868: 弥次郎 :2020/12/24(木) 22:32:58 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「戦禍のドレサージュ」6
その映像は、極めて非現実的であった。絵としてもぶれていたし、所々が不鮮明になったりしていた。だが、重要なところは映っていた
動き出すスピナ・ロディ二機。片方は巨大な発射装置を腕に装着しており、片方は火器を装備している。そして、周囲のMSやACの制止を振り払い、動き出した。
爆音、そして炸裂。不意を突かれたために狼藉を赦し、宇宙港内部が混乱と破壊に満ちる。
そして、その隙にダインスレイヴを装着した機体がコロニー内部へとその切っ先を向けた。コロニーの外壁は確かに頑丈だ。
しかし、内側からそんなものを叩きつけられればどうなるかは明白。ただのMSの火器を発砲した時とは比較にならない被害になる。
MSのフレームにも用いられる高硬度レアアロイを弾頭として打ち出す。しかも、MSのエイハブリアクターから電力供給されるレールガンで、だ。
だというのに、スピナ・ロディのパイロットはためらいなく発射した。他のMSやACが止めに入るが間に合わない。
映像は切り替わり、コロニー内からのそれに代わった。それは、ドルト・カンパニーの労働者たちの抗議活動を取材していたメディアのそれだ。
衝撃と爆音、それにつられてカメラは発生源、即ち宇宙港の方へと向けられる。そこには、ダインスレイヴを構えたスピナ・ロディの姿があった。
何が起こるのか、瞬時に理解したのだろう、悲鳴と逃げ出す人々の動きが一斉に起こった。だが、間に合うはずもない。
非常用のシェルターに逃げ込むのには時間がかかりすぎるし、当たり所が悪ければシェルターも無事では済まない。
最悪、このコロニーが致命傷を負って崩壊してしまう可能性もあった。
『!?なんだ!?』
だが、それに割り込むものがあった。
丁度、ダインスレイヴが向けられているドルト・カンパニー本社のビルの窓を割り、一直線に飛び出していく。
そして、空中でそれは静止した。
『人…?』
『なんだあれ!』
はたして、カメラがとらえたのは人の姿であった。いや、人に近い何か、というべきであろうか。
人が持つにはありえない翼を一対持ち、人が持つとしてもあり得ざる光る刀を装備していた。
そして、交錯は一瞬。
飛来するダインスレイヴを真っ向から受けたかに見えたその人型は、しかし、健在であった。代わりのように、ドルト・カンパニー本社に何かが激突した。
それは、一瞬の間に寸断されて細かくなったダインスレイヴの弾頭だった。確かに大した速度で飛んでいったのだが、弾頭が小さすぎて大した被害をもたらせなかった。
言うまでもないことだが、物理的な砲弾の威力というのは弾頭の質量と速度に依存する。真っ向から受けるのも良いが、もっと簡単なのは細かく粉砕することだ。
とはいえ、音速を飛び越えて飛んでいく弾頭はそもそも視認さえ難しく、まして、格闘兵装でもって切り刻んで細かくするなど難しいというレベルではない。
だが、そんな理屈など、ダインスレイヴの迎撃に飛び出たアンドロイド---アンジェラには全く関係の無い話であった。
生身のままにMSなどを圧倒する身体能力を有する超人たちの人為的な再現を目指して生み出されたアンドロイドだ。
たかだかMSの発射するレールガンを手にした武装で迎撃するなど朝飯前であった。
ともあれ---アンジェラは見事にダインスレイヴの弾頭を迎撃。破片こそコロニー内部に散らばった物の、遥かに軽微な被害で抑えることに成功したのであった。
そして、その映像はギャラルホルンの蛮行を喧伝すべく、拡散された。
無論のこと実在性を疑われもしたし、生身の人間がなせるはずがないとも声が上がった。
しかし、目撃者も証拠映像も残っている以上、信じがたいそれは事実であったとするしかなかった。
最も、その映像の価値は全く別なところにあり、好事家以外はあまり関心を寄せることはなくなるのであったが。
さて、戦闘が勃発してから一週間という時間が経過した。その間、極めて多忙であったことをここに記しておこう。
ドルトコロニー周辺で起こった火星連合とギャラルホルンアリアンロッド艦隊との戦い。さらにはギャラルホルンによる禁止兵器の使用。
しかも、コロニー内部でMSを暴れさせ、口封じを図ったと思われるという事態はセンセーショナルを通り越した衝撃をもたらした。
尚且つ、火星連合の戦力がギャラルホルンにおける最精鋭部隊を蹴散らしたというのは、ギャラルホルンの権威を大きく失墜させた。
