85: 加賀 :2020/12/05(土) 18:29:02 HOST:om126156166164.26.openmobile.ne.jp
「マリアナは辛勝でしたね」
「艦艇の損傷は軽微だが母艦飛行隊は壊滅しているからな」
「マリアナの撤退はどうしますか?」
「レイテ前には全て撤退する予定だ」
「分かりました。急ぎ準備をします」
「……本土の空はまたしてもあの機体にかけるしかないか」
7月上旬、マリアナ沖海戦勝利の報に沸く国民達を尻目に海軍首脳部は思いっきり頭を抱えていた。
「育て上げた母艦飛行隊はほぼ壊滅……再建にはまた時間を要するな……」
空母16隻の撃沈を引き換えに壊滅した母艦飛行隊。そのため機動部隊は新たな作戦を思案する事になる。そしてGF長官だった古賀大将は軍令部総長に就任し、後任にはこれまでの武勲を称されて南雲中将が大将昇進と同時にGF長官に就任した。その古賀大将は陸軍の同志に誘われてひっそりとした料亭にいた。
「今頃、阿部君は下村君に付き添われて吉田と会っている」
「吉田も問題はあるが史実戦後を代表する政治家だ。大丈夫だろう」
「それと終戦工作だが……」
「窓口が開けましたか?」
「あぁ。一応スイスのジュネーブで窓口が開ける事は出来た」
古賀と対峙する陸軍将官ーー杉山元帥と梅津大将はにこやかに笑う。他の者達も梅津の言葉に思わず腰を浮かせる。
「向こうは条件とかは言ってきましたか?」
「いや、具体的なのはまだ言ってないが恐らくは無条件降伏だろうな」
「……まだやれる気ですか」
「向こうはそう思っている。今のところ、交渉の打開策の一つとして大陸からの兵は引き揚げる予定だ」
「……打通作戦をやめるのですか?」
「あぁ、畑さんも承知済みだ。満州と北方を固める……戦後を見据えてな」
「……成る程」
梅津の言葉に古賀は納得の表情を見せる。確かに史実戦後を見れば満州や北方を再度固めるのは納得出来た。
「それと局戦の開発には陸軍も共同でやりたい」
「……陸海統合の局地戦闘機ですな」
海軍は局戦『雷電』を生産配備していたものの、倉崎の件があるのでこれに懲りていた。(この頃、空技廠の責任者が大量に追放されていた。高度な隠蔽工作をしようとしていた事も発覚し古賀や栗田達が容赦なく空技廠を一新させほぼ首脳部が更迭、予備役や閑職に回される)そのため漸く倉崎を迎え入れ(三菱と川西が倉崎を匿っていた)新型局戦の開発を……という矢先だったのだ。
「生産はしやすい方が良いからな」
「確かに」
これについてはアッサリと決まった。いがみ合っては戦争なんぞ出来ないのはこれまでの経験からだった。なお、新型局戦は倉崎主導での指揮により紫電改にほぼ負けて半場倉庫に放置されていた『烈風』に決定されたのである。
また、東南海地震に備えて東海地方の工場は奥地移転(長野等に疎開)が決定された。これにより東南海地震が発生しても航空機の生産は何とか出来たという事だった。
だが、陸軍としては航空機も重要だがもっと重要なのは戦車だった。現在の主力戦車は砲戦車に近い九七式中戦車であるがソ連を考えるとやはり砲塔戦車が欲しいところが上層部の本音である。だが一歩間違えればノモンハンの如く、担当者が前線で戦死する運命にある。
当初、その事情を聞いた杉山と梅津はチハの改良型で乗り切ろうとしたが此処で陸軍の運命に一筋の光が流れ込んだのである。
「大型戦車開発に備えてトーションバー方式は既に開発が完了している」
チハ採用の際に民間企業の方に追いやられた転生者の集団が密かにトーションバー方式を市原博士らと共に開発し重装甲車用トーションバーは43年4月に開発完了していたのだ。転生者達はまた追いやられると思い秘密にしていたが杉山と梅津が憑依した事で打ち明けたのだ。更に試作中戦車も車体だけではあるが作っていたのだ。
斯くしてマリアナ沖海戦後の6月25日、杉山と梅津は試作中戦車の開発を了承し今現在は70%程まで完成している。二人としては予算をそちらに回したいので統合局地戦闘機は願ったり叶ったりであったりするのだ。
