366: 弥次郎 :2020/12/19(土) 00:15:49 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦禍のドレサージュ」4
ドルトの宙域における戦闘は、すでに収束へと向かい始めていた。
それもそのはず、すでにアリアンロッドの派遣艦隊のMS隊は直掩を除けばほぼ壊滅。そして、MSとACによる飽和攻撃を受けている最中であった。
「くそ……甘く見すぎたか……!ぐっ…」
衝撃がブリッジを襲う。旗艦であるハーフビーク級トリマランにもMSの攻撃が当たり始めている。しかも、かなり重たい一撃だ。
だが、役職を未だに放棄していないウィンターは声を張り上げる。
「副長、被害報告をあげろ!」
「左舷側、大口径と思われる直撃弾!第4装甲帯まで損傷!
船体各所、現状は航行および戦闘は可能ですが、いつまでもつか…!」
「MSは?」
「MS隊はαからδまで壊滅的被害、実質稼働戦力は2個小隊がいいところです!」
そして、直近で爆炎が2つ出来上がる。MSが撃墜されたのだ。これで、もはや艦隊を守るMSは4機に減った。
残りのMSにしても、もはや逃げ回るで手一杯であり、艦隊防空など望めるはずもない状況だった。
ウィンターはそこで気が付く、敵はもはやこちらを相手にしておらず、包囲網を作りつつあるのだと。
眼前のモニターには、銃火器をこちらに突き付けるMS(実際にはAC)が多数映りはじめた。その銃火器がナノラミネートを貫通するものだとわかっている。
トリマランだけではない、僚艦のブリッジやバイタルパートに向けてその銃火器は向けられており、いつでも発射可能な状態で留め置かれている。
「……降伏しろ、ということか」
「……おそらくは」
殺さないことに意味がある、ということか。
派手にここで撃沈してしまうのは簡単。しかし、それ以上に価値があるのが、撃沈しないという選択なのだろうか。
おそらくだが、これはこの戦力を差し向けてきた火星連合代表のクーデリア・藍那・バーンスタインの指示だ。
もしこれまでの鎮圧作戦のようなものであれば、ギャラルホルンなど真っ先に狙われていたことは想像だに難くない。
だが、ここで撃沈してしまうような野蛮な行動はしないとアピールする目的があるのだろう。火星連合は立ち上げ間もない組織だ。
だとするならば、ギャラルホルンを、そしてその背後にいる経済圏を積極的に敵に回すつもりはない、というつもりか。
ウィンターは半ば諦めつつも、わずかばかりの希望を求めて確認をとった。
「……タッキー二艦隊は?」
「こちらが前面に出ていたためか、あちらはまだ健在の模様です。ですが、MS隊はほぼ出し尽くしたと」
増援は見込めず、か。目で問えば頷きが返ってきた。
ともあれ、ここにあるMSをいくら繰り出そうが火星連合の戦力には勝てず、尚且つ、鎮圧など夢のまた夢ということである。
モニターを見れば、すでにドルト3へ大量のランチとMSなどが乗り込んでいっているのが見える。おそらくだが、ドルト3はほぼ制圧されつつあるだろう。
陸戦隊もあらかじめ配備されていると聞いてはいるのだが、あれだけの数を相手にしてはさすがに不利となるだろう。
加えて、これだけの戦力を展開できた火星連合が陸戦戦力を用意していないということはあり得ない。
「ドルト・カンパニーのほうからは通信が来ておりますが…」
「あー…別に聞かなくていい。言いたいことは百も承知だ」
もはや笑えてくる。力なく、ウィンターはブリッジ要員の言葉を遮った。
大方文句を言いに来たのだろう。脚本と違いすぎる状況はどうなっているのかと。それでもギャラルホルンかと。
だが、そんなことはこちらが言いたいことだ。火星連合代表の身柄を抑えている以上、後顧の憂いなく暴徒鎮圧を行えると聞かされていたのだから。
事前に書いた絵図、それを見事に書き換えられ、逆に利用されたということになる。ルーチンで続けたのがあだとなったか。
「准将!」
そんなウィンターを、ブリッジ要員の一人の声が現実に引き戻す。
「どうした?」
「タッキーニ艦隊に動きあり!これは……!?」
切羽詰まったような、信じられないものを見た、という慌てた動きで、メインモニターに映像がでた。
それは、巨大なクロスボウにも似ていた。MSの前兆を軽く超える発射装置と、それに装填される弾頭。
MSを丸ごと発射装置のようにしてしまうというとんでもない発想の、禁止兵器。
367: 弥次郎 :2020/12/19(土) 00:16:46 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「ダインスレイヴだと!?」
その言葉通りの武装を装備したグレイズが、その射線をぐるりと動かし、合わせる。
「ドルト3か!」
狙った先を、ウィンターは叫ぶ。まさか、そんなことを指示した覚えはない。
仮に持ち出すとしてもタッキーニ艦隊にその使用の是非や許可まで与えるはずもない。慎重を期す必要のある武装だから使うとしたら自分の権限で許可を出すもの。
そして、瞬時にタッキーニ准将が持ち出し、使おうとする意図に気が付いた。さらにはそのあとに起こるであろうことも。
それは戦術的な意味合いではなく、ウィンターが得意とする政治的な意味。だから、ウィンターは全力で叫んだ。
「総員退艦、急げ!」
その命令は、クルーたちには意味が不明であった。なぜこの場面において逃げを、それこそ退艦を選ばねばならないのか?
ダインスレイヴの照準はこちらではなくドルト3に向けられている。誤射の可能性がないとは言えないが、それでもわざわざ退艦するようなものか?
