5: 弥次郎 :2020/12/14(月) 22:19:34 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編 短編集2



Part.4 女仙の手慰み




 日企連に属する雇われのガンスミス兼アーキテクトである何仙姑は特地に設置された自分の工房で試行錯誤を繰り返していた。
 何を試行錯誤していたか、と言えば、それはこの特地の勢力である「帝国」に提供する武器---殊更銃火器についてである。
 ぶっちゃけた話、過去の遺物どころではない、火縄銃などを再生するに等しい仕事を任されているのだ。
 しかも、連合が売るのではなく、この特地の帝国が自前で製造し、運用し、使いこなせるものを用意するという縛りが付いている。

「……いやぁ、比較するのも失礼なほどだねぇ」

 思わず何仙姑はため息をつく。彼我の技術差は尋常なものではない。常識が違うで済むレベルではなく、文字通り世界が違うのだ。
 例えばだが、銃に一般的に使われる金属の段階ですでに違う。均一な質の鉄など望めるはずもなく、どうあがいても質にばらつきが出る。
そうなれば銃一つ一つに良し悪しが出るどころか、当たり外れが生じる話だ。現代の工作精度にどっぷりつかっている身としては発狂しそうでもある。
 だが、そんな工業製品としては大失敗の代物であろうとも作れと言われたら作るしかないのだ。
 だから無意識に高品質に作らないように注意を払わなくてはならない。あくまでも中世の技術水準の彼らが作れるような物を、だ。

(……意欲的であるのは十分ありがたいけどね)

 卓上に置かれたサンプルは、帝国が用意できる銃の材料や火薬の元になる素材だ。
 銃そのものだけでなく、火薬、弾丸に始まり、メンテナンスや部品交換などに使う道具を作るためのものもかき集めてもらった。
 銃の整備は面倒だ。錆をとり、汚れを綺麗にして、機構が動作するように維持しなくてはならない。
そのため、必要となるものは驚くほどに多い。総額では銃本体よりオプションの方が高くなる程に。
 そしてそれらを分析し、資料や現物として現代に残されている火薬式マスケット銃と照らし合わせ、設計図を作り上げる。
言うまでもないのだが、化石を発掘するどころか、化石からDNAを採取して再誕させるに等しい。
そして、そんな特性を持つプロジェクトだからこそ、未来過ぎる連合では何仙姑のようなガンスミスが任されるほどの難易度になってしまっているのだ。
 まあ、それでも、この特地にいる帝国が厄介なお荷物とならないための大事な動きの一つであることに変わりはないのだ。
 そう思えば、こうして質の悪い鉄を目の前にしても心おれずに奮起できる。
 ふと時計を見やれば、もうすぐ帝国の連絡員との会合の時間が近づいていた。
 時間的にはまだ余裕があるが、進捗状況を教えるための資料を簡単に用意するのに多少の余裕は見ておいた方がいいだろう。
 ヴォルクルスの襲来を跳ねのけることができても、まだおしまいではない。ハッピーエンドというのは詰まる所どん詰まり。
そこから先を望めなくなる、とはどこで聞いた言葉だったか。現実はいつまでも続いていくのであり、当代限りの幸せで良しとするなど愚の骨頂というもの。

「頑張れ、頑張れ…」

 誰に向けてでもないエール。それを送って、自らも仕事に打ち込むことにしたのであった。




Part.5 箱庭の宮殿



  • 特地 イタリカ 仮王宮建設現場




「これは、なんというかな…」

 イタリカに避難した帝国亡命政府の首班であるピニャは、避難先であるイタリカに建設中の王宮に目をむいていた。
 人型の機械なるものが作業していることはまあいい。問題なのは、その規模と建設速度であった。
 帝国における帝都の象徴たる王宮は、一代だけではなく、脈々と受け継がれ、そのたびごとに改装と増築や生理を重ねたうえで大きくなった。
だが、今目の前で建造が進む王宮は目測の限りでも元の王宮の大きさを軽く超えるスケールであった。
 いや、もとより王宮というのは、そういう建物だというのはピニャも理解している。一口に王宮とは言うが、それは複合施設なのだ。
皇帝とその一家の暮らす家であり、世話を行う人間の住居もあり、政治を行うためのあれこれもあるというのが王宮。
そこに戦争やら何やらに備えた城壁や城門、防衛設備などを付け足していけばその規模は必然的に膨れ上がっていくもの。
つまり、一度拡張を始めればどんどん際限なく膨らんでいってしまうという、それでいて権威やら何やらのためには必要という厄介な建造物なのだ。