86: 加賀 :2020/12/05(土) 18:30:19 HOST:om126156166164.26.openmobile.ne.jp
「兎も角、やりきりましょう」
「そうですな」
三人は力強く頷くのである。そして8月1日、九州地方に大規模な空襲警報が発令された。90機余りのB-29が中国の成都から出撃して長崎・佐賀・福岡が手当たり次第爆撃されたのである。死傷者1500人余りと最大であった。しかも侵入を防ぐ事に失敗した事もあり責任を取って東條内閣が倒れ小磯内閣が成立したのである。
更に不味い事にパラオ方面が怪しくなってきた。それは第14師団がフィリピンへ移動となった事である。マリアナの防備に成功した陸軍だが次に狙ってくるのはフィリピンだと確信していた。そのため大本営は関東軍最強と豪語する第14師団をフィリピンに移動する事を決めたのである。
「嘘だろおい……」
第14師団移動の報告に陸軍は元より海軍も頭を抱えた。これではパラオは早期に陥落するのではないか、古賀大将は移動を控えるべきとわざわざ陸軍側に申し入れたが陸軍は「パラオはマリアナ同様に難攻不落の要塞であり陥落する事はない」と豪語してしまい第14師団は結果としてフィリピンに移動となってしまうのである。
そして9月15日、米軍はパラオへ侵攻を開始したのである。
「そんな馬鹿な!? 奴等はそんなホイホイと空母を投入するのか!?」
パラオ侵攻の報を聞いた陸海軍を頭を抱えた。奴等は魔法が使えるのかと思える程だった。まぁ米軍にしてみたら「綱渡りだよバーロー」である。マリアナで16隻の空母を沈められたアメリカーー特にルーズベルトの怒りは怒髪衝天さながらである。
そのためエセックス級の早期就役が図られ『レキシントン2』『ランドルフ』に加えて『ハンコック』『ベニントン』『ボノム・リシャール』『シャングリラ』『アンティータム』『ボクサー』『レイテ』『キアサージ』タラワ』『プリンストン』『レイク・シャンプレイン』の11隻が戦列化され正規空母13隻の第三艦隊が編成され司令官もハルゼー大将が就任したのである。
「いいか!! 俺からの命令はただ一つ、キルジャップ!! キルジャップ!! キルモアジャップだ!!」
『オォォォォォォォォォ!!』
ハルゼー大将の叫びにパイロット達は雄叫びをあげるのである。斯くして鉄の暴風を浴びたパラオは10月1日に陥落するのであった。
「パラオは早期に陥落と……」
「まさかの二週間で陥落ってアリなんですかね……」
「東條は完全に追い出したしフィリピンは山下大将か……」
「富永の排除は出来ませんでしたねぇ……」
「聨合艦隊は?」
「既に覚悟完了してますよ」
10月1日、パラオは陥落した。まさかの早期陥落であり陸海軍に激震が走ったのは言うまでもない。というよりもパラオ防衛の第35師団はマリアナを戦訓にしていた。というのもマリアナーーサイパンでは水際防御をしており第35師団司令部では「水際防御こそが勝利の要である」と認識していたのだ。そのため戦艦5隻を主力とする艦隊が水際陣地を徹底的に艦砲射撃によって破壊した。
また、米軍が上陸すると司令部は反撃命令を出した。これにより米軍ーー第一海兵師団は戦力が半減するも二日間の戦闘で第35師団はその戦力を三分の一にまで低下、9月28日に行われた残存兵力の万歳突撃を以て第35師団の組織的活動は停止したのである。
これを受けて陸海軍は『捷号作戦』を策定した。更に陸軍は徐々に後退する大陸戦線からの部隊をフィリピンに移動させる事にした。打通作戦の中止に作戦計画立案者である服部大佐は徹底的に反発したが杉山と梅津は服部を更迭、前回同様に歩兵連隊長とされるのである。
また、パラオが陥落した事で海軍内で陸軍の不信感は増すばかりだった。
「俺達の忠告を無視した挙げ句、マリアナの辛勝をひっくり返しやがった」