これの影響は大きい。いくつかの事象が絡んでいたためだ。
869: 弥次郎 :2020/12/24(木) 22:33:33 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
第一に、精鋭たるギャラルホルンのアリアンロッド艦隊が真っ向から戦って負けたということ。
第二に、ギャラルホルンが経済圏のコロニーにあろうことか禁止兵器を用いて攻撃を仕掛けたこと。
第三に、この戦いを受けてドルト・カンパニー経営陣およびアフリカユニオンはドルト・コロニーの施政権等を一切放棄。
これを火星連合へと正式に譲渡し、名実ともにドルト・コロニーのすべてが火星連合及び企業連のものとなったこと。
それこそ、コロニーそのものから、会社に属する設備・ビル・資金・工場・労働者も含め、一切合切が。
外面的にはコロニー労働者たちがアフリカユニオンの支配から独立を宣言し、それを火星連合が自陣営に迎え入れるという形だ。
これらを以て、経済圏とギャラルホルンの間はますますこじれはじめることになった。
独立にまで発展した労働争議を抑えられず、おぜん立てもぶち壊してしまい、挙句に恥をさらされた。
コロニーからの搾取が実入りの一つとなっているアフリカユニオンからすればとてつもない額の被害を受けたことになる。
それの補填は一朝一夕に終わるものではなく、どうあがいても元凶であるギャラルホルンが補填できるものではなかった。
まして、火星の経済的植民地が火星連合により独立されてしまったことによる利益確保ができなくなった状況で追い打ちを食らったのだから怒りは相当なものだった。
ギャラルホルンの内部でもさらにトラブルは続いた。
今回の鎮圧作戦の失敗、いや、失敗どころか大失敗をさらしたことは即座に責任問題に発展した。
参加していた二個艦隊-ウィンター艦隊はウィンター准将が乗艦もろとも撃沈され二階級特進し、残りは捕虜となり、タッキーニ艦隊は逃走を図るも全滅。
よって、戦死者や行方不明者、損失した艦艇とMSなどは極めて大きな数字となり、ギャラルホルンにのしかかっていた。
これの責任を取るべきは生きているならば、指揮を任されていたウィンター准将であったが、彼は戦死している。
そして、たかだか准将程度の首だけで贖える問題を通り越しており、これは鎮圧作戦を計画したアリアンロッド艦隊司令部にまで及んだ。
すなわち、タッキーニ准将をはじめとした反ラスタル派閥の画策した通り、ラスタル・エリオンその人にも。
イオク・クジャンの暴走の件と合わせ、彼の政治生命、あるいはギャラルホルン内部での信用などを失わせるには十分すぎる者だった。
そうなるようにと動きがあったのは確か。されども、火星連合独立の件まで含めれば、もはやそれはどうしようもないほどに致命傷だったのだ。
そんな経済圏とギャラルホルンをよそに、独立を果たしたドルト・コロニーは独立宣言を採択。
火星連合への編入を宣言し、同時に、通商・安全保障・国交など関係する条約を締結。火星連合ドルト自治コロニー群として成った。
また、火星連合からは必要となる行政の人員が現地入りし、さらには義勇軍が駐留することとなった。
これらにより、ドルト・コロニーは火星連合との確固たるつながりを得て、またこれまでもたなかった力を得ることになったのである。
これは単なる領土編入というものではなかった。すなわち、火星連合が地球圏への足がかりを得たことであり、味方を増やしたということ。
これまで出涸らしの、もはや衰退していくだけの植民地がいよいよを以て地球圏や経済圏に手を伸ばしてきた、ということなのだ。
これまでまどろみの中にいた経済圏にとってはとてつもないモーニングコールであった。
そんなことがあったのだが、セントエルモス一行はドルトから引き上げの準備を着々と進めていた。
忘れてはいけないが、今回セントエルモスがドルトに寄ったのはあくまでもサブの目的のためである。
本命は、全権特使でもあるクーデリア・藍那・バーンスタイン代表を地球圏のアーブラウまで送り届けることにある。
よって、彼らはドルトで必要なものを買い込み、積み込み、準備を整えて出港しなければならなかった。
また、連日続いた戦闘や暗闘でパイロットたちをはじめクルーの疲労もたまっていたので、休みが必要であった。
870: 弥次郎 :2020/12/24(木) 22:34:12 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