だが、上官命令は上官命令、ブリッジクルーを先頭に脱出艇へと向かう。わき目もふらず、全力で。
はたして、ウィンターの判断は正しかった。ほどなく、ハーフビーク級トリマランの艦橋は内側からの爆発を以て破壊された。
- ドルト3 宇宙港 ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」艦橋
「敵旗艦、ハーフビーク級が轟沈…!?」
「……!しまった!」
その報告から意図に素早く感づいたのはブラフマンだった。
前線に出ていて、拿捕寸前にまで追い込まれていた敵旗艦がいきなり轟沈。しかも、明らかに自爆。
この状況において発生しうるそんな事態の原因など、少し考えればわかる。いわば味方を犠牲にしたマッチポンプだ。
証拠?それは確認されているグレイズが搭載している兵器にあった。大型の弓のような兵器、ダインスレイヴだ。
禁止兵器ということは判明しているし、それはギャラルホルンでも一応は慎重な扱いがされている兵器だ。
だが、そうやすやすと使えるわけではない。せめてもの大義名分というモノが必要になってくる。
それが、旗艦であるハーフビーク級の轟沈、というわけだ。あの状況で轟沈されれば、誰がやったかは曖昧になる。
「やられたな……降伏寸前の艦を囮にして禁止兵器を使用。ついでにその責任に関しては死人に押し付けるってわけだ」
「ということは…あの轟沈は誅殺か」
「ああ」
艦橋に詰めていたクロードも、ブラフマンの言わんとすることに気が付いた。
おそらく、ギャラルホルン内部での政争だ。この鎮圧作戦が失敗することも最初から織り込み済みだったというわけである。
そして、それは全軍に明かされていたわけではなく、禁止兵器であるダインスレイヴの無断使用も伏せられていた。
轟沈させられたハーフビーク級はそのダインスレイヴの使用をかこつけるための贄というわけだ。
現状、ダインスレイヴの使用に踏み切られたら非常にまずい。艦隊に対して使用されるならばともかくとして、コロニーに撃たれると防ぐのが難しい。
まして、現状セントエルモスを構成するエウクレイデス、クラークス、カルダミネ・リラタらはいずれも宇宙港に停泊中だ。
つまり、艦艇に搭載された防御兵装によるコロニーの防御が難しい。無論高々一発でコロニーが崩壊する事態になることはないが、当たり所によってはアウトとなる。
「ネクストチームに通達、あれを今すぐ排除させろ!最悪コロニーが崩壊する!」
「了解!」
幸いにして、ネクストは現状戦場に4機出場している。
敵がこちらに向けているダインスレイヴの数はイオク・クジャンの襲撃の時よりも少ない。
そして、あれを装備している限り、機動性は最悪レベルにまで落ち込み、身動きが取れなくなる。
そんなもの、ネクストの前においては死んだも同然。明星のジュピターソンをバックアップに、セントールのカノプスが隊から離れて吶喊していく。
だが---カノプスで音速を軽く超え、メインウェポンであるウアス・ロッドを引き抜いたセントールをはじめ、多くの人間が少なからず疑問を抱いていた。
368: 弥次郎 :2020/12/19(土) 00:19:13 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
余りにも適当すぎる。ギャラルホルンがやったにしては稚拙すぎるだろうか、と。
ダインスレイヴを解析したところ、確かに禁止兵器とされるだけの威力があることは確かだった。
あくまでこのP.D.世界の基準で見ればMSに搭載する火力としては破格であり、艦艇でさえも大きな損傷を避けえない。
だが、逆に言えばそれだけだ。前述の通り精密狙撃はエイハブウェーブによる妨害が入るわけであるし退艦攻撃ならばともかく対MSでは不可能。
弾速は早いが所詮はその程度、当たらなければ意味がないのだ。さらに砲台となる以上機動性は劣悪で、次発装填も補助がいる。
そして何よりも、すでにセントエルモス一行はこの兵器についてはしっかりと把握しているのだ。防ぐことも跳ね返すこともたやすい。
ギャラルホルンとて、イオク・クジャンがそれを使用し、まともに効果が得られなかったことくらいは知っているはず。
にもかかわらず、二番煎じというか、余りにも稚拙に繰り出してきたのだ。それまでの練度しかないといえばそれまでだが、なんとも釈然としない。
『こちらセントール、ダインスレイヴの排除を完了した』
「……了解」
ほどなく、当たり前の結果が返ってきた。
光学映像で見れば、文字通りばらばらにされたグレイズとダインスレイヴの発射機が宙に漂っている。合計で4機存在していたそれらは今や見る影もない。
慌てた動きで発射された一本も、射線に割り込んだジュピターソンが正確な斬撃でもって弾頭を破壊してのけたことで目的を果たせずに終わった。
これでコロニーの安全は確保された。あとは発射してきた後詰の艦隊も制圧してしまえばそれで終わり---
(本当に……?)
ブラフマンは嫌な予感がしてならない。どうしようもなく、理由もわからずに。
確かに防衛はなされて、危機は去ったはず。これ以上の危険をもたらされることはない。
そして、ひらめきがふいに走る。自分たちはそもそもの条件からして間違っていたのだ、と。
「……やられた!」
その叫びと共に、ブラフマンは指示を出そうとした。だが、その言葉の前にドルト3に激震が走った。
事態は、まさしく風雲急を告げることとなったのであった。
369: 弥次郎 :2020/12/19(土) 00:20:41 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ドルト編、あと2話で決着予定です。
そしたら幕間を挟んでオセアニア編ですかね
最終更新:2020年12月31日 13:17