504: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:07:14 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS 「語るはオデット/オディールのトラゴイディア」2
仕切りのあるラウンジに通され、手慣れたオディールはお茶の手配を済ませる。
片割れのオデットはといえば、どこからともなく持ってきた箱を手に、真剣に虚空をにらんでいた。
「あ、あの…」
「お静かに」
伊丹はオデットの行為に疑問を抱いたが、そのオデットの鋭い言葉に沈黙をせざるを得ない。
一瞬、殺される、とまで本能的に感じ取ってしまうほどの殺意を向けられたのだから。ロゥリィもまた、開きかけた口を閉じた。
ややあって、オデットは箱の中から取り出したモノを部屋のあちらこちらに配置していく。それは、タリスマンと呼ばれるもの。
巻かれて紙の封を破ったそれを手早く配置し、何度も確認を行っていく。それが、きわめて重要な行為であるかのように。
(これは…)
ロゥリィはそのタリスマンが設置されていくのに従い、部屋が変わるのを感じ取った。
空気や雰囲気が、という意味ではない。もっと別な何か、タリスマンに込められている「力」がラウンジ内を満たしていく。
伊丹はよくわかってはいないだろうが、これは歴とした「魔」による力だ。これはこの部屋を隔離するような、あるいは守るようなモノ。
ある種の聖域、領域を作り出すための道具か、とロゥリィはアタリをつける。なるほど、配置や数に気を使っているのもそのためか。
そして話し合いの場がこの密閉された空間。力が外にあふれていかないようにするための工夫だ。やはり、この集団は人間が使う魔法というモノに通じている。
「姉さま、ざっと1時間ほどは確保できましたわ」
「あら短い…まあ、急遽の設置ですし、ここは異なる神の土地ですし仕方ありませんわね」
促され、伊丹とロゥリィは腰かけた。
対面には瓜二つの双子が並ぶ。本当に鏡合わせのようだ。姿かたち、振る舞い、そしてロゥリィにはわかるが魂の在り方も。
「さて、お茶はまだですが…お話ししましょう」
「今取り出しましたのは守護のタリスマン…言葉による因果の引き寄せを防ぐものです。伊丹様になじみ深い言葉で言えば『言霊』を防ぐものですわ」
「言霊…」
「どういうこと?」
「んー、とですね。いい言葉を発するといいことが起きて、悪い言葉を発すると悪いことが起きるって考えかな?」
日本語圏である伊丹にはすぐピンときたが、あいにくとロゥリィには縁が薄い。
「言葉を発せば、それで縁が結ばれてしまう。神が初めに言葉を発して世界を創造したように、言葉は万物に影響を及ぼす。
お話しする内容によっては、よからぬモノを招いてしまいますの」
「……とりあえず、話す内容が言葉にするだけで危ないってこと?」
「そうなりますわね。紙に書いたり口に出すのも控えていただけなくては、何が起こっても保証しませんわ」
一通り釘を刺し終えた二人は、ようやく語り始めた。
二人の知る常識を覆してしまう、事実を。
505: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:07:59 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「最初の問いに応えましょう」
「非公式には…いえ、おおむね公然の秘密となっておりますが、我々は科学と魔導の両面より『魂』というモノに近づきつつあります」
「…!?」
断言した双子に、伊丹とロゥリィはそれぞれの立場から驚きを得た。
「歴史の裏にはオカルトや魔法と呼ばれる、今日われわれが生きるモノとは違う世界がありました」
「表は裏に、裏は表に、歴史の節々で影響を与え合い、常に表裏一体の関係にありました」
「科学は発達する中で魔導・魔法との垣根を失い、徐々に混じり合いつつあります。
そして、旧世紀において一般には『あり得ないこと』とされたことが『実はあり得ることだった』と再評価されるに至ったのです」
「すなわち---科学と魔法の見分けがつかない世界へ、人はたどり着いてしまったのですわ」
それは、人の知能や文明のたどり着いた一つの到達点。これまでの価値観からの大きな脱却。あるいは、パラダイムシフトの発生。
表の歴史においてはそれは転換点であった。たとえ、裏の歴史においてはとうに通り過ぎていたとしても、である。
