390: 加賀 :2020/12/14(月) 18:11:53 HOST:om126208199075.22.openmobile.ne.jp
「呉の沢本大将より連絡です。宇垣中将の二艦隊が出撃しました。呉市民の見送りによって……」
「同じく佐世保の三艦隊も佐世保市民に見送られながら出撃しました」
「全ての舞台は整ったか。阿部大佐は?」
「空母『信濃』を陽動に使って今は伊豆諸島沖でしょう」
「食いつくかな? いや超大型と言っても大型艦は『信濃』一隻だけだから食いつかないか」
「それと五航艦の部隊にも『丸太』を配備させました」
「後は祈りましょう」
1945年4月15日、沖縄は鉄の暴風を受けた。アメリカ軍(艦艇は連合軍)は守備が薄い沖縄本島南西部に四個師団が艦隊の援護射撃の下で上陸を開始した。南西部には北と中の二つの飛行場がありその確保を目的としていた。しかし両飛行場は初めから放棄が決定されており、あっという間に占領された。
「船が七分に海が三分だ!! 繰り返す船が七分に海が三分だ!!」
しかし、アメリカ軍の進撃を遅滞させる目的で第62師団の賀谷支隊(約2000名)が配置されており賀谷支隊は大いに遅滞戦闘を行い5日間もアメリカ軍の進撃を遅れさせる事に成功する。だが、アメリカ軍襲来の報を受けた台湾に駐屯する第八飛行師団が米艦隊を攻撃するも濃密な対空砲火と大量に上空飛行をする米戦闘機隊に阻まれ攻撃は失敗、その戦力の大半を喪失してしまい残った機体が散発的な攻撃をするのみになってしまう。
その点、寺岡中将の第一連合航空艦隊はロケット弾等を使用して米艦隊のピケット艦を攻撃、ピケット艦を撃破する事で本土ーー九州に展開している塚原大将の第五航空艦隊の突入を援護する事に終始していた。このピケット艦攻撃により連合軍艦隊は26隻を撃沈され51隻が損傷し後退している。
「来ます、ジャップの艦隊が出撃したようです」
決死の覚悟で侵入した米潜水艦隊は呉と佐世保から出撃した二個艦隊を発見して直ちに打電した。報告を受けたマケインは一個機動群を残して10隻の正規空母群を率いて出撃する。また、ローリングス大将の英太平洋艦隊は残置された。それはカムラン湾に展開していた一個艦隊が4月10日から所在不明であり万が一を考えて残置する事にしたのである。
この時、英太平洋艦隊は英東洋艦隊にも戦力を振り分ける必要があったが、シンガポールの戦力を見て全て投入出来る艦艇
での構成だった。
正規空母
『イラストリアス』『ヴィクトリアス』『インプラカブル』
計3隻
軽空母
『コロッサス』『グローリー』『パイオニア』
計3隻
戦艦
『ネルソン』『ロドニー』『キングジョージ五世』『デューク・オブ・ヨーク』『アンソン』『ハウ』『クイーン・エリザベス』『ウォースパイト』『ヴァリアント』『マレーヤ』『レナウン』『リヴェンジ』『レゾリューション』『ラミリーズ』
計14隻
旧式のネルソン型、クイーン・エリザベス型、リヴェンジ型以外は速度もそれなりに有能であり空母への随伴も可能だった。また旧式戦艦は主に対地を想定していた。そのため輸送船団の護衛に組み込まれていたのだ。ローリングス大将は北上するハルゼー艦隊を見つつ罵倒していた。
「奴等め、我々を下働きのみさせるつもりか。レイテでやられてようが我々は精鋭だ」
前年のアキャブ沖でも大打撃を受けてはいるが
アメリカの支援で何とか此処までやってこれたのだ。英太平洋艦隊の扱いに英太平洋艦隊の将兵は憤怒を増加させていたがアメリカ軍にしてみれば「負けっぱなしの奴等を入れても勝てるか分からんだろう」という軽蔑だった。英太平洋艦隊を楯にしてその側面から叩くという手腕もあったがキングの「決着は我々が付ける」という命令を実行していたのだ。
しかし、米英はまだ日本の本気を理解していなかった。
「『長門』機関故障から復旧を確認しました。『長門』は沖縄に往けます」
「『長門』……」
