640: 弥次郎 :2020/12/11(金) 19:30:14 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS 「語るはオデット/オディールのトラゴイディア」3



 言霊を防ぐ結界の中、双子のリンクスの語る物語は佳境へと移る。
 それは旧世紀において、あるいはそれ以前において、歴史の闇へと消えた二つの物語。

「獣の病……」
「興味深いわねぇ……」

 じりじりとタリスマンの加護の限界が迫る中で、異郷から訪れた二人は、言葉に出すのも危険な情報を開示されていた。

「いずれも、与太話、と片付けるには証言や証拠がありすぎているのですわ。
 ロードラン、ドラングレイグ、ロスリック…一国や一地方だけでなく、各地に同様の伝承が伝わっているのですから。
 殊更、ヤーナムというのは実在した都市であり、表向きには疫病の蔓延により都市ごと焼き払い滅却されたとされていますが……」
「滅ぼされる以前も後も、常に噂が付きまとっているのです。滅びたはずのヤーナムを、トゥメルの古代遺跡を見たのだと」
「見たどころか、ヤーナムのあった土地に赴いた人間が文字通り姿を消すという事案も起きております。
 その証拠の品まである……これらをすべて、偽装だとか、見間違いだとか、そう片付けても良いモノでしょうか?」
「……」

 伊丹をして、それは否定できなかった。
 ありえないと断じるのは簡単な話である。しかし、何を以てして「ありえない」と言ってよいのだろうか?
まして、相手は科学的に魂という存在にたどり着こうとしている段階の科学文明。自分たちがありえないと断じたものが、ありえたものとされるようになった時代なのだ。

「そして、ヤーナムにかかわる伝承にはこういったものもございますわ。
 悪夢は消えない、と。事実、日本で言うところの神隠しは今日C.E.に入っても続いておりますの」
「特に付きまとうワードとして獣の病、というのもございますわ。血を受け入れることで、獣となる。
 あるいは徐々に人間から獣に変じてしまうという病。もはや病というよりは呪い、でしょう」
「ヤーナムに由来する遺骸もありましてね…明らかに人外になり果てた人の骨が見つかっておりますわ」
「無論、表にはなっておりませんが」
「現代の技術を持って解析もされましたが、つなぎ合わせたものやほかの動物の骨などではないと結果も出ております。
 ですが、人であって、人でない、という結論しか出せませんでしたのよ?」

 それ即ち、科学の敗北。わからないということだけがわかった、という結論。

「でもぉ、それがあっても証拠にはならないんじゃないかしらぁ?」

 あえて、ロゥリィは否定的な意見を投げかける。
 ヤーナムという土地があり、そこにトゥメルの古代遺跡があった。その程度ならばよくある話だ。
 人間だって病気にかかったりすれば、あるいは奇形であれば、そういった遺骸を残していてもおかしくはない。

「ええ、その可能性もありえたでしょう。ですが、これがただ一つの地方の与太話に限った話ではなかったのですよ。
 もっと別な例を出しましょう。伊丹陸尉、ベルセルクというモノをご存じでして?」
「私たちの故郷、欧州にほど近い北欧の伝承や伝説に登場する戦士たちのことですわ」
「名前くらいなら…聞いたことは」
「鎧をまとわぬもの、あるいは熊の毛皮を纏うもの、という語源を持つ言葉。
 もっとわかりやすく言えば…バーサーカー、と言えば通じるのではないかと思いますわ」
「……っ!」

 一瞬脳裏に見た目だけならば銀髪幼女がそのバーサーカーを嗾ける光景が浮かぶが、さすがに頭から追い出す。
 バーサーカー、狂戦士、理性を持たない戦士。咆哮をあげ、戦いに赴く戦士。

「英語において『go berserk (我を忘れて怒り狂う)』という言葉に派生したこの言葉の下になった戦士たち。
 彼らは極めて面白い逸話を持っておりますの」

 それは、とオディールは断言した。

「高き者、軍神、詩の神、恐ろしき者といったケニングを持つ最高神オーディン。その加護を受けた戦士たちをそう呼んだそうですわ。
 そして、彼らは窮地に陥った時、獣にその姿を変えるといわれておりますのよ」
「獣…」

641: 弥次郎 :2020/12/11(金) 19:30:44 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 獣。人ではない、理性を持たぬ、獰猛な生き物。
 その言葉が、気持ち悪いほどに思い。
 そう、ベルセルクはその姿を獣に変じるのだ。
 表としては、ベニテングダケやヒヨスや酒などの摂取による向精神作用によるものと研究がされてはいる。
また、語源の通りに彼らが獣の毛皮を纏っていたために外見がそう見えたというのも関係しているかもしれない。
 だが、それは知ってしまった今では違う意味に見えてくる。
 少し、背筋が寒い。ほんの一例だが、本当にあったことを補強しているかのように思える。

「前述の通り、似たような話は各地にございますの。エジプト、ローマ、ギリシャ、北欧、アジア……およそ、人の暮らすところに似たようなものが」
「これを単なる収束とみるか、同じようなバックグラウンドがあったものか……判別は過去に戻ることができなければ不可能ですわ」
「ともあれ、これにてヤーナムについてはおしまいとさせていただきます」