「無論、おおっぴらにこれを唱える人はおりませんわ。あくまで秘密。公然の秘密であれ、秘密なことには変わりません」
「でも信じがたいわねぇ…神々と人の力は隔絶しているわ。簡単に埋まるものではないのよぅ?」
しかし、果たしてそうでしょうか?と双子は笑う。
「旧世紀、C.E.以前の作家A・C・クラークはこう論じました、十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない、と」
「それはすなわち、科学も魔法と行きつくところは同じであり、相反するものではないということです」
「どっかで聞いたような…」
「どういうことぉ?」
SFを片鱗ながらも知る伊丹に対し、ロゥリィにはピンとこないことであった。それを察した伊丹は簡単に言い換える。
「つまり、人の技術の行きつく先は魔法のように見えるところまで行く、というのかな。
こっち(平成)に来た時、まるで信じられないようなものばかりだっただろう?それと同じことさ」
「…つまりぃ、神や亜神、魔法使いにできることは科学?にもできるってことぉ?」
「概ねその解釈でよろしいでしょう。いまではない、けれど、いつかはたどり着くと思っていただければ」
ロゥリィはしばし黙考する。神や亜神あるいはハイエルフなどの持つ力は人が及ばないものが多い。
だが、自分たちの力でできず、彼らにしかできないことも多くあるということを。例えばあの巨人。
ああいったものを使役する力というのは即ち人ならざる力だ。だが、それを彼らは人の力でなしている。「科学」とそう呼ぶ力によって。
この世界の神々は意図的に人の歩みをとどめている。だが、いつかはあのようなものを生み出すまでに至るということか。
実際、伊丹の暮らす世界はこの世界と同じ人が行っているとは思えないほど違うの営みが営まれていた。
「一歩がたとえ1メートルだとしても、1センチだとしても、それは確実な一歩。那由他の果てであろうとも、たどり着くことに変わりはありませんわ」
「隔絶しているとしても、停滞し続ける神々など、いずれ人は通り越してしまう。歩みを止めぬ限り、確実に」
「あなたも経験があるのではなくて?隔絶しているはずの人間に、してやられたことが」
「……」
そういわれると、ロゥリィは沈黙を選ぶしかなくなる。
実際にあったのだ、腐敗していた神殿の人間たちによって体をバラバラにされ、力をふるえなくなったことが。
結局あれについては手を回すことで何とかなったのであるが、あれは紛れもなく自身の敗北だった。どうしようもなく、言い訳できない。
「同じように、まぐれであろうと必然であろうと、神の権能と呼ばれるものに手を届かせることは間違いありません」
「そして現に、私たち連合はその域に届きつつあるのです。表にはなっておりませんが」
「そうでなければ、あの邪神ヴォルクルスになすすべなく蹂躙されているはずですわ」
506: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:08:54 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
確かに、と伊丹は思う。
ロゥリィから聞いたことだが、あの暴虐の塊は、この特地の神々にとっても脅威だという。
だが、そんな相手に対して連合は立ち向かい、時間を稼ぎ、可能な限りのことをしている。
それこそ、ロゥリィの言葉を借りれば隔絶しているはずの相手に対して、連合は抗い続けていると、そういうことになる。
つまり、その領域に手をかけているというのも嘘ではないということになる。
そんな納得を作った伊丹達をよそに、双子は話題を変える。
「では次に、魂のことについて」
「これはほとんど先の説明で片が付いてしまいますわね。ですが、お聞きになりたいのはそこではないご様子」
「……あなた達、どういう魂をしているの?」
「二人で一つのように絡み合っている、と言えばご満足いただけますかしら?」
ロゥリィの問いに、双子はにこやかに答える。
「科学の光明は、同時にオカルトの闇を深めたのですわ。
産業革命と帝国主義華やかなりし欧州において、しかし、黒魔術や錬金術などが流行を見せたように」
「私たちは両親や親族に寵愛されましたわ。麒麟児、天才児、時代の寵児……ええ、それはそれは大切に」
「でも、だからこそ」
それを欲望の的にしたくなるものです---双子の声がシンクロする、不気味なほどに。
「……それは」
「愛とは?情とは?束縛し、自由を奪い、綺麗に飾り立て、好みのように育て、磨きをかけ、夜空の一等星のごとく輝くように磨くことでしょうか?」