一方、宇垣中将の第二艦隊では戦艦『長門』と乙巡『酒匂』が機関故障を発生させてしまい護衛艦艇と共に呉へ帰還する事になった。だが帰還する前に『長門』の機関は突如故障から回復した。このため、宇垣中将は若年の士官候補生や水兵を退艦させ『酒匂』に移乗させた。
奇跡とも言える『長門』の回復に将兵達は口々に言い合うが一人の主計科に属する主計少佐は陰から嗚咽を漏らしながら哭いていた。
「良かった……良かったな……『長門』……今度こそ…今度こそ皆と宜野湾に往けるぞ……」
主計少佐は己が満足するまで哭き続けるのである。
「これで良い。此処からは大人だけの宴会だ」
「ですな。宴会なら大いに騒ぎましょう」
391: 加賀 :2020/12/14(月) 18:12:37 HOST:om126208199075.22.openmobile.ne.jp
宇垣中将と森下参謀長は笑いながらそう話していた。艦隊は再び前進を開始、この時に宇垣中将は面白い事を発案した。
「南雲長官に打電してくれ」
そして横須賀の南雲聨合艦隊司令長官の下に電文が届いたのである。
『敵艦隊沖縄襲来トノ警報ニ接シ聨合艦隊ハ直チニ出動、コレヲ撃滅セントス。本日天気晴朗ナレドモ波高シ』
『大和』から届いた電文だが、この電文は第二艦隊の艦艇は元より第三艦隊、第五艦隊の各艦艇からも同様の電文が発信され南雲長官の下に届けられた。
「惜別……か」
大量に届いた電文に南雲長官は全てを察した。そして『大和』では『Z旗』と『非理法権天』の幟を掲げた。なお、『Z旗』に関しては三個艦隊全ての艦艇が掲げている。
また、この電文は連合軍艦隊でも受信しており何度も同じ電文に通信兵が「いい加減にしてくれ!!」とノイローゼになる程だった。だがそれでも三個艦隊の場所を特定出来たのでマケイン等も目を瞑るのである。
それは兎も角、内地から二個艦隊が出撃する中、橋本中将の第五艦隊もカムラン湾から出撃して沖縄戦が始まった頃には台湾海峡を通過する付近だった。
「対潜活動も抜かりはないな?」
「無論です。対潜警戒には『伊勢』『日向』の634空ですので」
五艦隊の上空には絶えず『瑞雲』が飛行している。何せ五艦隊には空母が無いので『瑞雲』だけが頼りだった。口の悪い水兵等は「神様仏様瑞雲様」と拝んでいる程である。
「兎も角、我々も遅れるわけにはいかん」
そう言う橋本だった。
「ジャップの攻撃隊が来ます!!」
「心配するな、奴等は途中で引き返した」
「何かの飛翔体がーー」
先に仕掛けたのは塚原大将の五航艦だった。九州の鹿屋基地から飛来した制式採用されたばかりの連山(試作機等含む)32機だった。連山は英太平洋艦隊との距離150キロまで近づくがそこから反転して来た道を帰っていった。
連山隊の不可解な行動にローリングス大将は首を傾げつつも空母に沖縄への攻撃を命令、六隻の空母は飛行甲板に攻撃隊をあげつつあった。だが、英太平洋艦隊を襲われたのだ。連山から投下された日本海軍初の空対艦ミサイル『桜花』によって。
434: 加賀 :2020/12/16(水) 18:58:38 HOST:om126157074248.27.openmobile.ne.jp
392
「消火急げェ!! 誘爆するぞ!!」
「駄目だ、誘爆が始まった!?」
『桜花』が命中した空母『ヴィクトリアス』『インプラカブル』は発艦前だった事もありミッドウェーの南雲機動部隊、マリアナのスプルーアンス艦隊同様に爆弾や燃料を満載した航空機は次々と誘爆したのである。誘爆により両空母は手がつけられくなりウルシー泊地へ退避する事になるが沖縄~ウルシー泊地を警戒していた伊号潜の雷撃により22日に沈没する事になる。
第一の厄に襲われた英太平洋艦隊だが程なくして旗艦『キングジョージ五世』の対空レーダーは200機余りの編隊を探知する。
「ジャップの攻撃隊です!!」
「対空戦闘ーー」
「迎撃隊、突破されました!!」