ともあれ、だ。それらが終わってしまえばあとは順調に出港するのみである。
現地に到着していた火星連合宇宙軍が展開し、盛大な観艦式を挙行。さらにその上で出発式典を行うというぜいたくな時間の使い方をした。
それだけの価値があると判断したためだ。観艦式というモノを盛大にやるからには、火星連合や企業連、地球連合の戦力をそろえて行うのが筋というもの。
図々しくも、あるいは大胆にも経済圏や圏外圏の勢力に招待状まで送り付けられたことをここに記しておく。
発案者?それはもちろんクーデリア・藍那・バーンスタイン火星連合代表である。
いっそここで艦隊を派手にお披露目しておけば、経済圏やギャラルホルンが武力を背景に圧力をかけてこないであろうという計算も入っての選択だ。
火星連合宇宙軍も形ばかりとはいえドルト入りするわけであるし、本命である連合の駐留艦隊も来るのだから、いっそ派手にやった方が良い。
これに悪乗りしたのが、火星で待機していた火星駐留艦隊であった。
暇というわけではないが、スケジュールに余裕のあったフラワー級外宇宙戦闘母艦とソレスタルビーイング級外宇宙航行母艦の参加が決定。
これに付随する艦艇および艦載機なども派遣されることが決定し、承認を受けることになった。
また、錬成中であった火星連合宇宙軍からもロフォガスター型装甲強襲艦やサイラ級主力戦艦、ワイバーン級巡洋艦なども参加することと相成った。
加えて、それらに搭載されるMA・MS・MTその他無人機や大型兵器なども合わせて参加することになった。
その総数は、最早数えるだけアホらしい。そも、フラワー級外宇宙戦闘母艦だけでもオーバーであるというのに、さらに上乗せなのだ。
そして挙行された観艦式については、もはや語るまい。
あらゆるメディア、人伝い、あるいはスパイや諜報員を通じて、あるいは直接それを目撃した。
これまで確認されていた地球連合そして企業連合の戦力をはるかに超える、惑星系を丸ごと焼き払える大艦隊を。
ギャラルホルンの艦隊がちゃっちなおもちゃとしか思えなくなるような強大な艦隊。それはどう贔屓目に見ても、脅威の一言に尽きた。
それが破壊したのは、経済圏やギャラルホルンのプライドであり、これまで抱いていた幻想。戦わずして、ただ姿を見せるだけで十分すぎたのだ。
経済圏とギャラルホルンはそんな安穏たる日々を放り出し、恐ろしい力を有すると判明した火星連合へと対処することを余儀なくされた。
人々は覚束無い足元に始めて気づいたかのように、それを恐怖するしかなかった。
斯くして、それらに端を発した恐怖から経済圏はクーデリア・藍那・バーンスタインら火星連合を既存の体制を破壊するテロリストと認定。
ギャラルホルンに対して、接触からこれまでの間に積み重ねすぎていた失策を追求するとともに、全力を挙げての対処を命じた。
これに乗じ、ギャラルホルン統制局イズナリオ・ファリドは、ラスタル・エリオンの暗殺によって宙に浮いていたアリアンロッド艦隊を掌握。
自身の子飼いにアリアンロッド艦隊司令官を任せるとともに、自身はギャラルホルンが有しているあらゆる戦力を実践投入可能なように動員。
そこには、禁忌とされていた阿頼耶識をはじめとした技術があり、厄祭戦以来ギャラルホルンが独占していたあらゆる兵器が含まれていた。
世界はまさしく発狂しようとしているかのようであり、事実として、世界は狂奔していた。
その舞台は、いよいよを以て経済圏の懐である惑星、地球へと移ろうとしていた。
871: 弥次郎 :2020/12/24(木) 22:34:53 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ドルトコロニー編完結と相成ります。
短編含まなくても11話もかかるとは思いませんでしたねぇ…(汗
次章はオセアニア編。短めですが、政治的なアレコレが主体となりますね。
流石に年内に突入するのは難しいと思うので、今年は小ネタの投下をしようかと思います。
872: 弥次郎 :2020/12/24(木) 22:39:52 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
868のところ修正
× だというのに、スピナ・ロディのパイロットはためらいなく発射した。他のMSやACが
〇 だというのに、スピナ・ロディのパイロットはためらいなく発射した。他のMSやACが止めに入るが間に合わない。
最終更新:2020年12月31日 13:17