「宝石を飾るように、砂糖菓子を映えるように、美術品を作り上げるように」
「「私(オディール/オデット)と私(オデット/オディール)は育てられましたのよ?」」
声が、二重に聞こえた。同じでいて、それでいて違う声が。
伊丹がちらりとロゥリィを見やれば、同じように顔をしかめていた。おそらく自分と同じ予感がしているのだ。
「瓜二つの双子。まるで鏡合わせ。言葉を交わさずとも意思を通じ合い、共に行動する」
「双子のシンクロニシティ、と呼ばれるもの。今日では魂の近い者同士が起こすものと認知されておりますわ」
「まあ、当時はそこまで明らかになっておりませんでした。そして、それを面白がり、私たちは私であるようにと動かされた」
「まさか…」
すなわち、見世物であり、幼稚なまでの好奇心の犠牲者にされた、ということ。虐待という言葉が伊丹の脳裏をよぎる。
「いいえ、伊丹様。虐待などというモノではありませんわ」
「モノを調整して飾るだけのこと。そこに人の概念を持ち込むこと自体、無粋ではなくて?」
だが、双子はその上を行った。客観視し、何でもないと割り捨てている。
まるで、瓜二つに作り上げられたビスク・ドールのように、その瞳に感情はなかった。
そのように扱われたことを、まるで何とも思っていないのだ。
「つまり、そういう風にされた、ということねぇ?」
「そうなりますわね。もとより、先天的なNT能力や念動力を持ち、互いに共鳴し合うサイコドライバーの亜種とみなされた私たちですもの」
「互いの境目を認識できなくなるように育てられれば、まして魂の曖昧な幼少期からそう育てられれば、多少は変質してしまうでしょう」
「た、多少って…そんなものでは…!」
「多少、でしてよ、伊丹陸尉?」
「残念ながら過ぎ去ってしまったこと。すでに過去になってしまったこと。今更泣いてわめいて叫んで、どうなりますの?」
「……ッ!」
思わず口をついた怒りの言葉が、オディールの言葉により強引に繋ぎ止められた。
507: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:09:32 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「それをなした親族も、愛情と愛玩をはき違えた両親も、すでにこの世にはおりませんわ」
「旧世紀から伝わるオカルトにどっぷりとはまり込み、挙句に実践した。
けれど、ここに私たちはいる。それで解決したではありませんこと?」
納得など、できるはずもなかった。それくらいの倫理観は伊丹は有していた。
子供を、自分との血縁のある人間を、そんな風におもちゃのように扱うなど、誰が許せるというのか。
「……怒ってくださるのも、とても人間らしいですわ」
「ええ、ええ。まあ、いただけるならば同情もいただきはしますわ」
だが、二人は伊丹の怒りを受け流した。逆に冷淡なまでのその態度は、伊丹の怒りを急速に冷ましてしまう。
お前は何に熱くなっているのだと、その冷たい二つの双眸は告げている。過去を変えることも、慰めることも不要だと、そう言い切っている。
だとするならば、今自分にできることはなんだ?そう自分に問いかける。そして、得られた結論は一つ、沈黙のみだった。
「まあ、ジークフリート様の反応は、そう考えれば変わっている、と言えるのでしょうか?」
「驚きはすれども、納得なさっていましたものね」
「ジークフリート?」
伊丹の頭にぱっと思い浮かぶのは、竜殺しの英雄だ。確か、北欧の神話だったはず。
だが、彼女らの口調や声音から察するに彼女らに近しい人物のようだ。まさかそのジークフリートが生きている、というわけではないだろう。
(そうなると……)
ここでの訓練ではかなりの傭兵たち、リンクスやレイヴン達と知り合うことになった。
そして、その中で特に彼女たちと親しい人物がいて、その人物をジークフリートと呼んでいるのではないか?とあたりをつける。
さらに、彼女らの出自を知っても驚くだけで済ませる程度のキャパシティというか、器の大きさを持ち合わせている。
「さて」
そこまで考えていたところで、双子は場を仕切りなおした。そして、その目はちらりとタリスマンに移る。
表面に描かれているのは、よく見るとメーターだ。そのメーターは、三分の一ほどにまで減っているのが見える。
一見お守りかと思えば、どうやら何やら機械的な要素も含んでいるようだった。だが、時計にしては風変わりすぎないかと、オカルトに疎い伊丹は思うしかない。
