785: 弥次郎 :2020/12/04(金) 00:00:12 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦禍のドレサージュ」3


  • P.D.世界 ラグランジュポイント7 ドルト・コロニー群 ドルト3 メインストリート


 宇宙港からドルト3内部の制圧を進めていくエウクレイデスの陸戦隊は順調に侵攻を進めていた。
 すでにドルトカンパニー本社への道筋はおおむね制圧がなされ、警備していたギャラルホルンは排除されている。
もとより弱い者いじめ主体の彼らにとって、統制され、訓練された傭兵たちが参戦すること自体が想定外だろう。
大体、コロニー内の戦闘となればMWがせいぜいであり、ギャラルホルンお得意のMSも出すことが叶わない。MSの火力は危険すぎるし、エイハブウェーブの影響が怖すぎる。
そうなればMWの性能や歩兵の戦闘力次第ということになるのだが、あいにくとその分野でエウクレイデス陸戦隊が劣るわけがなかった。
そも、MWとMTの性能差は言うまでもないし、歩兵にはパーソナルシールドが標準化され、戦闘用スーツの着用までされているのがエウクレイデス陸戦隊だ。
よって、護衛対象がいることもあって、ギャラルホルンに負けてやる理由など存在していなかった。

 そして、エウクレイデスの陸戦隊に交じってMTで行動をする鉄華団も、コロニー内戦闘という実践の場に臨んでいた。
アルゼブラから支給され、今回の地球行に際して持ち込んでいるMTは多くがこのドルト3に投じられていた。
だが、コロニー内戦闘というのは勝手が違う。コロニーの建造物やコロニー自体に損傷を与えないように注意を払わねばならないのだ。
加えて、護衛を行うという意味においては、きわめて受け身にならざるを得ない。
 さらに、ギャラルホルンが爆発物や化学兵器と言ったモノを置き土産にしている可能性も否定できず、専用の装備のMTで道路や建造物を丁寧にクリアリングする羽目になった。
きわめて地味でありながらも、もしもの時の可能性がとても恐ろしいのだから。抗議活動という体裁は維持しなくてはならず、余計な被害はご法度。

 とはいえ、慎重を期するとはいえ現状はエウクレイデス側に天秤が大きく傾いている状態だ。
 制圧が完了された宇宙港には続々と宇宙からMSやランチなどが到着し、労働者たちが下りてきてドルト3内部へと進んでいく。
そして、外部からの増援の望めないギャラルホルンはやがて弾を打ち尽くし、幸福を選ぶしかなくなってしまうわけである。

「こちらE-12小隊、本社ビル前を制圧」
『HQ了解。労働者組合の代表団は間もなくそちらに到着する。現状を維持せよ』
「了解」

 意図的に情報を流していたことで、経営陣の多くはこのドルト3本社ビルに詰めていた。
 というより、抗議活動の開始に合わせて集合していた節まである。おそらく、安全なところから眺めるつもりだったのだろう。
もっと単純に言えば、悪趣味である。曲がりなりにも自分たちの雇う労働者たちが虐殺されるのを見て何が楽しいのだろうか。
自らに反発する者たちを無造作に死に追いやって罪悪感も何もないのだろうか?当然の報いと考えているのか?
 企業の一員として、生身の一員として少なくとも自分は福利厚生を含めて労働の対価を得ている。
 使い捨てにする感覚もされる感覚も、まったく理解の外であった。

786: 弥次郎 :2020/12/04(金) 00:01:01 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


  • ドルト3 ドルト・カンパニー本社ビル内



 本社ビル内部はまさに大混乱のさなかにあった。
 特に上層部、実質の経営陣となる重役らの集まっていた部屋は阿鼻叫喚だ。
 ギャラルホルンの失態をなじるもの、地球のアフリカユニオンとの連絡を取ろうと必死になるもの、責任を押し付け合うもの、様々だ。
あるいはもはやこれまでと突っ伏してうなだれるものや、何とか逃げを選べないかと隙を窺うものまでいる。
彼らに浮かんでいるのは「どうしてこうなった」という言葉。まるで顔に書いてあるかのようだ。
 もう彼らのいる本社ビルは包囲状態に置かれている。正確には暴徒からの防衛を目的にギャラルホルンの陸戦隊が陣取っているのだが、多勢に無勢。
彼らの薄皮一枚の防御を抜けられれば、自分たちは労働者たちの目の前に引きずり出されることは目に見えている。
 そうなったときに自分たちがどうなるかなど、想像できないわけがない。
 彼らは思い当たる節があった、というより、思い当たる節ばかりだったのだ。それでも、彼らは労働者たちを搾り取って、顧みない運営をしてきた。
それが何を招くかは想像できていたのだが、それを抑え込むだけのことはできていた。いつだって権力と暴力装置は自分たちの下にあった。
いつだって大義名分はこちらにあった。いつだって単純なことしか考えない労働者たちは自分たちの掌の上だった。
 だというのに今の光景はなんだ?いつから自分たちは踊らされていた?いつから自分たちの思惑を外れたのだ?

「主任…」
「どうした…?」

 そして、絵図を引いてプレイヤーだったはずのレオスはぐったりとその体を椅子の上に置いていた。
 次から次へと入ってくる情報は、自分たち経営陣の不利を加速させ、追い詰めるものばかり。そして、アレスが持ってきた情報が何であるかは顔を見ればわかる。

「本国から…通信が…」
「……内容は」
「……労使交渉を、受け入れるしかない、と」

 労使交渉どころの話ではない、とレオスは悲しげに笑うしかない。
 もはやこれは単なる武装蜂起どころか、独立運動にまで発展していることだ。労働者たちはそのための絵図を引いて準備をして実行。
そして自分たちはそれを見抜けず、あくまで単なる武装蜂起を鎮圧するだけ、という考えにしか至らなかった。
遅かれ早かれ自分たち経営陣は追い出され、このドルトは火星連合の下に合流することになるだろう。

「暢気なことを…そんなもので済ませるものかよ」
「同感ですよ」
「まあ、あとはもう責任の押し付け合いにしかならないだろう」

 すでに労使交渉という名の独立戦争の講和会議の場は避けえない状況だ。
 経営陣側の動かせる戦力であるギャラルホルンの戦力はほぼ駆逐され、自分たちは逃げも隠れもできない。
そうなれば、あとは本国に戻り、沙汰を受けるしかなくなる。そうなったときだれが責任を負うことになるのか?それは全員だ。
経営陣が労働者たちをコントロールできなかったどころか、重要なコロニーの離反を招いたとあればそしりは免れない。
それが本国のノルマに由来するものだとしても、本国はいけにえを要求することになるだろう。

「主任…」
「……まったく、間抜けは俺たちだったか」

 そう、宇宙の戦闘もコロニー内部の戦闘ももはや決着がつこうとしていたのだ。
 だが、それは期待されていた終局とは違う方向へと転がろうとしていた。
 このドルトでの騒乱に全く違う意義を見出していた笛吹達の、最後のあがきとも取れる行動によって。
 抜き放たれた魔剣は、血を求めるのだ。

787: 弥次郎 :2020/12/04(金) 00:01:32 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
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ドルトを彩るドレサージュは結びへ。

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最終更新:2020年12月05日 10:52