口が悪い奴等平然と陸軍佐官らの前で言い放ち殺傷事件まで起こす有り様だった。それでも陸海軍は共闘して米軍と戦わなくてはならない。
87: 加賀 :2020/12/05(土) 18:30:59 HOST:om126156166164.26.openmobile.ne.jp
10月10日、ハルゼー大将の第三艦隊が沖縄を含む南西諸島一帯を大規模空襲を敢行した。この時、沖縄は第32軍の下に四個師団と五個旅団で編成途中であり沖縄の民間人も日本本土や台湾への疎開が開始されていた頃であった。
沖縄には事前情報等で在泊艦艇はいなかったので艦艇の損害は無しだったが人的・地上施設等の被害は軒並み史実並だった。
「恐らくは台湾の二航艦も標的に入っているだろうが二航艦は軒並み退避させよ」
横須賀鎮守府の一角に新しくGF司令部を新設した南雲大将は二航艦司令長官の福留中将に指示を出す。しかしこの指示は福留自身が握り潰してしまったのだ。
「マリアナで奴らは疲弊しているのだ。この好機を今逃してどうする。此処で奴等を叩かねばならん」
福留中将はフィリピンのミンダナオ島ダバオに司令部を置いていた一航艦司令長官寺岡中将にも支援を要請して自身は二航艦で第三艦隊の全力捜索を開始したのである。
「あの馬鹿野郎……」
電文を受け取った寺岡中将は福留中将の浅はかな思考に電文を握り潰した。
「何のための比島決戦なのだ。ハルゼーの思う壺じゃないか!!」
寺岡中将は福留に支援拒否と出撃中止を要請、更に南雲大将にも状況を報告した。南雲大将は急いで福留を罷免して後任に山田中将を持ってこさせようとしたがそれらが終わる前に台湾沖航空戦が勃発したのである。
結果として被害は航空機438機の喪失だった。なお、一航艦は出撃しなかったので被害は全て二航艦所属であり一番痛い喪失はT攻撃部隊こと762空の殆どを消耗してしまった事だった。南雲の怒りはまさに頂点に達していたのである。
「動くなという命令を無視して動き、比島決戦に必要な航空戦力を消耗させ撃沈艦艇無しという快挙はまさに海軍史上の恥だ!!」
南雲は問答無用で福留を拘束し後は古賀に任せ後任に山田中将を充てたのである。なお、福留中将は即刻予備役に編入された。(予備役行きだけでもまだ恩情はあった)また古賀は陸軍側に台湾沖航空戦の細部を詳細に報告、これにより陸軍はレイテ決戦を捨て元来のルソン島決戦に踏み切るのである。
「フィリピンに来るのは史実通りかな?」
「恐らくはそうでしょう」
この頃、橋本は舞鶴にいた。舞鶴には『大鳳』以下の第三艦隊が錨を降ろしていた。舞鶴にいたのは母艦飛行隊の再建を目指していたからである。前回のマリアナ沖海戦で第一機動艦隊はスプルーアンスの第五艦隊を撃滅したがその代償が母艦飛行隊の壊滅だった。
「やはり艦攻隊の再建は来年になるだろう」
橋本は舞鶴鎮守府で第三艦隊司令長官の山口中将と面会をしていた。というのも橋本の五戦隊は第三艦隊所属であり山口に呼ばれたのである。
「機動艦隊は再編する事になった。君の戦隊も二艦隊の宇垣中将の方に変更となった」
「……まさか……」
「その通りだよ。我が第三艦隊は前回と同じく囮となってハルゼーを引き付ける」
山口は橋本にそう告げる。
「……分かりました。ですが長官、まだ戦死はやめてください」
「分かっている。私もまだ死ぬわけにはイカン」
橋本の言葉に山口はニヤリと笑うのであった。
88: 加賀 :2020/12/05(土) 18:46:46 HOST:om126156166164.26.openmobile.ne.jp
前回のを大半流用していますが一部修正しつつ投稿。
・正規空母13隻ってあーた……(ルーズベルトの命令だもの)
・正規空母13隻、単純計算で一隻に100機で1300機、護衛空母50隻、単純計算で一隻に30機で1500機。そら二航艦は呑まれますわな
・マック「アイシャルリターン」
最終更新:2020年12月10日 15:27