 その時、置かれていたタリスマンの一つがボン!と音を立ててはぜる。
 見れば、メーターが0になっていた。つまり、籠っていた力を使い果たしたのだ。
 まだほかに置かれているタリスマンはあるが、かといって、それらも余裕があるわけではなさそうだ。

「まあ、次の不死の伝承については短く終わるでしょう」
「ええ、枝葉末節を除けば、至極単純な伝承ですもの」

 不死。それは人間の持ちえぬ力であり、須らく人が夢見てきたものだ。
 だが、語られようとしているものが決して良い意味とは言えないことは、薄々と伊丹にも理解できた。

「死とはなにか?不死とは何か?」
「救いか、行きつく末路か、果ては次なる旅路の始まりか?」
「それはあくまでも今日の私たちの解釈。もっと古い時代、もっともっと古い時代にさかのぼらねばなりません」
「……そんなに古い時代に?」
「考古学においてはあり得ないと思われるでしょう。ですが、伝承があり、残滓が今もなお残ることで確実視されておりますわ」

 ただし、断片的なものばかりですわ、と前置きし、オディールは続ける。

「最初は霧に満たされた、灰の時代。灰色の大地に朽ちぬ古竜が支配する、無に近い世界。
 しかし、最初の火が起こり、ソウルが見いだされ、世界に温かさと寒さ、光と闇、生と死の概念が生まれたのです」
「ソウルを見出した薪の王グウィン、魔女イザリス、最初の死者ニト、白竜シースたち。
 英雄達は朽ちること無き古龍と戦い、これを打倒。火の時代が始まりました」
「しかし、やがてはその万物の始まりたる始まり火も消えてしまうのです。
 そして、火の無い世界において人は不死にとらわれ、呪いを受けたのです」
「いくつかの戦いがあり、旅路があり、始まりの火の火継が行われ、あるいは混迷が巻き起こりました。
 最終的には火の時代は終わりをつげ、人の時代が始まり、今日に至るというわけです」

 以上、終わり。
 ヤーナムの話に比べればなんとシンプルな話であろうか。
 首を傾げる伊丹に対して、ロゥリィの表情は至極真剣であった。断片的に聞いた覚えのある単語があったのだ。
 始まりの火、火の時代、ソウル、薪の王。名前こそ違えども、似たような要素は聞いたことがあるのだ。
 元々は人だったために若いとはいえ神、なお且つエムロイに従う故にそういった話にはほかの神よりも触れる機会があった。
それは神々のはじまりの、さらに過去の話として聞かされた話に酷似していたのだ。
与太話かと思っていたし、あまり興味もなかったので話半分だったが、まさか類似の話を聞くとは。

642: 弥次郎 :2020/12/11(金) 19:31:25 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


「寓話か、逸話か、事実か……さだかではありませんわ。
 しかし、ヤーナム同様に目撃例や体験例のある、旧世紀から続くお話は以上となります」

 伊丹もまた、なんとも言えぬ感覚を味わっていた。妙にリアリティがあり、スッと染み込むような話だった。
胡散臭いといえばそれまでだが、何処か納得と理解を覚えている。
 伊丹が質問を投げかけようとしたところで、ついにタリスマンは限界となった。
部屋の内部にみちていた力は儚く消えていき、守護の力を失ってしまう。それはもはや安全にしゃべることが叶わないということ。

「あら、お終いですわね」
「よく持ったほうではないかしら?」

 双子はそろって人差し指を唇に当て、沈黙を促した。
 言葉にすれば、口に出せば、何が起こるかわからない状態に戻ってしまった。

「最近の話ですが、C.E.において私たちもよく知る方々が集団で疾走した事件がありましたの」
「調べが入りましたが、賊が侵入した形跡はなく、また彼らが自ら出ていったとも考えられない状況でしたわ。
 代わりに、直前まで彼らがいたと思われる部屋には面白いものが転がっておりましたの」
「そ、それって…」

 まさか、と言葉を失う伊丹に、オデットはにこやかに告げた。

「そう、ここにあるようなタリスマン。そして、いくつかの魔道具…そして書籍。
 彼らは今の私たちのように語り合っていたと推測されました」
「けれど、彼らはいったいどこに?まさに忽然と姿を消した彼らは結局失踪扱いとなりましたのよ」

 だから、とオディールは何度目かもわからない釘をさす。

「お喋りに夢中になってそれをしゃべりすぎれば…この世ならざるところへ落ちてしまうやもしれませんわね」
「殊更、この世界は空間が不安定と聞き及んでおります。迂闊なことを、なさらないでくださいまし?」
「ッ……」
「お聞きになりたい気持ちはよーくわかりますわ。ですが、好奇心猫を殺す、とも申します」
「よくわかったわぁ…」
「賢明なご判断ですわ。一説によれば……不老不死の方でさえも死にかけた、という異界ですもの。
 神々であれ、油断なさらぬように」

 脅しではない、と直感的に理解できた。
 ともあれ、非公式なお茶会はタイムアップという形で終わりを告げた。
 その日、伊丹は終日言葉を碌に発せないどころか、言葉を記すことさえ憚られてしまったことをここに記す。

643: 弥次郎 :2020/12/11(金) 19:32:23 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
駆け足ですが、ひとまずおしまいとします。
ロボが書きたい…
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最終更新:2023年10月11日 20:00