6: 弥次郎 :2020/12/14(月) 22:21:21 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 だが、眼前のそれはどうか?
 都としての規模が小さいとはいえ、その威容は明らかに大きく、立派なものだ。
 人を超えた巨人や空を飛ぶものが作業を行い、人ではないものまで細かい作業に従事しているという点を除けば、だが。

「これだけのものを一気に作るとはな…」
「王宮としての格を持たせるにはこれくらいは必要なのでは?」

 随行員の一人であるカーゼル・エル・ティベリウスに言われるとぐうの音も出ない。
 確かに自分はこれだけの規模の王宮を設置することを了承し、発注した。そしてそれが速やかに実行に移された。
その際にはどのような建物や設備が必要になるのかを聞かれ、他の人員の意見も合わせて伝えている。

「ティベリウス侯爵は図面というモノを見せてもらっていないだろうからわかりにくいであろうが…すでに旧帝都の王宮を超える大きさなのだ」
「……は?」
「ここへの民の避難が決まってからそう時間があったわけではない。だが、彼らはその短い時間でそれだけの建物を建ててしまっているのだ」

 元老院の重鎮として、また、侯爵として、一般的な知識をカーゼルは備えている。
 建物を建てるというのは、まして、王宮のようなものを立てるのは1年や2年どころではない時間を要するものだと理解している。
 やるとすれば、予算を考え、資材と動員する人員を考慮し、また季節やそれだけの出費を行える安定を見越して行う大規模なモノ。
 それを、たったそれだけの短い期間でなしたというのか?

「この王宮だけではない、民の暮らす街までも作り上げているのだ。
 信じられぬかもしれないが、10日とかからず帝都とあまり変わらぬ規模の都がここに作られているのだ」
「まさか…」

 だが、見上げる王宮は様式といか意匠こそ違うが手を抜いているとは思えないほど立派なものだ。
 建物の高さは抜きんでており、かつての王宮にも劣らない。ぐるりと囲む城壁も形があちらこちら違う以外は差異はなく、むしろ前よりも大きいくらいだ。
 だが、これがそんな短い期間で作られたというのか?ありえない、という言葉がせりあがってくる。

「これくらいのことを簡単になしてしまうのだ、門の向こう側の、連合というのは。
 イタミ殿の生きる世界をさらに超える、とんでもない大国だ」

 心なしか、身体が一回り小さくなったかのようなピニャにカーゼルは感じた。
 そして、とピニャは知らされた事実を重々しく告げる。わざとではない、それだけ自然と重くなるのだ。

「その連合という組織でさえ、全力を挙げて戦わねばならないのが、今帝都に迫っているのだ。
 足止めし、時間を稼ぐことしかできぬほどの強大な怪物がな」

 映像でピニャは見たのだ、ヴォルクルスと呼ばれる巨大な怪物の力を。
 大地を割り、見上げるほどの巨人を引き連れ、暴虐の限りを尽くすそれを。
 一目で、勝てないと分かってしまった。どうあがこうとも飲み込まれる未来しか見えなかった。
 そして、それに挑むと嘯いた兄の無謀さを理解できてしまった。

「…だとするならば、ゾルザル殿下は」
「無駄死にだ。帝都から逃げることを拒んだ民もまた、同様にな」

 そして、そんな力の頂点の戦いを見せつけられたピニャが感じたのは、無力感だった。
 避難させることはできた、とても戦いになる相手ではないために逃げることを選べた、このイタリカに逃げてきた民を慰撫することもできた。
 だが、それだけだ。結局は、自分たちがいかに無力で弱い存在であるかを理解させられるしかなかった。

「……帝国がこれまでの世界の過半だった。だが、実際は……ほんの手のひらに収まるような、吹けば飛ぶような軽いものだったのだな」

 カーゼルにかけるだけの言葉はなかった。
 これまでの安寧とした状況ではなく、嵐さえ生ぬるい逆境の中で帝国を背負うのが目の前の少女なのだ。
 散々感じてきたことが、さらに上乗せで襲い掛かってきた。だが、ここで屈するわけにはいかない。
 まだ我々は生きていて、守るべき民が多くいるのだから。

「……すまぬ、少し弱気になりすぎた」

 やがて、ピニャは自分で自分を立て直す。
 泣いている暇も、嘆いている暇もないのだ。それが上に立つ者の義務。

「行くぞ、まだ見て回る場所はある」
「……はっ」

 カーゼルは不甲斐なさを何とかこらえる。今できるのは帝国を少しでも生かすこと。
 そして、目の前の君主を支えることだけだ、と。

7: 弥次郎 :2020/12/14(月) 22:21:58 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
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最終更新:2023年10月11日 20:06