その旗艦として任命された責務を果たさなければならない。
自分が造られた目的は変わらない。しかし、前以上の物を与えられた以上、それ以上を成し遂げてみせる。
此処にいるはずだった姉さんの代わりに。
ある世界でお互いに出会うことなく終わった姉妹が、運命の悪戯で姿を変えて会合するのは、もう少し先のことである。
89: リラックス :2020/11/29(日) 20:52:19 HOST:119-228-232-201f1.kyt1.eonet.ne.jp
以上、勢いだけで考えたので整合性については許してチョンマゲ
最終更新:2020年11月30日 15:08