「……この後の話題を考えますと、足りますかどうか」
「言葉にするのではなく、限定書庫から持ち込めば」
「なるほど。では、そういたしましょう」
うなずき合った双子は、伊丹とロゥリィに告げた。
「残りは私たちの口からではなく、情報媒体から読んでいただきましょう」
「概要はご説明しますわ。ただし、先ほども言いました通り、迂闊に口に出せば何が起こるか分かったものではございません」
「殊更に、この結界の外側では…」
「ではしばしお茶をお楽しみくださいませ」
そして、双子は優雅にカーテシーを成す。その様は、優雅、としか言えばなかった。
508: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:11:22 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
【人物設定追記:オディール、オデット姉妹】
一般に、双子のシンクロニシティというのは、双子が同じような経験を重ねて、同じような行動原理を持ち、結果的に以心伝心となるものである。
故にこそ、成長するに従い、共に過ごす時間が減り、違う経験を積み重ねることでシンクロニシティは薄れていくのである。
しかし、オディールとオデット姉妹は幼少期からサイコドライバーもしくはNT的な素養を発揮していたことが推測されている。
当時はそういったものが明らかになっていない時代であったために(少なくともNTやサイコドライバーという概念はなかった)、そう解釈された。
双子のシンクロシティを20歳を超えてもなお維持し続けているのは、現在の科学ではそう説明がなされている。
一方で別な要因、特にオカルト方面では別な解釈がなされている。
欧州圏においては双子でそういった共感や共鳴の異能を発揮するというのは、旧世紀から実在した神秘の世界を知る貴族の世界では奇異に輝いた。
故にこそ、歪に歪んだ愛情と束縛を受け、教育を受けさせられていたことが今日の彼女らを形成していると思われる。
特に、幼少期において中途半端に裏の世界、すなわちオカルトや神秘の世界に触れたことで、その要素が加速された可能性が指摘されている。
実際、裏の世界の魔女や呪術者に鑑定を依頼したところ、魂の境目は今現在に至っても曖昧なところがあり、NT能力と合わせ、一般人とはいいがたい素質を持つ。
後天的であるか、はたまた先天的なものであるか、それについては判別しかねるところであるが、彼女らが強いつながりを持つことは確かである。
彼女らが同じ男性に対して好意を抱いていることも、姉妹の間でそういった情報や感情が共有されているためでは?とも推測できる。
魂の境目を明確化することも不可能ではない、と複数のオカルト関係者は述べているが、それが平常となっている彼女らに施して逆効果となりうる可能性も懸念されている。
よって、彼女らの意思もあって、双子は今現在も強いつながりを持ったまま生活を営んでいる状態である。
彼女らの根底にあるは渇愛。
人形から人間となった後も、人間になる前のことは消えはしない。
誰にも愛でられず、見られもしない人形に何の価値があるというのか。
本能的に、双子は愛を求める。共鳴し合うことで、それは常人のそれとはいいがたいレベルかもしれない。自らのレゾンデートルにかかわるからこそ。
どうか私を、私たちを愛して。そうでなければ---
509: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:12:13 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ダクソ、ブラボなどの話は次回!
そしたら別な世界の観測に移ります。
いやーアルペジオ、最新刊まで追いつきました。
続きが楽しみというか怖いというかなんというか…
510: 弥次郎 :2020/12/09(水) 23:21:36 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
508の一番後ろに追記
彼女らの根底にあるは渇愛。
人形から人間となった後も、人間になる前のことは消えはしない。
誰にも愛でられず、見られもしない人形に何の価値があるというのか。
本能的に、双子は愛を求める。共鳴し合うことで、それは常人のそれとはいいがたいレベルかもしれない。自らのレゾンデートルにかかわるからこそ。
どうか私を、私たちを愛して。そうでなければ---
最終更新:2023年10月11日 19:59