「馬鹿な、早すぎるぞ!!」
英太平洋艦隊はシーファイヤーを上空に上げていたが相手は歴戦の勇士であり第三艦隊の母艦飛行隊である。特に紫電改四隊は猛者で構成されているのだ。更に攻撃隊も彗星の他に今回が初陣となる流星も参加している。
「戦闘機隊の活躍を無駄にするな!!」
攻撃隊総隊長の村田中佐(『雲龍』飛行隊長)は突撃を開始、陣形が乱れる英太平洋艦隊を嘲笑うかのように『イラストリアス』『コロッサス』『グローリー』『パイオニア』は瞬く間に炎上するのであった。なお、攻撃隊から四空母の炎上に山口中将は然程喜びはしなかった。
「そもそも負けっぱなしの英軍の空母を沈めたところでどうしようもない。我々の目標は囮かつ敵米空母の撃滅だ」
最終的に第三艦隊はマケインの機動部隊の波状攻撃を受け空母は『銀鶴』『葛城』『笠置』『阿蘇』『生駒』『隼鷹』を除いて全滅する。だが第三艦隊も負けじと空母『ハンコック』『ランドルフ』『ベニントン』『ボクサー』を沈める事に成功する。また、損傷が軽い艦艇は第二艦隊の後に続いて沖縄へ突入し第二艦隊を支援するのであった。
また、重傷を負った山口中将は傾斜する『飛龍』から退艦する時、『飛龍』に振り向いてポツリと呟いた。
「今度も勝ったかな」
それを何を意味するのかは分からない。だが、まだ沖縄沖海戦は始まったばかりである。マケインは機動部隊がレイテ沖同様に釣り上げられたのを認識すると直ちに反転して沖縄に戻ろうとするも対空レーダーが九州から接近してくる大編隊を捉えたのである。
「凡そ2500機の攻撃隊です!!」
「馬鹿な、ジャップはまだ其ほどの機体を隠していたと
言うのか!?」
しかし、実態は700機余りの攻撃隊であった。残りは銀紙が舞うブラフである。
「343空、只今参上ォ!!」
『我、菅野一番突撃ス』
『笹井中隊、掛かれェ!!』
目には目を、歯には歯をの如く戦闘機には戦闘機を充てていた。特に猛者である343空は徳之島の航空基地から離陸しているので燃料にはまだ余裕がある。そのため343空を筆頭に戦闘機隊は思う存分に暴れたのである。そのおかげで敵戦闘機隊に穴が生じてその穴に攻撃隊が突入した。
「敵空母の土手っ腹に『桜花』を叩き込むぞ!!」
神雷部隊ーー第721空を率いる野中中佐は突撃命令を出す。連山を筆頭に各機は『桜花』を投下、離脱する。しかし、故障する機もあった。
「故障か、ならば手動で!!」
「やめてください野上少尉!!」
「駄目だ、『桜花』を抱えたままじゃあこの一式も落とされてしまう。ならこの『桜花』で……」
「でもこの『桜花』は体当たり用から改装した……」
「だから操縦桿があるんだ!!」
「後ろ上方から敵機や!! 来る……来る!!」
投下が故障した一式をグラマンが機銃掃射をして降下、その直後に左発動機から火が噴いた。
「……乗るんや野上はん!! ワシ達でやる!!」
「山岡機長……」
「でもな野上はん!! 必ず帰ってくるんや!!」
そうして搭乗員達の手によって『桜花』は切り離された。それと同時に耐えきれなくなった一式は墜落していく。
「アッハハハ!! あいつめぇ、手動だからって全部ロケットを点火していきよったわ!!」
炎上、墜落していく一式の中で山岡機長は笑い、切り離された『桜花』は『人間』の誘導によって空母『レイテ』の側面に体当たりをし、攻撃隊の準備をしていた『レイテ』は誘爆、大爆発をしてしまうのであった。
なお、公式上日本海軍による体当たり攻撃はなかったとされている。
393: 加賀 :2020/12/14(月) 18:16:41 HOST:om126208199075.22.openmobile.ne.jp
- 戦艦『長門』機関故障から復旧。共に沖縄へ
- 海軍主計少佐、『長門』の覚悟に哭く
- 栄光の三艦隊、意地とも言える航空攻撃で米空母4隻、英空母4隻を沈める
- 散り往く桜、それが桜花
最終更新:2020年12月20日 10:46